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2023.08.25

台風や地震に備える「災害時トイレ」意外な盲点|自治体保有「トイレトレーラー」は全国20台のみ


様々なタイプが出回っている携帯用トイレ(撮影:河野博子)

様々なタイプが出回っている携帯用トイレ(撮影:河野博子)

大地震はいつ来てもおかしくない。酷暑の日本列島はまさに沸騰状態で、鳥取県、岡山県、京都府をはじめ、各地は台風7号に伴う記録的大雨に見舞われた。「出水期(6~10月)」は続く。避難先の確保、飲料水や食料の備蓄とともに気になるのが、災害時のトイレ事情。2011年3月の東日本大震災時以降、改善されたのだろうか。

携帯用トイレって、どうやって使う?

東京・江東区の主婦らによるボランティアグループは、5年ほど前から「携帯用(非常用)トイレ」をめぐるノウハウを伝えはじめ、昨年は地域でのオンライン講座で講師役を務めたり、高齢者施設に出向いて話をしたりして活動を続けている。

このグループは東京都ビューティーケア赤十字奉仕団。50代から80代の主婦ら38人がメンバーだ。2011年3月11日の東日本大震災の後、江東区内に避難してきた原発事故被災者へのハンドケアなどの「癒しのボランティア活動」をはじめ、高齢者施設、福祉施設などでハンドケア、フェイシャルケア、ネイルカラーなどの活動を行ってきた。

2018年7月の西日本豪雨の頃からだろうか、水害が気になりだしたという。代表の岡田育子委員長が「線状降水帯による大雨が起きるようになり、もう絶対にやらないとダメだ」と思ったのが、携帯用トイレについての取り組みだった。

東京東部低地帯にある江東5区(墨田、江東、葛飾、江戸川、足立区)は大規模水害への備えを進めている。マンションが林立する江東区では、「自宅が上層階にある場合は在宅避難」が推奨されている。

堤防の決壊などにより浸水した場合、水が引くまでには1~2週間かかるとされる。その間、電気、水道が使えなくなる状況下でトイレも含め、自宅でなんとかしなければならない。

昨年8月、岡田さんらは江東区社会福祉協議会の災害ボランティアセンター主催の講座で「災害時の携帯用トイレの普及」をテーマに講師を務めた。都内の私立中学高等学校が企画・デザインし、日本赤十字社が作成した携帯用トイレのキットを使って仕組みと使い方を説明する、という内容だった。

キットの中身。普及に向けた説明用で、市販はされていない(撮影:河野博子)

キットの中身。普及に向けた説明用で、市販はされていない(撮影:河野博子)

キットの中身は説明書、黒いポリ袋(20㍑)、吸水シート(10×10cm)、白い半透明の臭断袋(40×26cm)、結束バンド、透明の袋。これを災害時に使いやすいようにセットしておく方法について説明が行われた。

実際に自宅のトイレで使うには、まず大きなポリ袋をかぶせ、ここに吸水シートが入った黒い袋を広げて中に用を足し、袋の口を縛ったうえで白い臭断袋に入れて結束バンドなどで口を閉めて保管する。

携帯用トイレは今、様々なタイプのものが販売されており、吸水シートではなく使用後に袋の中に凝固剤の粉を振り入れるタイプが多い。購入しても、広げて中を見る人は少ない。キットは携帯用トイレの仕組みを説明するために作られ、市販されていない。

健康を維持するためにトイレは必要

講座ではまず参加者に紙を配り、自分が一日にトイレに行く回数、それかける7日分、それかける家族の人数分を記入してもらった。一日に7回行く場合、自分の分だけで49個、4人家族だと196個が必要になる。そのうえで、前委員長の森田清枝さんが説明を行った。

参加者は、会場に来た12人、オンライン参加の40人の計52人。最後に、「数がこんなに多く必要だと知ってびっくり。これまで買っておいたのはその半分くらい」という女性や、「男性の場合、年をとると前立腺に問題が出て頻尿になり、2時間に1回はトイレに行く。どうしたものか」と困惑する男性が口々に感想を述べた。

