2023.03.14
老け顔になる?「歯ぎしり」注意したい7つの点|歯ぎしりには3つのタイプ、最新の治療法も伝授
歯ぎしりや食いしばりの意外な原因とは(写真: 9nong /PIXTA)
ある日本の研究では、すべての人が寝ているときに歯ぎしりや食いしばりをしている可能性を指摘しています。この研究では、「自覚がない」または横で寝ている「スリープパートナーから指摘されたことのない」人でも、研究対象者の全員が1晩で平均15分におよぶ歯ぎしりや食いしばりをする結果でした。歯ぎしりや食いしばりは歯をすり減らすだけでなく、頭痛や肩こり、顔つきにまで悪影響を与えます。今回は歯ぎしりや食いしばりの意外な原因から最新治療法について、歯学博士の宮本日出(みやもとひずる)さんに解説してもらいました。
そもそも、歯ぎしりや食いしばりってなに?
歯ぎしりや食いしばりは、無意識に唇を噛んだり指をしゃぶったりする口腔の癖の一種で、専門的には『ブラキシズム(bruxism)』と言います。ブラキシズムは以下の3タイプがあります。
(1) グランディング(grinding):歯ぎしり
上下の歯を擦り合わせ「ギシギシ」と音を発生させるタイプ
(2) クレンチング(clenching):歯の食いしばり
音は発生しないが上下の歯を噛み締めるタイプ
(3) タッピング(tapping):上下の歯を「カチンカチン」と空噛みするタイプ
誰でもブラキシズムは持っていますが、③タッピングをする人はわずか3%未満で、ほとんどは①グランディング(歯ぎしり)と②クレンチング(食いしばり)か、あるいは①と②の混合型です。
常習の人は毎晩、1時間以上続くので、横で寝ているスリープパートナーはうるさくて眠れず、トラブルの原因になることも少なくありません。また、ブラキシズムによる口腔内や体への悪影響が出る人も全体の8〜16%います。
通常、人は奥歯で噛み、その力は体重ほどと言われているので、男性では65kg、女性では50kg程度の力がかかります。奥歯は4本あるので、総力は男性260kg(65kg/本×4本)、女性200kg(50kg/本×4本)になります。
しかし歯ぎしり・食いしばりを続け噛む筋肉が鍛えられている人は噛む力が強くなって400kg以上になることも。つまり合計1トン以上(400kg/本×4本)の力が顎にかかっていることになります。
この破壊力はとても大きく、かつ体の中でもっとも硬く、水晶や石英の硬さに匹敵する歯さえも粉砕することがあります。最悪の場合、粉砕された歯を治療する手立てがないほどのダメージを受け、抜歯するしか方法がなくなることさえもあるのです。
実際に、患者さんを診ていて私が最も残念に思うことは、自分自身で歯ぎしり・食いしばりの自覚がなく、突然歯が粉砕してしまうパターンです。自覚がないので事前対応することができず、みすみす歯を失ってしまいます。
次の7つの項目には要注意
次の項目に思い当たる人は歯ぎしり・食いしばりが常習になっている可能性がありますから、歯科医院で相談してください。
(1)歯がすり減って歯の長さが短い
(2)気がつくと上下の歯を噛み合わせている
(3)下の歯の内側歯ぐきがコブのように盛り上がっている
(4)朝起きた時、顎や頬にハリやこわばりがある
(5)口角(唇の両脇)にシワができるようになった、あるいはシワが深くなった
(6)スリープパートナーから、1年に3回以上にわたる歯ぎしりの指摘を受けている
(7)去年の顔写真と比べ、下膨れの顔になっている
歯ぎしり・食いしばりはさまざまな悪影響を及ぼします。口の中では、前述したように歯を粉砕したり、歯をすり減らし、長さが短くなったりする原因になります。
歯が粉砕されないまでも、歯が欠けたりヒビが入ることも頻発。歯の長さが短くなると、顔の鼻から下の距離が短くなり、老けて見えます。また歯の根元への力がかかり続けることでその部分がくびれ、少し冷たい水を口に含んだだけで、過敏反応して歯がしみます(知覚過敏)。
最近の研究では、口以外でも歯ぎしり・食いしばりはさまざまな悪影響をもたらすことがわかり、頭痛(偏頭痛)、肩こり、顎関節症、顔の痛み、舌の痛み、睡眠障害などの原因の1つとされています。
また一昔前に「ぽっくり病」と呼ばれた突然死の原因である「睡眠時無呼吸症候群」(睡眠中に息をしなくなる状態)の人の70%以上が、歯ぎしり・食いしばりを行っていて、その関連性が深刻視されています。
そして、歯ぎしり・食いしばりは意外にも顔つきさえも変えてしまう怖さもあるのです。噛む動作をコントロールする大きな筋肉(咬筋)は、下顎の横の角から耳の前を通り頬骨にかけてあります。歯ぎしり・食いしばりは、この筋肉に過大な負担をかけ、いわば咬筋の筋トレをしているような状態です。
ガムを思いっきり強く噛んだ時より数倍から10数倍もの筋肉へ負担がかかります。これを長年にわたり繰り返すと咬筋が肥大して、下顎の角から頬にかけての下膨れの顔つきになります。この顔つきは丸顔とは異なりエラ張りのような顔つきなので、顔が大きく見えたり、老けたり、体が太った印象を与えます。
原因と対策は??
