2022.11.21
「マイナ保険証」と「保険証」どこが違うか徹底解説|薬の管理が楽に、気になる個人情報は大丈夫?
マイナ保険証と保険証の違いについて解説します(写真:Fast&Slow/PIXTA)
政府が2024年秋に健康保険証(保険証)を廃止し、マイナンバーカードの健康保険証(マイナ保険証)に一本化するという方針を打ち出したことで、議論が巻き起こっている。
しかし、マイナ保険証を使うための基盤で、患者の加入する保険が有効かオンラインで確認するオンライン資格確認等システム (社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険中央会が管理運営)を理解しないまま議論をしていくと、既存の保険証のほうが安全で便利だというおかしな結論になってしまう。
オンライン資格確認等システムから見た場合、保険証とマイナ保険証は機能としてどこが違うのか。また、これからマイナ保険証に一本化されていく過程で何に注意が必要なのか、まとめよう。
オンライン資格確認等システムとは?
はじめに、来年(2023年)4月には医療機関・薬局での導入が原則義務化されるオンライン資格確認等システムの要点を確認しておこう。
オンライン資格確認等システムのもともとの大きな狙いは、①失効した保険証が使われるのを防ぎ、医療機関などの過誤請求、健保組合などの未収金を減らすこと②健保組合での高額療養費の限度額適用認定証の発行作業などを減らすこと――の2つである。さらには、医療機関や薬局、患者が薬剤情報を共有することもできるようになる。
まず、オンラインによる資格確認についてだが、マイナ保険証では、顔認証付きカードリーダーで、マイナンバーカードに付属している電子証明書のデータを読み込み、オンライン資格確認等システムにその情報を送り、資格確認を行う。ここでは、マイナンバー(個人番号)そのものは使われていない。
オンラインでの資格確認は、マイナ保険証だけでなく保険証を使っても可能だ。患者が保険証で受診した場合は、医療機関等の窓口の職員がその記号・番号をシステムに入力し、確認する。オンラインで資格確認ができるという意味では、マイナ保険証と保険証の間で機能に違いはない。
患者が医療機関に行って顔認証付きカードリーダーで受付と資格確認を行う際、マイナ保険証の場合はマイナンバーカードのICチップに保存されている顔写真とカードリーダーで撮影した顔を照合する。不正使用を防ぐという意味では、顔写真のない保険証よりも明らかにマイナ保険証にメリットがある。
既存の保険証こそ個人情報に要注意
オンラインで資格確認ができるようになった背景には、保険証の記号・番号を個人単位にしたことが挙げられる。
実は、健康保険の被保険者本人の家族(被扶養者)はこれまで、保険証において固有の記号・番号はなかった。そこで、2019年5月に公布された「医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律」により、保険証の記号・番号を個人単位化するため、2桁の枝番を付けた。具体的には、被保険者本人の枝番は「00」。被扶養者が1人いれば、この人の枝番は「01」となる。
こうして現在は、保険証の記号・番号は個人と1対1の関係で、唯一無二のものとなっている。先の法律では、個人情報保護の観点から、保険証の記号・番号について告知を求めることに制限をかけている。本人確認のため保険証をコピーする場合は、その記号・番号はマスキングしなければならない。
マイナ保険証より保険証のほうが安全だという意見もあるが、マイナ保険証であれば顔認証付きカードリーダーで本人自らが手続きをするのに対し、保険証は医療機関の窓口付近で他人に見られることもある。コピーの際にマスキングされていなければ、その情報は他者に漏れる可能性はゼロではない。
ところで、現時点でマイナ保険証がどれくらい活用されているのか。
2022年9月時点、オンライン資格確認の運用を始めている医療機関・薬局は全体の3割程度で、6485万4509件行われている。このうちマイナ保険証によるものは約35万件(0.5%)、保険証によるものが約5691万件(87.8%)、予約の患者についてまとめて事前に保険証の記号・番号に基づいてオンライン資格確認を行う一括照会によるものが約759万件(11.7%)となっている。つまり、オンライン資格確認ができる施設でも、マイナ保険証を使っている患者は0.5%程度である。