「健康を維持するには、がまんすることなく、その都度排泄しなければいけないので、やっぱり携帯トイレは用意しましょう」「このキットを配りますので一回ためしてみてください。使ってみないと、災害時に電気のないところで使えないでしょう」。講座で説明に立つたびに、森田さんはそう呼びかけている。

水害や地震が起きると、出動可能な自治体が被災地にトイレトレーラーを派遣する取り組みがある。一般社団法人・助けあいジャパンが中心になって進めてきた「災害派遣トイレネットワークプロジェクト」。「みんな元気になるトイレ」をうたい、目指すは全国1741市区町村への導入だ。

2018年から実際の導入が始まり、現在20の自治体に計20台が導入された。費用は概算で2300万~2500万円(税抜き)でオプションや為替相場により異なる。自治体は緊急防災・減災事業債の仕組みや、ふるさと納税型クラウドファンディングの仕組みを使い、費用を賄っている。

トレーラー内には4つのトイレ

2019年9月、千葉県君津市が台風15号の直撃を受けた時には、3台のトイレトレーラーが集合した。静岡県富士市、西伊豆市、愛知県刈谷市がそれぞれ2~3人の市職員とともに派遣し、避難所、文化ホール、清和公民館前で、延べ8~11日間、運営した。君津市の業者が汲み取りを行った。

「2週間を超える断水と停電が発生して大変でした。被災者からは『明るく、快適なトイレで、子供も私も元気がでました』などの感謝の声が寄せられました」(君津市危機管理課防災対策係長、鳥居大樹さん)

14台の仮設トイレが公民館前など7か所に設けられたが、トイレトレーラーの人気が際立った。この時の経験から、君津市は2021年2月にトイレトレーラーを導入。翌2022年9~10月には、水害で断水状態が続く静岡県静岡市清水区に駆け付けた。

普段は市内のイベントに“出動”したりしているが、現在は市役所の駐車場・倉庫に置かれているトイレトレーラーを見せてもらった。

4つのトイレ個室からなるトレーラーは、思ったよりコンパクト。でも中に入ってみると、けっこうゆったりしている。使用後にペダルを踏んで水を流すのだが、脇に小さなシャワーがついていて、流し足りないところを流す。床には排水口があり、掃除の際は、このシャワーで床をきれいにすることができる。手を洗う小さなシンクや鏡もある。

(写真左)君津市のトイレトレーラー、(写真右)中のトイレは脇についている小さなシャワーできれいに保てる(撮影:河野博子)

(写真左)君津市のトイレトレーラー、(写真右)中のトイレは脇についている小さなシャワーできれいに保てる(撮影:河野博子)

文部科学省は東日本大震災の翌2012年、福島県と宮城県(仙台市を除く)で避難所となった学校525校を対象にした調査を実施した。「問題となった施設・設備」を聞いたところ、回答の74.7%が「トイレ」と答え、最も多かった。

断水が続いたため水を沢から汲んできたり、プールからバケツで運んだりして流したという避難所もあった。また仮設トイレを設けたが「屋根や夜間照明がなかったため、汚れてしまい大変だった」という報告もあった。

民間の調査会社による「2019年避難経験者・災害時避難所調査」でも、「避難所で過ごすなかで困ったこと」という問いに対し、「トイレ」と答えた人が断トツに多かった。

災害関連死を減らしたい

災害派遣トイレネットワークプロジェクト「みんな元気になるトイレ」の発起人で助け合いジャパンの共同代表理事、石川淳哉さんによると、現在プロジェクトが採用しているトイレトレーラーは、アメリカ・ロサンゼルスに住む日本人が開発・制作した。東日本大震災の津波や避難所が大変なことになっているという報道の映像を見て、「トイレだけからなるトレーラー」を考案した。

2019年10月の台風19号で千曲川堤防決壊による浸水被害が起きた長野県に派遣された静岡県富士市のトイレトレーラー。ボランティアの拠点となった赤沼区公会堂前に設置され、約60日間にわたり活用された(提供:静岡県富士市)

