2022.10.26
【女性の薄毛】髪をしばる、朝食抜きでリスク増|1カ月で改善、今すぐ始めたいセルフケアのコツ
意外と気にしている人が多い女性の薄毛。原因と対策について専門家に聞きました(写真:プラナ/PIXTA)
「髪のボリュームがなくなった」「つむじが目立ってきた」など、髪のことで人知れず悩んでいる女性も多いかもしれない。女性の薄毛には個人差があり、まさに千差万別だ。男性よりもタイプが多様で、複雑な原因があるという。
女性の薄毛の特徴とそのサイン、薄毛になりにくいヘアケアのポイントや自分でできる薄毛改善法などについて、女性の薄毛治療に詳しい皮膚科医の植木理恵医師(順天堂東京江東高齢者医療センター)に聞いた。
毛髪にはサイクルがあり、誰でも一定期間で抜けて生え替わっている。1日100本までの抜け毛は正常範囲だ。それを超えてくると、洗髪時や枕についた毛などの量も明らかに多くなってくるため、異変に気づきやすくなるという。
「薄毛の患者さんには、抜け毛の量を把握するために、洗髪前にお風呂場の排水溝に自分用のネットを貼ってもらい、袋に集めて抜け毛を数えてもらいます。およそ1日分の抜け毛の数とボリュームがわかったら、毎日、1日分の抜け毛を袋に集めてもらう。そうすると、見た目で自分の抜け毛の平均的な量がわかります」
と植木医師。抜け毛の本数の多さなど異変が見られたら、早めに皮膚科を受診してほしいという。
女性の薄毛の要因は?
「女性の薄毛にはさまざまなタイプがありますが、多いのは頭髪が広い範囲にわたって薄くなる『びまん性脱毛症』です」
植木医師によると、びまん性脱毛症の実態はまさに多様だという。加齢による変化だけでなく、男性ホルモンや、毛髪サイクルの休止期(抜け毛の時期)の割合が増えてしまう「慢性休止期脱毛症」が原因となっている場合もある。またはそれらの原因が混ざり合っていることもある。
男性の薄毛は男性ホルモンによって毛髪を作る細胞が弱ったことで生じるものが多いが、女性で男性ホルモンが原因の薄毛はさほど多くない。よって、男性型脱毛症(AGA)に見られるような「頭部の生え際、頭頂部の毛髪が薄くなる」典型タイプは少ない。
「女性の薄毛は、もともと毛が細い方が加齢とともにさらに細くなってよれてきたり、抜け毛が増えてきたり、という年齢的な体質変化がほとんど。とくに更年期前後から髪の変化が気になる方が増えます。閉経後は前髪が伸びにくくなることも多く、患者さんのなかには1年間、前髪を切っていないという人もいます」(植木医師)
閉経後は女性ホルモンが急激に減るが、女性ホルモンが髪にどう影響しているのかは、実はまだよくわかっていない。ただ、前髪に深く影響している可能性はいくつかの実験データなどから出てきているという。
女性の薄毛のなかに、まれに全身の病気が隠れているケースがあるので、注意が必要だ。
「ホルモンによる病気や膠原病、橋本病やバセドウ病といった甲状腺の病気、子宮筋腫、卵巣の病気などでも薄毛になることがあります。10~20代の女性では、貧血や急激なダイエット、拒食症などによる栄養障害を原因とした薄毛も多いです」(植木医師)
女性でAGAタイプの薄毛症状が見られる場合、卵巣の病気の可能性があるという。女性でも男性ホルモンは分泌されていて、卵巣で作られているが、卵巣の病気で異常に産生されると、薄毛になるという。月経不順がある10~20代の女性で、急に頭部の生え際や頭頂部だけが薄くなってきたときには注意が必要だ。
「男性ホルモンの分泌が増えると、女性もニキビがひどくなったり、体毛が濃くなったりなどの症状も出てくることがあります。薄毛で受診して来た女性には、病気が隠れていないかどうかを、念のため疑いながら診断をつけるようにしています」(植木医師)
洗髪後はしっかり頭皮を乾かす
日ごろの何気ない習慣のなかにも薄毛の原因が隠れていることがある。薄毛の原因になりやすいヘアスタイルやヘアケアはあるのだろうか。
「長時間、ポニーテールなどの結び髪をしたり、いつも同じ場所で髪をピンやバレッタでとめたりしている人は要注意です。その部分の頭皮を強く引っ張り続けることになるため、頭皮の血管が細くなって血流が悪くなり脱毛しやすくなる。髪を結ぶ場合は、結び方や位置をなるべく変える。いつも同じところをピンやバレッタでとめない。とめる位置をできれば数時間おきに変えるといいですね」(植木医師)
洗髪時の注意点などもあるのだろうか。
「髪や地肌が摩擦で痛まないように、シャンプーはよく泡立てて洗ってください。そして、自分の肌に合ったシャンプーやコンディショナー、トリートメント、リンスを使うこと。脂性肌なのに洗浄力の弱いシャンプーを使って皮膚炎を起こすケースや、皮脂で髪が抜けてしまうと思い込んで洗いすぎ、髪や地肌が乾燥して脱毛するケースも。洗いすぎは禁物です」(植木医師)
