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2023.07.13

定年後「幸せを感じる人」が60過ぎてやらないこと|和田秀樹さんが自身の60歳からの人生を考える


長きにわたり高齢者医療に携わってきた医師が描く、「60代以降の地図」をお届けします(写真:Fast&Slow/PIXTA)

長きにわたり高齢者医療に携わってきた医師が描く、「60代以降の地図」をお届けします(写真:Fast&Slow/PIXTA)

人生100年時代が叫ばれ、平均寿命も上がっています。ですが、老後資金の枯渇問題、健康や認知症といった老いへの恐怖などなど、不安を抱えている方は多いと思います。そんな暗雲垂れ込める人生100年時代をどう過ごしたらいいのでしょうか?

30年以上の長きにわたり、高齢者医療に携わってきた医師の和田秀樹さんが、初めて自身の人生を振り返り、そして、これからの人生を語った著書『わたしの100歳地図』。本稿では同書より一部抜粋し再構成のうえ、和田さん自身が描く「60代以降の地図」についてお届けします。

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60代の実感などない

わたしは現在63歳となりました。世間ではいわゆる還暦を過ぎれば赤いちゃんちゃんこよろしく人生の節目をやたら強調しますが、わたし自身、60歳を過ぎたからといって、何か特別な心づもりが生まれたわけではありませんし、いまも60代を意識して日々を過ごしているわけではありません。

実際のところ、60歳を迎えられた多くの方の実感としても、60歳はまだまだ現役で、会社によっては定年後の継続雇用制度を導入しているところも多く、60歳を過ぎても退職せず、65歳、70歳とまだまだ現役で働いている人も多いことでしょう。こういったことからも、ますます人生100年時代を意識しないわけにいきません。

さて、ここからは、わたしにとって未知の世界「60歳からの地図」の話になります。そこで、最近わたしの身の回りで起きたこと、変わり始めたこと、そしてこれまで医師として多くの高齢者に接してきた経験から、60代という10年がどのようなものなのか、話したいと思います。

40代、はたまた50代あたりのころに出席した大学医学部の同窓会では、もっぱら話題の中心は誰がどこの教授になったとかならないとか、いわゆる出世競争の話ばかりでした。わたしはというと、そのような競争社会からさっさと身を引いていたので、多くの出席者の目には負け組の中の負け組として映っていたのではないでしょうか。

ところが最近、60歳を過ぎてから出席した同窓会では、東大の医学部を卒業し、競争社会のなかにあって勝ち組と呼ばれていた人たちが、定年退職後の就職先に焦っているという状況になっていました。

37歳で病院の常勤の医師を辞めたわたしは、その後、医師をはじめとして執筆活動などさまざまな仕事をフリーランスという立場で続けています。このようなことをやっていると、言わずもがなではありますが、フリーランスに定年という節目はなく、5年後10年後も同じような暮らしをしているのだろうなと容易に想像がつきます。

定年がないがゆえに、出たとこ勝負なりにある程度の予測ができるわたしに対して、定年までの地図は誰もがうらやむような足跡を残してきた彼らが、目の前の地図も見えずに困っているというのは、どうにも皮肉な話です。

地位や名誉より、やりがい

東大の医学部を出てもエリートコースに進むことができず、事情があって開業するなど自力で生きてきた人たちは、いまは人もうらやむくらいのはやり方で、リッチになっている人が多いのです。本来このような負け組だと思われていた人たちが、この年になって逆に勝ち組っぽくなっていますし、プータローみたいに思われていた人間がけっこうしぶとく生き延びているのです。

とくに、地位や肩書にしがみついてきた人ほど、幸せになっていないように感じています。それは、年を重ねれば重ねるほど、顕著になってくるようです。

大企業で高い役職に就いたり、大学で教授となったり、エリートコースに乗れたりした人ほど地位や肩書がなくなってしまう将来に不安を感じ、老年期をどのように過ごしたらいいものかと心配をするようになっているのです。

わたしは同じ場所にずっと通い続けることが苦痛で、定年退職のはるか前、37歳のときに常勤の医師を辞めたとお話ししましたが、いまは日本大学に週3回以上という条件で、常務理事の仕事で通っています。大学へ行くとエレベーターを降りれば3人の秘書が出迎えてくれ、役員車の送迎つき(この待遇は辞退しました)というような、いきなり重役待遇になってしまったわけです。

これは2022年より日本大学の新理事長となった作家の林真理子さんがわたしを推薦したからなので、わたしが何かすごい業績を上げたからそうなったわけではありません。

一般的には、この年になって役員待遇で迎えられたら優越感にひたれるのかもしれませんが、わたしはそうではありません。地位や名誉というよりは、林さんに声をかけてもらえたことのほうがうれしくて、また、大学の改革ができるという仕事に幸せややりがいを感じているのです。

仕事一筋で頑張ってきた人は、出世して地位や名誉を手に入れることに幸せを感じて、それがなくなってしまうことのほうが苦痛になるのかもしれません。

ですが、わたしが何度も繰り返しお伝えしているのは、年をとってからはそういったものをすべて手放して、「自分が幸せを感じるかどうか」だけを考えるべきだということです。どんなことに幸せを見つけ出すことができるのか……、そのいちばん簡単にできる方法としては、自分の好きなものを見つけ出すことです。

