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2023.10.19

50代の「指の関節痛」使いすぎではない意外な原因|食事やマッサージより効果的な対処法がある


更年期になると手指の痛みが生じることがありますが、それは女性ホルモンの減少が原因であるようです(写真:mits/PIXTA)

更年期になると手指の痛みが生じることがありますが、それは女性ホルモンの減少が原因であるようです(写真:mits/PIXTA)

「更年期の頃から、手の指がこわばったり、関節部分が腫れたり、痛くなったり、物を持ちづらくなったり、曲がったりするようになった」。そんな話を聞いたことがある人は多いかもしれない。日々の生活で手指を使わないことは難しい。痛みやこわばりがあると仕事や家事などに差し支えるため、非常に困る症状の1つだ。

以前、こうした症状は、手指の使いすぎによって起こるといわれていた。しかし、今は女性ホルモンの一種であるエストロゲンの減少が大きく関わっていることがわかっている。

そこで、手指の症状とエストロゲンの関係について、整形外科医で、日本手外科学会専門医でもある岩城啓修さん(四谷メディカルキューブ・手の外科)に話を聞いた。

手外科の患者さんの9割は女性

同院の手の外科を訪れる患者の多くは女性で、しかもほとんどが40代以上だ。手の疾患は男性には少なく、岩城さんが担当している患者の約9割が女性だという。

「昔は手指の関節痛は『使いすぎ』や『年のせい』などといわれていましたが、最近の知見では、女性ホルモンの1つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の減少が関与していることがわかってきました。

実際、患者さんを診ていると、必ずしも利き手が痛くなっているわけではないですし、職業も関係ない。高齢でも痛くならない人も多いわけですから、一概に使いすぎや年齢のせいとはいえないのです」(岩城さん)

では、どうしてエストロゲンの減少が手指に影響するのだろうか。

女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲステロン(黄体ホルモン)がある。このうち女性の健康に大きく関与しているエストロゲンの分泌量は、ライフステージによって大きく変化する。以下のグラフのように思春期に急増し、20〜45歳くらいの性成熟期を経て、更年期(閉経の前後5年間)になると急速に減少していく。

(図:koti/PIXTA)

(図:koti/PIXTA)

エストロゲンが急激に減少する更年期に起こるのが、更年期障害だ。顔のほてり、過度の発汗、イライラなどの症状がよく知られているが、手指の不調が起こることはあまり知られていないという。

「エストロゲンには、さまざまな組織を滑らかに保つという作用があります。そのため、エストロゲンが減少すると、筋肉と骨とを結びつけている腱、その腱を包み込んでいる腱鞘(けんしょう)、関節を覆う滑膜、軟骨などが硬くなってしまう。その結果、炎症が起きやすくなるのです」(岩城さん)

同時にエストロゲンの減少や加齢などによって、骨と骨とをつないでいる靭帯が厚く硬くなって縮こまる。すると、骨と骨が強く引っ張られることで関節に圧力がかかり、軟骨が破壊される理由になると岩城先生は言う。

また、更年期だけでなく、妊娠・授乳中も手指がこわばったり、腱鞘炎になったりしやすい。これも妊娠・授乳に伴って一時的にエストロゲンの分泌が減ってしまうため。赤ちゃんの抱っこが原因ではないかと思いがちだが、こういった理由もあるのだ。

エストロゲンを補うサプリメント

このように女性の手指の症状にエストロゲンの減少が関わっているということは、エストロゲンを補うことで予防・治療ができる可能性があることを示す。

「当院では、エストロゲンによく似た構造を持つ大豆イソフラボンの代謝物であるエクオールのサプリメントを勧めていて、一定の効果を上げています」(岩城さん)

イソフラボンの一種であるダイゼインという成分は、腸内にいる腸内細菌によりエクオールに変換されることで効果を発揮する。昔から「更年期障害の改善には、納豆や豆乳をはじめとする大豆食品がいい」といわれてきたのは、こうした理由からだ。

ところが、ダイゼインを腸内でエクオールに変換できる腸内細菌を持っているのは、約半数の女性だけだという。そのため、大豆食品よりエクオールなどのサプリメントを摂ったほうが効率がいいと考えられている。

エストロゲンを補うという意味では、ホルモン補充療法(HRT)を行うという選択肢もある。

ホルモン補充療法では、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンを内服薬や貼り薬、ジェルなどで補う。さまざまなメリットがある一方で、ごくわずかながら乳がん、子宮体がんのリスクが上がるというデメリットもある(ホルモン補充療法については関連記事「【更年期障害】治療で「がんのリスク」は上がるか」をご覧ください)。

