2023.06.17
医師が解説「がん予防に効くサプリ」の可能性|「科学的に効果が立証されたサプリ」の見分け方
「サプリの健康効果」について研究を行っている医師の浜谷陸太氏が、最新の科学的知見を紹介します(写真はイメージ。写真:Rosa/PIXTA)
ドラッグストアやコンビニなどでよく見かけるサプリ。「気休め程度だろう」「なんだか胡散臭い」と思っている人も多いのではないでしょうか。しかし、サプリの中には本当に効果があると実証されているものもあるといいます。ハーバード大学で主に「サプリの健康効果」について研究を行っている医師の浜谷陸太氏が、最新の科学的知見を紹介します。
サプリの効果を明らかにする方法
健康的な食事が様々な病気の予防に効果的であることは広く知られていますが、健康への影響を考える際、食事とは「多種多様な栄養素を摂取する行為」と捉えることができます。このうち、特に健康に効果がありそうな栄養素を抽出したものがサプリです。
サプリには効果があるものと、そうでないものがあります。それでは、「効果があるサプリ」は、どうやって見分ければよいのでしょうか。ここでは、「薬の承認」の効果検証のプロセスを応用してみたいと思います。
・そもそも薬は、ある病気に対して「メカニズム的に効果がある」ことが示された化合物(など)です
・しかし、試験管やマウスを用いて効果があっても、ヒトで効果があるかどうかはわかりません
・なので、薬が承認されるには、「ランダム化試験」という大規模な患者さんでの実験を行います
・くじ引きで薬を飲むか飲まないか決め、飲んだ群のほうが病気の治療率が高ければ、その薬の効果はヒトで示されたことになり、厚生労働省(など)が承認します
この効果検証の枠組みを、そのままサプリに当てはめることができるのです。サプリは錠剤なので、ほぼ薬のように扱えるからです(食事はそういうわけにはいきませんね)。
ですので、いかに大規模なランダム化試験で効果が立証されたサプリを選ぶか、というのがポイントになります。
がん予防に効くサプリ
がん予防について最も強い効果が示されたサプリは、なんと「マルチビタミン」です。マルチビタミンサプリは世界中で非常にポピュラーであり、アメリカではなんと3分の1以上の人がマルチビタミンを日常的に服用しています(※1)。
マルチビタミンはそれぞれのビタミンを「いい感じの割合」で混ぜており、単独ビタミン剤ほど副作用がありません(※2)。しかもがん予防に効果的となれば、多くの方にとってかなりよい選択肢かもしれません。
マルチビタミンのがん予防効果を大規模に検証した研究は3つほどあり、それらをまとめると、がん発症リスクを7%ほど低下させる、となっています(※2)。肺がんに限れば、25%程度のリスク低下が示されています。完璧な研究などないので種々の問題点はありますが、かなり期待できる結果ではないでしょうか。
一つのポイントは、がん予防効果がはっきりしてくるには歳月がかかるということ。おそらく5年以上は飲み続ける必要があります(※3、※4)。つまりマルチビタミンサプリの服用を習慣化する必要があるということです。
もう一つは、健康的な食習慣がちゃんとできている人は、おそらくマルチビタミンサプリによるメリットは低いだろうということ。この点、科学的にすごく検証されているわけではありませんが、そもそもビタミンは食事から摂れるものなので、当然健康的な食事をしていればOKなはずです(健康的な食事ができている人が少ないことが問題なわけですが)。
なお、日本人を対象としたものは今までなく、上記はアメリカ・カナダ・ヨーロッパ・ニュージーランドでの研究です。どれだけ日本人に当てはまるかは、正直わかりません。しかし、大規模ランダム化試験でマルチビタミンの予防効果を検証する試みはとてもお金がかかり、今後日本で行われるかわかりません(難しいと思っています)。
予防策は現存のデータから判断するしかなく、その点「食習慣があまりよくない中年以降の方」には、マルチビタミンはがん予防のために有効なオプションだと考えています。
なおマルチビタミンの組成については少し複雑な話となるので割愛させていただきます。
心臓病予防に効くサプリ
二大生活習慣病といったら、がんと心臓病。まずは心臓病(心筋梗塞)予防の効果が示されているサプリを紹介します。これは有名かもしれませんが、魚油(オメガ3脂肪酸)サプリです。ご家族が心筋梗塞の方、ご自身も特にリスクが高いことになるので、よい選択肢かもしれません。でも飛びつく前に、以下しっかり確認ください。
魚油は「よい油」です。一般に揚げ物に使うような「悪い油」とは逆に、脂肪代謝によい影響を与えます。多くの心筋梗塞は心臓の血管にたまった脂肪の塊が破裂することで生じます。これを防ぐ機能があります。
魚油サプリについてはたくさんランダム化試験が行われてきており、おそらく10%程度心筋梗塞を予防できることが示されています(※5)。「たかが10%……」と思う方もいるかもしれませんが、1000人発症するうちの100人を予防できる、と考えれば、それなりに大きな効果であることがわかるかと思います。
一方、健康診断でコレステロールが引っかかると、コレステロールを下げる薬が処方されます(スタチン、という種類の薬です)。その薬を飲んでいたら、魚油サプリは飲む必要ないのでしょうか。これは最近の研究で検討されたのですが(※6)、その研究には重大な問題があり(※7)、結論は出ていません。両方飲んだほうがよい、という傍証はあります(※8)。
しかし気をつけるポイントがあります。魚油サプリは心筋梗塞に限らずいろんな臓器に対してよい影響があるのですが、心房細動という不整脈のリスクを上げてしまいます(※9)。心房細動は心臓のリズムがバラバラになるタイプの不整脈で、これは脳梗塞のリスクになってしまいます。
直接魚油サプリが脳梗塞のリスクを上げることは示されていませんが、不整脈になるのは誰しも望まないので、リスクとベネフィットを天秤にかけ、服用を決める必要があります。
なお細かい話ですが、数ある魚油サプリの中でも「ドコサヘキサエン酸とエイコサペンタエン酸の合剤」を選択し、「魚油として1日1g以上」服用するのが効果的です。この辺り、不安な方はかかりつけの先生と相談してみてください。
今回紹介したサプリはがん、心臓病予防以外の効果も色々と明らかになってきています。例えばマルチビタミンはストレスや気分によい影響を与えることが示されてきています。この2つは、サプリの中ではかなり信頼性が高くおすすめできるものとなります。
かえって健康を害してしまう可能性
しかし、市販されているサプリの中には、効果がはっきりしないものや、かえって健康を害してしまうものもあります。ビタミンAサプリは死亡率を上げてしまうかもしれないし、ビタミンEサプリは脳卒中リスクを上げてしまうかもしれない(※10)。そもそもランダム化試験でしっかり検証されていないサプリも多く、これが怖いところです。
最初に書いた通り、「作用メカニズム」がもっともらしくても、ヒトで有効かはわかりません。なのでランダム化試験が行われるわけです。作用メカニズムやマウスでの結果だけで、サプリ服用を決めてはいけません。
どのサプリを服用すればよいか、個人ベースで判断するのは、実はかなり専門的な分野です。上述したような研究をしっかり理解しており、かつ予防医療を学問としてしっかり学ばなくては、なかなか判断できません。筆者はこれをより広められるよう、研究とは別に活動しています。現状では基本的に自分の判断で行うしかなく、上述した知見が皆様のお役にたてば幸いです。