幸い、わたしは映画製作というお金はかかりますが大好きなものがあり、映画づくりのことを考えているだけで幸せな気分にひたることができます。現実としては、あと数年で前期高齢者医療制度の対象となる65歳、つまり、正真正銘の高齢者となりますが、将来に対する不安はほとんどありません。

少なくとも医師という仕事はからだがもつかぎりは続けていくつもりですし、ほかにも生き延びる術をいくつかもっているつもりですので、そう簡単に食いはぐれてしまうことはないだろうと思っています。

そもそもわたしが医師を目指したのは、大好きな映画を撮るための資金稼ぎが目的で、大学教授や大病院の院長になろうと思って医師の道を選んだわけではありません。

ですから、ある意味ではいまある自分というのは、映画づくりを志した18歳のときの計算どおりだったともいえるわけで、映画づくりに幸福感をもち続けていたからこそ、医師以外にも多くの仕事に関わることができたのではないでしょうか。

しかし、ある日、からだが動かなくなって医師が続けられなくなったり、突然落ち目になって本がまったく売れなくなったりする日がくるかもしれません。

そうなったとしても、ずいぶん前からコンスタントに本を出し続けてきたので、高齢者関係だけではなく、脳の話とか、哲学的な話とか……売れなくなったら別のジャンルやテーマを考えていこうかなど、いろいろ手はあるはずだと思っています。たとえ映画を撮るための資金が稼げなくとも、なんとか食べていけるだけのベースがあればいいのです。

さまざまなことを試して、運がよければ、100万冊売れるかもしれないし、まったく売れないかもしれない。出版社から「もう和田さんの時代は終わったから、本は出せないよ」と言われるようになるかもしれないですが、いつまでも試し続けることをやめずに、ネタを探し求めていこうと思っています。

自分が心地いいと思うことだけを追求する

わたしは、灘校に在学していたときも東大でも、どちらかといえば落ちこぼれで、周りからうらやましいと思われるような人生を歩んできたわけではありませんでした。

2022年に、わたしの本『80歳の壁』が幸運にも年間ベストセラーになるなど大ヒットはしましたが、けっしてお金持ちになったわけでもありませんし、周囲の人から羨望を集めるような人間ではないと思っています。

しかし、最近になって高校や大学の同級生や世間の皆さんからは「なんにも縛られずに自由に生きていてうらやましい」と言われるようになりました。それは肩書や社会的地位よりも、自分のやりたいことをやる、イヤなことはできるかぎりしないということを徹底してきたおかげです。

人間というのは、どうしても自分を人と比べてしまう生き物です。会社生活を送ってきた人にとっては、会社のなかだけではなく家庭や隣人、地域社会といったさまざまな周囲の目が気になると思います。とくに男性は、出世や社会的地位が人生のモチベーションだという人も多いでしょうし、モチベーションとまでいわなくとも気にする人は多いと感じています。

現役時代はお金をはじめとする財産の多寡や学歴、地位の高さなどを他人と比較して、その優劣で幸せを感じることが多かったのではないでしょうか。ところが、高齢になればなるほど、そういったものからの幸せは感じられなくなるものです。

定年になれば、肩書や地位は手放さざるをえません。体力面でも現役時代のようにはいきません。収入が減れば自由に使えるお金も少なくなります……。そのような現実を目のあたりにしてもなお、若いころの自分や他人と比較しても幸せを感じることができるはずはなく、逆に不幸な気持ちのまま老年期を過ごしていくこととなってしまいます。

一方で、教育費や家のローンから解放されて、自由に使えるお金が増えたり、あるいは自由な時間が増えたり、会社など周囲との人間関係から解放されたりで、楽になった、これからは自分の好きなように生きられると思える、つまり定年後が幸せだと思う人も、わたしの知る限り、少なからずいます。

もちろん、どのようなことで幸せを感じるかは人それぞれですが、わたしが確信しているのは、本人が「わたしは幸せだ」と思っていれば、それが本当の幸せであり、どこかの誰それと比較したり世間の目を意識したり、若いころはこうだったなどといったことはいっさい関係なく、いま、自分は幸せかどうかということだけです。

自分の選択に自信をもつ

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わたしのように好き勝手にできるのは、才能があるから、運がいいからと思う人もいるかもしれませんが、けっしてそうではありません。30代で勤務医を辞めずにそのまま病院に居続けていたら、不満やストレスを抱えて病気になっていたかもしれませんし、いまのような幸せを感じることもなかったと思います。

いまあらためて思うのは、あのころの自分の選択は、間違っていなかったということです。自分が心地よい、幸せだなと思うことを選び続けてきた結果、いまもこうして本を出版したり、映画を撮ったり、好きなワインを飲んだり、ラーメンを食べたりすることができているのです。

やはり「幸せになる」のには、自分が幸せなことを体験していないと、なかなか感じることはできないと思います。

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提供元:定年後「幸せを感じる人」が60過ぎてやらないこと|東洋経済オンライン

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