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2023.07.28

【熱中症】救急搬送急増「水分補給の誤解」を解説|脱水状況かどうか、見分けるカギは「トイレ」


熱中症にならないための対策とは(写真:ABC/PIXTA)

熱中症にならないための対策とは(写真:ABC/PIXTA)

異常気象が続く日本列島、体温超えの「危険な暑さ」に襲われている地域も少なくない。連日続く酷暑に「あづい!」という言葉しか出てこないが、こんなときに注意したいのが熱中症だろう。「サ活で汗をかいているから」「暑さに強いから」といった油断は禁物だ。見逃しがちな”熱中症の落とし穴”があるそうだ。新百合ヶ丘総合病院救急センターのセンター長で救急医の伊藤敏孝医師に話を聞いた。

毎年、熱中症患者が病院に救急搬送される話題がニュースになるが、今年は例年と少し違うと、伊藤医師は感じている。

患者は5月以降右肩上がりで増加

「例年だと、6月に入ったあたりから搬送される患者さんが増えてきて、7月の始めと後半に1回ずつ、ピークの山ができるような感じでした。それが今年は5月ぐらいから患者が出始めて、右肩上がりで増えています」

熱中症とは、体内に熱がこもることで、さまざまな臓器がダメージを受ける状態を言う。われわれの体はつねに36~37度ぐらいの体温を保つようできていて、体温が上がると血管が拡張して体内の過剰な熱を体外に放出したり、汗をかくことによる気化熱で熱を逃がしたりして、体に熱がこもらないようにしている。

そして、これらの機能のどこかが破綻すると、熱中症になってしまう。

総務省消防庁によると、7月17日~23日までの全国の熱中症による救急搬送人員は、9190人(速報値)。

※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

(出所)熱中症救急搬送状況(総務省消防庁)

(出所)熱中症救急搬送状況(総務省消防庁)

高齢者が5195人(56.5%)と最も多いが、18歳~65歳までの成人も2961人(32.2%)いて、決して少ない数ではない。

(出所)熱中症救急搬送状況(総務省消防庁)

(出所)熱中症救急搬送状況(総務省消防庁)

もちろん、多くの人は熱中症がキケンな疾患であり、予防が大事であることを知っている。だが、それでもかかってしまうのは、熱中症に関して誤解している点や、正しく理解していない点があるからだ。

「その1つは、水分の摂取不足です」と伊藤医師。さらにこう話す。

「熱中症対策には十分な水分を摂ることが大事なのですが、実はその量が足りておらず、脱水状態に陥っているケースが多い。実は”自分が思っている以上に水分を摂る必要がある”のです」

トイレに何回行ったかが目安に

摂取量の目安は、その日のコンディションや気温などにもよるので一概に言えないと伊藤医師。「何リットル飲むか」よりもむしろ、「トイレに行ったか」を基準に考えたほうが良いと話す。

ヒトの場合、ふつうは体重1キロあたり最低でも0.5ccの尿が1時間ほどで溜まる。体重が60キロの人だと、1時間で30ccほど溜まる計算だ。膀胱に尿が200ccほど溜まると尿意を感じるため、計算上は6時間に1回トイレに行きたくなる。

「つまり、午前中に1回もトイレに行かないというのはおかしく、明らかに水分が足りていないサインになります。トイレに行ったとしても、少しの量しか出ないとか、尿の色が通常は薄い黄色ですが、濃い黄色や茶色になっているとかであれば、脱水を起こしている可能性があります」(伊藤医師)

なお、水分の摂り方のポイントは、一度にたくさん摂らないこと。こまめに少しずつ口に含むのがよいという。

そしてもう1つは、”ナトリウム不足”だ。

実は、脱水を起こしたときに失われるのは水分だけではなく、塩分も多量に出ていってしまう。それが熱中症の発症に大きくかかわっている。筋肉痛やこむら返りはまさに、ナトリウム不足によって起こる症状だ。

だが、ここにもちょっとした落とし穴がある。

実は喉が渇いたとき、あるいは脱水予防としてスポーツドリンクと呼ばれるタイプの飲みものを飲む人が少なくないが、これらには、肝心のナトリウムがそれほど含まれていない。熱中症対策で勧められている経口補水液と比べると、3分の1程度だ 。

「ですので、適度にスポーツドリンクを飲むのは問題ありませんが、そればかり飲んでいるとナトリウムが足りなくなって、『低ナトリウム血症』を起こしてしまう恐れがあります。もちろんミネラルウォーターや麦茶も同様です。 熱中症予防のための水分補給であれば、昆布茶のような塩味がある飲みものを摂ったほうがいいでしょう」(伊藤医師)

昆布茶の代わりに、塩あめや梅干しといった塩辛い食べものを摂っても、もちろんOKだ。

日本人は食事で塩分をかなり摂っていることが指摘されている。だが、汗をかく夏は食事だけではナトリウムが不足しがちなので、意識して塩分を摂っていきたい。必要な塩分量に関しては水分と一緒で特に目安はなく、「自分が欲する量」を摂るとよいそうだ。

