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2023.08.03

老後「2000万円では足りない」と言う60代の資産額|マスコミの刷り込みで「目標額」になった現実


老後資産は2000万円では「足りない」という人たちはどういう人たちなのか(写真:EKAKI/PIXTA)

老後資産は2000万円では「足りない」という人たちはどういう人たちなのか(写真:EKAKI/PIXTA)

人生100年時代と言われる今、60代ははたして「現役」なのか「隠居」世代なのか。60代を対象としたアンケート「60代6000人の声」を実施する著者が、アンケートから見えてきた60代のお金、幸せ、キャリア……などリアルな姿を紹介するとともに、どの世代でも今からできる人生後半を「豊か」に過ごすヒントを教示します。本稿では、一時大きな話題となった「老後2000万円問題」を今の60代はどう捉えているのかをみていきましょう。

年金だけでは足りないという議論が一人歩き

老後2000万円問題は皆さんの記憶にまだ残っていることと思います。

2019年6月、金融庁金融審議会市場ワーキング・グループが取りまとめた「高齢社会における資産形成・管理」と題する報告書の現状分析のなかで、家計調査を利用した「高齢者の支出と年金収入の差額」から、退職後の生活に必要な資産の平均値として2000万円程度と規模感を示していました。

これが「年金だけでは老後の生活は不十分で、老後に向けて2000万円の資産を創り上げる必要があることを政府の研究会が認めた」という、年金危機を煽るような話にしてマスコミで取り上げられました。いわゆる「老後2000万円問題」です。

その時のマスコミの取り上げ方もかなり偏っていたのではないかと思いますが、該当インタビューでは「2000万円なんて必要ない」「お金だけが老後の幸せじゃないと思う」「老後の生活を年金でカバーできないのはおかしい」など批判的な声を多く拾っていました。

ちなみに、私はこの市場ワーキング・グループのメンバーだったのですが、報告書のなかで、この部分は現有する数値を使って全体像を俯瞰しようとした前段部分のほんの一部にすぎませんでした。本質的な議論は、そうした超高齢社会という環境に置かれた個人のお金に対する“あるべき”向き合い方と、それを実現させるために必要な金融ビジネスのありようだったのですが……。

それはともかくとして、「2000万円という数字が60代にどんな影響を与えているのか」をアンケート調査から探ってみました。フィンウェル研究所が行った2023年の「60代6000人の声」では、「老後2000万円問題」を60代がどれくらい知っていて、どう評価したのかを聞きました。

老後2000万円問題を「議論の内容まで分かっている」と答えたのは、なんと6割、「聞いたことがある」まで加えると9割を超えました。やはり60代ですから切実感は強かったんだとわかります。ただ、私が興味深く感じたのは、その9割強の人に聞いた「老後2000万円問題」への評価です。

2000万円問題は金額の問題なのか

ここでは、選択肢を2つのグループに分ける工夫をしました。1つは、老後2000万円問題を「老後の資金と年金の問題」として捉えたもの、もう1つは「2000万円という金額の問題」として捉えたものを選択肢として並べ、6つの中から選んでもらうようにしました。

結果、金額の問題とみる選択肢を選んだ人は過半数の52.7%に上り、「それでは足りない」との意見が相対的に多いこともわかりました。ちなみに「2000万円では足りない」と答えた人は26.8%、「2000万円くらい必要」は14.8%、「2000万円も必要ない」は12.1%でした。

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それぞれの回答者グループの平均資産額も計算してみたところ、「2000万円では足りないと思う」と回答した人の保有資産額は3600万円強に達していました。2000万円では足りないと思ったので、それを上回る資産額を作る努力をしたというよりは、「自分はその規模以上の資産を持っていること」を背景にして、「それでは足りないと思う」というある種、余裕の発言なのかもしれません。

そう考えてみると、「2000万円くらい」だと評価した人の保有資産額平均は2400万円、「2000万円も必要ない」と評価した人の平均は1700万円くらいときれいに整合的になっているのもわかります。2000万円問題の評価の真相は、自身が保有する資産水準を前提にそれを肯定しようとしたものなのかもしれません。

「老後の生活資金を考えるきっかけになった」

一方、金額そのものではなく、「老後に“年金以外に多額の資産が必要”であること」を重視して評価した人は47%弱でした。そのなかで、27.7%と多くを占めたのが「年金がしっかりしなければならないのに、その結果を個人に押し付けることは納得できない」との指摘でした。

これは当時のマスコミの取り上げたポイントの1つで、ちょうど参議院選挙の真只中だったこともあって、これが意識的に大きく議論されたことが影響したのではないかと思います。ちなみに、この人たちの保有資産額の平均は1525万円強と最も少ない金額だったことも特徴です。

ただ、12.8%、つまり8人に1人が「老後の生活資金を考えるきっかけになった」という前向きな評価もしていて、批判的な指摘ばかりではありませんでした。この層の保有資産額の平均は、2326万円強と2000万円を上回っています。

さらに「2000万円問題」は60代の生活満足度に影響を与えているかもしれない、という視点で数字を見てみたいと思います。次のグラフをみてください。これは、保有する資産額と生活全般の満足度、資産水準の満足度との関係を示したものです。

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なお、満足度は、「満足できる」(評点5)、「どちらかといえば満足できる」(評点4)、「どちらともいえない」(評点3)、「どちらかといえば満足できない」(評点2)、「満足できない」(評点1)の5段階で聞いて、その評点の平均を取っています。

このグラフからは3つのことわかります。まず一目でわかるのは、保有資産が増加するほど(グラフでは横軸で右側に行くほど)、満足度が高まる(縦軸で上に行く)という関係です。これは単純で、お金があるほど満足度が高くなることを示しています。これが第1のポイントです。

ただ、グラフの形状を見ると上に凸型になっていて、これが2つ目のポイントです。保有する資産額と満足度の関係が途中で変化し、その金額が2000万円辺りにありそうな感じです。

2000万円くらいまでは、保有する資産が増えると満足度の高まりが大きく、そこから先になると資産額が増えてもそれほど満足度が高まらないという姿を示しています。

3つ目のポイントは、生活全般の満足度の線がつねに資産水準の満足度の線よりも上にあることです。同じ資産額でみると、生活全般の満足度のほうがつねに資産水準の満足度よりも高いという意味です。特に、保有資産額が少ない、例えば2000万円より少ない場合には、その差が大きいことも特徴として言えます。

マスコミによる刷り込みが満足度に影響?

このグラフの示していることを言葉にしてみると、「満足度の目標は2000万円あたりにあって、それを超えると資産が増えてもそれほど満足度は高まらない」「持っているお金の水準に関しては満足できていないが、ほかのことを考慮すると生活全般では満足している」というところでしょうか。退職後の生活の入り口にいる60代6503人の全体像が、「資産2000万円に向けて満足度が急速に高まるという姿を示している」ことが、マスコミによる刷り込みの結果かもしれません。

では退職後にいくらあれば足りるのかーー。実は答えはそんなに簡単なものではなく、様々な要素が関わって変わってきます。マスコミで大きく伝えられてしまった「2000万円あれば安心」など単一な結論はありません。これについては次回、説明をしたいと思います。

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提供元:老後「2000万円では足りない」と言う60代の資産額|東洋経済オンライン

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