「【更年期障害】治療で「がんのリスク」は上がるか」 ※外部サイトに遷移します

「その点、エクオールは乳がんなどのリスクがなく、誰でも摂取できます。飲み始めて3カ月程度で痛みがなくなったという患者さんは少なくありません。初期のうちにエクオールを試せば、痛みは治まる可能性が高いでしょう」(岩城さん)

一方、症状が出てから時間が経っている場合、エクオールだけでは痛みが治まらないケースが多いそうだ。

ところで、更年期に手指の症状が出やすい人はいるのだろうか。俗説では、「水分不足だとなりやすい」「コーヒーを飲みすぎるとなりやすい」などといわれているようだが、これについて「根拠はない」と岩城さんは一蹴する。今のところ、遺伝が関係するかどうかもはっきりしていない。

手指の症状は温める?冷やす?

では、更年期の最中に手指のこわばりや痛みなどの症状が気になったら、どうしたらいいのだろうか。

まず、温めるべきなのか、冷やすべきなのか、という問題。炎症が起こっているのだとすれば、冷やしたほうがよさそうに思えるが、寒い時期に関節が痛みやすいことを思えば、温めたほうがいいようにも思える。

岩城さんは「これから訪れる秋冬のほうが、夏に比べて患者さんが増えます。それは寒いと靭帯などの関節周囲の組織が縮んで、症状が悪化してしまうからです。ですから、お風呂では湯船につかる、冬は手袋をするなどして、できるだけ手を温めたほうがいいでしょう」と話す。

すでに手指が痛い場合は、酷使せずに休ませることも有効だという。痛みのある関節が動かないよう伸縮性のある医療用テープで固定して曲がらないようにする「テーピング」も有用とされている。ただし、きつく巻きすぎると血流が滞るため、正しいやり方については購入先の薬局やドラッグストアの薬剤師などに聞くといいだろう。

また、インターネットや書籍などで「手指の病気は自分で治せる」「手の関節痛を接骨院の施術で克服」「手指の疾患は食事で治せる」などと宣伝していたりするが、どれも明らかにおかしいという。

「手指の痛みの多くは、軟骨がすり減って起こるものです。ですから、揉みほぐしたり、食事を変えたりしても治りません。日本人は何事でも根性があれば治るなどと言いがちですが、手指を鍛えても治りません。荒療治はやめましょう」(岩城さん)

手指は、誰でもよく使う部分だ。料理や洗濯ものを干すときにも、着替えや入浴を行うときにも使う。そして、関節を固定するテーピングにも限界がある。「やはり、痛みやこわばり、腫れなどで日常生活に支障が出ている場合は、早めに医療機関を受診したほうがいいでしょう」と岩城さん。

更年期の関節痛、どこで診てもらう?

では、更年期の関節痛は、どのような医療機関で診てもらえばいいのだろうか。

婦人科を受診した場合、手の症状だけだと整形外科を勧められてしまうことがある。骨や軟骨などの状態を婦人科で診ることはできないためだ。かといって整形外科を受診しても、X線検査などによって異常が認められないと、女性ホルモンの問題だからと婦人科を勧められてしまうことがある。

「ただ少しでも痛いと思ったら、早めに治療を開始したほうがいいんです。どちらにも理解のある婦人科または整形外科を受診してください。というのも症状が軽いうちに受診したほうが、エクオールの内服、ステロイドの注射などで治ることが多いからです。

つまり、痛みの少ない治療で治る可能性が高くなります。症状が進んでからでは、手術が必要になることも多いのです」(岩城さん)

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整形外科の場合、どんなところを選んだらいいのだろうか。その問いに、岩城さんは次のように答える。

「整形外科はひざ関節、股関節などと分野ごとに専門の医師がいるため、できたら手外科にかかるといいでしょう。日本手外科学会のサイトの『一般の皆様へ』から『専門医をさがす』へ進むと、お住いの地域の専門医を探すことができます」

(取材・文/大西まお)

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四谷メディカルキューブ・手の外科
岩城啓修医師

1996年杏林大学医学部卒業、北里大学形成外科に入局。2008年から板橋中央総合病院・2019年浜田山病院を経て、2020年より現職。専門は、手の外科・形成外科・整形外科。日本手外科学会専門医・指導医、日本形成外科学会専門医・領域指導医、日本形成外科学会再建・マイクロサージャリー分野指導医、日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定リウマチ医。

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提供元:50代の「指の関節痛」使いすぎではない意外な原因|東洋経済オンライン

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