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2023.06.07

【食中毒】鶏料理で腹痛、ブームの調理法に注意|吐瀉物処理の盲点、「掃除の前に消毒」が超重要


主に鶏肉の料理で生じる食中毒、カンピロバクター感染症について解説します(写真:ペイレスイメージズ 2/PIXTA)

主に鶏肉の料理で生じる食中毒、カンピロバクター感染症について解説します(写真:ペイレスイメージズ 2/PIXTA)

ムシムシ、ジメジメ……。鬱陶しい梅雨の季節が始まった。この時期に増えるのが食中毒。なかでもとくに注意したいのが、生肉で起こるカンピロバクター感染症だ。
そこで今回は、日本カンピロバクターの特徴や原因食品、食中毒対策について、カンピロバクター研究会の役員で、徳島大学医学部・医科栄養学科・予防環境栄養学分野教授の高橋章さんに聞いた。

食中毒とは飲食物が原因で生じる健康被害のこと。細菌やウイルス、寄生虫などによるものから、自然毒(きのこ、ふぐなど)、化学物質によるものなど、さまざまなものがある(関連記事:【魚で体調異変】知られざるヒスタミン中毒の害)。

【魚で体調異変】知られざるヒスタミン中毒の害 ※外部サイトに遷移します

とくにこれからの時期に注意したいのが、細菌性の食中毒だ。

鶏や牛などの腸内に棲息する細菌

湿度や気温も高くなり、増殖する条件の揃っているこの時期に件数が増える傾向にある。細菌性の食中毒には、病原性大腸菌やサルモネラ菌、腸炎ビブリオなどがあるが、カンピロバクターもその1つだ。カンピロバクターによる食中毒をカンピロバクター感染症と呼ぶ。

カンピロバクター感染症は、鶏をはじめ、牛、豚などの腸内に棲息するカンピロバクター(微好気性細菌)に感染することで起こる。カンピロバクターと一口に言っても種類はいくつかあり、ジェジュニ、あるいはコリという種類がほとんどを占める。大腸菌O-157のベロ毒素のように血液中に入って全身をめぐるということはなく、多くの場合、ヒトの腸管に感染して腸炎を起こす。

内閣府・食品安全委員会のホームページ(https://www.fsc.go.jp/sozaishyuu/)より

内閣府・食品安全委員会のホームページ(https://www.fsc.go.jp/sozaishyuu/)より

厚生労働省の報告では、近年の患者数は年間2000人程度で推移していて、細菌性感染症の中で最も件数が多い。

感染力は原因菌のなかで比較的強く、数百匹という少ない菌でも感染するが、毒性はそれほど強くないので、感染しても気づかないまま治ってしまうことも少なくない。「このため、患者数は氷山の一角」(高橋さん)という。コロナ禍だったここ数年は患者数が減少傾向にあるが、高橋さんによると、「コロナ禍での生活形態との因果関係は明らかになっていない」そうだ。

食中毒統計資料「年次別食中毒発生状況」より編集部で作成

食中毒統計資料「年次別食中毒発生状況」より編集部で作成

「食材の加熱不足」が原因

カンピロバクターは、鶏、あるいは牛や豚、羊といった家禽、家畜の腸管内に棲んでいる。大腸菌など、ほかの食中毒の原因細菌と違って食材のなかで増殖することはない。そのため、「食材を放置して食中毒が発生する」というよりも、むしろ家庭や飲食店などで「食材の加熱不足」で起こることが多い。

「鶏や牛にとってカンピロバクターは常在菌なので、腸内に存在していても気づかない。そのまま流通してしまうのです」と高橋さんは説明する。

とくに鶏の保菌率が高く、厚生労働省の調査によると、スーパーや食肉店で販売されている鶏肉の2〜9割、ブロイラー(国産鶏肉)の2〜7割でカンピロバクターが見つかっている(検査方法などの違いなどで汚染率が異なる)。一方で、牛や豚は鶏に比べて比較的汚染率が低めのようだ。

当然ながら、食中毒を起こす原因は鶏料理が多い。今年発生したカンピロバクター感染症の事例を見ても、特定されていないものを除けばほぼ鶏料理だ。考えられる原因料理としては、鶏レバーやささみなどの刺身、鶏肉のたたき、鶏わさなどの半生食の料理、あるいは加熱不足のから揚げ、鶏のソテーなどが挙げられる。

食中毒統計資料「食中毒発生事例(速報)」より編集部で作成

食中毒統計資料「食中毒発生事例(速報)」より編集部で作成

もちろん、注意したいのは鶏そのものだけではない。「細菌が付着した包丁やまな板で切った野菜を生で食べるのも危険」(高橋さん)という。気になる卵については、高橋さんは、「サルモネラによる食中毒のリスクはありますが、カンピロバクターは大丈夫でしょう」と話す。

では、カンピロバクターによる食中毒はどんな症状が表れるのか。

潜伏期間は2日〜1週間程度で、主な症状は下痢や腹痛、嘔吐。発熱(38℃程度)や頭痛、倦怠感、右下のわきの痛み、虫垂炎と似た症状が出ることもあるそうだ。子どもの場合は下血を伴う下痢が見られる。

自宅での対処で気をつけること3つ

このような症状が出たときの自宅での対処についての注意点を、高橋さんはこう話す。

「1つめは、下痢では下痢止めを使用しないこと。下痢は摂取した有害なものを体外に排出する正常な防衛反応なので、止めてしまうと菌が腸に留まったままになる恐れが高いです。下痢止めではなく、プロバイオティクスのサプリや胃腸薬、整腸薬は服用してもかまいません」