2019年10月の台風19号で千曲川堤防決壊による浸水被害が起きた長野県に派遣された静岡県富士市のトイレトレーラー。ボランティアの拠点となった赤沼区公会堂前に設置され、約60日間にわたり活用された(提供:静岡県富士市)

「アメリカでトイレトレーラーを作った人たちは『こんなのどう?』と船に載せて日本に送ってきた。2016年4月に熊本地震が起きた時、私たちはそれを宇城市の避難所の前に置いて使ってもらいました。役に立ったと感謝されたのですが、価格が高いこともあって財政状態が厳しい自治体による導入を実現するには、その後2年間かかりました」(石川さん)

一見、突飛なアイディアを実現した石川さんら関係者には、「災害関連死を減らしたい」という思いがあった。地震による建物倒壊に巻き込まれたり、大雨により崩れた山の土砂に埋まったりといった災害そのものによる死ではなく、避難生活などが原因で亡くなる災害関連死は深刻だ。

熊本地震の場合、273人の死者のうち223人が災害関連死、地震そのものによる死者は50人。災害関連死の死者数は地震時の4.46倍にのぼる。

「災害で怖いのは災害関連死です。それは人の仕組みで解決できる。避難生活でトイレを我慢することによって体調を崩す。避難生活のトイレ問題をなんとかしよう、と。それを皆で解決していきましょうと考えました」。石川さんは振り返る。

もともとは被災者のために作られたトイレトレーラーだが、最近の水害では医療関係者や泥の掻きだしをするボランティアにも活用されている。巡っては、それが被災者たちの健康を支えることになる。

災害用トイレの普及、推進を進めているNPO法人・日本トイレ研究所のホームページにある「災害用トイレガイド」を見ると、実に様々なタイプのトイレが開発、商品化されていることに驚く。東日本大震災以降の国、自治体、企業、民間団体の取り組みにより、災害時のトイレ事情はかなり改善されたのだろうか。

「3.11以降、大きく改善してはいないと言っていい。依然として社会的に大きな課題なんです、災害時のトイレ問題というのは、人の命や尊厳にかかわることで、さすがに後退はしていないのですが」。日本トイレ研究所の加藤篤代表理事は、こう話して表情を引き締めた。

確かにユニークなアイディアで進められてきた「みんな元気になるトイレ」も、導入済みの自治体は12で全国自治体数の0.6%にすぎない。防災基本計画が災害時のトイレについてどう定めているかというと、市区町村に対し、指定避難所に仮設トイレ、マンホールトイレの整備に努め、携帯トイレ、簡易トイレの備蓄に努めるよう求めている。

災害時のトイレには複数の選択肢が必要

水害時を想定して江東区の主婦らは、携帯トイレの普及活動をしている。加藤代表理事は「携帯トイレはマストアイテム。自宅のトイレという空間を活用して利用できるし、自助として備える必要があります。ただし出した後のゴミを正しく管理して処理処分しなくてはいけない」と話す。

江東区は使用済みの携帯トイレの扱いについて「まだ水害の状況が落ち着いておらず収集体制が確保できていない場合は、広報したうえで携帯トイレ、紙おむつ、生ごみを優先して回収します。収集体制が確保されてからは、その他可燃ごみと合わせ燃やすごみに出してもらいます」と話す。

災害が起きていない平時に携帯トイレを試しに使った場合は、「し尿が凝固剤などで固形化されているので、少量であればほかの可燃物と合わせて燃やすごみの日に出してください」としている。江東区は2022年、災害廃棄物処理計画を定めた。まだ方針を決めていない市区町村もあり、ルールの明確化が急がれる。

加藤代表理事は「携帯トイレの確保だけで十分かというと、自宅の置き場にも限界があるし、マンション全体の置き場も限られる。複数の選択肢を持つことが重要」と指摘する。

そのうえで「大事なことは、異なるタイプの災害時トイレを分散して使うこと。マンホールトイレがあれば昼間はそれを使う、マンホールトイレがなければ仮設トイレを調達するなど選択肢を組み合わせる。大小便を一か所に集中させない、分散させることがカギとなる」と強調している。

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提供元:台風や地震に備える「災害時トイレ」意外な盲点|東洋経済オンライン

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