2022.09.22
人間関係で「失敗する人」「うまくいく人」の決定差|自他の「境界線」を持てないまま成長した結果…
良好な人間関係を結ぶことができない理由は「境界線」にあるかもしれません(写真:プラナ/PIXTA)
充実したワークライフ・バランスや良好な人間関係を維持するために、パートナーや友人、家族、同僚とのあいだに適度な距離を保つことは必要です。
けれども現実は、心に土足で踏み込んでくる人がいて、断ることもできないまま、心は乱されてストレスは溜まるばかり。どうすればいいのでしょうか?
ニューヨーク・タイムズ紙、ガーディアン紙、サイコロジートゥデイ誌ほかに登場し、インスタグラムで150万フォロワーを獲得しているリレーションシップセラピスト、ネドラ・グローバー・タワブ氏によるメンタルヘルス指南書『心の境界線 穏やかな自己主張で自分らしく生きるトレーニング』より一部抜粋・再構成してお届けします。
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私は14年間セラピストとして活動してきました。
相談者はたいてい私の元を訪れるまで、自分が境界線にかかわる問題を抱えていることを自覚していません。境界線はセルフケアや他者とのいざこざ、時間のやりくりによるトラブル、SNSが及ぼす影響などといった形で、問題の中にひそんでいるからです。
相談に来た人に自身の怒りや不幸、プレッシャーに押しつぶされそうな思い、共依存関係について一通り話してもらったところで、私は優しく言葉をかけます。 「それは境界線の問題ですね」と。そこから、境界線を侵害する行為の意味を知り、他者との間に一線を引く方法を学び、境界線を定めることによる影響への対処法を考えていきます。
そう、境界線を定めて自己主張をすると、不安や罪悪感が生まれることもあるのです。
境界線を理解する大切さ
心地よい境界線を引けると、安心感や、愛されている実感、心の平穏を得られ、自分が尊重されていると感じられます。境界線は、他者があなたにどう関わるか、あなたが他者にどう関わるかを示す指標となります。でも、そこで終わりにしてはいけません。
【境界線の持つ意味】
・必要以上に頑張りすぎないための安全策となる
・セルフケアのよい練習になる
・人間関係における役割を明確にしてくれる
・人間関係において、許される行為と許されない行為をはっきり示す
・人間関係において、何を期待すべきかを知る基準となる
・自分の要求を満たし続けるために、他者に頼りやすくなる
・自分の要求を主張しやすくなる
・心地よい人間関係を築きやすくなる
・問題を明確にする手段となる
・安心感を得られる
境界線は、「相手があなたにどう接してほしいか」を他者に示す手がかりにもなります。たとえば「私たちの間だけで共有したいものについて話しますね」と言うように、はっきりと主張する意味があります。あるいは、玄関のすぐ脇に来客用の室内履きと靴下を入れたバスケットを置いておくような、暗黙の要求を示す意味もあります。また、あなたが自分のために限度を設けるのと同じく、他人もそれぞれに自分が持つ境界線をあなたに伝えようとしているのを忘れてはいけません。
家族のあり方や個性は、境界線をどう設定するか、どう受け入れるかを決定づける要素です。もしも、互いの承諾なく線引きをしたり、その線を無視したりするような家庭ならば、自身の要求を主張するために必要なコミュニケーション能力を培えないまま、成長してしまうでしょう。
たとえば、アルコール依存症を患う親に育てられた子どもには、境界線を設けるのに苦労する時期があるかもしれません。あるいは他の依存症を持つ親が、子どもの境界線よりも自分の中毒の方が重大なのだとメッセージを送ってくる例もよくあります。こうした親に育てられた子どもは、境界線の理解や、線引きが難しいまま成長しがちです。家族が、持つべき境界線をきちんと伝え、尊重する家庭であれば、どんな状況でも上手に線引きができるようになるでしょう。
「もろい境界線」とは?