高額療養費制度が利用しやすく
患者側の医療費の自己負担を一定程度に抑える仕組みに、高額療養費制度がある。現役世代で一般的な所得の人であれば、1カ月の医療費の自己負担が8万100円を超えると、そこからの自己負担分は小さくなる。
これまでは、高額療養費制度を利用するためには健保組合等から限度額適用認定証を発行してもらい、医療機関に提出する必要があった。しかしこの作業をマイナ保険証によって簡略化することが可能になる。
オンライン資格確認等システムであれば、患者が顔認証付きカードリーダーの画面に表示される「同意」にタッチすることで、同意の意思表示ができる。これにより、医療機関側はオンラインで患者の限度額適用認定証の情報を取得し、高額療養費制度に関する対応をする。患者は、高額療養費制度のことをよく知らなくても、自動的にその適用を受けることができる。患者においてマイナ保険証の最大のメリットだろう。
なお、保険証を使っている人が顔認証付きカードリーダーで「同意」できないことを理由に、高額療養費制度を簡単に利用できないとしたら、不公平だという声が各方面から上がるかもしれない。だが、限度額適用認定証の情報を医療機関側が取得することについては、窓口の職員に対して口頭で同意をすればよいことになっている。
2023年1月から運用が予定されている電子処方箋についても見ておこう。
現在(2022年11月)、患者の同意のもと、オンライン資格確認等システムで医療機関側が閲覧できる薬剤情報は、新しくても1カ月くらい前までのものだ 。これは、医療機関が月単位でまとめて請求業務に使うレセプト(診療報酬明細書)の情報に基づいているからだ。
電子処方箋は、オンライン資格確認等システムを拡張し、電子処方箋管理サービスの機能を設け、処方箋の情報を医療機関と薬局の間でリアルタイムでやり取りするものである。患者側は、電子処方箋の内容をマイナポータルで見ることができるし、スマホにインストールした電子版お薬手帳でも、閲覧が可能になる見込みだ。
電子処方箋の機能として注目したいのは、医師による処方(電子処方箋)の情報をもとに、自動的に重複投薬・併用禁忌のチェックを行い、該当する場合はアラートが出るようになっていることだ。
ただし、このアラートだけでは処方された薬剤のうち、どの薬剤が重複投与・併用禁忌なのかはわからない。ここで保険証とマイナ保険証の間で差が出てくる。マイナ保険証を使っていて、顔認証付きカードリーダーで「過去のお薬情報の提供」に同意した場合は、医療機関側において電子処方箋の機能を使い、その患者が最近までどのような薬剤が処方されていたか把握することができる。そのため、どの薬が重複や併用禁忌で問題なのかがひと目でわかる。
一方、保険証を使っている患者は、そのような形で同意する道具がない。電子処方箋の仕組みでは同意の手段が用意されているぶん、マイナ保険証が有利になっている。しかし、電子処方箋の運用が始まったら、保険証の場合は「高額療養費/限度額適用認定証のように、口頭での同意でよいではないか」といった意見が出るかもしれない。
マイナ保険証に一本化する過程での課題
最後に、安全性の観点から、マイナ保険証に一本化する過程での注意点を見ておこう。
保険証の廃止が話題になった直後、2022年10月13日に開催された社会保障審議会医療保険部会で、健保組合を代表する委員が「発行されている保険証をすべて回収しない場合、保険証の不正使用につながる恐れがある。その確実な対処方法があるか」と、指摘した。
10月13日に開催された社会保障審議会医療保険部会(筆者撮影)
これまで見てきたように、保険証とマイナ保険証の機能としての違いは、主に同意に関するものだ。それについては、①マイナ保険証を使う人たちが顔認証付きカードリーダーで、内容もよくわからないまま「同意」のボタン押す問題②マイナ保険証、保険証それぞれにおいて同意できる範囲③患者の安全に関わる薬剤の情報(将来的にはアレルギーなどの情報)の同意は不要ではないか――など、論点は多い。
保険証が廃止されるかもしれない2024年秋に向けて、患者目線での検討が必要だ。
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提供元:「マイナ保険証」と「保険証」どこが違うか徹底解説|東洋経済オンライン