2023.04.28
健康茶にステロイド、「花粉症」民間療法の危うさ|監視には限界、有効性の評価・検証も進まず
ステロイドが混入していたことが判明した「ジャムー・ティー・ブラック」。花粉症の症状緩和効果をうたい、楽天市場などで人気商品となっていた(記者撮影)
「とても助かっています。花粉症の薬は強めじゃないと効かないのですが、それだとものすごく眠くなる」
楽天市場で販売されていた、とある健康茶に寄せられた5点満点のレビュー。投稿者は花粉症の症状が強く、効果のある薬では眠気などの副作用に悩んでいたため、薬の服用をやめてこのお茶を飲んでいるという。
ほかにも「花粉症治りました」「芸人の〇〇がテレビで紹介していたので買った」など、117件の口コミは総じて高評価だ。総合評価は5点満点中4.5点。1袋6100円と決して安くない価格設定にもかかわらず、人気商品のようだった。
健康茶の名称は「ジャムー・ティー・ブラック」。国民生活センターは4月12日、花粉症の症状緩和効果をうたったこの健康茶に、デキサメタゾンというステロイドの一種が含まれていると公表し、注意を呼びかけた。販売元の「株式会社香塾」(大阪市)は現在、販売を取りやめて返金対応などを行っている。
「効き目」明記の商品には要注意
「過去10年で最多」とも言われた今年の花粉飛散量。コロナ禍で外出を控えた過去3年とは異なり、出社日を増やす企業なども相次ぐ中、多くの花粉症患者にとってはつらい春だったはずだ。
調査会社のインテージによると、市販されている鼻炎治療薬の年間売り上げは毎年400~500億円程度。だが2023年は3月だけで約200億円が売れたという。
花粉症には重症度に応じた治療薬が存在し、つらい場合にはアレルギー検査をしたうえで適切な薬を処方することが望ましい。だが生死に直接かかわるような病気ではないため、症状が重篤でない限り、病院への相談は後回しになりがちだ。そのため市販薬を漫然と飲むケースや、健康食品やサプリといった手軽な民間療法を活用する人も多い。
例えば、楽天で「花粉症」と検索すると5万件以上の商品がヒットする。その中には市販薬だけでなく、健康茶や飴、サプリなどもたくさん存在する。著名人がSNS上などで「花粉症に効く」と紹介して拡散するケースもあり、今回のジャムー・ティーも、複数のインフルエンサーや芸能人の発信が人気に拍車をかけていたようだ。
こうした現状に対し、「民間療法の中には効果がわからないものもあり、高額な場合や、食品にもかかわらず効き目が明記されているものには注意をしたほうがよい」と警鐘を鳴らすのは、日本医科大学教授で、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会理事長なども務める大久保公裕医師だ。
特定の病気への効果や効能の記載は法律上、医療用医薬品にしか認められていない。厳正な試験に基づいたデータでの裏付けが必要となるためだ。
ところがジャムー・ティーの商品パッケージには、花粉症への効果があることがうたわれていたほか、「一日1~2回、食間にお飲みください」「効果が出たと感じたら、飲むのを止めます」などと、医薬品のように摂取量を制限する記載があった。
健康茶の販売業者が掲載した謝罪文。自社内でステロイドが混入した可能性については否定している。傍線は編集部(画像:香塾の公式HPより)
ただのお茶であれば、摂取量を管理する必要はないはず。商品の包装・販売を行っていた香塾はホームページ上で「弊社内において混入することは考えられない」と釈明し、ステロイドが混入した経緯については調査中としている。
国民生活センターが調査のために購入したジャムー・ティーには、小さじ2杯当たり「医薬品で1日に最低量とされる量の約35分の1」のステロイドが含まれていたという。とはいえ食品では一般的に、薬のように製造過程で厳格な管理体制が敷かれているわけではない。そのため他の個体での含有量が同一とは限らない可能性がある。
