2023.10.25
「ブルーライトカット眼鏡」に頼る人が知らぬ盲点|子どもの使用は「推奨しない」とする学会声明も
眼科医が、ブルーライトカットメガネを特に推奨しない理由とは(写真:years/PIXTA)
「ブルーライトカットメガネを付けているから」「デジタルデバイスの画面をブルーライトカットにしているから」と安心してはいけません。
多くの人が勘違いしている目に関する健康情報について、メディア出演の絶えない眼科医で、『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』でも知られる平松類さんの新刊『眼科医が警告する視力を失わないために今すぐやめるべき39のこと』から抜粋してご紹介します。
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どれくらいブルーライトをカットしている?
ブルーライトカットメガネは、特に有害なわけではないけれども、よくもありません。あえて使うほどの意味はないというものです。
ブルーライトが目にダメージを与える可能性は、たしかに眼科の医学会で指摘されたことです。しかし、その先のブルーライトカットメガネの推奨は、学会主導ではなくメーカー主導で起こったものです。言ってしまえば、「新しいものを世に出し、売りたい」という商業ベースで普及してきたものなのです。
私自身、眼科専門医として、ブルーライトカットメガネは「悪くもなければよくもない」と言うしかありません。
すでに述べたように、ブルーライトが目にダメージを与える可能性は指摘されています。にもかかわらず、なぜ私がブルーライトカットメガネを特に推奨しないのかというと、それには理由があります。
ブルーライトを完全に遮断するレンズだったら、ものの色が違って見えるはずです。つまり現在、市販されているブルーライトカットメガネは、ブルーライトを完全にカットしているのではなく、30~50パーセント程度が通常です。
つまり、こういっては厳しいかもしれませんが、ブルーライトカットメガネの効果はほどほどですから、医師としては否定しないまでも、特に推奨もしないというわけです。
ブルーライトが目にダメージを与える可能性は長く指摘されてきたとはいえ、実は、具体的にどんなダメージを与えるのかはいまだに判然としていません。一つ考えられるのは、ルテインが加齢と共に低下することで、ブルーライトの青色のダメージを受けやすくなることです。
ルテインは、見ているものの色彩や形をハッキリ捉える機能を果たしている「黄斑」に必要な成分であり、「天然のサングラス」とも呼ばれています。それが加齢と共に減少すると、ブルーライトの悪影響を受けやすくなる可能性があります。この可能性をとるならば、40代以降のブルーライトカットメガネの使用は、青色のダメージから多少は目を守る効果が期待できる……かもしれないという程度にすぎません。
実はブルーライトカットメガネの使用群と不使用群とでは、目の健康度に有意差が見られなかったという臨床実験もあり、やはり、まだまだ判断がつきかねるというのが現状なのです。
本当にブルーライトを危惧するのなら、デジタルデバイスの使用時間を区切る、デジタルデトックスの日を定期的に設ける、デジタルデバイスの画面からの距離をしっかり確保するといった対策のほうが、よほど効果的といえます。
ちなみに「ブルーライトカット」をうたうフィルムをパソコンやスマートフォンのモニターに貼る、夜はスマートフォンを「ナイトモード」にするなどの対策は、まったく無意味とはいいませんが「気休め」程度と考えてください。
これらの対策をとっているからといって、休憩を入れずにパソコンを使い続けたり、真夜中までスマートフォンを見続けていいわけではありません。現に、ある調査機関が行った「iPhoneのナイトモード」の実証実験では、「有意差(効果)はなし」という結果が出ています。
ブルーライトカットメガネの唯一の効能とは?
現時点で唯一、ブルーライトカットメガネのメリットとして挙げられるのは、睡眠の質の改善です。
人間は古来、自然光に従って生活リズムをつくってきました。簡単にいえば、朝に目覚めるのは太陽が昇って日光が部屋に入るからですし、夜に眠くなるのは太陽が沈んで日光が途絶えるからです。
ところが現代人は、自然光以外にもさまざまな光に囲まれて暮らしています。本来、夜は日光が途絶えて眠くなるはずなのに、部屋に明かりを灯し、パソコンやスマートフォンを延々と見ている。特に強いのは青い光の刺激です。
そこにブルーライトカットメガネを取り入れてあげると、青い光の刺激が軽減され、自然な眠気が起こってスムーズに入眠、質のよい睡眠が得られると考えられるのです。
仕事が終わり、家でリラックスタイムを過ごすときに、ブルーライトカットメガネをかける。今のところは、これがブルーライトカットメガネの一番の有効利用法といえそうです。
一方で、子どもがブルーライトカットメガネを使用することについては、臨床眼科学会など7学会が合同で「基本的に推奨しない」という声明を出しています。
きっかけは、あるメーカーが渋谷区在住の子どもたちにブルーライトカットメガネを無料提供するというキャンペーンを発表したことでした。結局、学会から声明が出されたことで、このキャンペーンは取りやめになりました。
特に子どもにはブルーライトカットメガネを「推奨しない」としたのは、青に近い紫色や赤色の光には、近視を抑制する作用があるかもしれないといわれているのも一つの理由です。さらには人為的に成長期に特定の波長をカットすることが将来の目にとってどういう影響を及ぼすかが不明であるからです。子どもがブルーライトカットメガネを使うと、紫色の光が入らなくなることで近視を進行させてしまう恐れがあるのです。
「暗いところでものを見ると目が悪くなる」は本当か?
