2023.09.04
「コロナ後も咳に悩む人」が見逃す"鼻の異変″|「後遺症の原因」は自覚症状のないアノ疾患?
あまり知られていないが、生理食塩水などで鼻の中を洗う「鼻うがい」は、コロナの重症化を防ぐ効果がある(写真:Ushico/PIXTA)
世間はすっかりポストコロナ気分だが、医療現場は今年もまだ「コロナの夏」が続いている。38℃以上の発熱を呈して受診する方の大半が、コロナウイルス感染症だ。注目すべきは、他院でコロナと診断されて治療を受けたが、その後も長引く「咳」の治療を目的に受診する方だ。
これは「コロナ後遺症」なのか? 日々、風邪や新型コロナに向き合って気づいたのは、咳を訴える患者さんが自覚していない、本当の原因だ。今回は、その知識と経験を多くの方に共有できればと思う。
風邪と新型コロナの診療で気づいた「あるある」
現在、新型コロナの治療では、抗ウイルス薬を使うのは高齢者や抗がん剤治療中の方、免疫抑制療法を受けている方に限られる。それ以外の方は対症療法、つまり症状を和らげるための治療をするだけだ。要するに完全に風邪と同じ扱いだ。
具体的には、外来を受診した場合は、解熱鎮痛剤(痛み止め、熱冷まし)、抗ヒスタミン薬(鼻水、鼻づまりの緩和)、去痰薬(鼻水や痰の粘性を下げ出しやすくする)、鎮咳剤(咳止め)、場合によっては気管支拡張剤(気管支を広げて呼吸を助ける)などが症状に合わせて処方される。
問題は、診察時に出ていない症状については、薬を出さないのが“基本”だということ。だが、「発症後すぐ受診したら解熱鎮痛剤のみ処方されて、あとから鼻詰まりや咳で困りました」という患者さんがナビタスクリニックを受診されることも多い。
コロナを含めた「風邪症候群」の診療経験が豊富な医師の場合、上記のような症状の推移を心得ていて、これから出現する症状を予測して、楽に過ごせるよう薬を按配してくれる。
かく言う私も、20年近い風邪やインフルエンザと、3年余りにわたる新型コロナの診療経験から、症状の推移はおおむね想定ができるようになった。
まず1つ経験的に「あるある」だと確信しているのは、「鼻や気道に関わる基礎疾患があるとコロナ後の咳が長引きやすい」ことだ。慢性アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、鼻中隔湾曲症、気管支喘息、咳喘息、睡眠時無呼吸症候群といった基礎疾患に遭遇する率が高い。
コロナ後は「カビ副鼻腔炎」も
このうち特に副鼻腔炎は、自分では鼻詰まり等の症状を感じないケースも少なくない。
副鼻腔は、鼻腔の周りに存在する洞窟のような空洞だ。普段は、吸い込んだ空気が副鼻腔を循環するうちに温度や湿度が調整され、肺や気管支の粘膜に対する刺激を防いでくれている。だが、生まれつき鼻腔が狭くて詰まりやすい方は、そこが炎症を起こしやすい。コロナ後に副鼻腔炎になったり、もとからある副鼻腔炎が悪化するケースがよく見られる。
30年近く前の研究だが、風邪をひいた人にCT検査を実施したところ、ウイルス性副鼻腔炎が高率に生じていることが報告されている。風邪で黄色い鼻水が出たり、鼻が詰まるのは、副鼻腔炎を起こしているしるしだ。その鼻水がノドに流れ込み続け、咳が止まらなくなる。
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だから普段、風邪の後に痰がらみの咳が続きやすい患者さんが新型コロナにかかったら、同じように症状が推移すると考え、副鼻腔炎にフォーカスした治療をおこなうべきだ。
また、風邪に伴う副鼻腔炎はウイルス性だが、その後に細菌による副鼻腔炎に移行することがある。一方、コロナ後に注意が必要なのは、アスペルギルスやムコールなどの真菌=カビによる副鼻腔炎が多いことだ。真菌による副鼻腔炎では、カビが副鼻腔のみならず周りの骨に食い込み、視神経や脳に到達して、より深刻な病態を起こす。
真菌性の副鼻腔炎であっても、細菌感染も合併していることが多いため、抗生剤治療=細菌感染に対する治療で良くなることも多い。しかし、完全には治りきらず、症状が悪化していくこともある。治りが悪ければ放置せず、きちんと診断を受けて適切な治療を受けることが望ましい。