ステロイドは肥満、血糖値や血圧が高くなるといった副作用があるほか、急に服用をやめると離脱症状が出るため、医師の下での厳格な管理が必要だ。大久保医師は、飲用をやめて身体に異変がある場合、医療機関を受診することを勧めている。
民間療法の成分調査は「キリがない」
ステロイド混入の発覚のきっかけは、医師からの通報だった。
ジャムー・ティーを飲んでいた13歳の女性が別の疾患で通院していたところ、副腎皮質ホルモンなどの検査値が低かったことから、摂取を中断。その後数値が改善したため、医師が国民生活センターに通報した。食品に医薬品混入の可能性が疑われるような情報で同センターが注意喚起をしたのは、約10年ぶりだという。
そもそも、行政主導での民間療法の実態をめぐる調査は積極的に行われていない。数多くの商品が存在し、すべてを監視することは現実的に難しいからだ。
1つの商品から医薬品成分の混入を調査するにも、それなりの労力を要する。例えばステロイドだけでも数十種類が存在し、どの成分かを特定するまでには時間も費用もかかる。国民生活センターは今回、目星をつけた5種類のステロイドで検査をしており、ある職員は「判明したのはラッキーだった」と話す。
過去には、2010年に厚生労働省の研究班が花粉症の民間療法について調査している。研究メンバーだった、日本アレルギー学会専門医の岡本美孝・千葉労災病院院長は「(お茶のような)民間療法に効果がないということを証明するのは難しいため、効かないとは言えないが、基本的には薬での治療をおすすめしている」と話す。
当時、アレルギー性鼻炎患者の約2割の人が、甜茶やヨーグルトなどの民間療法を花粉症に効果があるとして取り入れていたという。岡本氏は、甜茶を飲んだ人とそうでない人を比較した調査にも関わったが、花粉症への効果がなかったと結論づけた。
ただ、民間療法が本当に「効く」かどうかを調べようとする研究者は現状少ない。「お金も時間もかかるうえ、調査する動機が強くない」(岡本氏)からだ。
普及へのハードルが高い根本治療薬
監視の目が行き届かずに関連調査も進まない以上、花粉症対策をうたった人気商品の中に、今回のジャムー・ティー以外にも危険な商品が紛れ込んでいる可能性は排除できない。それでも多くの消費者が民間療法にすがる背景には、現在の花粉症の治療薬に「100%治す」ものが存在しないことが関係していそうだ。
一般的に花粉症の薬として処方されるのは、抗ヒスタミン薬という対症療法薬。薬局で購入できる市販薬も、このタイプだ。花粉シーズンに飲めば症状が和らぐが、花粉症を根本的に治す効果はない。また、症状の重い人では効かないこともある。
一方、根本治療につながる可能性があるとして、最近出てきたのが「舌下免疫療法」だ。
舌下免疫療法は、スギのアレルギー源を体内に少しずつ取り込むことで抗体を作り、症状を和らげる仕組み。うまくいけば、根本治療も期待できる薬だ。
ただ1日1錠を3年ほど飲み続ける必要があるうえ、花粉シーズンに服用を開始することができない。処方できる医療機関も限られるため、一般的な認知は広まっていない。政府が4月14日に開いた花粉症に関する関係閣僚会議の初会合では、舌下免疫療法などの普及に向けた環境整備が、今後の対策の3本柱の1つに挙げられた。
現在は簡単に服用できる免疫療法が研究されているが、実用化はまだまだ先だ。最近登場した、より重症患者向けの「抗体療法」は、人によっては月の負担額が数万円ほどにもなる高額な薬で、これもまた普及に課題が残る。
厚労省によれば、花粉症の有病率はこの10年で10%以上増加しているという。“国民病”にかこつけた悪徳な商品が出回ることを防ぐためにも、治療法の研究支援と監視強化という両面での対策が必要ではないだろうか。
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提供元:健康茶にステロイド、「花粉症」民間療法の危うさ|東洋経済オンライン