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2023.02.21

「認知症」と「健忘症」のもの忘れ、決定的な違い|認知症予備軍「MCI」の可能性はありませんか


認知症になるかどうか最後の分かれ道「軽度認知障害(MCI)」についてご存じでしょうか(写真:78create/PIXTA)

認知症になるかどうか最後の分かれ道「軽度認知障害(MCI)」についてご存じでしょうか(写真:78create/PIXTA)

あなたは2025年、国内に1000万人以上もいると言われる、〝認知症予備軍〟の存在をご存じだろうか。正式には「軽度認知障害(MCI)」という名称で、認知機能の低下は見られるものの、日常生活にはまだ大きな支障がないことが特徴である。しかし同時に、この段階は「認知機能の回復が可能な最後の段階」でもあり、認知症になるかどうかの「最後の分かれ道」であるのだ。本稿では、『もしかして認知症?』より、「軽度認知障害(MCI)」の基礎知識について解説する。

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認知症になるかどうかの「最後の分かれ道」

昨今、日本における「認知症」への関心が急速に高まっています。厚生労働省によれば、2020年時点での高齢者(65歳以上)の認知症の人は約600万人と推計され、2025年には約700万人に達すると予想されています。これは高齢者の約5人に1人という割合です。このような時代に、認知症という病気を知らない人はいないでしょう。

では、「軽度認知障害」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? おそらく、多くの人は「聞いたことがない」と答えると思います。

軽度認知障害とは、認知症になる直前、認知機能が低下しつつあるけれども、日常生活には大きな支障がない「非認知症」の段階を示す言葉です。英語では、「Mild Cognitive Impairment」と表記されるため、この頭文字をとった「MCI」と呼ばれることが日本でも多くあります。

MCIの次の段階は、当然のことながら認知症で、認知症になってからは、「軽度認知症」「中等度認知症」「重度認知症」の3段階に分けられます。MCIから軽度認知症へと移行する割合は、1年でおよそ5〜15%程度と考えられています。その一方で、MCIから回復する割合は、幅はありますが、1年でおよそ16〜41%程度と考えられています。

ここで知っておいてほしいことは、「認知症からMCIに回復することはない」という事実です。

(画像:『もしかして認知症?』)

(画像:『もしかして認知症?』)

認知症は現代医学において、治療することはできません。ただ、その進行を食い止めるのが関の山です。薬は、治しているのではなく、進行を遅らせているだけなのです。しかし、それが前段階のMCIなら予防することが可能です。つまり、MCIとは、認知症になるかならないかを決める「最後の分かれ道」と言っても過言ではありません。

私は認知症専門医として、これまで30年以上にわたって、のべ13万人以上の認知症の方々を診てきました。もちろん、その前段階であるMCIと診断した方も数多く診てきました。中には、早めに自身の異変に気づいたことで、MCIであることを自覚し、適切な予防によって回復した方々も数多くいます。

その一方で、MCIと診断されたのちに、病院を訪れることなく、次にお会いしたときにはすでに認知症になってしまっている方もいました。これほど重要であるにもかかわらず、認知度がそれほど高くなく、見逃されやすい段階がMCIなのです。

認知症の人より少ないわけがない

MCIは認知症になる前の段階であるため、厚生労働省は病気として扱っていません。そして、MCIは病気ではないため、現在、MCIの人が日本にどれぐらいいるのか、どのくらいの人が医療機関に通院しているのか、残念ながら不明です。

認知症とMCIに関する数値としては、少し古くなりますが、2013年に厚生労働省が発表した推計があります。これによると、約10年前の2012年時点で認知症の人は約462万人、認知症予備軍であるMCIの人は約400万人いると推計されています。

この数値を見て、私が最初に思ったのは、「認知症の人が約462万人いるのなら、MCIの人がそれより少ないはずはない。約400万人という推計は少なすぎるのではないか」ということです。私のこれまでの経験から言えば、MCIの人は認知症の人の1.5〜2倍はおり、認知症の人よりもMCIの人のほうが少ないというのは、ちょっと考えられないことなのです。

例えば、生活習慣病などの他の病気で考えてみても、有病者よりも予備軍のほうが少ないなどということは、まずありません。有病者よりも予備軍のほうが多いのが一般的です。そうであるならば、認知症の人が約462万人いるとしたら、MCIの人はそれよりも多く、700万〜900万人ぐらいいると考えるのが妥当なのではないでしょうか。

さらに言うと、冒頭で述べた通り、高齢者の認知症の人は2020年に推計で約600万人、2025年には約700万人に増えると予想されています。ここから、MCIの人は認知症の人の1.5〜2倍いるという仮定で計算すると、2025年にMCIの人は1000万〜1400万人にもなる可能性があるのです。

MCIと認知症が異なる点は大きく2つ

MCIと認知症の違い(1) (現れる症状によって)日常生活に支障をきたすかどうか

MCIと認知症が異なる点は、大きく2つあります。

1 (現れる症状によって)日常生活に支障をきたすかどうか

2 自分がもの忘れなどのミスを繰り返すことを自覚できるかどうか

これは、日常生活を送るうえで、特に支障をきたしていなければMCIで、支障が出てくると認知症、ということです。たとえば、厚生労働省のウェブサイトでは、認知症を次のように定義しています。

認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。

では、日常生活全般に支障が出てくるほど認知機能が低下した状態とは、具体的にどんな状態を指すのでしょうか。その例として、「健忘症によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」の違いをお話ししたいと思います。

