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2023.08.09

【尿酸値】痛風の天敵「プリン体」対策の落とし穴|「ゼロなら安心」とは言い切れない理由とは?


ビールに多く含まれるプリン体は尿酸値を上げ、痛風になるといいますが、プリン体ゼロのビールだから安心と、飲みすぎていいというわけではないようです(写真:kai/PIXTA)

ビールに多く含まれるプリン体は尿酸値を上げ、痛風になるといいますが、プリン体ゼロのビールだから安心と、飲みすぎていいというわけではないようです(写真:kai/PIXTA)

ビールのおいしい季節、真っ只中。この時期、ビール党が特に気をつけたいのがプリン体の過剰摂取だ。「ビールに多く含まれるプリン体は尿酸値を上げ、痛風の原因になる」といわれるからで、尿酸値を気にして、プリン体ゼロの商品に切り替えた人もいるだろう。
そこで、「“プリン体”と“尿酸値”、そして“痛風”はどのような関係にあるのか」「尿酸値が高いとはどういう状態なのか」など、素朴な疑問について、日本痛風・尿酸核酸学会の理事で、複十字病院膠原病リウマチセンター長の谷口敦夫さんに解説してもらった。

足の親指の付け根などに激痛を生じる痛風。病名に「痛」が入っていることからもわかるように、その痛みは激烈だ。この発作が起こるメカニズムについて谷口さんはこう説明する。

「血液中の尿酸値が高い状態が続くと、関節の中に尿酸が結晶化して塊ができます。この塊が増えると免疫細胞が攻撃するようになり、炎症と痛みが起こるのです」

増加傾向にある痛風患者

2016年の厚生労働省の国民生活基礎調査によると、痛風患者は約100万人。2019年の同調査では130万人程度と年々増加傾向にある。男女比は10対1で圧倒的に男性に多く、年齢は20代から高齢者まで幅広い。

血液中の尿酸値が高い状態は高尿酸血症といって、痛風の前段階であるが、日本生活習慣病予防協会などの推定では、痛風の10倍程度、推定1000万人以上とされる。

谷口さんによると、尿酸の固まりやすさは体質の影響が大きく、人によってかなり違うとのこと。

尿酸値がそれほど高くなくても、尿酸が固まって痛風発作を起こる人もいれば、比較的高くても発作を起こさない人もいる。こうした個人差はあるものの、概して尿酸値が8.0mg/dL、9.0mg/dLと、尿酸が関節で固まりやすい状態ほど、また、高尿酸血症になった期間が長いほど尿酸が関節で固まりやすくなり、痛風が起こりやすい。

尿酸値が7.0を超えると……

さて、この高尿酸血症は尿酸値が7.0mg/dLを超える状態を指し、健診の血液検査で指摘されるケースが多い。これまでの調査では、30代の男性の3割以上が7.0mg/dLを超えていることがわかっている。

高尿酸血症そのものは無症状だが、近年、肥満やメタボリックシンドロームと深い関係があることが指摘されている。

高尿酸血症の人は、高血圧や糖尿病、脂質異常(中性脂肪やLDLコレステロール値が高い状態)があることも多く、尿酸は主に腎臓で排泄されるので、慢性腎臓病でも尿酸値は上がる。さらに、痛風があると心筋梗塞や慢性腎臓病、脳卒中になるリスクが高いといわれる。

「単に、尿酸値が高いだけだと症状がないため放置しがちです。しかし、尿酸値が7.0mg/dLを超えたら、メタボが始まっていないか注意するとともに、生活習慣を見直すきっかけにしてほしい」と谷口さんは言う。

厚生労働省の資料を基に編集部作成

厚生労働省の資料を基に編集部作成

では、尿酸値で病院を受診すべき基準はあるのだろうか。

欧米の調査では、尿酸値が9mg/dLの場合、向こう5年間で痛風を発症するのは15%程度だという。谷口さんは、日本でもこの状況はあまり変わらないだろうとみている。

「少なくとも、痛風が疑われるような、足の親指の付け根に痛みが起きた症状があれば、尿酸値の程度にかかわらず受診するのがよいと思います。しかし、そういう症状がなければ、私は基本的に生活習慣の見直しを行い、定期的に健康診断を受けていただく、というやり方をとっています」

