2022.10.06
「やる気が出る・出ない」を決める脳の凄い仕組み|大変だけど頑張ってみようという状態に至るには
「やる気」の正体とは?(写真:Fast&Slow/PIXTA)
「やる気」が出るときとでないとき、脳の中ではいったい何が起こっているのでしょうか。脳研究者の毛内拡氏の著書『すべては脳で実現している。』から一部抜粋してお届けします。
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仕事や勉強のやる気が起きず、モチベーションが下がっているような状態は、誰しも経験があるでしょう。ある行動をした結果得られる報酬(ご褒美)が大きいと期待されるときに、やる気は上がります。何が〝報酬〟となるかは人それぞれだと思いますが、通常はできるだけ努力せずに、ご褒美だけをもらえるほうがうれしいものです。
努力を要する行動において、人間はその「メリット」と「デメリット」を脳内で計算しています。つまり、私たちが何かを「やろう」と決めたときは、「やる」ことのメリットが「やらない」ことのメリットを上回っている状態であるといえます。
一方、報酬を得るのに必要となる労力や時間などのコストが大きい場合は、やる気がだだ下がりします。面倒くさい、というやつです。
このような、ご褒美を予測してモチベーションを高める仕組みには、脳内の神経伝達物質のひとつであるドーパミンの関与が知られています。放出されたドーパミンを受け取ることで報酬とコストの予測の情報が伝わり、そのバランスで意欲の制御を行っていると考えられています。
ご褒美の大きさでやる気が出る状態と、コストを計算して大変だけど頑張ってみようと思う状態の調節のメカニズム、気になりますね。
「大変だけど頑張ってみよう」を決める脳の仕組み
量子科学技術研究開発機構の研究者たちの研究によると、その謎を解くカギは、ドーパミンの受け手(受容体)にあることが明らかになりました。
ドーパミン受容体には、D1とD2の2つの型があり、報酬とコストによる意欲調節において、それぞれがどのような役割を担っているのかはわかっていませんでした。
研究者たちはまず、サルに対して、バーを握ると報酬としてジュースがもらえることを学習させました。そして報酬の量、必要とする行動の回数、報酬をもらえるまでの待ち時間をさまざまに変化させて、サルの行動を観察します。その結果、コストの割にもらえる報酬が少ない際は、行動を諦める確率が高くなることが改めて確かめられました。
量子科学技術研究開発機構の研究者たちの研究 ※外部サイトに遷移します
次に、ドーパミン受容体の働きを阻害する薬(阻害薬)をサルに投与し、「報酬が大きいときに高まる意欲」と「コストが増えることで下がる意欲」に対する、D1、D2受容体のそれぞれの役割を比較しました。
その結果、待ち時間なしに多くの報酬が期待でき、やる気が上がる際には、D1、D2受容体の両方が必要なのに対して、コストはかかるけど頑張ろうというやる気が上がる際には、D2受容体の働きが必要不可欠であることがわかりました。
現実的には、その努力にはどんなメリットやデメリットがあるかというのは不確実で、その中から、報酬を期待して努力するかどうかを判断しなければなりません。その判断に、どんな脳部位が関与しているかは、完全には明らかになっていませんでした。
「できる」と「できない」の間にあるもの
アメリカのエモリー大学の研究者らは、被験者に、「何の努力もせずに1ドル」か「何らかの努力をすれば最大5.73ドル」がもらえるという、不確実な情報に基づいて努力するかどうかを意思決定させ、その際の脳活動を機能的MRIで計測しました。
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その結果、前頭前野腹内側皮質と呼ばれる脳部位が、試行の期待値の計算に関与していることが示されました。また、背側前帯状皮質、前部島皮質、背内側尾状皮質からなるネットワークが、過去の試行履歴に基づいて、努力に見合うほどの報酬を得られなかったことの計算に関与することも明らかにしました。
これらの結果は、不確実な情報が与えられた際には、メリットに基づいた計算を行うことで、努力するかどうか判断していることを示しています。
うつ病や発達障害などの精神疾患の患者では、〝できる〟と〝できない〟の間に、「できるけど疲れる、面倒くさい」ことが多くあるといいます。この研究の結果は、ヒトが「大変だけど頑張ろう」という気持ちを理解するうえで、重要な手がかりとなることが期待されます。
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提供元:「やる気が出る・出ない」を決める脳の凄い仕組み|東洋経済オンライン