「もの忘れ」は、認知症の代表的な症状(中核症状)の1つですが、認知機能が低下していない若い人であっても、もの忘れをすることはあります。また、誰でも年齢を重ねるごとに忘れっぽくなります。こうした健康な人や加齢(老化)によるもの忘れを「健忘症」と呼びます。この健忘症によるもの忘れと、認知症によるもの忘れには大きな違いがあります。

「以前に、どこかで会ったことがある人なんだけど、名前がどうしても出てこない」

「家のカギをどこに置いたか忘れてしまった」

こうしたもの忘れは健忘症によるもの忘れですが、特徴としては、出来事の一部が思い出せないだけで、出来事の全体が思い出せないわけではありません。

これに対して、認知症によるもの忘れは、出来事の全体を忘れてしまいます。例えば、昨日の昼食に何を食べたかをすぐに思い出せないのは、健忘症によるもの忘れです。昼食を食べたことは覚えており、記憶をたどってよく考えたり、何かヒントがあれば、何を食べたか思い出すことができます。

一方、さっき朝食を食べたにもかかわらず、朝食を食べたこと自体を忘れてしまい、また食べようとするのは認知症によるもの忘れです。仕事をしている人であれば、重要な会議に出席しなければならないことを完全に忘れてしまうといったケースは、認知症によるもの忘れが強く疑われます。

こうした認知症によるもの忘れは、認知症の当事者本人が困るのはもちろん、周囲の人たちにも多大な迷惑をかけてしまいます。こうした「困った経験」を何度か経験した際には、MCIではなく、認知症を強く疑ったほうがよいと思われます。

スムーズにできていたことに時間がかかるようになったら

MCIと認知症の違い(2) 自分がもの忘れなどのミスを繰り返すことを自覚できるかどうか

これは、今までスムーズにできていたことに時間がかかったりしたときに、「何か違うぞ」と違和感を抱くことができればMCIで、それができなくなると認知症、ということです。例えば、約束した予定を忘れてしまったときでも、「あれ、誰かと約束をしていたような気がするぞ」と、約束をしたこと自体は覚えている場合などは、MCIに当てはまります。

一方、認知症の場合は「約束をしたこと自体がすっぽりと頭から抜けてしまう」ため、自分が何かを忘れたことさえも自覚することができません。例えば、医療機関で患者さんの問診をしていると、ご本人はあまり困っていないけれども、家族が困って、家族に連れられて来院されるケースがあります。こうしたケースでは、次のような会話が交わされます。

私 「お体の調子はいかがですか? 何か困ったことがありますか?」
本人 「おかげさまで、とっても元気です。何も困ることはありません」
私 「もの忘れはどうですか?」
本人 「もの忘れなんかしていませんよ」
家族 「いえいえ。最近、もの忘れがひどくて、さっき言ったことも忘れてしまうんです」

このように認知症が進んでしまうと、自分のもの忘れを自覚することもできなくなります。「もの忘れをしたことを忘れてしまう」ということが起きるのです。

ただし、MCIの段階であれば、自分のもの忘れを自覚することができます。「何か最近おかしい。ひょっとして認知症になりかかっているのではないか」。こうした不安に駆られて、1人で外来に来られる人もいますが、本当に認知症になってしまうと、その感覚すら失われてしまうのです。

名前をすぐに思い出せないのは、なぜ?

「以前に、どこかで会ったことがある人なんだけど、名前がどうしても出てこない」のは、認知症によるもの忘れではなく、健忘症によるもの忘れです。

以前に会ったことがある人だとわかるのは、脳の中の「顔を記憶している場所」に記憶があるから。それにもかかわらず名前が思い出せないのは、「名前を記憶している場所」が脳の別の場所にあるからです。もし、脳の同じ場所に顔と名前が記憶されていれば、両方を同時に思い出せるのですが、そうではないため、顔は覚えているけれども、名前が出てこないということが起きます。

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高齢者になればなるほど、名前をすぐに思い出せないのは、これまでに会った人の数が膨大になるためです。脳の中の名前を記憶している場所には、膨大な数の名前が記憶されています。このデータベースがきちんと整理されていれば、すっと思い出すことができるのですが、普通はそれほど整理されていないため、すぐに名前を思い出せないということが起きます。

脳のデータベースは、整理されていないだけで、記憶自体はしっかり残っています。ですから、何かのヒントで思い出せることもありますし、しばらく時間が経ってから、突然思い出すこともあります。こうしたことからも、記憶自体は脳のデータベースに残っていることがわかります。

これに対して、認知症の人は、やや乱暴な表現であることを承知のうえで言うなら、「脳のデータベースが壊れてしまっている」と言うことができるかもしれません。もちろん、認知症にも段階や種類がありますから、壊れ方の程度や脳の中のどのデータベースが壊れているかなど、壊れ方は人それぞれです。ただ、データベースが壊れてしまっていると、ヒントがあっても、時間が経っても思い出すことはできません。

MCIとはどういう状態かと言えば、脳の中のデータベースの一部が壊れかけている状態です。壊れかけているデータベースの記憶だけが思い出せず、それ以外のことであれば思い出すことができます。しかし、この思い出しにくい、思い出せない記憶が徐々に増えていくと、軽度認知症ということになります。

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提供元:「認知症」と「健忘症」のもの忘れ、決定的な違い|東洋経済オンライン

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