2023.09.21
物価高で変化ある?「節約レシピ」で今人気の食材|食費の節約と栄養バランスの両立は難しい
物価高が続く中、レシピサイトでよく検索される食材や料理は?(写真:マハロ/PIXTA)
物価高が続く中、節約レシピが人気だ。「レシピブログ」などネット上でレシピサービスを提供するアイランドが発表する「トレンド料理ワード大賞」では、2022年の大賞が節約料理で、今年の上半期の調査でも、2位がありあわせを使う節約意図が高い「アルモンデ(あるもので作る料理)」だった。
「モヤシ」「カット野菜」の検索頻度が高い
クックパッドに節約レシピの動向を聞いてみた。すると、同社の食の検索データ「たべみる」で、「節約」というキーワードが検索されたピークは2015年で、その後は自分が求める特定のキーワードで検索する傾向が強くなったという。
特に人気が高い節約ワードは「モヤシ」。また、野菜価格が高騰した2018年、「カット野菜」の検索頻度が前年の約1.5倍に増えて定着した。2019年からは、テレビ番組でよく取り上げられる「業務スーパー」が検索されるようになり、2022年には2018年の約8倍まで伸びている。最近人気が高いのは、鶏手羽元や、買いだめできて安いタンパク源になるかにかまやはんぺんなどの練り物だ。
このように、物価高は食卓を直撃している。ネットを使えば、いくらでも節約レシピを検索できるが、特定の食材を使う料理で栄養バランスが崩れた日々が続くと、健康を損ねるリスクがある。節約レシピのトレンドから、食費の節約問題について考えてみよう。
47都道府県のスーパーやコンビニなど小売店7万3000店のチラシがネットで見られる「トクバイ」。現在は30~50代の子育て世代の女性を中心に、月に1600万人以上が利用するが、昨年10月ごろから「物価高で節約が大変です」「かなりしっかり各店の価格を比較して、計画的に買い物しないといけない」といった、切実な声が急激に増えてきた。
マヨネーズや乳製品、ビールなど多くの食品が一斉に値上げし、物価高のインパクトが強くなったタイミングだ。そこで、新しいコンテンツサービス「トクバイ節約レシピ」を準備して今年6月から公開し、アプリも開発した。
「チーズでのかさ増し」が人気
利用者の間で人気が高い節約食材は、たんぱく源の一番が鶏むね肉、続いて豚こま肉、豆腐や厚揚げ・こんにゃく・ちくわ。野菜は旬の食材が基本的に人気で、量が多く割安な大根、キャベツ、白菜も人気が高い。10年ほど前に一世を風靡したモヤシは、その次ぐらいの人気度だ。
通常は節約食材として人気の卵は値段が上がり、「今はユーザーさんの動向を敏感に観察しながら、卵のレシピを提供しています」と、トクバイサービスの開発責任者の草深由有子氏は説明する。
「料理として人気なのは、よく特売されるプロセスチーズやピザ用のシュレッドチーズを少量使ってかさ増しするレシピ。鶏むね肉を一口大に切り、チーズと大葉を挟んで焼くと、淡白な鶏むね肉にコクが加わるので人気です」と草深氏。
「エビチリやエビマヨのエビを鶏むね肉やちくわに替えるといった、代用レシピも人気です。魚介類は価格が高めなため、支持率は低め。編集部としては、多彩な食材を味わって欲しいのですが、人気があるのはツナ缶などの缶詰ですね」
野菜とタンパク質を一緒に使うレシピは、ヘルシー志向とかさ増しになる点で人気だが、特に人気が高いのは丼物。食べ盛りの10代の子を持つ利用者が多いことも影響している。
「ナスと豚こま肉で生姜焼き風にして丼にする。豚ひき肉、モヤシ、小松菜を焼き肉のタレで炒めてご飯に載せ、上に目玉焼きを載せる」など例を挙げる草深氏。「以前、節約レシピ特集をした際、厚揚げと豆腐を取り上げたのにこんにゃくを入れなかったら、『こんにゃくがない』という声がたくさん来たほど、こんにゃくも人気です」と付け加える。
