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2023.03.15

「心の病気に免疫がない」からこそ知ってほしい事|コロナ、SNS…日常の不安から心の健康を守る


ストレス、不安に圧し潰されないように(写真:zon/PIXTA)

ストレス、不安に圧し潰されないように(写真:zon/PIXTA)

37カ国刊行のベストセラー『一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全』著者、ジュリー・スミス博士はイギリス、ハンプシャー州でセラピーを営む心理学者、臨床心理士。

2019年11月、メンタルヘルスのさまざまな問題について、わかりやすいアドバイスを求める人々へ向け動画投稿を始めたところ、大きな反響を呼び、BBCほか多くのメディアにも取り上げられる注目の存在となりました。現在のSNS総フォロワー数は300万、寄せられた「いいね」の数は2000万を超え、TikTok「トップクリエイター100人」にも選出されています。

ソーシャルメディアやコロナ禍がメンタルヘルスに及ぼす影響、心の健康のために本当に役立つツールとは――。『ガーディアン』紙で掲載されたジュリー・スミスさんのインタビューを和訳してお届けします。(日本語訳:野中香方子)

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エビデンスに基づいたメンタルヘルスの本

――自己啓発本が多く出版されているなかで、あなたの本はなぜベストセラーになったのでしょうか?

エビデンスに基づいていることが評価されたのでしょう。わたしは臨床心理学者なので、この本に書いたことは最新の研究によって精査されています。その内容はセラピーでクライアントが教わることであり、誰もが使える、より良く生きるために必要なスキルでもあります。

誰でも、気分が落ち込む日や、ストレスや悲嘆、不安を強く感じる日があります。それは人間として当然のことなのですが、正しいスキルを知らないと、対処できなかったり、圧倒されてしまったりします。また、パンデミックを経験している今、多くの人は、「どうすればこの状況を切り抜けられるのか?」と考えていることでしょう。

――なぜソーシャルメディアを利用しようと思ったのですか?

セラピーをしていて感じたのは、クライアントの大半は、セラピーの一部が教育であることに気づいていないということです。クライアントはセラピーで多くのことを語り、自らの問題に取り組みますが、同時にクライアントは心の仕組みについても少しずつ学び、どうすれば気分や感情をうまくコントロールできるか、どうすれば日々のメンタルヘルスを良好に保てるかを学ぶことにもなります。

そうしたセラピーの教育的側面はきわめて有益で、クライアントはメンタルヘルスをコントロールする能力がアップしたことを実感します。ですから、わたしはセラピーを終えて帰宅すると、いつも夫にこう言っていました。「こうした知識を誰もがもっと気軽に利用できるといいのに。基本的なことを知るためにわざわざわたしのところに来る必要はないわ」。すると夫はこう返しました。「だったら、そうしよう。YouTubeか何かにアップすればいいんだ」。

ジュリー・スミスさん(写真:河出書房新社)

ジュリー・スミスさん(写真:河出書房新社)

――セラピーのツールを与えるというのは、「認知行動療法」(認知に働きかけて気持ちを楽にする心理療法の一種)ではないですか?

その2つはよく混同されます。わたしは日常的なツールだけを紹介することにしました。その区別にはとても気を遣いました。この本に書いたことは、セラピーの教育的な要素であって、セラピーそのものではありません。つまり、今日、明日から自分で使えるツールであって、この本はセラピストではないのです。

ソーシャルメディアとのかかわり方は自分で決める

――ソーシャルメディアは若者のメンタルヘルスに有害だとよく言われます。特に、自尊心を損ない、不安を強めると言われますが、どうお考えですか?

わたしの動画のいくつかは、「ソーシャルメディアで見るものが現実とは限らないこと」を思い出させることを目的としています。特定のコンテンツを見るときに自分がどのように感じるかを意識し、自分の生活から乖離するためではなく、生活を充実させるために、ソーシャルメディアを利用すべきです。

――ゴースティング(一方的にコミュニケーションを断つこと)、トローリング(荒らし)、ブロッキング(ブロックすること)といったソーシャルメディア上の行動は人をひどく傷つけることがあります。そう感じている人々に、どのようなアドバイスをしますか?

自分に「選ぶ力」があることを理解しておくことが大切です。オンラインでどのくらいの時間を過ごすか、誰をフォローし誰をフォローしないか、どんなコンテンツに関わるかは、すべて自分で決めることができます。ただぼんやりとスクロールしていると、自分には選択権がないように思えてくるでしょう。

わたしの動画は、人々の注意を喚起し、そうした意識を高めることを意図しています。何らかのコンテンツが自分にマイナスの影響を及ぼすと思ったら、それを見ないという決断をしなければなりません。

――Z世代やミレニアル世代は精神的に脆弱で、メンタルヘルスの問題を抱えやすい、とよく言われますが、それについてどうお考えですか?