尿酸値が9mg/dLを超えている場合でも、ほかに合併症がなければ、生活指導だけで様子をみることが多いそうだ。

「日本痛風・尿酸核酸学会の『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン』では、9mg/dLを超えたら生活習慣の見直しとともに、薬物療法が推奨されていますが、基本は生活習慣の見直しにあり、ここをおろそかにしてはいけない」と谷口さんは言う。

一方、尿酸値の問題以外に、健診で腎機能障害や尿路結石、高血圧、糖尿病、心血管疾患などが指摘されたり、あるいは疑われるような状況にある場合には、医療機関への受診が勧められる。尿酸値を下げる薬物治療が必要になる場合もあるからだ。合併症の治療薬によっては尿酸値を下げる作用を持つものもあるので、それが使われる場合もある。

では、尿酸値が高い場合、具体的にどんなことに注意を払ったらいいのか。我々が真っ先に思いつくのが「プリン体」だろう。

やはり、尿酸値を上げる大きな原因であることから、プリン体の摂りすぎには注意が必要だと、谷口さんは言う。プリン体は食物全般に含まれる“うま味成分”でもあるので、つい摂りすぎてしまうが、意外な摂り方の盲点もあるようなので見ていこう。

そもそもプリン体は、生物の細胞内にある核酸を構成する成分で、体のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)もプリン体である。ATP以外のもさまざまなプリン体があり、これらら新陳代謝を受けて最終的に作られるのが尿酸だ。

尿酸は肝臓で作られたあと、約70%は腎臓で濾過されて尿と一緒に排出され、残りは消化管から排泄される。プリン体の多い食べ物を摂りすぎると尿酸がたくさん作られてしまうため、排出が追いつかずに血液中に溜まり、高尿酸血症になる。

なぜビールに多く存在するのか。これについて谷口さんは、「ビールを作るために必要な酵母はDNAやRNAの塊で、そのなかにはプリン体が多量に含まれています。麦芽にも多く含まれます」と説明する。

問題はビールだけじゃない

ただ、ビールの場合、“プリン体だけが尿酸値を上げる原因ではない”とのこと。

「実は、アルコールそのものにも尿酸値を上げる作用があるので注意が必要です。アルコールが体内で分解されるにはATPをたくさん使いますので、尿酸が増えてしまうのです。また飲みすぎると尿酸が尿から出にくくなります」

したがって、プリン体ゼロのビールだから安心と、飲みすぎていいというわけではない。同じ理屈で、プリン体の少ないウイスキーや焼酎はアルコール度数が高く、飲みすぎれば当然、尿酸値が上がる。

「アルコールそのものが、尿酸値によくないと考えたほうがいい」と谷口さん。1日の推奨酒量(男性)はビール中瓶1本、ワイングラス2杯、ウイスキーダブル1杯、焼酎ストレートで0.5合程度のいずれかだという。

アルコール以外ではどんな注意が必要か。谷口さんは次のように説明する。「来院される高尿酸血症の患者さんには、レバーなどの内臓類はプリン体が多いため、できるだけ避けるようにアドバイスします」。

1日のプリン体の摂取量を400mg以下に抑えることも大切だ(プリン体の量についてはこちらを参考ください:忍び寄る「痛風」敵はビールや魚卵だけじゃない!)肉や魚は、普通盛りで1人前(肉なら200g程度、魚なら80g程度)以上は食べないようにしたい。

