2022.12.26
「食べ方」を意識しない人が失い続けてしまうこと|心の健康を取り戻す、メンタルヘルスとの深い関係
制限しようとしてかえってドカ食いを引き起こすこともあるのです(写真:EKAKI /PIXTA)
おいしいものを食べると幸福な気分になるのは誰もが実感するところ。ただ、食事と心との関係は、その瞬間だけの問題ではないという。最近の研究で、健康的な食事が脳にもたらす効果が明らかになりつつあるのだ。ストレスなどによる不調を脱し、幸福感を高めて心の健康を保つための食べ方とは? 最新の科学的知見から導き出される健康と幸福のための食事法をトピックスごとに分かりやすく解説する、リアノン・ランバート氏の著書『食事と栄養の科学大図鑑』から一部抜粋、再構成してお届けする。(構成:黒澤彩)
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幸せホルモンは腸からもたらされる
脳が腸に影響することは誰でも知っている。ストレスや興奮でお腹が痛くなることがよくあるからだ。しかし、食事も脳に影響している。腸内細菌が脳に影響を与えるメカニズムや、その結果として腸の健康が気分にもたらす変化についての研究は、最近始まったばかりだ。いくつかの研究では、うつ病患者の腸内細菌がそうでない人と異なることが発見されている。また、別の研究では、うつ病の被験者には2種類の腸内細菌が常に欠けているとわかった。
脳と腸は常に双方向でやりとりしていて、これを「腸脳相関」という。たとえば、気分を安定させる性質から、“幸せホルモン”とも呼ばれるセロトニン。このセロトニン供給の約95%は、腸内細菌の働きによって腸管からもたらされている。
腸脳相関と腸内細菌の相互作用は、栄養素の消化だけではなく、免疫反応でも多くの重要な機能を担っており、メンタルヘルスに関与している可能性もある。
セロトニンの分泌量が少ない人は、糖分を含む食べ物を食べると気分が良くなるとされている。これが気分を高めるためのもっとも健康的な方法でないのは明らかで、ドカ食いにつながることも多い。対照的に、良質な炭水化物や、アミノ酸の一種であるトリプトファンを含むタンパク質が入った食品(牛乳やマグロなど)を摂取すれば、セロトニンの生成を助けることができるだろう。
食べ物の選び方で血糖値に起こる変化は、気分や集中力に大きく影響する可能性がある。
炭水化物を摂ると、体はそれを消化してグルコース(糖)に変換し、血液中に送る。するとそのグルコースをエネルギーに変換するため、膵臓でインスリンが生成される。
血糖値は摂取する炭水化物の種類で決まる。「間違った」種類(精製された炭水化物や糖類)を摂取すると、ジェットコースターに乗っているように、エネルギーが急増したかと思うと急降下してエネルギー不足を感じ、集中力がなくなり、エネルギー密度の高い食べ物がもっと欲しくなる。糖類によるエネルギーを急激に増やすビスケットのようなものに手が伸びるのはこういうときだ。
しかし、野菜や果物、全粒粉に含まれるような、ゆっくりとグルコースが放出される正しい種類の炭水化物を摂取すれば、このジェットコースターに乗らずにすむ。幸福感が高まり、集中でき、エネルギーが長続きする。
ドカ食いにつながる感情のループ
誰でもときどきは気持ちを紛らわせるために食べる。ストレスや退屈、不安、睡眠不足があると、もっと食べたい(または食べたくない)気持ちになる。
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問題が生じるのは、感情が食べ方を左右するようになる場合だ。辛いことへの反応として食べすぎてしまうと、過食⇄制限サイクルに取り込まれる可能性がある。このサイクルでは、ドカ食いの後に罪の意識がやってくる。恥や困惑さえ感じることがあり、その埋め合わせとして食べ物を制限しようと考えるようになる。制限は食べ物への強迫観念につながるので、サイクルがまた最初からスタートする。
不健康な食べ物を制限するのは正しい行動に思えるかもしれないが、それがドカ食いのサイクルをスタートさせてしまうおそれもあると知っておこう。