特に糖尿病の基礎疾患がある人は、真菌性副鼻腔炎のリスクが高い。慢性腎臓病や血液がん、中等症以上のコロナで副腎皮質ホルモン治療を受けた人も、リスクが上がるとされている。
「鼻うがい」の選び方とオススメ「漢方」
通常の風邪やコロナに伴う副鼻腔炎であれば、抗生剤を使わずとも治る場合がほとんどだ。
抗生剤治療を考えるのは、1週間以上症状の改善がみられない、頭痛や38℃を超える発熱がある場合に限られる。通常は特殊な抗生剤は不要で、一般的なペニシリン系の抗生剤で事足りる。もちろん、どの抗生剤を使うかは薬物アレルギー歴や基礎疾患によって異なるので、医師の判断になる。
あまり知られていないが、生理食塩水などで鼻の中を洗う「鼻うがい」は、コロナの重症化を防ぐ効果がある。
複数の研究論文からデータをまとめた報告では、鼻うがいが、鼻汁中のコロナウイルス量をすみやかに低下させ、重症化を防いだ。また他者に感染させるリスクも低下した。もちろん、鼻をすっきりさせて症状も改善した。
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私は、診察の際に鼻うがいの有効性を説明し、ドラッグストアなどで購入して使うよう説明している。初めての人はしみたり痛かったりしないか心配されるが、案ずるより産むが易しで、「やったら良かった」と、評判はすこぶる良い。
鼻うがい製品はいろいろと販売されているが、私は液体の量が多いものを使うよう説明している。そのほうが洗い流す効果が高いからだ。もちろん鼻うがい製品を使わなくても、市販の生理食塩水を温めて使えば問題ない。
また、私は漢方を内科診療によく用いており、葛根湯を風邪の処方に加えることが多い。葛根湯は膿の排泄を促進する効果があり、鼻づまりをとる作用もあるため、副鼻腔炎の治療にはもってこいだ。
医師から処方されていない場合は、市販の葛根湯を買って服用するのもいいだろう。ただし葛根湯には血圧や心拍数を高める効果があるので、血圧の薬を処方されている、ないし心臓に持病のある方では、主治医に相談したうえでの服用をお勧めする。
「ノドの強い痛み」はコロナの後遺症?
新型コロナが発生した当初、急な発熱と肺炎による死者が相次ぎ、世界はパニックに陥った。しかしオミクロンと呼ばれる変異株が出現して以降、重症化率・死亡率は世界的に低下した。現在、コロナといえども、ほとんどの方にとってはもはや風邪、またはインフルエンザ程度のものでしかない。
とはいえ、感染し発症すれば、日常生活にまったく支障がないわけではない。昨今の典型的な症状パターンの1つが、「ノドの強い痛み」だ。
新型コロナの初発症状は、発熱と咽頭痛、関節痛や倦怠感だが、近頃はとくにノドの痛みを強調する方が多い。「ノドが切れたように痛み、話をしたり食事をするのもつらいんです」、と。ただし実際に診察してみると、ノドは少し腫れているものの大したことのない方がほとんどで、自覚症状と見た目のギャップが大きいのが特徴だ。
その後、発症して2〜3日すると、鼻水が出て鼻が詰まるようになる。それがノドに垂れ込むと痰となり、痰が刺激となってむせるような咳き込みを生じるようになる。治まっているときは大丈夫だが、突然強い咳き込みが生じ、しばらく治まらない、という人が少なくない。咳のしすぎで胸の筋肉が痛くなったり、ひどいと肋骨を痛めるケースもある。
咳はだんだんと和らぐが、最終的に2〜3週間ほど続く人も多い。ナビタスクリニックに、「咳止めを処方されて服用しているのに治らない」と受診される患者さんが多いのは、この時期だ。
これをコロナの後遺症と捉えるのか、もともとの持病に関連した合併症なのかは、判断が難しい。だが、普段からその人の風邪の推移をよく知っているかかりつけ医なら、的確な判断が期待できる。
つまり、風邪のかかりつけ医が発熱外来を担当したり、5類移行後もコロナ疑いの患者を診療することで、「コロナ後遺症」と呼ばれる症状も、速やかな改善につながるケースが増えるだろう。
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提供元:「コロナ後も咳に悩む人」が見逃す"鼻の異変″|東洋経済オンライン