暗いところで本を読んだりしていると「目が悪くなるよ」と言われたことは、きっと誰にでも覚えがあると思います。だから「これも間違いなの?」と驚かれたかもしれませんが、ものを見る環境の照度そのものは、実は視力低下と関係がないのです。考えてもみてください。例えば映画館は暗い環境ですが、「映画館で映画をよく観る人のほうが、目が悪くなりやすい」なんていう話は聞いたことがないでしょう。
視力低下と関係があるのは「距離」です。「あまりにも近距離で本を読んだりしていると目が悪くなる」というのなら正解といえます。
「暗いところでものを見ると目が悪くなる」と言われるようになったのは、おそらく、暗いところではおのずと近距離でものを見ることになるからでしょう。しかし本当に問題なのは「暗いところで」ではなく、「近距離で」ものを見る部分というわけです。
とはいえ、暗いところでものを見ることにまったく問題がないわけではありません。
暗いところでものを見ていると眼圧がかかり、眼球が硬くなりやすいという別の問題があります。ですから、暗いところでものを見るのは、視力低下につながる悪い習慣とはいえないけれども、決していいわけでもない、したがって避けるに越したことはないと心得ておいてください。
この「近距離でものを見る」問題は、ここ数十年で、ますます深刻になってきています。言うまでもないでしょうが、スマートフォンやタブレットが浸透したことで、人々は、より長時間、近くでものを見るようになってしまいました。こうしたデジタルデバイスがなかったころは、「近くでものを見る」といえば、せいぜい本や新聞といった紙媒体くらいのものでした。
また、パソコンはデジタルデバイスですが、過度な光の刺激は目によくないとはいえ、モニターに顔を近づけて見ることはあまりないでしょう。
やはりスマートフォン、タブレットという「手元で操作するデジタルデバイス」の普及が、現代人の目にとって、いっそう過酷な環境を作り出していることは確かなのです。
しかも、読書の際の目と本の距離は、一般的に約30センチメートルであるのに対し、スマートフォンと目の距離は約20センチメートルと、より近くで見るようになってしまっています。実際、スマートフォンを30分間見続けると、眼圧がみるみる上昇してくるという研究もあるほどですから、やはりスマートフォンやタブレットの扱いには特に注意が必要です。
電子書籍の是非は「読むデバイス」次第
よく患者さんなどから「目の健康のためには、やはり紙の本を読むのが一番いいのか? 1台で事足りるiPadなどのタブレットや、Kindle Paperwhiteや楽天Koboなど電子書籍用タブレットはダメなのか?」と聞かれます。
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今までの話からすると、デジタルデバイスで読書をしてはいけないと思われるでしょうが、実は、どれが最も近視を進行させるのかという明確なデータはありません。
ただ、デジタルデバイスが発する強い光はまばたきの回数を減らし、目を非常に疲れさせます。人は生来、点滅しているものを凝視するようにできているからです。目が疲れにくいという点では、やはりタブレットよりも紙媒体がいいでしょう。
実はKindle Paperwhiteや楽天Koboなど電子書籍用タブレットも、紙媒体と同様です。見た目は似ていますが、電子書籍用タブレットは通常のタブレットと違って、それ自体は光を発していません。
簡単に言うと、電子書籍用タブレットは周囲の光を反射して文字が読めるようになっており、いわば本物の紙に近いのです。したがって目の疲れにくさも、紙の本と同等と考えてかまいません。目が疲れにくいというのは、それだけ速く読めるし、読み続けられるということでもあります(長時間、連続して読書するのはおすすめしませんが)。そもそもデジタルデバイスを凝視することは、自覚はなくても動いている光を目で必死に追いかけるようなものです。それだけ頭のリソースも食うということですから、デジタルデバイスだと読書速度はぐんと落ちるはずなのです。
つまり効率的にも紙の本、もしくは電子書籍用タブレットで読むのがベストな選択といえます。
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提供元:「ブルーライトカット眼鏡」に頼る人が知らぬ盲点|東洋経済オンライン