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2022.10.20

「ストレスまみれの仕事」乗り切る意外すぎる秘技|困難を乗り越えるのに役立つ知られざる力


ユーモアは人と人とのつながりを育み、創造力を解き放ち、緊迫した状況においてもストレスを和らげます(写真:ふじよ/PIXTA)

ユーモアは人と人とのつながりを育み、創造力を解き放ち、緊迫した状況においてもストレスを和らげます(写真:ふじよ/PIXTA)

日本の企業はなによりも「真面目」であることを大切にする。ところが、それとは対照的に、アップルやピクサー、グーグルのような企業は、なによりも「ユーモア」を大切にすることで、大きく成長している。
スタンフォード大学ビジネススクール教授のジェニファー・アーカー氏と、同校講師でエグゼクティブ・コーチのナオミ・バグドナス氏によれば、ユーモアにあふれる職場は心理的安全性をもたらし、信頼関係を築き、社員のやる気を高め、創造性を育むという。
今回、日本語版が9月に刊行された『ユーモアは最強の武器である』より、一部抜粋、編集の上、お届けする。

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ユーモアがもたらすレジリエンス

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2001年9月、マイク・ネメスは、アメリカ合衆国陸軍士官学校「ウェスト・ポイント」の2年生だった。

ハイジャックされた2機の飛行機がニューヨーク市マンハッタン区の世界貿易センタービルに激突したとき、テレビの前で壊滅的な被害が広がっていくのを目の当たりにしたネメスと級友たちは、自分たちの人生が、そして多くの人びとの人生が、もう二度と元どおりになることはないと感じていた。

戦争が――まちがいなく彼らも招集され、闘うことになる戦争が――差し迫っていた。

事態の重大さをかみしめながらも、ネメスは心に誓った。仲間同士の結束と士気を高めるためなら、どんなことでもしよう、と。

彼は兵舎内に秘密のユーモア工房をつくって、風刺新聞を発行した。紙面にはこんな見出しが躍った。「サッカーの試合で負けたのは、ビン・ラディンとアルカイダのせいだ」「士官候補生(カデット)カジュアル、巷で大流行」

そうやって、ときにつらいこともある士官学校生活や迫りくる国際紛争の緊張感のなかで、ふざけてみせたのだ。

上官らに見つかったら、やめさせられるのはわかっていたので、ネメスは新聞をこっそり配布することにした。新聞をクリアポケットに入れ、共同トイレの個室のドアの内側にテープで貼り付けたのだ。新聞はたちまち読者を獲得し、「センター・ストール」という愛称もついた。

共同トイレの個室からは忍び笑いが響き、新聞のニュースはあっという間に拡散した。

仲間たちはネメスに記事のアイデアを内緒で提供し、毎日、新しい号をチェックしにトイレの個室へかよった。

陸軍の幹部に事が発覚するまで、時間はかからなかった。厳密に言えば、ネメスは規律を破ったことになる。しかし幹部らは、新聞が士官候補生らに及ぼした効果にも気づいた。新聞は、ささやかながら意義深い方法で、重苦しい雰囲気に変化をもたらしたのだ。

そういうわけで、幹部たちは目をつぶった。やがて「センター・ストール」は、士官候補生たちだけでなく上官たちにも、規律の厳格なウェスト・ポイントの文化に不可欠なものと見なされるようになった。

陽気さによって厳しい現実を乗り越える

極度の不安と悲嘆とストレスのなか、士官候補生たちはこのささやかな陽気さのおかげで、目の前に突きつけられた悲惨な現実に対処することができた。

かつて奴隷制度廃止を支持した牧師のヘンリー・ウォード・ビーチャーは、こう語っている。「ユーモアのセンスがない人間は、ばねが付いていない荷馬車のようなものだ」。

人生が揺れ動くさまざまな事態に備えて、私たちも緩衝装置を用意しておく必要がある。そしてユーモアこそ、最高のバッファーなのだ。

職場で健康を保つのは、ますます難しくなっている。

ジョエル・ゴー、ジェフリー・フェファー、ステファノス・ゼニオスによる最近の研究によれば、長時間労働や雇用不安、ワークライフ・バランスが取れていないなど、仕事のストレスは毎年最低でも12万件の死亡につながっており、医療費は最大1900億ドルまで膨らんでいることが明らかになった。

