2023.02.22
【血便】真っ赤はキケン?大腸がんとの見分け方|ほかにも下血がサインの緊急性が高い病気3つ
便に血が混じっている!? どんな病気が考えられるでしょうか。対処法とともに紹介します(写真:GARAGE38/PIXTA)
便意をもよおしてトイレに行ったら便ではなく、血が出てきた、あるいは便に血が付着していた、などということはないだろうか。下血は少量であっても要注意。背景になんらかの病気が潜んでいる可能性が高い。
どのような病気が想定されるのか。危険な下血とその兆候、受診のタイミングなどいついて、松島クリニック診療部長の白倉立也さんに聞いた。
おしり(肛門)から出る、目に見える出血を「下血(血便)」という。硬い便を無理に出したときに肛門が切れて出血することもあるが、そうではないことのほうが多い。ちなみに口から血が出る場合は、食道や胃などの消化器であれば「吐血(とけつ)」、気管支や肺など呼吸器からであれば「喀血(かっけつ)」という。
「下血の原因となる病気はたくさんありすぎて、すべてを紹介できませんが、とにかく放置は危険です。大腸がんということもありますが、良性の病気でも、出血性ショックといって急激に血液量が減少することで血圧低下や呼吸困難、意識障害などを起こすこともあります」と白倉さんは警告する。
今回は、日常的によく見られる下血の原因疾患を紹介しよう。
緊急性の高い病気は3つ
白倉さんはただちに止血処置が必要なことが多い、緊急性の高い病気として、「大腸憩室(けいしつ)」と「痔」「虚血性大腸炎」を挙げる。
まずは「大腸憩室」。憩室とは食道から大腸までの消化管の壁の一部が外側に押し出されて、ポケット状に突出していることをいう。これが大腸にできたものが大腸憩室だ。
大腸の腸壁には細胞に栄養を送るための血管(動脈)が通っている。しかし、血管の周囲は筋肉がなく、壁が薄いため、内側からの圧力に弱い。このため、年をとってきて腸壁が弱くなったり、便秘によって腸の内側からの圧力(内圧)が高まった場合などにポケット状の憩室ができやすい。
憩室は5~10ミリのものがほとんどだが、大きいものでは2センチを超えることもあり、たいていは複数できている。かかりやすい年代は70~80代だが、40代でも見られる。かつては男性に多いといわれていたが、女性も徐々に増えている。大腸内視鏡をすると約10%に見つかるという報告もある。
「憩室の出血原因は2つ。1つは袋の内側に便が溜まってそこで細菌が繁殖し、炎症が起こる。それによりもろくなった血管からじわじわと出血するパターン。もう1つは便秘などで憩室に過度に内圧がかかった拍子に突然、憩室の血管が破れるパターンです。緊急性を要するのは後者です」
破れた血管の太さにもよるが、出血は多めで、色が鮮やかなのが特徴。便意でトイレに行ったら、いきなり血が出てきて驚く人が多い。一方、出血以外にほとんど症状がないのも、この病気の特徴だ。
「大量出血があると出血性ショック(体から大量の血液が失われることで血圧低下や呼吸困難、意識障害などが生じる状態)に陥ることもあります。このため、肛門から挿入した内視鏡で出血部位を探し、医療用クリップではさんで止血する処置をします」
痔から大腸がんが見つかる例も
次は日本人の3人に1人が罹患しているともいわれる「痔」だ。痔による下血は痔の中でも内痔核(いぼ痔)によるものがほとんどだ。しかし、なぜ痔による下血が緊急性を要するのか。
いぼ痔は血管(静脈)がこぶ状に膨らんだ静脈瘤(りゅう)だ。肛門には静脈のかたまりである静脈叢(そう)がある。排便時のいきみでこの静脈叢が圧迫されると血流が滞り、静脈瘤となる。排便時にこの静脈瘤が破れると、下血としてかなりの出血が起こるという。
さらに出血が繰り返されると体の血液が不足し、貧血が進んでいく。「下血を放置した結果、重症の貧血になって、ふらふらになって外来にかけこんでくる患者さんもいます」と白倉さん。痔とわかっていても、受診して止血をする必要があるのはこのためだ。
「下血がある状態で運転はやめましょう。意識が消失して大事故につながる危険があります」
また、「下血が止まったから、受診はキャンセル」と考えるのは危険だ。
「痔主だからといって、下血の原因がすべて痔からとは限りません。痔の出血だと思って放置していたら、大腸がんだった、という患者さんを少なからず経験しています」
次は「虚血性大腸炎」だ。腸壁の血流が一時的に滞ることで、周囲の組織が壊死(えし)を起こす病気で、“腸の心筋梗塞”といわれることもある。