カンピロバクター感染症には抗菌薬(抗生物質)が有効だが、別の病気で処方してもらって、まだ自宅に残っている抗菌薬を自己判断で服用するのも、NGだ。これが2つめ。

そして3つめは、脱水症状への注意だ。

下痢をすると、それだけで水分が体内から奪われる。そのぶんの水分補給は、できるだけ行ったほうがいい。普通の水でもいいが、ミネラルなどが入っているお茶やスポーツドリンク、経口補水液でもよいそうだ。

では、医療機関を受診すべき状態とはどのような場合だろう。

「しばらくしても症状が治らず、我慢できないときは受診を。吐き気や嘔吐が強い場合も受診したほうがいいでしょう。嘔吐などで水分が摂取できないと脱水症状になりやすい。その場合も医療機関では点滴などの処置ができます」(高橋さん)

カンピロバクター感染症は、持病がない健康な人なら発症してもそれほど重篤にはならない。2〜3日お腹が痛くて動けないということはあるものの、先に挙げた対処法を行ったり医師から処方された抗菌薬を服用したりすれば、軽快する。

注意したいのは、抵抗力の弱い小児(5歳未満の乳幼児)や高齢者(70〜80代以上)、そして持病で薬を服用している人だ。とくにがんや膠原病などで抗がん薬や免疫抑制薬を使っている人は、免疫が抑制されているため重症化しやすい。

また、1000〜2000例に1例程度とまれだが、ギランバレー症候群という免疫系の病気を合併することがある。

ギランバレー症候群は体の免疫反応が自身の神経を誤って攻撃してしまう病気で、筋肉に力が入らなくなり、手足の麻痺や顔面神経麻痺、まぶたの筋肉が垂れ下がる眼瞼下垂(がんけんかすい)、呼吸困難などが起こる。カンピロバクターに対する免疫反応が、誤って自身の神経を攻撃することで発症することがわかっている。

「カンピロバクター感染症を発症した後、1〜3週間後に手足に力が入らなくなるなどの症状が出てきたら、すぐに近くの病院を受診してください」と高橋さんは注意を促す。

嘔吐や下痢があったとき、感染者の汚物や吐瀉物の処理をする場合の注意点も聞いた。

「カンピロバクターは空気感染はしませんが、接触感染はします。必ず手袋をしてから処理をし、使い終わったら捨ててください。ほかの食中毒の可能性もあるので、マスクもしましょう」(高橋さん)

ポイントは、次亜塩素酸ナトリウム入りの台所用洗剤(キッチンハイターなど)を“最初に振り掛けてから片付ける”こと。多くの人は、吐瀉物の処理が終わってからこうしたものを使うと思いがちだが、細菌に汚染されているのは吐瀉物なので、先にかけておいてから処理をし、最後にもう一度、かけておくのが正しい。高橋さんによると、使う消毒薬は次亜塩素酸ナトリウムのほか、コロナ禍で使ったアルコールでも問題ないそうだ。

食中毒を起こさないためにも、自宅での対策も忘れずにしたい。「食中毒3原則」は、付けない・増やさない・やっつける、だ。

「スーパーで買ってきた鶏肉にはカンピロバクターがいるという前提で処理を」と高橋さん。鶏肉から出たドリップ(水分)はキッチンペーパーなどで拭き取って処分し、肉を切った包丁やまな板はすぐに台所用洗剤で洗って、アルコールなどで消毒をするとよい。

カンピロバクターは熱に弱く、75度で1分間加熱すれば死滅する。ここにも実は落とし穴がある。

「実は、高温でじっくり揚げる鶏の唐揚げより、むしろ気をつけたいのは鶏のソテーや炒めものです。肉の表面の色で判断せず、ちゃんと中にも火が通っているか確認してください。最後にフタをして蒸し焼きにすると中まで火が通りやすいです」(高橋さん)

流行りの低温調理は大丈夫?

近年、低めの温度で調理する「低温調理法」が流行っている。鶏ハム、サラダチキンなどが代表的なものだが、この調理法にも注意が必要だ。

「低温調理は一般的に50〜70℃程度で行います。風味を落とさず、食材の形を変えないという点では優れた方法ですが、殺菌効果としての弱さは否めません。当然ながら食中毒のリスクはあります。低温調理をするのなら加熱時間をしっかり守ってください」(高橋さん)

低温調理の加熱時間は温度によって違う。

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内閣府の食品安全委員会によると、たとえば、63℃で低温調理をしたい場合は、63℃に達した時点から温度を保ちつつ30分間加熱する。55℃では55℃に達した時点から97分間の加熱が必要だ。中心温度計などを刺して、内側の温度を確認する。

低温調理器メーカーの公式サイトにある『低温調理加熱時間基準表』などを参照しよう。料理サイトやSNSなどでは沸騰後の余熱調理を紹介しているものもあるが、それより低温でも加熱調理のほうが安全だ。

(取材・文/伊波達也)

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徳島大学医学部医科栄養学科・予防環境栄養学分野教授
高橋章さん

1989年、徳島大学医学部卒業。93年、同学博士課程修了。94年より、アメリカアラバマ大学、ピッツバーグ大学を経て、97年より、山口大学医学部医員、大阪大学医学部助手を歴任。2000年、徳島大学医学部特殊栄養学教室講師、03年。同栄養学科助教授を経て、2008年、現職である同大学院ヘルスバイオサイエンス研究部教授(予防環境栄養学分野)に就任。日本細菌学会評議員、日本食品微生物学会評議員、日本カンピロバクター研究会役員ほか。

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提供元:【食中毒】鶏料理で腹痛、ブームの調理法に注意|【食中毒】鶏料理で腹痛、ブームの調理法に注意|東洋経済オンライン

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