2023.02.08
人の顔色をうかがう「考え方の悪いクセ」の正体|脳は生来、自己を否定するよう設定されている
職場で感じるさまざまな「不安」の正体と、対処法をお伝えします(写真:Ushico/PIXTA)
「明日会社へ行くのが嫌だ」「このSNSは『いいね』がどれだけつくだろうか」「老後は安泰だろうか」……こうした小さな悩みや不安は誰しもが抱えるものです。コロナ禍や、ロシアのウクライナ侵攻などにより、不安や悩みは強まっていると内科医で心身医学専門医の岩田千佳さんは言います。
日常生活の中で生じる小さなマイナス感情が大きな不安につながり、それがストレスとなり、いつのまにか健康に支障をきたす可能性は大いにあります。目に見えない、正体がはっきりしないものに対して人は不安を感じるのです。
この漠然とした不安をあえて岩田さんは「不安ちゃん」と呼んでいます。キャラクター化すると、不安をユーモラスに感じ、さらに根本からの対処法を知れば、むしろゲーム感覚で人生を楽しめるようになります。
『不安ちゃんの正体』を上梓した岩田さんが本書抜粋しながら、不安の対処法を皆様にお伝えします。(3回にわたって紹介。今回は1回目)
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職場の会議で、自分の思ったことが言えない。そして、誰かの意見にみんなが賛成すると、自分もそれに同調する意見を言ってしまい、頭の中でモヤモヤする。
こうしたストレスを抱える方はたくさんいます。あなたには、会議の席で自分の意に反する意見を口にした経験はないでしょうか。
自分の意見より周囲の期待に応えたい
もともと日本人は、自分の意見を言うことが苦手です。それは、日本人がこれまでに培ってきた文化に関係があります。西洋の文化が「人は、1人ひとりが独立した存在である」と考えるのに対し、日本の文化は「人は、人との関わり合いの中で存在する」と考えます。つまり、関係性を重んじる文化をずっと育ててきたのです。
そのため日本人は、無意識のうちにその場の空気感に合わせた発言をするトレーニングを積み続け、その方法で物事が円滑に進んできたことから、「場の空気を読むことが正解」と脳にインプットされているわけです。だからこそ、「出る杭は打たれる。人より出る杭になりたくない」という気持ちが働いて、人に同調する態度を示したくなってしまいます。
そして、自分の気持ちを我慢しているため、知らず知らずのうちに我慢がどんどん蓄積していくのです。また、自分の意見を主張せず、他人の意見に合わせてしまう背景には、自分の能力に対する不信、不安があります。
「自分の考えが周囲に認められるはずがない」と、不安ちゃんがささやくのです。
「こんなことを言ったら、変な人だと思われる」「自分の一言で場がしらけてしまうだろう」「バカにされる、笑われる」
不安ちゃんには、自分が他人からどう見られるのかに過剰に意識が向いてしまう傾向があります。しかも、自分の評価のハードルをどんどん自分で上げ、「そのレベルに達していない」と自分で自分にダメ出しをしているのです。
もともと会議は、さまざまな意見を出し合って議論する場所です。あなたほど真剣に意見を吟味せず、気楽に発言している人もたくさんいるはずです。その人たちの意見は、あなたが自分の中に設けたハードルよりも、本当にまさっているものでしょうか。その思い込みに捉われた方は、次の会議では、少し引いた位置からほかの人の意見を聞いてみてはいかがでしょうか。
あなたが自分に抱いている不信や不安の状況に、ほかの人も陥っていることがあるかもしれません。また、誰かの発言に対するほかの人の反応が、冷ややかなことがあるかもしれません。自分の置かれた環境を冷静に観察することができれば、何か意見をする・しないのどちらを選んだとしても、不安ちゃんのささやき声は小さくなっていくでしょう。
人の顔色をいつもうかがってしまう
仕事の不安ちゃんの矛先は、自分の身のまわり、つまり社内に向けてだけとは限りません。仕事について不安を抱く方は、朝、家を出てから帰宅するまで、自分の全方位に不安の視線や思考を張り巡らせます。営業の仕事をしていれば、「取引先との交渉、うまくいくかな?」「先方の担当者にどう思われているのかな?」と、相手の顔を見ると同時に、反射的に自分の中の不安ちゃんが動き始めます。
実際に、取引先での交渉の段階に入ったとします。交渉の成功、失敗は売り上げに直接関わるので、自分の力にかかってくると思えば思うほど、「絶対に契約を取らなければならない。失敗できない」と、さらに強いプレッシャーを感じ、恐怖すら覚えてしまうのです。これでは、自分の力を十分に発揮しきれません。失敗するほど自信をなくし、不安ちゃんの「思うつぼ」となります。