歯ぎしり・食いしばりの原因には2つあり、感情情緒的な原因(中枢性)と咬合(かみ合わせ)の原因(末梢性)に分けられます。
感情情緒的な原因とは精神的ストレスが溜まることで、脳のストレスを感じる部分(大脳皮質・扁桃体)が刺激され、歯ぎしり・食いしばりが起こること。動物実験でもあきらかになっています。日常生活のストレスに起因するので、ストレスが多く溜まるに従って歯ぎしり・食いしばりも強くなる時間が増えます。
一方で、むしろ溜まったストレスの解消方法が歯ぎしり・食いしばりとなって表れているとの研究もあります。
咬合が原因の場合は、咬合を改善することで歯ぎしり・食いしばりが改善することがわかっていますが、歯科医師が患者さんの噛み合わせの状態を診断・治療することは難しいのが実情です。咬合を調整するために安易に削って歯を小さくしたり、詰め物をして歯を大きくしたり、あるいは形を変えると、歯のダメージが大きく歯の寿命を縮める可能性があるからです。
また唯一の普遍的正解があるのではなく、顎の関節や歯、周囲筋肉の状態も影響するので、常に流動的。言い換えると、治療の早い段階で歯に直接手を加えるのは禁じ手とも言えます。
治療に頻繁に使われるのが歯のマウスピースです。これは歯の表面に柔らかいプラスティックを被せる方法なのですが、歯や顎へのダメージを軽くするのが狙いで、歯ぎしり・食いしばりそのものへの効果は期待できません。
口の中にマウスピースを装着するので、慣れるまで時間がかかる人も少なくありませんし、素材が柔らかい性質上、長期間の使用ですり減るので、定期的に新調する必要があります。
そこで最近、注目されている治療法が、噛み締める筋肉の力を弱める方法「ボツリヌストキシン注射治療」です。ボツリヌストキシンというタンパク質成分は筋肉の緊張を和らげる効果があるので、筋肉に注射することで筋肉の強さをコントロールして歯ぎしり・食いしばりの力を弱くします。歯や顎への負担が軽くなるだけでなく、筋肉の力も弱くなるので筋肉の肥大も徐々になくなり、顔つきも元に戻ります。
日本ではまだ聞きなれない治療法ですが、この薬剤は眼瞼痙攣(まぶたの痙攣)や斜頸(首の曲がり)にも使われ安全性は認められていますし、注射もとても細い針で刺すのでとくに苦痛はありません。
日本では歯科医師が頬に注射をする行為が一般的でないことや自費治療になることから、普及が遅れているのが現状です。
虫歯や歯周病の治療で気を付けること
虫歯で保険治療した歯は強度が弱くなっているので、歯ぎしり・食いしばりから受けるダメージへの抵抗力は低下します。保険治療の制度上、治療内容や使用材料が限定され、歯の強度を保つ治療が難しいのです。容易に歯にヒビが入ったり欠けたり、割れたりする危険リスクが高くなります。
自費治療であれば制限がなくなるので、良質な治療内容を適切な素材で行うことができますから、歯の強さは保たれます。虫歯治療をする際には、自分に歯ぎしり・食いしばりの癖があるかどうかを歯科医師に確認してから、治療内容を相談することをオススメします。
また、歯ぎしり・食いしばりは、歯周病を一気に進行させます。歯周病で弱くなった歯茎へ容赦なく負担がかかるので、歯を支える骨が耐えきれなくなり、歯が抜けてしまいます。歯ぎしり・食いしばりの治療と歯周病治療を、併用して行うと悪化は防げます。
「たかが歯ぎしり・食いしばり」ではなく「されど歯ぎしり・食いしばり」と思って注意しましょう。
出典:日本顎関節症(日本顎関節学会編)。Ⅳ顎関節症と精神・心身医学的問題、3顎関節症と口腔習癖、異常機能習癖(特にブラキシズム)、305-316, 2003。永末書店(京都)。
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提供元:老け顔になる?「歯ぎしり」注意したい7つの点|東洋経済オンライン