2023.10.05
医師が伝授「認知症の進行予防」家族にできること|あわてず、上手につき合っていくための心構え
認知症の進行を予防するために、家族には何ができるのでしょうか(写真:Graphs/PIXTA)
もしも家族が認知症になってしまったらどうするか。精神科医・認知症サポート医の岩瀬利郎氏は、認知症患者とその家族が上手に症状と付き合い進行を遅らせるために、家庭でもできることがあると語ります。
※本稿は岩瀬氏の新著『認知症になる48の悪い習慣 ぼけずに楽しく長生きする方法』から一部抜粋・再構成したものです。
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思い出の土地に連れて行こう
2025年には、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症患者になるといわれています。自分の家族が認知症になっても不思議ではありません。
そのときが来たら、あわてず、上手につき合っていくためにも、家族ができる認知症の進行予防法を知り、心がまえをしておくことが大切です。
家族ができる進行予防のひとつとして「本人を思い出の土地に連れて行く」という方法があります。
これは、回想法を用いたものです。回想法とは、懐かしい写真や音楽、昔使っていた馴染み深いものなどを見たり、触れたりしながら、昔の経験や思い出を語り合う心理療法です。
認知症の人は、新しい記憶を保つことはむずかしいですが、昔の記憶は保持されていることが多いため、認知症へのアプローチとして注目されています。
思い出の土地に連れて行くということは、昔の記憶を思い出しやすい環境を整えることになります。そうすると、本人が、昔の思い出話をしてくれるかもしれません。話をすることは、脳を活性化させるので、認知症進行の予防になります。
また、過去の自分を思い出すことで、自分の存在意義の再認識ができます。そうすると、認知症になったことで失った本人の自信の回復にもつながり、うつ症状の改善・予防にもなります。
国立長寿医療研究センターの研究によると、回想法を行っている高齢者は、脳の血流が増えることがわかりました。また、回想法を続けていくと、認知症の認知機能の障害である中核症状が改善したという研究もあります。
認知症進行の予防のためにも、本人の記憶に寄り添うことは大切なことなのです。
外出する機会をつくろう
高齢になると、外出する目的を失うことや、体力の低下などが原因で、家に閉じこもる可能性が高くなります。外出をしないでいると、社会とのつながりがなくなり、脳への刺激が減ります。その結果、認知機能が低下し、認知症のリスクが高まってしまいます。
人は、いったん家に閉じこもりがちになると、外出のハードルが高くなり、外出する意欲がそがれた状態に陥りやすいです。また、昨今は新型コロナウイルスの影響で、より一層外出を控え、人とのつき合いが減った人もいます。
そのため、家族やまわりの人は、感染予防に努めながらも、より一層意識して、高齢の家族が地域住民や友人などとかかわる機会をつくり、高齢の家族の社会的孤立を防ぐようにしたいものです。
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買い物や散歩、習い事、地域が行っている活動への参加など、何でもいいので、まずは定期的に外出するきっかけをつくることが大切です。定期化することで、本人の外出のハードルも低くなり、外出の意欲が高まるかもしれません。また、外出は認知症予防のよい運動にもなります。
コロナウイルスの感染を恐れたり、身体的に外出がむずかしかったりする場合は、家のなかで家族とおしゃべりをしたり、手紙や電話、インターネットを利用してコミュニケーションをとったりするのもひとつの手段となります。
会話は脳を刺激する
日常生活で自然に行われる会話は、認知症予防につながると考えられています。会話は脳をフル回転させる作業といえるためです。
伝えたいことを言葉にしたり聞いた言葉を理解したりするには、大脳皮質側頭葉が働きます。また、話すことに感情をこめたり相手の感情を読み取ったりするためには、内側前頭前野、眼窩回(がんかかい)など、いわゆる「社会脳」と呼ばれる部位が働きます。そして、口や舌を動かすときや、人の話を聞くとき、記憶を呼び起こすときにも脳を使います。
