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2022.09.28

マンションだから安心とは言えぬ「水害」の怖さ|防災対策の見直し、管理組合の果たす役割とは?


マンションの防災対策においては、マンションだからこそ気を付けなければならない点があるようです(写真:pixelcat/PIXTA)

マンションの防災対策においては、マンションだからこそ気を付けなければならない点があるようです(写真:pixelcat/PIXTA)

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地球温暖化に伴う気候変動などにより、従来想定されなかったような気象現象が日本各地で発生するようになった。積乱雲が次々と発生し、ラインのようになってとどまる線状降水帯は、集中豪雨となって大きな被害をもたらしている。8月上旬には、東北・北陸各地でも記録的な大雨の影響により、橋の崩落や河川の氾濫などの大きな被害が発生したばかりだ。

かねて日本は自然災害の多い国として知られている。日本列島の周辺には4つものプレート(岩盤)が集中するため、地震が起きやすい場所にあることが理由の1つだ。

実際に1995年の阪神・淡路大震災や2011年の東日本大震災などの大規模な地震を経験し、地震に強い建築物を作るべく対策が講じられてきた経緯がある。新耐震基準に適合するマンションが「地震に強い」と言われるのもそのためだ。

マンション特有の事情

一方、マンションの防災対策においては気をつけるべき特有の事情もある。例えば上層階は揺れが激しい傾向にあったり、共用部が損傷する可能性や停電などにより共用設備が利用できなくなったりするリスクへの対策を講じなければならない。場合によっては給排水設備の破損による断水のリスクも配慮に入れておく必要が出てくる。

多くの世帯が暮らすマンションでは、こういった事情を鑑みた上での体制整備が不可欠だ。そして非常時の食料、飲料水、トイレなど災害発生への備えは各々の居住者が行う自助が基本だが、建物全体の対策は管理組合が主体となり共助として進めていかなければならないのだ。

このように地震や火災などの防災対策については、マニュアルの構築や訓練などの必要性が注目される機会が増えている。他方水害については、これまでそれほど注視されてはこなかった。マンションの水害が大きくクローズアップされたのは2019年、台風19号が関東地方に大きな被害をもたらした時だろう。

人気エリアである武蔵小杉のタワーマンションが浸水被害を受け、地下の電気設備などが水没、停電や断水が発生。復旧にも時間を要し、「水害」というマンションの新たなウィークポイントを浮き彫りにした。

ただ、水害や大雨は地震などと異なり、予報や警報でリスクを前もってある程度察知できるのも特徴だ。さらに、自治体のハザードマップなどを事前に確認し、万が一の事態に備えあらかじめ準備や対策を講じることが可能な災害でもある。居住するエリアがどの程度の被害を受ける可能性があるのかを知ることは、その最初のステップとなり得る。

横浜市鶴見区版洪水ハザードマップ(出所:横浜市HP)

横浜市鶴見区版洪水ハザードマップ(出所:横浜市HP)

例えば上記を見ていただきたい。これはちょうど2022年6月に更新された最新の横浜市鶴見区の洪水ハザードマップである。このエリアは多摩川水系、鶴見川水系という2つの水系からの浸水が想定される場所だ。

ハザードマップはどう読むのか?

この地域に2日間で多摩川水系は588㎜、鶴見川水系で792㎜の雨が降った場合、浸水が想定されるリスクがある場所がカラーリングされている。

半分の区域が0.5~3.0m未満の浸水が予想されるライトグリーンの地域であり、これは1階天井をこえて浸水する深さと定義されている。居住エリアが何らかのカラーリングに該当する場合は、水害への備えが必要になるということだ。

ハザードマップには洪水だけでなく、内水氾濫の想定区域を示すものもある。内水氾濫とは、降雨の量に対して排水機能が追いつかず、処理できなかった水があふれ出してしまう現象だ。低いところには排水しきれない水が流れ込み、土地や建物が浸水してしまう。武蔵小杉のタワーマンションの浸水被害も、内水氾濫によるものだった。

下図は横浜市鶴見区の内水氾濫のハザードマップになる。これは1999年に関東地方で記録された1時間153㎜の降雨量が想定の条件だ。1時間に153㎜というのは、猛烈な雨の量だが、近年の豪雨災害の状況を見る限り、降る可能性がないとはいえない条件下が想定されている。

このハザードマップでは、1.0~2.0m、ちょうど1階の軒下程度の床下浸水にあたるピンク色のエリアから大人の腰あたりになる50㎝~1.0mのブルーの箇所、道路冠水の黄色のところまでさまざまな着色がなされている。このような地域では内水氾濫の際に浸水、下水があふれてくるというリスクを考えておかなければならないのだ。

洪水、内水氾濫の他、地域によっては高潮のハザードマップも存在する。自分たちのマンションがどのような水害対策を講じるべきかを考えるために、ハザードマップの必読をおすすめする。

横浜市鶴見区版内水ハザードマップ(出所:横浜市HP)

横浜市鶴見区版内水ハザードマップ(出所:横浜市HP)

横浜市HP ※外部サイトに遷移します

どれだけの雨に耐えられる? 都市の排水の限界

ところで内水氾濫の際にふれたように、都市の排水機能には限りがある。どの程度の雨量で排水が限界に達し、あふれ出てきてしまうのだろうか。

東京都下水道局のホームページによれば、都では基本的に、1時間当たり50㎜の降雨に対応できるよう施設整備を進めているという。加えて大規模な地下街や一定規模以上の床上浸水が集中発生する地域に関しては、1時間当たり75㎜の降雨に対応するべく対策を講じているところだと記載されている。