言い換えれば、仕事のせいで人びとが死んでいるのだ。

だが幸運なことに、笑いは強力な絶縁体となる。

みなさんもご存じのとおり、笑うことによって、コルチゾール値が抑えられるのだ。コルチゾール値の上昇は体の警報システムであり、不安やうつ病のリスク増大とも関連がある。

笑顔を見せることで苦痛が和らぐ

さらに、ユーモアはストレス緩和に役立つだけでなく、極度の苦痛に対処するのにも役立つ。

ダッチャー・ケルトナーとジョージ・ボナーノによる研究では、死別のプロセスにおける笑いの効果を調査した。6カ月以内にパートナーや家族を亡くした40名の参加者たちは、死別した相手との関係について語ってください、と指示された。

研究者たちがインタビュー録画を見直したところ、亡くなった相手のことを語りながら本物の笑顔を見せた人たちは、インタビュー後に実施したアンケート調査の結果、見せかけの笑顔を浮かべた人たちや、笑顔をまったく見せなかった人たちに比べて、怒りのレベルが80%低く、苦痛のレベルが35%低いことがわかった。

さらに、本物の笑顔を見せた人たちは、前向きな感情を覚えることが有意に多く、いま現在の人間関係に対する満足度も高いことがわかった。

もちろん、このような実験結果は相関的なものだが、最近では因果関係への理解を深めようとする研究が行われている。

シェリー・クロフォードとネリーナ・カルタビアーノによる研究では、8週間のプログラムを開発し、日常生活にユーモアを取り入れて楽しむための具体的なスキルを参加者たちに教えた。

毎週、インストラクターが少人数のグループに対し、1時間の学習モジュールによって、ユーモアのスキルをひとつ教えるのだ。

8週間後、さまざまなユーモアのスキルを学んだグループの人たちは、うつ状態の症状が減って、ストレスが和らぎ、ポジティブな感情のほうがネガティブな感情よりも増えたと報告した。さらに、感情をコントロールできるという認識も有意に高くなっていた。

笑いは健康をもたらし、寿命を延ばす

笑いは最良の薬だ(実際には、薬がいちばん効くだろう。だが笑いは、大量の薬を必要とする状態を避けるのに役立つ)。

笑うと血流が増え、筋肉の緊張が緩むだけでなく、心疾患にかかわる動脈壁硬化が緩和されるなど、生理学的な効果がもたらされる。

映画『パッチ・アダムス』から着想を得た、マーティン・ブルーチェらによる研究では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者たちが道化師によるショーを楽しんだところ、肺機能の向上が確認された。

嘘のようで、本当の話なのだ。

それでも、納得できない?

では、永遠に生きられるとしたら?

まあ、永遠は言いすぎだが、ユーモアのセンスと寿命の長さには相関関係があることが、実際に研究によって明らかになっている。ノルウェー科学技術大学による5万人超を対象とした15年間の縦断研究によって、ユーモアのセンスが豊かな人びとは、男女ともに、持病があったり感染症にかかったりしても、長生きすることが明らかになった。

具体的には、ユーモアをよく使う女性たちは、あらゆる原因による死亡リスクが48%低く、心臓病による死亡リスクが73%低く、感染症による死亡リスクが83%低いことがわかった。

いっぽう、ユーモアをよく使う男性たちは、感染症による死亡リスクが74%低いことが明らかになった。

これでおわかりだろう。ユーモアは私たちのパワーを高めるだけでなく、まわりの人たちもうきうきした気分にさせる。

ユーモアは人と人との有意義なつながりを育み、創造力を解き放ち、緊迫した状況においてもストレスを和らげる。そして私たちが、人生の浮き沈みを乗り越え、成長するために役立つのだ。

(翻訳:神崎朗子)

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提供元:「ストレスまみれの仕事」乗り切る意外すぎる秘技|東洋経済オンライン

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