個々それぞれの性格によって、境界線を尊重したり拒絶したりするときの受け入れ方は異なります。不安に陥りやすい人は、境界線を引かれることに過剰反応しがちです。こうした人々は、自分の置かれた状況に対してふさわしい反応ができないため、感情のコントロールが大きな課題となります。
また、いつでも正しくあろうとし、些末な違いに食ってかかったり、他者との違いをなかなか認められなかったりと、不快なものに強い拒否感を示す人は、境界線に反発しやすいと言えます。一方、寛容(変化を受け入れやすい)で高い意識(学び成長する意思がある)を持つ人は、境界線を尊重できます。
境界線は、年齢に関係なく、必要不可欠なものです。一定の関係で結ばれた人同士が変わるように、人間関係を変化させてくれます。結婚したり、大学進学のために家を出たり、家庭を築いたりするたびに新たに設定し直す必要がある、移り変わりを伴うものでもあります。
次に紹介するのは、実質的に3つのレベルに分けられる境界線の例です。あなたに近いものがあるかどうか、見てみてください。
【もろい境界線の行動パターン】
・情報を過剰に共有する
・共依存
・巻き込まれやすい(自分と他者との感情的な区別がつけづらい)
・断れない
・お人よし
・他者の意見に左右されやすい
・拒絶されるのがとてつもなく怖い
・不当な扱いを受け入れがち
【もろい線引きの例】
・やりたくない仕事も引き受けてしまう
・義務感に駆られ、あるいは金銭的余裕がなくても、他人にお金を貸してしまう
もろい境界線とは、簡単に侵されやすく、主張が不充分で弱々しく、無意識に有害となるものです。疲れきって、能力以上の仕事に手を出している感覚や憂鬱、不安を覚え、人との関係を居心地悪く感じるでしょう。脆弱な境界線は、健康を深く害するものなのです。
かたくなな境界線
もう1つの極端な境界線として、自分を守るため他人を寄せつけないように壁を作る、かたくなな境界線が挙げられます。自分を閉じ込めて安心感を得るのは健全なあり方とは言えず、さまざまな問題を引き起こしかねません。もろい境界線は、不適切な距離感(巻き込まれやすい)が特徴である一方、かたくなな境界線は必要以上の距離をとる自己防衛の方法です。たいていは、自分が傷つくのを恐れたり、これまで何度も人に利用された経験があったりするのが理由です。
かたくなに線引きをする人は、厳しくルールを定めており、例外を許しません。たとえ、それが自分にとっていい効果を生む可能性を秘めていても、です。「私は絶対に人にお金を貸しません」と言ったら、たとえ相手が窮地に陥っている友人で、めったなことではお金を借りたりしない人だとしても、その主張を断固として曲げません。
【かたくなな境界線の行動パターン】
・他人と物事を共有しない
・壁を作る
・傷つくのを避ける
・人付き合いが希薄
・他人に高すぎる期待を抱く
・厳しいルールを常に守る
【かたくなな線引きの例】
・相手が今後一切頼みごとをする気にならないように、依頼をにべもなく断る
・絶対に甥や姪の世話はしない、という独自のルールを持っている
その一方で、心地よい境界線は、あなたの過去とは関係なく、現在の交流の中で引けるものです。必要なのは、感情的、精神的、肉体的能力を自覚することで、はっきりとした明快なコミュニケーションとも密接に結びついています。
【心地よい境界線の行動パターン】
・自分自身の価値を明確に示す
・自分の考えを尊重する
・相手と必要に応じて共有する
・信頼を置いた人からほどよく影響を受ける
・心苦しく思わずに断れる
・他人から頼みを断られても、被害者意識を抱かずに受け入れられる
【心地よい境界線の例】
・そのときの自分にとって、もっとも適切な選択だと思ったら、謝らずに断れる
・過度な負担がなく余裕があるときには、必要に応じて他人に金銭的援助ができる
境界線を引くための2つのステップ
確かに、境界線を引くことは簡単ではありません。相手からどんな反応が返ってくるだろうと不安に駆られたり、ためらったりもするでしょう。心の中で、人付き合いが不器用なふりをして、最悪の結果に備えるかもしれません。でも信じてください。どんなときでも、快適な人間関係を長続きさせるために、一時的に不安を感じるのは大きな意味があるのです!
境界線を引きたいときは、「コミュニケーションと行動」の2つのステップを忘れないでください。
コミュニケーション
「あなたの求めるものについて言葉で伝える」、これが最初の1歩です。あなたの身ぶり手ぶりや無言の期待によって、相手はあなたの境界線を正確に認識できません。そうではなく、あなたが何を期待しているのか、はっきりと言葉で説明すれば、誤った接し方をされることも減るのです。何ごとも「明確に主張する」のがもっとも効果的な方法です。
たとえば、こんなふうに話してみてはいかがでしょうか。
・「意見が合わないときは、もう少し声のトーンを下げてほしいし、議論の中で興奮し過ぎたと思ったら、ちょっと一呼吸置いてほしい。もしもあなたの声を不快に感じたら指摘しますね」
・「一緒に作った計画を守ってもらえるかが、私にとっては大切なの。もしも変更が必要なら、出かける数時間前までにメールしてね」
行動
こうしてコミュニケーションがとれただけでは、線引きが成功したとは言えません。行動して、その内容を発展させる必要があります。相手があなたの気持ちを酌み取ってくれると当て込むと、心地の悪い人間関係を招きかねません。重要なのは行動です。
たとえば、友人にこう言ったとしましょう。「一緒に作った計画を守ってもらえるかが、私にとっては大切なの。もしも変更が必要なら、出かける数時間前までにメールしてね」。あなたは自分の境界線についてきちんと説明したのですから、もしもそれが破られたら行動で強く示さなければなりません。この場合であれば、事前の連絡もなく計画を勝手に変えられたら、それには応じられないと伝えればいいのです。丁寧に「一緒に出かけたかったけれど、どうしても予定を合わせられないの。来週に仕切り直しをしましょう」と言ってもいいのです。
もちろん、難しいときもあるでしょう。でも、行動を通して境界線を守る以外に、あなたが真剣に考えていることを分かってもらえる方法はありません。行動が伴えば、あなたの人生に関わる人たちは、あなたの境界線を真摯に受け止めてくれるはずです。
境界線は、あなたのためでも、相手のためでもある
私のワークショップでは、参加者に境界線についてうまく伝えられなかったときの体験を話してもらっています。
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なぜなら、ひとたび制限を設ければ、相手は従ってくれるものと信じ込んでいる人があまりにも多いからです。そうした人たちは、自分の限度を人に説明しても、実際の行動で示しません。そして、行動が欠けていると、人間関係において境界線が侵害される恐れが高まります。
ですから、あなたの境界線は尊重に値するものだと分かってもらう努力を惜しんではいけません。境界線を維持することは、あなたの責任なのです。
一番大きな不安は、相手がどう反応するか分からないところにあると思います。どんな反応が起こり得るかを知って、心の準備をしましょう。
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提供元:人間関係で「失敗する人」「うまくいく人」の決定差|東洋経済オンライン