つまり、1時間当たり50㎜以上の雨が続く場合は、内水氾濫が起きるリスクを念頭におき避難や浸水などへの対策を講じる必要があるということになる。

東京都下水道局のホームページ ※外部サイトに遷移します

雨量に関しては「降雨強度」に注目することも大切だ。雨は1時間の間に均等な量が降り注ぐわけではない。強くなったり、弱くなったりすることもある。そこで10分間などの限られた時間に瞬間的に降った雨量を計測し、10分間の雨量が1時間続いたと考えて降った雨(㎜/h)として換算する方法になる。

例えば1時間当たり50㎜の降雨があったとしても、雨の降り方で10分間に20㎜、残りの50分間で30㎜降るというようなケースも当然あるだろう。

一方で瞬間的な雨の強さとして計算すると、20㎜の6倍(60分)ということで120 ㎜/hという大きな値となるのが降雨強度の考え方だ。1時間に50㎜の雨が降った場合に比べ、瞬間的にざーっと雨が降る=瞬間的にパワーの大きい雨が降ることになる。

つまり50㎜程度の排水機能がある設備であっても、10分間で20㎜のような降雨があった場合には水の処理が追いつかないわけだ。近年のゲリラ豪雨のように、短時間に集中して降雨する場合、氾濫のリスクは非常に高くなる点を覚えておいてほしい。

管理組合が取り組むべき具体的な水害対策

それではマンションの水害対策としてどのような備えを講じていけばいいのだろうか。まずは、換気口や出入り口といった開口部や地下の設備への浸水を防ぐための対策を考える必要がある。具体的には水が入らないようせき止める方法を簡単にご紹介していく。

1. 止水板(しすいばん)

防水板とも呼ばれ、エントランスや機械式駐車場、エレベーター前などさまざまな開口部に設置できるストッパーのことだ。地下鉄の出入り口に設置されているのを見かけた方もいるだろう。シートタイプから樹脂製、金属製まで幅広い種類がある。安価なシートタイプで30万円~、少し頑丈な樹脂や金属板タイプのものということになると大体50万円~という価格が一般的だ。

2. 止水ドア

止水板と比べると頑丈で、マンションのライフラインである地下の電気室・ポンプ室への浸水を防ぐのに適している。3~5mなどある程度の深さでも浸水を防げるため、本格的な浸水対策が可能だ。そのため値段も300万円~と高額になるのが導入のネックともなる。

3. 土のう

袋の中に土砂を入れた土のうも水をせき止めるのに有効だ。リーズナブルで扱いやすいが、重量があるため女性や子ども、高齢者などにとっては使いづらいのがデメリット。また保管場所も必要になる。土のうより入手しやすい水のうを使うのもおすすめ。使い捨てにはなるが、水を入れて使うため普段はかさばらない上、扱いやすい。

このほか、災害時の飲料水、非常食、また災害用のトイレや医薬品、懐中電灯、スマートフォンやラジオなどの電源等など、一般的な防災用品も当然ながら揃えておきたい。マンションの管理組合で用意するだけでなく、居住者それぞれが備えるべく、周知をしていくことも重要だ。

居住者への周知面では、バルコニーや排水口、排水溝の清掃の徹底を伝えていく必要もある。排水口や排水溝の清掃を怠ると、溜まったゴミが流れ出しマンションの排水機能に悪影響を及ぼしかねないからである。マンションの避難訓練や防災訓練を契機に、バルコニーの一斉清掃を行うのも有意義な取り組みとなるはずだ。

同時にバルコニーから水が浸入しないようサッシを閉め、クレセントで施錠するなどの個別にできる対策についてもアナウンスを図っておきたい。

「所有者・居住者名簿」作成を

災害時の安否確認において、大きな効力を発揮するのがマンションの所有者・居住者名簿の存在だ。氏名や性別、家族構成などの基本的な情報はもちろん、介護や支援が必要な方の有無、血液型やかかりつけの医療機関などの情報がわかるなど迅速な救出にもつながる。

マンションの管理水準を高めるべくはじまった管理計画認定制度においても、「管理組合がマンションの区分所有者等への平常時における連絡に加え、災害等の緊急時に迅速な対応を行うため、組合員名簿、居住者名簿を備えているとともに、1年に1回以上は内容の確認を行っていること」が認定基準の1項目として記載されている。

ところが個人情報保護法の観点から、所有者・居住者名簿の活用は難しいのが実情だ。直接的に利用ができる名簿を備えている管理組合はまだまだ少数ではないだろうか。

しかしマンションの防災という観点から考えると、災害マニュアルと共に名簿の果たす役割は大きい。災害時以外の利用は不可とし、保管場所と管理責任者を定める、1年毎の更新や開封確認など管理・運用ルールを徹底した上で早急に作成することを提案したい。

いきなり全居住者、全戸の理解を得るのは難しいかもしれない。プライバシーに配慮しつつ、水害をはじめとするマンションの防水対策の重要性を繰り返し伝えることが大切だ。

数戸からスタートし、将来的には全住戸の連絡先がわかる居住者・所有者名簿の作成を目指したい。その際はデータでの保存は避け、紙媒体を基本にする、ペットの有無なども記載できればなおいい。

これからも気候変動は続き、経験したことのない気象状況に遭遇する可能性は少なくない。過去の経験だけでなく、さまざまなリスクを想定し、管理組合として防災に取り組むことが住み慣れたマンション、暮らしの維持につながると言えるだろう。

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提供元:マンションだから安心とは言えぬ「水害」の怖さ|東洋経済オンライン

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