こんにゃくや豆腐を薄切り豚バラ肉で巻いて煮た角煮風やフライなど、肉巻きでかさ増しするレシピも人気が高い。時には手をかけつつ、生の食材を使った料理が人気なのは、利用者の料理経験が豊富なことに加え、食べ盛りの子を持つため、加工食品や総菜が割高になるからだろう。
「スマートな節約」に注目が集まっている
長年、主婦向けのメディアで料理情報を提供してきた草深氏は、自身の経験から「ここ10~20年ほど、生活情報メディアの読者は、どちらかと言えば節約をカッコ悪いと考える傾向がありました」と振り返る。
「1990年代は、牛乳パックを冷蔵庫内の仕切りに使う、といった節約アイデアを提案する『すてきな奥さん』が一世を風靡した。しかし、節約に必死になり過ぎると追い込まれかねない。「2004年に創刊された『Mart』は、お金をかけ過ぎずおしゃれなライフスタイルを求める時代を切り開きました。節約ライフのキーワードとしては、ミニマリスト、ポイ活、映え、ノーマネーデーなどスマートに見えるモノです。今は急激な物価高になり、ストレートな節約に注目が集まっていると考えています」
トクバイでは、管理栄養士がレシピを開発し、管理栄養士の資格を持つ編集者が原稿を作成するため、栄養のバランスは重視しているという。
「カロリーに対して一番低価格と言われるのは炭水化物ですが、栄養と味のバランスが整う献立の知識が必要です。しかし今は、レシピの存在が強く、献立の組み合わせ方がわからないという人が増えている。ネットでは役立つ献立情報の表現方法が開発途上で、私たちもまだベストフィットな形で提供できていないのが悩みであり、これからの挑戦でもあります」
実は節約レシピは、料理メディアの歴史と共に存在する。
『主婦の友』では、大正時代から節約レシピを紹介し、別冊付録などでも特集してきた。同誌の歩みをまとめた『ニッポンの主婦 100年の食卓』では、1920(大正9)年4月号の「経済的な一週間分の総菜料理」や、1925(大正14)年7月号の「一食80銭以内でできる家庭晩餐料理」などの特集を紹介している。
『きょうの料理』(NHK)では、不況時期以外でも、くり返し節約レシピを紹介してきた。最初は、放送が始まって3年の1960年から1962年にかけの『4品を100円で』では、値段と品数を記した節約献立で、レシピ提供者は土井勝氏。
第一次オイルショック後の1975年4月から1年間は毎月、サバ、キャベツ、めざしといった安い食材を使った「経済的な献立」を、村上昭子氏が紹介している。2000年代初頭までは献立提案がほとんどだが、2006年2月の「冬野菜の節約おかず」以降、食材を切り口にした単品レシピの紹介も多くなった。
節約と栄養バランスを両立する難しさ
台所の担い手の助っ人を任じる料理メディアと共に、長い歴史を歩んできた節約レシピ。その中で、レシピ提供者たちは1皿で食材を組み合わせる、献立提案する、など栄養のバランスはつねに念頭に置いてきたと思われる。
しかし、『きょうの料理』が、レシピサイトが既存メディアの人気を凌駕する前から、単品の節約レシピの提案をよく行うようになった点は気になる。トレンドに先行する提案を長年行ってきた番組だけに、いち早く食材ごとの単品レシピを求めるトレンドを見出したのだろうか。
節約レシピで健康を損ねるとすれば、それは個々のレシピというより、栄養バランスに配慮した献立の知恵不足にある。学校の家庭科で栄養について学んだ人は多いが、家庭科教育は軽視されがちだ。食事バランスガイドを作成するなど、国も栄養情報を提供しているが、どれだけの人が参考にしているかわからない。
物価高で家計が圧迫される人はもちろん、経済的に厳しい生活を送る人でも、健康的な食生活を送るにはどうすればよいのか。そうしたレシピにとどまらない料理の情報提供が、インターネットを含めたメディアの課題ではないか。同時にそれは、生活者の私たちも気を付けるべき問題と言えるだろう。
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提供元:物価高で変化ある?「節約レシピ」で今人気の食材|東洋経済オンライン