わたしはそうは思いません。わたしに言わせれば、メンタルヘルスは身体の健康と同じです。心の問題に対して免疫を持っている人はいないのです。誰でも、睡眠、規則正しい生活、社会とのつながり、栄養、運動といった生活の基盤を阻害されたら、身体とメンタルの両方が脆弱になるでしょう。

今ではより多くの人がそのことに気づき始めたので、メンタルヘルスの問題に取り組みやすくなりました。これは、はるかに健康的な考え方だと思います。

――つまり人々はメンタルが脆弱になったのではなく、自らのメンタルの問題を語りやすくなっただけなのですね。

体のケガについて語ると体が弱くなるわけではないし、ギプスをはめると骨折がひどくなるわけでもありません。どちらの場合も良い方向に向かっているのですが、いくらか反動はあるでしょう。変化はそのようにして起きるのです。

「メタ認知」で自分自身の思考を知る

――著書では「メタ認知」にスポットライトをあてていますね。なぜそれが重要なのですか?

メタ認知とは、言ってみれば「思考についての思考」です。セラピーで用いる主要なツールの1つで、自分の思考プロセスと距離をおいて、それを観察するのです。そうすれば、自分の思考がどのようなものであるかがはっきり見えてきます。

セラピーは思考を変えることだと考えられがちですが、実際には頭に浮かぶ考えを自分で選ぶことはできません。それはただ浮かんでくるのです。選べるのは、それぞれの思考について考える時間の長さだけです。

――あなたはポジティブシンキングを重視していないようですが、ポジティブシンキングは悪いことですか?

ポジティブシンキングは素晴らしいことであって、悪いことではありません。けれどもネットには、ポジティブシンキングだけを賞賛して、ネガティブな考えを排除しようとする傾向が見られます。そのようなルールで自分を縛ると、ネガティブな思考が現れて、それをコントロールできないときに、自分は失敗しているとか、自分はポジティブさが足りないと感じてしまいます。自分は総じて十分でないと感じて、気分が落ち込むのです。

セラピーでは、頭に浮かんだ思考を受け入れ、それからどう対処するかを選択するよう促します。「その思考を長く抱えていると、なりたい自分になれるのでしょうか? それとも、何か別の影響がありますか?」と問いかけます。つまり、あらゆる思考をいったん受け入れてから、それをどう扱うかを決めるのです。

――著書には「やりたくないことにやる気を出す方法」という節がありますね。気分が乗らないときに自分をその気にさせるには、どうすればいいでしょうか?

日常生活にはやりたくないことが溢れています。弁証法的行動療法(DBT)と呼ばれるセラピーでは、「反対行動(オポジットアクション)」というスキルを学びます。それは感情が命じることと反対の行動をとるためのスキルです。マインドフルネスはその重要な要素で、自らの衝動に気づくことができます。それぞれの感情は、何かをしたい、あるいはしたくないという衝動をもたらします。人はしばしば感情に従って行動しますが、それは衝動に駆られてそうするのです。

衝動に注意を払うようにすると、「それに基づいて行動する必要はない」ことがわかってきます。衝動に反する行動をとれるようになるのです。これは些細なことから使えるツールですが、繰り返し使ううちに、より強力なツールになっていきます。

発売直後にベストセラーとなった英国版(英マイケル・ジョセフ、2022年刊)

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コロナ禍が人々へ与えた心理的影響

――パンデミックが終わったら、あなたのコンテンツはどのように変わると思いますか?

パンデミック後がどうなるかは、まだ想像できません。ロックダウンは人々に多大な心理的影響を及ぼしました。人々は今も強い喪失感を抱えています。家族や友人を失った人もいれば、生活、仕事、経済的な安定、家を失った人もいます。安心して外出できるという感覚も失われたままです。大きな変化が起きました。人々への影響は今後も続くでしょう。

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『一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全』(河出書房新社) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

――多くの人にとってセラピーの費用は手が届かないほど高額で、公費負担医療で受けられる治療も限られています。セラピーを希望する人が急増している状況で、この問題をどのようにお考えですか?

わたしの本がヒットした理由の1つは、そこにあります。わたしはすべての人に1対1のセラピーを提供することはできませんが、何かできることはあるはずだと考えました。できるだけ多くの人に基本的な知識を伝えたいと思ったのです。

有名になることやソーシャルメディアを利用すること自体に興味はありません。情報を共有することが目的でした。TikTokの配信は難しかったのですが、3人の子供と仕事を持ちながら続けてこられたのは、フィードバックがあったからです。圧倒されるほどでした。

毎日、多くの人からメッセージが届きます。「本当にありがとうございます。変わることができました」と。現実はすべてが理想的な世界ではないし、わたしはすべての問いに答えられるわけではありません。けれども、少しでも自分にできることをしたいのです。

(出典)The Guardian, 2022, 2, 12 "Dr. Julie Smith: 'Mental health is no different from physical health. No one is immune' " by Ian Tucker

Copyright Guardian News & Media Ltd 2023

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提供元:「心の病気に免疫がない」からこそ知ってほしい事|東洋経済オンライン

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