同時に、社内の上司に対しても同様にプレッシャーを感じるかもしれません。「期待に応えなければいけない。絶対に契約を取らねばならない」「契約が取れなかったら、会社での私のポジションはどうなるだろう」と、不安がどんどん広がっていくのです。
ここで、お気づきの方もいると思いますが、不安ちゃんは、「~しなければならない」という言葉が大好きです。「~ねばならない」「~すべきだ」と、自分をどんどん追い詰めます。果ては、「これもできないの?」と、さらにダメ出しをします。
この状態から抜け出すには、まず「~しなければならない」を課しているのは自分自身だと自覚してください。そう考えてしまっているのは、あなたの「思い込み」なのです。
男女平等と言いつつ、まだまだ職場での男女間の格差はあるように思います。ただ、そのことに過敏になりすぎると、不安ちゃんの増殖を招くことがあります。
「うちの上司は、同期の男子には優しくて、私には冷たい」「上司に、これはどうなっているの? と私だけが怒られた」
私のクリニックの最初の面談でFさんという方が話してくれたことです。
「自分は正当に評価されず、冷遇されている」
しかし、実際に部長がどのように冷たかったのか、上司がどう怒ったのかを伺ってみると、どうやらそれは、Fさんの強い思い込みが、気持ちをそうさせていると感じました。
脳には、初めから自分を否定するように設定するクセがあります。脳はすでに前進モードですから、「今の自分のままでいい」とはしないのです。そのため自己否定をどう自覚するかによりますが、「相手から否定された」という気持ちになるかもしれません。
例えば、「これはどうなっているの?」と言う上司の言葉も、別にFさんを責めていたわけではありません。ただ状況を確認しただけなのですが、自己否定の強いFさんは、それを「怒られた」と捉えてしまいます。Fさんにとっては、上司にものを聞かれることが、怒られたという感覚を引き出すトリガーになっていたのです。
「仕事が遅いと思われた」「私は女だから昇進はできない」「あんなふうに怒るのは、私が嫌いだから」と不安が広がり、Fさんは、それが事実だと思い込んでいました。嫌われていると感じている上司と一緒に仕事をしていると、緊張から小さなミスも増えてしまうものです。結果、上司は「Fさんは、仕事ができない人だ」と、実際に思うようになってしまったのです。
こんなマイナスのスパイラルを生み出してしまうのは、大変惜しいことです。Fさんのように、誰かに怒られていると感じている方は、今、脳のクセが発動して「私は怒られた」と思い込んでしまっているかもしれません。そんなときは、「あぁ、また脳のクセが出たな」と、自分を客観的に眺めることで、妄想が暴走するスピードを落とすことができるでしょう。
出典:『不安ちゃんの正体』(イラスト:寺崎愛)
仕事が「自分のすべて」になる
この回の最後は、仕事がすべてというワーカーホリックについてです。
仕事の負担が大きくて辞めたい気持ちはあるけれど、「仕事を辞めたら、何をしていいのかわからない」「いまさら経験のない職場で働くと、また一から仕事を覚えなくてはいけない」と不安があって辞められない。あなたは、こんなふうに迷ったことはないでしょうか。
商社勤めのIさんは、自分のプライベートの時間を削って仕事にすべてを費やしてきました。おかげで同期入社の中では誰よりも早く課長職に就き、部下もできました。しかし、一方では仕事自体が自分自身のアイデンティティーになり、つねに仕事のことを考えています。昼夜を問わず働きすぎで、体調も思わしくありません。
こうした状況に陥りやすいのは、自分に自信の持てない方が多いと言えます。どこまでいっても自信が持てず、「ここまでやれば十分だ」という満足感を得られないため、とことん仕事に力を注いでしまうのです。自分の仕事はきちんとこなしたいという責任感が強い、まじめな方でもあります。ですから、仕事を辞めることは、すなわち自分の存在価値がなくなることでもあると考えてしまうのです。
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「私から仕事がなくなったら、私という人間がなくなってしまうのと同じ……」と、不安ちゃんは存在できなくなってしまうことの恐怖をあおってきます。自分の存在を意識すればするほど、存在価値がなくなることが怖くなっていくのです。
不安ちゃんから離れるには、存在の恐怖を自分が作り出していることを改めて考えてみましょう。自分に自信を持てないのは、なぜなのか。どこに不安のスイッチを入れるトリガーがあるのか。不安が生まれる仕組みを理解することが大切です。
あなたの大切な人生です。仕事もプライベートも楽しく過ごせるように変えていきましょう。
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提供元:人の顔色をうかがう「考え方の悪いクセ」の正体|東洋経済オンライン