朝は水分と朝食をしっかり摂る

そのうえで、伊藤医師が勧めるのが「朝起きたときのコップ1杯の水+朝食」。

ヒトは寝ている間に500ミリリットルほどの水分が汗で失われる 。起きたときには脱水状態に陥っているため、適度な水分とナトリウムの補給が必要になる。

「ですから、起きたらまずは水分補給を。そして朝食で塩分を摂ります。朝食を摂ることで1日のコンディションもよくなるので、ダブルで熱中症予防ができるわけです。反対に、朝起きて、水も飲まず、朝食も食べず、暑い中に出て会社に向かう。実はこれがかなり危ないと思ってください」(伊藤医師)

なお、水分補給に関しては心臓病などの持病によっては、水分を控えなければならないケースもある。かかりつけ医に確認してから飲むようにしよう。

では、過ごし方に関してはどうか。

この時期はやはりエアコンが適度に効いた涼しい室内にいるのが、最大の熱中症予防になる。環境省は温暖化対策の一貫として「室温は28℃に設定」を推奨しているが、伊藤医師によると、「28℃ぐらいでも湿度が80%ぐらいあれば熱中症になる」とのこと。

「それは、湿度が高いと汗をかきにくくなり、水分が蒸発しにくくなるからです。汗は体の熱を気化熱にして、体温を下げてくれる働きがあるので、汗をかきにくい環境は、それだけ熱中症のリスクを高めます」

ということで、室温は25~26℃ぐらいまで下げるのが理想的だが、なかにはクーラーの効きすぎで具合が悪くなる人もいる。その場合はエアコンの除湿機能を使うとよいそうだ。湿度が低くなると汗をかけるようになるため、熱中症のリスクは下がる。

さらに、無理をしないというのも大事なポイント。コンディションが悪いと熱中症にかかりやすい。疲れたら休憩をとって、体調を整えること。睡眠不足にも気をつけよう。

それでも、油断ならないのが熱中症だ。熱中症かも……と思ったらどうしたらよいのか。

「まず、屋外なら風通しの良い涼しい場所、屋内であればエアコンが効いた部屋で安静にします。体を冷やすことは大事なのですが、保冷剤などで皮膚の温度を下げると汗をかきにくくなり、かえって体内の温度が下がりにくくなるので注意しましょう」と伊藤医師。

もし保冷剤などを使うのであれば、首やわきの下、太ももの付け根など太い血管が走っているところに当てるとよいそうだ。水風呂も皮膚の温度を下げるだけで、体の熱を逃がしてくれないため、避けたほうがいいとのこと。

もちろん、水分と塩分補給も忘れずにしたい。

ちなみに、プールでも熱中症は起こることも覚えておきたい。その場合の対策は涼しい場所への移動と水分補給に加えて、やったほうがいいことがあるそうだ。

「それは、体を拭くことです。全身が濡れていると汗をかきにくいので、汗をかけるよう乾いたタオルなどで水滴をしっかりとってあげてください」(伊藤医師)という。

夏風邪と熱中症の違いはどこにあるか

さらに、今はやっている夏風邪との見分け方ついても伊藤医師に聞いた。
「鼻水、喉の痛み、咳などの症状があれば、風邪の可能性が高いです。一方、めまい、集中力の低下、生あくびは熱中症を疑ったほうがいいかもしれません」

頭痛は風邪でも熱中症でも起こりやすい症状だ。

「その場合は、まずは市販の風邪薬、あるいは痛み止めを飲んでみてもいいでしょう。風邪であれば症状が改善しますが、熱中症であれば症状はよくならないことが多いです。いずれの場合も、快適な室温で安静にして、しっかり水分補給をすることが大切です」

熱中症は暑さがピークになるこれからが最もキケンな時期だ。実際、病院への搬送数も一気に増える。そして、暑さが残る9月ぐらいまではしっかり対策をとったほうがいい。

特に高齢者は冷房と水分に注意を

エアコンを使いっぱなしになるため電気代も気になるが、命や健康のほうが大事だと、そこは割り切る必要がありそうだ。

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「特に高齢者は注意が必要です。加齢によって暑さを感じにくく、かつ脱水を起こしやすいという特徴があるうえ、クーラーが嫌いな方も多い。そういう方が熱中症で搬送されてきます。ご家族のなかに高齢者がいる場合は、『冷房を入れてね』『水分摂ってね』と、声掛けをぜひお願いします」(伊藤医師)

(取材・文/山内リカ)

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新百合ヶ丘総合病院 救急センター センター長
伊藤 敏孝医師

2004年、防衛医科大学校医学研究科卒業。同年航空自衛隊第3術科学校業務部衛生課長。2007年に横浜市みなと赤十字病院救急部部長。2016年に新百合ヶ丘総合病院救急センター長に就任。2022年杏林大学医学部臨床教育教員臨床教育准教授。

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提供元:【熱中症】救急搬送急増「水分補給の誤解」を解説|東洋経済オンライン

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