【参考文献】
1. Gahche JJ, Bailey RL, Potischman N, Ershow AG, Herrick KA, Ahluwalia N, Dwyer JT. Federal Monitoring of Dietary Supplement Use in the Resident, Civilian, Noninstitutionalized US Population: National Health and Nutrition Examination Survey. J Nutr. 2018;148:1436S-1444S.
2. US Preventive Services Task Force, Mangione CM, Barry MJ, Nicholson WK, Cabana M, Chelmow D, Coker TR, Davis EM, Donahue KE, Doubeni CA, Jaén CR, Kubik M, Li L, Ogedegbe G, Pbert L, Ruiz JM, Stevermer J, Wong JB. Vitamin, Mineral, and Multivitamin Supplementation to Prevent Cardiovascular Disease and Cancer: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA. 2022;327:2326–2333.
3. Sesso HD, Rist PM, Aragaki AK, Rautiainen S, Johnson LG, Friedenberg G, Copeland T, Clar A, Mora S, Moorthy MV, Sarkissian A, Wactawski-Wende J, Tinker LF, Carrick WR, Anderson GL, Manson JE, COSMOS Research Group. Multivitamins in the prevention of cancer and cardiovascular disease: the COcoa Supplement and Multivitamin Outcomes Study (COSMOS) randomized clinical trial. Am J Clin Nutr. 2022;115:1501–1510.
4. Gaziano JM, Sesso HD, Christen WG, Bubes V, Smith JP, MacFadyen J, Schvartz M, Manson JE, Glynn RJ, Buring JE. Multivitamins in the prevention of cancer in men: the Physicians’ Health Study II randomized controlled trial. JAMA. 2012;308:1871–1880.
5. Abdelhamid AS, Brown TJ, Brainard JS, Biswas P, Thorpe GC, Moore HJ, Deane KH, Summerbell CD, Worthington HV, Song F, Hooper L. Omega‐3 fatty acids for the primary and secondary prevention of cardiovascular disease. Cochrane Database of Systematic Reviews [Internet]. 2020 [cited 2023 Mar 22]; Available from: https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD003177.pub5/full
6. Bhatt DL, Steg PG, Miller M, Brinton EA, Jacobson TA, Ketchum SB, Doyle RT Jr, Juliano RA, Jiao L, Granowitz C, Tardif J-C, Ballantyne CM. Cardiovascular Risk Reduction with Icosapent Ethyl for Hypertriglyceridemia. The New England Journal of Medicine. 2019;380:11–22.
7. Bostrom JA, Beckman JA, Berger JS. Summoning STRENGTH to Question the Placebo in REDUCE-IT. Circulation. 2021;144:407–409.
8. Fan H, Zhou J, Yuan Z. Meta-Analysis Comparing the Effect of Combined Omega-3 + Statin Therapy Versus Statin Therapy Alone on Coronary Artery Plaques. The American Journal of Cardiology. 2021;151:15–24.
9. Gencer B, Djousse L, Al-Ramady OT, Cook NR, Manson JE, Albert CM. Effect of Long-Term Marine ɷ-3 Fatty Acids Supplementation on the Risk of Atrial Fibrillation in Randomized Controlled Trials of Cardiovascular Outcomes: A Systematic Review and Meta-Analysis. Circulation. 2021;144:1981–1990.
10. US Preventive Services Task Force, Mangione CM, Barry MJ, Nicholson WK, Cabana M, Chelmow D, Coker TR, Davis EM, Donahue KE, Doubeni CA, Jaén CR, Kubik M, Li L, Ogedegbe G, Pbert L, Ruiz JM, Stevermer J, Wong JB. Vitamin, Mineral, and Multivitamin Supplementation to Prevent Cardiovascular Disease and Cancer: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA. 2022;327:2326–2333.
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提供元:医師が解説「がん予防に効くサプリ」の可能性|東洋経済オンライン