脳が刺激され、働きが活発になると、脳に酸素や栄養を運ぶ血液の流れがよくなります。それは脳の老化を防ぐことになり、認知症予防へとつながるでしょう。
会話が弾むと、自然と笑顔になるものです。笑うときにはたくさん息を吸うため、呼吸がよくなります。腹筋や胸筋も刺激されます。また、笑いは体の余分な緊張をとることにもつながり、ストレス解消になります。
笑顔でいると「場」の空気がよくなって、より楽しい雰囲気でおしゃべりでき、脳が喜びます。楽しい会話は、認知症予防にとっていいこと尽くめなのです。
また、人との会話そのものがストレス解消にもなっています。心にある悩みや不安を人に打ち明けることでストレスをため込まず、考えていたことが整理され、うつ病の予防につながると考えられます。
家族との会話から始めよう
認知症予防のためには、会話を習慣化することが大切です。そして、それができるいちばん身近な存在、それが家族なのです。
新型コロナ感染予防や何らかの理由で外出ができない人でも、家族との会話であれば可能であるという場合は多いと思います。慣れない人と話すことも認知症予防として効果的ですが、まずは、家族間でコミュニケーションをとることも大切です。日ごろから、家族とのコミュニケーションを怠らず、家族は本人の気持ちを理解し、気持ちに寄り添うことを心がけましょう。
会話を習慣化させるには、会話を楽しいと感じてもらうことが重要です。そのためには、まずは会話の相手である家族がイライラしたりうんざりしたりしないようにしましょう。
会話中に「自分に向けられた嫌悪感」を感じとったら、その相手との会話は楽しいものではなくなってしまいますよね。認知症を発症していたとしてもそれは同じで、嫌悪感に気づいたとき、会話が楽しくなくなり、人とのかかわりを避けるようになってしまいます。
認知症が進むと会話が2倍以上の速度で聞こえるようになるといわれているので、句点(。)や読点(、)を意識して、短く簡単な言葉で話しかけるようにすると、「話が通じない」と感じる場面も少なくなるかもしれません。
また、直接会話ができない場合は、電話やインターネットを活用するとよいでしょう。特にインターネットは、リアルタイムで相手の顔を見て話すことができます。対面に近い形で会話することができるということです。
しかし、インターネットはむずかしいと感じている高齢者がいるのも事実です。その場合、手紙を書くのもおすすめです。
手紙を書く際は、相手への気遣い、伝えたい内容をまとめるなど、高度に頭を使います。脳に刺激を与える行為は、認知症予防に効果的といえます。まだ携帯電話がない時代は「手紙を書く」という行為は当たり前のことだったはずです。高齢者にとっては馴染み深く、かつての文通の経験を活かせるいい機会になるかもしれません。
役割を与えることが認知症予防になる
加齢とともに運動機能や認知機能などの心身の活力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態を「フレイル(虚弱)」といいます。
人は、身体的・心理的・社会的の3つのフレイルが相互に作用して弱っていくもので、認知症もその例に漏れません。
フレイルによる悪循環で認知症はどんどん進行する
例えば、腰を悪くし、外出できなくなる。結果、社会との接点が減る。さらに、外出できなくなったと自己嫌悪に陥り、余計に動かなくなり、認知機能や筋力が低下する。このような悪循環で認知症が進んでいくということです。
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身体的なフレイルは、医療やリハビリテーションで予防ができ、心理的・社会的フレイルは、家族の協力で予防できます。家族ができる予防策のひとつが、役割を与えることです。
日常のなかには、さまざまな役割があります。
例えば、孫の世話をする、洗濯をする、家族の相談相手になるなども、一種の役割です。
高齢者が今まで自分でしていた料理を、足腰が弱くなってきたからと家族が代わりにしてあげる。これはよくあることですが、その結果、脳を使う機会が減り、認知機能が低下していく可能性もあります。
できないと決めつけてしまうことは、認知症の進行を促す可能性があります。役割を与え「生きがい」をもたせることは、認知症のリスクを下げることにつながるのです。
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提供元:医師が伝授「認知症の進行予防」家族にできること|東洋経済オンライン