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2023.02.27

フグ獲れない大阪で「フグ料理」が名物になった訳|商人たちの創意工夫で「安くて・うまい」を提供


大阪名物でもあるふぐ料理(写真: Ayleeds / PIXTA)

大阪名物でもあるふぐ料理(写真: Ayleeds / PIXTA)

冬の大阪における名物料理といえば、てっちりにてっさといったフグ料理。懐に優しいリーズナブルな値段で提供しているのも、大阪のフグ料理店のうれしい特長です。

毒をもった危険な魚ということで、大阪では明治時代以降外食店におけるフグ料理提供が禁止されますが、人々は規制を無視してフグを食べ続けていました。

しかしながら、明治時代には現在ほどのフグ人気はなかったようです。明治20年頃の大阪には、ふぐ料理を出す店は1軒しかなかったそうです。

“その時分に大阪に只の一軒だけ河豚を食べさす店がおました(中略)そこで延童と言ふ役者が河豚に當つて死んだので有名だした”昔噺浪花之味 福禄壽老 『食道楽 1932(昭和7)年1月号』)

ところが、鉄道などの交通手段が発達し、人々がフグ料理の本場九州や中国地方、あるいはフグが解禁されていた神戸に旅行に行くようになると、次第にフグ人気が高まっていきます。

“それが、大正時代になりまして、あっちこっちを旅してくる人が増えてまいりますと、ふぐほどうまいもんを、なんで大阪だけは食うたらいかんと言うのや、こらちとおかしいやないか、ということになりまして”(吉田三七雄『食いだおれ』)

フグを人気者にした「てっちり」

1930(昭和5)年の湯朝竹山人 『食通耳学問』に“大阪では至るところで河豚が賞美されてをるやうです”とあるように、昭和初期の大阪にフグブームが巻き起こります。

フグを人気者にしたのは、従来の大阪にはなかった新しい料理法、フグをゆがいて橙の果汁と醤油(現在でいうところのポン酢しょうゆ)で食べるという、九州中国地方の伝統的料理法「ちり鍋」でした。

「当たると死ぬ」ことから、江戸時代からフグには「鉄砲」というあだ名がついていました。この鉄砲とちり鍋を合成した「てっちり」という名称が、ふぐのちり鍋の愛称として定着します。

“冬になると食味人を魅惑する鐵ちりが何處の料亭のメニューにも割込んで來る”

『食道楽 1934(昭和9)年11月号』の「京阪食味街」(阪木洋二)によると、この頃には大阪のどの料亭にもてっちりがメニューに載るようになります。

“近頃鐵ちりをやる店が増へた勢が競争に引づられてか値段も追々と廉く、一圓内外でちり鍋と射肉(いりにく)の併食が出來るのは有難い事だ”

単にブームにのるだけではなく、より安く提供しようとするのが大阪商人の心意気。昭和初期のてっちりブームの頃から、大阪では安くフグを食べることができたのです。

フグ料理を安く提供できた秘密

フグ料理は当時も高級料理であり、九州から瀬戸内海でとれるフグは高値で取引されていました。

そこで大阪商人が注目したのが、まだフグブームが起きていない中部地方でした。伊勢湾産のフグは、安値で放置されていたのです。

日本では明治時代末頃から、鉄道による冷蔵輸送が始まります。氷を満載した冷蔵車の導入により、遠方で漁獲された魚介類を鮮度を落とすことなく消費地に運ぶことができるようになったのです。

昭和初期には、宮城県で朝にとれた牡蠣が夜には東京のとんかつ屋でカキフライになったり、築地で仕入れた魚がその日のうちに軽井沢の寿司店で提供されるようになります。

鉄道による冷蔵輸送により、伊勢湾の安いフグを新鮮なまま大阪に輸送することで、“三割から五割も安い”(前出の「京阪食味街」)仕入れ値でフグを提供できるようになったのです。

戦後になっても、フグを安く提供しようとする大阪商人の努力は続きます。彼らが注目したのは、マグロの遠洋漁業でした。

日本の漁船はマグロを求めて、日本近海から遠洋へと進出していきます。1960~1970年代には、インド洋や南氷洋にも日本のマグロ漁船が漁に出かけていきます。

その際に問題となったのが、冷凍によるマグロの劣化でした。当時の冷凍マグロは解凍すると色が黒ずんでしまい、刺身や寿司に使えなくなるという欠点がありました。生食用に使えない冷凍マグロは、缶詰などの加工食品向けに安く売られていたのです。

このため、遠洋漁業の冷凍マグロを変色させないためにはどうしたらいいのかという研究が進みました。その結果、マイナス35度以下の低温まで冷凍温度を下げると、解凍してもマグロが変色しないことがわかったのです(「食品工業と冷凍技術の利用」砂川満男 河村治祐『化学工学 31巻8号』)。

マグロの遠洋漁業のために、極めて低い温度の冷凍施設が漁港などに整備されていきました。この冷凍インフラを利用したのが、大阪のフグ問屋だったのです。

「タイムマシン」でフグを安く提供

外食店に冷房が普及していない昔は、春から夏にかけて気温が高くなると鍋物の売り上げが落ちました。てっちりが主力商品であったフグ料理も春夏には手仕舞いとなり、その結果シーズンオフのフグは安値で取引されていたのです。

“大阪のフグ問屋がシーズンオフの安価なのを、内臓を捨てて身だけを冷凍することをはじめた。(中略)むかし、養成ウナギで鰻丼を安価に売りひろめたのも大阪であり、フグの場合も大阪であった。大阪人の商才というものの端的なあらわれであろう”(大久保恒次『うまいもの歳時記』)

極低温の冷凍庫ならば、フグを劣化させることなく何カ月間も冷凍保存することができます。冷凍庫をタイムマシンとして利用することで、冷凍保存コストを差し引いても格安でフグが提供できるようになったのです。

鉄道による冷蔵輸送や極低温の冷凍インフラ。その時々の最新技術を応用した大阪商人の創意工夫によって、安くてうまいフグ料理が大阪名物となったのです。

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提供元:フグ獲れない大阪で「フグ料理」が名物になった訳|東洋経済オンライン

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