最近、話題のノンシリコン系シャンプーにも植木医師は警鐘を鳴らす。ノンシリコンは髪や地肌にやさしいイメージもあるが、シリコンが入っていないことで髪がきしんだり絡んだりしてしまいやすいという。
植木医師は「シリコンは食品でも認められている安全なもの。かゆみが出たりしないかぎりは、シリコン入りのほうが髪をなめらかに洗い上げやすく、髪同士の摩擦を抑え、髪が絡まって抜けてしまうのを防ぐ効果もあります」と話す。
洗髪の回数も、よほど汗をかく季節以外は1日1回で十分。秋や冬、あるいはそれほど汗をかかない仕事や生活をしているのであれば、2日に1回でもいいという。
「ちょっと髪や頭皮の臭いが気になる、髪に付いたヘアスプレーを落としたい、といった場合はシャンプーを少量にして1日1回洗ってもいいでしょう。1日2回洗いたいなら、1回はお湯ですすぐだけにしましょう」(植木医師)
薄毛予防には、洗髪後はしっかり頭皮を乾かすことも大切だ。地肌を濡れたままにしておくと、頭皮が蒸れて常在菌が繁殖しやすくなり、皮膚炎が起こりやすくなる。また、濡れた髪はすごく切れやすいため、濡れたままで放置すると薄毛などの頭皮トラブルの元になるという。
「タオルドライをした後、できるだけ髪が熱くなりすぎないように、早めにドライヤーで乾かしてください。毛先まで乾かさなくてもいいので、とくに髪の根元の地肌はしっかり乾かしてほしいです」(植木医師)
髪のためにはカラーリングとパーマは同じタイミングを避け、カラーリングの間隔はできれば1カ月以上は空けたほうがいいという。白髪染めなどでどうしても1カ月以内に次の毛染めをしたいという人は、ヘアマニキュアやカラートリートメントなど、外側からコーティングするものなら髪を傷めないのでおすすめだという。
外用薬と食事、睡眠の見直しを
女性の脱毛症に対する治療の選択肢は、男性の薄毛治療よりも少ないとされている。効果的な治療法はあるのだろうか。
「女性の薄毛治療は外用薬(ミノキシジル、商品名リアップ)のみです。女性の薄毛はタイプを判別しにくいのですが、どのタイプの薄毛でもおおむねミノキシジルが効きます」(植木医師)
ミノキシジルというと男性の脱毛に使われる薬剤と思いがちだが、実は女性用もある。血管を拡張して毛の細胞の活動を高め、毛の細胞の数を増やす作用があることがわかっている。
「とくに明らかな薄毛の症状が出ていなくても、つむじや分け目、髪のボリュームなどが気になりはじめたら、お手入れの一環として使い始めてもいいと思います。気になる症状がそれ以上進みにくくなる効果が期待できます」(植木医師)
女性の薄毛症状の進行を抑えるためには、根本的にはやはり生活改善、とくに食事や睡眠の見直しが重要だ。
植木医師によると、薄毛に悩む女性は、わりと3食きちんと食べていない人も多いという。朝はコーヒーだけで夜遅くまで働く、といった生活をしていると、当然ながら、髪への栄養も全然足りなくなる。女性はもともと鉄分や亜鉛、タンパク質が不足しがちだ。これらは髪の成長にとっても非常に重要な栄養素。栄養はサプリより食事から摂るほうが吸収もいいので、できるだけ栄養バランス良く、3食きちんと食べてほしい。
タンパク質、鉄、亜鉛を含む食品(イラスト:an/PIXTA)
睡眠時間が短いと髪に影響
そして睡眠も重要だ。日ごろ睡眠時間が短く、体自体が疲弊してしまっていると毛の細胞の活動も悪くなる。20~30代なら1日7~8時間、40代以降でも6時間。どの年代も6時間以上は分割せずに眠ってほしいと、植木医師は言う。
この連載の一覧はこちら ※外部サイトに遷移します
食事や睡眠の見直しをすると、早い人では1カ月目ぐらいから「髪に少しボリュームが出てきた」「抜け毛が減ってきた」などの効果が出始めるという。
「外用薬を使うと、3カ月目ぐらいから変化が現れてきます。まずは食事と睡眠で基本的な生活を整えて、髪のコンディションを改善していきましょう」(植木医師)
(取材・文/石川美香子)
順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター皮膚科科長院長補佐
植木理恵医師
千葉県出身。1988年順天堂大学医学部卒業。同大学医学部附属順天堂医院皮膚科入局。91年英ロンドン大学王立医科大学院ハマースミス病院皮膚科。93年順天堂大学医学部皮膚科助手などを経て、04年順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター助教授。2018年より現職。専門は皮膚科一般、毛成長制御機構、円形脱毛症、びまん性脱毛症。
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:【女性の薄毛】髪をしばる、朝食抜きでリスク増|東洋経済オンライン