過食⇄制限サイクルは、誰にでも起こりうる。ドカ食いのサイクルを断ち切るためには、次のような考え方がある。
1 自分の価値観を分析して、自尊心を高められるようにする。
2 食事内容と食事のときの気分を日記につける。
3 食事に関するルールや罪の意識の有無から、自分の感情を理解する。
4 ドカ食いの引き金になっているものを見つける。不安、恐怖、退屈など。
5 自分で自分を否定するような内なる声と戦う。
6 食べ物は楽しく食べて当たり前なのだと、自分に優しくなる。
大量の食べものを食べてしまって、自分には自制心がないと感じ、そのことでひどく苦しむのは「過食性障害」という深刻な心の病気だということには注意だ。もし、何らかの摂食障害になっていると思う人がいるなら、できるだけ早く専門家に助けを求めるのがいいだろう。
「直観的に食べる」ための思考法
食べ物についての制限を捨てて、自分の体を尊重し、食べることを楽しむ気持ちを取り戻すために、インテュイティブ・イーティング(=直観的に食べる)というアプローチがある。
いつもダイエットをしている人などは、食べ物を選ぶときに自分が食べるべきだと思うものを選ぶので、楽しさはほとんど感じず、罪の意識をともなうことが多い。しかし、先ほど述べたように、これはしばしば裏目に出る。
たとえばチョコレートが食べたい気分なのに、「チョコレートは健康的じゃない」と考えて、代わりに低カロリーのお菓子を選ぶ。このお菓子を食べても満足感がないので、何か別の食べ物を探す、というパターンが続いていく。もし、自分の体の声に耳を傾けて最初からチョコレートを食べていたら満足しただろうし、食べすぎることもなかったのに。
インテュイティブ・イーティングは、以下の10の原則からなる。
1 ダイエット思考を捨てる。
2 空腹感を尊重する。
3 すべての食べ物を認める。
4 カロリーなどによる食べ物の選択を自分に強要しない。
5 満腹感を尊重する。
6 本当に満足できる要因を見つける。
7 負の感情を食べ物から切り離す。
8 体型や体格の多様性を受け入れる。
9 気分が良くなる運動をする。
10 栄養摂取の基本に立ち返る。
毎日の食べ物をめぐる判断を自分でコントロールしている感覚があるだろうか? たとえば映画館で食べたポップコーンの量を意識しているだろうか。映画に気を取られて、たいして味わいもせず、大きな容器いっぱいのポップコーンを食べきってはいないだろうか。
本来、食べたり飲んだりするときはその瞬間に集中できる良い機会だ。残念ながら実際には、パソコン作業をしながら食事することも多く、口にしている食べ物の味や量にほとんど注意を払っていない。
大切なのは、食べ方を意識すること。マインドフル・イーティング(意識的に食べること)では批判や批評なしに、食べているときに湧き上がる感覚や思考、感情にすべての意識を向ける。食べ物の色や形、香り、風味、食感、そして音にも注意を向ける。
誰でもさまざまな場面で習慣的にマインドレス(無意識)に食べている。
望ましくない食べ方
気をつけたいマインドレスな食事習慣には以下のようなものがある。
・食事中にスマートフォンなどを使う
・自分の仕事机で食べる
・食卓ではなくソファーで食べる
・食べ物をよく噛まない
・加工食品ばかり食べる
・夜中に食べてしまう
・怒りやストレスでやけ食いする
マインドフル・イーティングは、大きなムーブメントになりつつある。いつ、何を、どうやって食べるかを意識する。そして食べ物を味わい、その経験を楽しむ時間をできるだけ取ろう。ゆっくりと心を配りながら食べることで、食べ物との関係を劇的に改善できるのだ。
食事でメンタルヘルスを安定させようと思うなら、感情に左右されるような食べ方をやめて、インテュイティブ・イーティングやマインドフル・イーティングに取り組むのがいいだろう。食べ方を変えることで、より前向きな感情が湧き、思考がすっきりし、活力が増し、気持ちが落ち着く。健康的な食事は心の問題にアプローチする方法の1つになりうるはずだ。
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提供元:「食べ方」を意識しない人が失い続けてしまうこと|東洋経済オンライン