忍び寄る「痛風」敵はビールや魚卵だけじゃない! ※外部サイトに遷移します

ほかにも、魚介類や魚類の干物、魚卵などの食べすぎはよくないという。

一方で、最近では、“プリン体が多くても、痛風になりやすいとはいえない食べもの”があることがわかってきている。

「たとえば、野菜。ブロッコリーやきのこ類にも多く含まれていますが、これらは尿酸値に影響を及ぼさないようです。魚介類ではEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)を含む青魚は問題ないという報告があります。干し椎茸や鰹節にもプリン体は多く含まれていますが、出汁として使うのであれば気にしなくて大丈夫です」(谷口さん)

避けたほうがいいのはプリン体だけではない。

甘味飲料(ジュース)も摂りすぎに注意だ。果糖や砂糖が含まれており、尿酸値を上げる原因になるからだ。では、果物はどうかというと、1日200g程度(みかんやキウイなら2個、リンゴやナシなら1個)までなら、健康面でむしろ摂ったほうがいい。

一方で、積極的に摂取したいのは、低脂肪乳製品やコーヒーだ。どちらも尿酸値を下げる作用があることが研究などで示されている。

地中海食もよい。魚介類を中心に、果物や野菜をたくさん摂り、オリーブオイルやナッツ類、豆類、全粒粉など未精製のパンやパスタなどを用いた料理と一緒に適量の赤ワインを飲むという食生活だ。同様な理由で、高血圧予防・改善に役立つDASH食(英語の「高血圧を防ぐ食事法」の略。魚介、野菜、果物など中心の食事)もいい。

水分摂取で尿酸を排出

心臓病などの持病がない限り、水分をたくさん摂ることも大切だ。

「腎臓から濾過される尿酸の量が増えます。普通の食事でも1〜1.5Lは水分を摂っていると思いますが、尿酸値が高い方はさらに0.5〜1L程度の水を飲むように。夏の暑い時期はもう少し多めに摂ってもいいでしょう。お酒を飲むときも、チェイサーとして水を飲むのを習慣にしましょう」(谷口さん)

尿酸値を下げるには、適度な運動で肥満を防ぐのも必要だという。

台湾で発表されたデータを基にすると、推奨される運動量は、速歩や軽いジョギングやのんびりした水泳、卓球、ラジオ体操などを30分程度、週に5回だそうだ。

「急に激しい運動を始めるのは必ずしもよくありませんが、日常的に運動をするなかで、徐々に運動の強度を上げて持続できるのであれば、運動の種類は問いません。運動は続けることが大切なので、ご自身で持続可能な運動の量や種類を選んでいただくのがよいでしょう」(谷口さん)

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健診などで尿酸値が高いと指摘されても、「自分だけは大丈夫」と、何も対処していない人は多いのではないだろうか。しかし、痛風発作はある日突然やってくる。そのときになって後悔しても遅いのだ。谷口さんはこうアドバイスする。

「尿酸値が上がる原因は何かしらあります。血圧、血糖値、中性脂肪値が高いなどの問題があれば、まずはそこを改善する。特に肥満には注意が必要です。肥満の定義はBMI(※)で25以上ですが、肥満度が高いほど尿酸値が上がりやすいことは確かです。まずは食生活の見直しや運動で体重を落とすところからでも始めてみてはいかがでしょう」

※ボディマスインデックス。肥満度を表す指数。体重(kg)を身長(m)の2乗で割った値で22が標準値。

(取材・文/伊波達也)

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複十字病院膠原病リウマチセンター長
谷口敦夫医師

1983年、三重大学医学部卒業。1985年、東京女子医科大学附属リウマチ痛風センター助手。1991年、アメリカカリフォルニア大学サンディエゴ校研究員。2003年、東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター助教授。2018年、同大膠原病リウマチ内科学講座教授。2020年6月より現職。日本痛風・核酸代謝学会理事、日本リウマチ学会評議員・指導医・専門医、日本脊椎関節炎学会理事。『大丈夫!何とかなります 尿酸値は下げられる』監修(主婦の友社)、『マンガでわかる痛風の治し方』著(主婦の友社)ほか著書多数。

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提供元:【尿酸値】痛風の天敵「プリン体」対策の落とし穴|東洋経済オンライン

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