「人間の体は血流が途絶えると、ものすごく強い痛みを発します。心筋梗塞や狭心症で冠動脈が詰まったときに、『焼け火箸が突き刺さるような痛みが起こる』と表現されますが、同じことが虚血性大腸炎でも起こっていると考えてください」
虚血性大腸炎では激しい腹痛に続き、虚血によって破壊された血管から、出血が起こる。
60歳以上に多く、動脈硬化や高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病や、動脈硬化を引き起こす病気を持つ人に起こりやすいが、極度の便秘や脱水も原因になり、若い人に発症することもある。実際、2001年にはマラソン選手(当時)の高橋尚子さんがこの病気を発症している。
「虚血性大腸炎では入院してもらい、絶食と安静を1~2週間続けることで回復します。出血が軽度の場合は自宅療養で、刺激物を控え、おかゆや素うどん、素そうめんなど、腸に負担をかけない食べ物を摂りながら、過ごしていただきます」
最後は多くの読者が気になっているであろう、「大腸がんと下血」の関係について。
白倉さんによれば、「命にかかわる病気として、もちろん、最重要なのがこの大腸がん。ただし、これまで紹介してきたような止血の必要な大量出血になることは少ない。それだけに、見逃されやすい下血と言えます」という。
大腸がんは女性のがん死の原因では第1位(2020年国立がん研究センターがん情報サービス統計)、男性では肺がん、胃がんに続き第3位だ。40代から徐々に増加し、高齢になるほど発症者が増える。
大腸がんによる下血は、便と一緒に出てくる赤黒い血が特徴だ。お腹の左側にある下行結腸や、その下につながるS状結腸、直腸にがんがあるときに見られる。
「出血は便が腸を通過する際、できている腫瘍を刺激することによって出るものです。腫瘍の血管は細く、もろいので、ちょっとした刺激で破れるのです」(白倉さん)
下血のほかにも腫瘍が大きくなってくると、便が通過しにくくなるため、「便が細くなる」症状が起きることもある。一方、大腸の中でも小腸に近い上行結腸、横行結腸では、まだ、内容物(便)が液状なので、こうした症状は起こりにくいという。
また、下血とは違うが、よくいわれる「黒色便(タール便)」があった場合、胃を中心とした「上部消化管からの出血」が疑われる。血の赤い成分に含まれるヘモグロビンには、ヘム鉄が含まれている。胃から出血した場合は、胃酸の影響を受けて鉄が酸化して酸化鉄となるため、血が黒っぽくなり、黒色便になる。
「大腸など消化管の下部にいくにつれ、胃酸の影響は減り、アルカリ性になる。このため、下血は腸の下方にいくほど、黒色ではなく、鮮やかな赤に近くなるのです」(白倉さん)
もう1つは時間だ。血液が体内にとどまっている時間が長ければ長いほど、血液は酸化しやすくなり、黒っぽくなるという。
ここで挙げた病気のほかにも、下血の原因には潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患の場合もある。
放置するとがんに進行する病気も
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潰瘍性大腸炎やクローン病の場合、べたべたとした粘液に血液が混ざったような粘血便が特徴だ。また、便の形状は下痢便で、腹痛を伴うことが多い。「潰瘍性大腸炎は治療をせずに放置すると大腸がんになるリスクが高くなるので、注意が必要です」。
なお、下血があったときに受診するのは、消化器内科が望ましい。また、下血の原因となる病気を診断するには、大腸内視鏡検査が必要になる。後編では大腸内視鏡検査の進歩や楽に受けるためのコツなどを紹介する。
(取材・文/狩生聖子)
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松島クリニック診療部長
白倉立也医師
1994年、東邦大学医学部卒。同大医学部附属大森病院第二外科、同大医療センター大森病院救急救命センター、埼玉県央病院内科などを経て2008年より松島クリニック内科、2012年より現職。大腸内視鏡および胃の内視鏡(上部消化管内視鏡)の診断・治療が専門。大腸内視鏡の検査数は2023年1月現在で約5万件。過敏性腸症候群や便秘症の治療も得意としている。日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本外科学会専門医など。
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提供元:【血便】真っ赤はキケン?大腸がんとの見分け方|東洋経済オンライン