2023.03.13
「断り方」が上手い人と下手な人の決定的な差|断るときはいきなり「ノー」と言うのはNGだ
つい自分の思いを抑え込んでしまうことはありませんか。上手な断り方をするためにはどうすればいいのでしょう(写真:Fast&Slow/PIXTA)
人間関係をつくるなかで、言いたいことを我慢したり、自分の思いを抑え込んでしまったりする人は多いでしょう。そんな方におすすめなのが、「自分も相手も大切にする自己表現」である、「アサーション」です。アサーションとは、「自分の言いたいことを大切にして表現する」と同時に、「相手が伝えたいことも大切にして理解しようとする」コミュニケーションのことを言います。
本稿では、『言いにくいことが言えるようになる伝え方 自分も相手も大切にするアサーション』の著者であり、日本におけるアサーション・トレーニングの第一人者である平木典子氏が、自分の「思い」を伝える方法について解説します。
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断るときはいきなり「ノー」と言わない
やめてほしいことを伝えるのと同様に、できないことはできないと、誠意をもってきちんと伝えることも大切です。残業をする時間がないことを伝えるときの注意点があります。
即座に「できません」「無理です」と突っぱねないこと。
意見を伝えることが大切とは言っても、いきなり「ノー」と言われたら、相手は驚き、立場をないがしろにされたと感じるおそれがあります。また、一方的で、攻撃的にも聞こえます。
互いの立場を守り、大切にするには、いきなり「ノー」と言わず、自分と相手の緊急度を見極めてから、伝えます。「それはできそうもない」ということが明確な場合は、状況や事態を忌憚なく伝え、丁寧に断る試みをしましょう。
もし、その場で判断できない場合は、「考えてみます」と返事をする。そう言われれば、相手は断られたときの心の準備ができ、あとで「できない」と言われても、いきなり「ノー」と言われるよりはるかにショックは少ないでしょう。
「依頼」を「断る」ときは、葛藤が生じます。それを避けようとして「黙って引き受ける」あるいは「無理です」と突っぱねる。これは非主張的なやり取りと攻撃的なやり取りの典型と言ってもいいでしょう。
「楽しい」「うれしい」など、ポジティブな感情を言葉で表現するのは、比較的容易かもしれません。誰しも快いことを感じるのは嫌いではないからです。反対に「イライラする」「ムカつく」「腹立たしい」といったネガティブな感情は、体験したくないし、思い出したくもない。
特に激しい怒りを感じたときは、気持ちがガーッと暴走し、感情を丁寧に感じる余裕などないかもしれません。
そこで、少し立ち止まって、怒りについて整理してみましょう。あなたが怒りを感じたときを思い出して、その前に他の気持ちはなかったか、探ってみてください。
例えば、
・バスに乗り遅れそうで急いでほしいときに、パートナーがゆっくり身支度をしていると、「早くしてよ!」「何度言えばわかるのよ!」と怒る
・残業を頼んだ部下に、「無理です」と即答され、「上司の指示を断るなんて、なんと生意気な!」と怒りを感じる
など、怒っているとき、人はその直前に何か嫌なことや体験したくないことに出合っていて、怒る直前には、「困った」「参った」などの気持ちがあります。
・「急いでほしい」→「でもグズグズしている」→「バスに乗り遅れたら困る」→「困るようなことを私にしているあなたは許せない!」
・「残業してもらいたい」→「断られてしまって、困った……」→「言い方も気に食わない」→「上司にこんな思いをさせるなんて失礼だ!」
こうして怒りを爆発させているようです。
怒りの手前に「困っている」気持ちがある
イライラするときや、ムカつくときなども同様です。仕事が予定どおりに進まずイライラするのは、思いどおりにいかない状況に困っているから。人の言葉でムカッとするのは、聞きたくないことを言われて困っているとき。
このように、怒りの手前に「困っている」気持ちがあるとわかると、そちらを伝えることができます。そうすると、相手は逃げたり、攻撃を返したりせず、困ったあなたに対応してくれる可能性が高くなるのではないでしょうか。
アサーションの研修で、参加者に「怒る前、どんな気持ちがありましたか?」と聞くと、「困っていた」「悲しかった」「悔しかった」「恥ずかしかった」などいろいろな気持ちがあることを教えてくれます。
怒りの手前には別の感情があって、その感情を起こさせた相手が悪いと怒っている。そうだとすると、自分が起こした感情を相手の責任にして怒っていることになります。
ネガティブな感情を覚えたときは、その気持ちを振り返って、裏にあるもうひとつの感情に気づくと、気持ちが整理されます。ネガティブな感情(怒り)を感じる前には、「困った」「がっかり」などの感情があります。そして、そちらのほうが相手に伝えやすいでしょう。
一方、怒りには、その前に感じた感情への反応ではないものもあります。それは、嫌なことが続き、がまんし続けて「困った」感じがたまっているときや、「困った」どころではない危険や脅威に出合ったときです。こういうときの怒りは、まさに怒りそのものです。
自分の身が危ういほどの危機に出合うと、人は、怒って相手を攻撃して自分を守るか、それができそうにないときは逃げることを選びます。「戦うか、逃げるか」の態勢になるのです。
それは、これ以上自分に被害が及ぶのを防ごうとする無意識の自己防衛であり、ギリギリの表現と言うことができます。
怒りは、よくないもの、ネガティブなものではなく、むしろわが身を守るための大切な感情であり、それがあるから人類は生き延びてきたとも言えます。
しかし、がまんしてためすぎたり、自分の危機を伝えなかったりしていると、言いすぎる、怒鳴る、キレる、果ては暴力をふるうといった出し方になるおそれがあります。怒りは、諸刃の剣ともいえる感情なのです。
怒りの感情には、できるだけ早く気づきましょう。「怒っている自分=身の危険を感じている自分、がまんしそうな自分」をしっかり受けとめること。怒りそうになる手前で自分の感情をキャッチできれば、怒鳴ったり、キレたりせず、怒りの手前の「困った」感情を伝えたり、怒りをためずに表現したりすることが可能になるでしょう。
「怒っています」とおだやかに言う
では、怒鳴ったり、キレたりせずに怒りを表現するには、具体的にどうすればよいのでしょうか。
それは、「私は怒っています」「腹が立っています」と、静かに言えば伝わります。怒りの感情を伝えるというと、激しくものを言ったり、不機嫌な態度を示したりすることかと思いがちです。不遜な笑みを浮かべたり、嫌みを言ったりして、攻撃的に振る舞うというイメージもあるでしょう。
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しかし、怒りを表現するには、必ずしも攻撃的になる必要はありません。「嫌な感じ」「怒りそう」という気持ちを静かに、おだやかに言うだけで十分伝わります。
もし、「静かに伝えても、怒りを伝えるのは相手を大切にしていることにならないのではないか」と思う人がいたら、こう考えてみてはどうでしょうか。本音を隠して表面的に愛想よくするよりは、オープンに「こんなとき私は怒る人なのです」「それには耐えられない自分がいます」と伝えるほうが、互いを大切にする方向を目指せている、と。
ただ、怒りをできるだけ静かに伝えても、相手が気分を害したり、傷ついたりすることがあるかもしれません。人は、相手のことをすべてわかるほど万能ではありません。
・いくら気をつけても、傷つけてしまうことはある
・傷ついたと言われたときは、相手が危険を訴えていることを認める
・「そんなつもりはなかった」としても、そこは言い訳の場ではない
これを踏まえて、心から謝り、どう修復するかに心を砕くことが大切です。
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提供元:「断り方」が上手い人と下手な人の決定的な差|東洋経済オンライン