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2022.09.21

「住まいの暖かさと健康」の意外と侮れない関係性|断熱性に優れた家のほうが在宅ワークも捗る


古い住宅の壁の様子。日本では断熱性能が冬に乏しく寒くなる住宅が全体7割を占め、健康上の問題となっている(筆者撮影)

古い住宅の壁の様子。日本では断熱性能が冬に乏しく寒くなる住宅が全体7割を占め、健康上の問題となっている(筆者撮影)

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「住まいと健康」は、住宅の世界で長く重要視されているテーマだ。

代表的なものによく眠れる住まいがあり住宅の設計や提案ではそのことを考慮に入れることが多いが、それはあくまで考慮に入れるにとどまり、よく眠れることでどんな健康上の改善があるのか、具体的な数値によって示される例はほとんどない。

もっとも、仮によく眠れる設計や仕様であっても住まい手が睡眠時間を削る生活をしていたら健康な暮らしをすることはできないが、そうした生活習慣を変えるキッカケとなる情報や注意喚起は、これまで住宅の世界では行われてこなかった。

因果関係を明らかにする動きが見られるように

いずれにせよ、住宅の世界では健康に関する性能について、しっかりと検証をし、数値などの変化を具体的に示す科学的な根拠(エビデンス)なしに「健康住宅」などと訴求されることが多かった。

例えば「冬でも暖かい」というのも住まいに関する性能の1つだ。住宅内が暖かく快適ならば、とくにお年寄りにとってリスクが高いヒートショック対策となるなど、人々が健康な暮らしをするうえで好ましいとされている。

しかし、それが居住者の身体にどう作用して好ましい状況を生み出すのか、ということは詳しく語られてこなかった。何となく健康には良さそうだ、という経験則のようなものがまかり通ってきたのだ。

ただ、ようやく健康な暮らしが実現する因果関係を明らかにする動きが見られるようになってきた。本稿では、科学的な根拠をベースにした新たなサービスを提供する事業者の取り組み事例も含め紹介する。

まずは、住まいの暖かさに関係する断熱について確認しておく。国の推計(2018年)では日本にある全住宅約5000万戸のうち、断熱性が低い住宅が7割弱[無断熱30%と1980(昭和55)年省エネ基準による37%の合計]を占めるとしている。

住宅ストック5000万戸の断熱性能

(出所:国土交通省資料)

(出所:国土交通省資料)

一方、WHO(世界保健機関)では、SDGs(持続可能な開発目標)に関連して、「冬季の室温18℃以上」とすることを強く勧告しているが、その条件を満たす住まいは日本全国で1割に過ぎないという。

このような状況に危機感を持った国は、2014年から全国の医学・建築学などの研究者が参画し「スマートウェルネス住宅等推進調査事業」を推進している。今回、筆者は同事業による「断熱改修等による居住者の健康への影響調査」の結果の概要に触れる機会を得た。

これは住宅内部の温度と、血圧や脈拍などといった居住者の身体の状況の関係を検証した、日本では初めての科学的検証に基づくものとして明らかにしたものだ。

以下でその調査で判明した概要を紹介するが、一連の調査に参加した研究者の1人、伊香賀俊治・慶應義塾大学理工学部教授の成果発表に基づくものであることをあらかじめ記しておく。

明らかになってきた住まいの暖かさと健康の関係

さて、調査によると冬季の在宅中における居間の平均室温では、香川県が13.1℃で最下位(トップは北海道の19.8℃)になるなど、温暖とされる地域ほど居室の温度が低いという結果になった。

では、断熱改修をした住宅にはどのようないい効果があるのだろうか。改修後とそれ以前の住宅を比較したところ、前者では起床時の最高血圧を被験者の平均で3.1mmHg改善させる効果が見られた。改修は「内窓を設置する比較的簡単な工事によるもの」(伊香賀教授)という。

このほか、コレステロール値などの健康診断の結果や過活動膀胱(夜間の頻尿など)についても、改修後の暖かい住宅は改修前の住宅に比べて居住者の数値や回数が改善されていたとしている。

上下階・居室間の温度差が少ない住宅では、そうではない住宅と比べて糖尿病や高血圧症、糖質異常症の発症リスクが小さくなる可能性があることも、調査によって明らかになってきたと報告されている。

ここまでは主に高齢者を中心とした居住者にとっての「暖かい家」の健康メリットだが、若い世代にもメリットがあるということも確認されたという。その1つが在宅ワークについてだ。

在宅ワークスペースのイメージ。その設えだけでなく温熱環境も作業効率を高める重要な要素になる(筆者撮影)

在宅ワークスペースのイメージ。その設えだけでなく温熱環境も作業効率を高める重要な要素になる(筆者撮影)

1980(昭和55)年の省エネ基準による住宅(断熱等級2)と、2016年からの現行基準の住宅(等級4)、それ以上の断熱性能がある住宅(等級6:今後設けられる基準)の比較で、等級6と等級4の住宅に住む人の作業効率が等級2を大きく上回ったとしている。

暖かく適度な湿度がある住宅は、子どもの健康にもいい効果があることがわかってきたという。

「かび臭く寒い住宅」では、それに比べてアレルギー性鼻炎で1.8倍、アトピー性皮膚炎で1.7倍、ぜんそくで0.4倍の発症があったと報告されている。

また、足下まで暖かくできる断熱性能が高い住宅であればあるほど、月経前症候群や月経痛の軽減などといった、女性特有の健康上の悩みも改善される可能性があるということも確認されたとしている。

全館空調の効果についても言及されている。居室内の環境をより快適にコントロールできるとされるものだが、睡眠や血圧について個別のエアコンを使っているケースに比べより良好な状態になっていたとしている。

暖かい住まいは介護予防にも効果がある

高齢者の介護予防についても触れられている。暖かな住まいに住む人(冬季の居間の平均室温17.0℃)の要介護認定推定年齢は平均80.7歳で、寒い住まい(同14.7℃)に住む人のそれは77.8歳となっていたとしている。

近年、「健康寿命」という言葉がよく使われるようになってきた。これは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間と定義されているが、暖かな住宅はその健康寿命の延長に効果があると見られるわけである。

介護施設の浴室の様子。このような充実した設備がある施設でサービスを受けられる期間は今後、短くなると予想され、だからこそ在宅介護ができる住まいの重要度が高まる(筆者撮影

介護施設の浴室の様子。このような充実した設備がある施設でサービスを受けられる期間は今後、短くなると予想され、だからこそ在宅介護ができる住まいの重要度が高まる(筆者撮影

ところで、なぜ住まいと健康について科学的な根拠に基づく検証が進められているのだろうか。

前述した断熱性の低い住宅を減らすだけでなく、今後、医療・介護の主となる在宅での対応をしやすい環境づくりを促すという目的がある。

日本は「人生100年時代」に入り、今後は社会保障費や、医療や介護の人的な資源を有効活用するために、住まいの役割がより重要度を増すと考えられている状況なのだ。

ここで、住まいと健康の関連性について、科学的な根拠に基づき事業を行っている事例を紹介する。福岡市に本社がある芙蓉ディベロップメント(芙蓉ホーム)は8月1日に「健康寿命延伸住宅」を発売した。

高気密・高断熱化住宅に「健康管理システム」を組み合わせているのが大きな特徴となっている。

同システムは、全国の医療機関や介護施設で患者や高齢者などの症状重度化防止に実績がある。居住者が体温計や血圧計などを使い、日々の数値を記録。ICT技術を用い管理し、蓄積されるデータの変化から、AIが体調の異常を検知した際には、居住者に通知するというものだ。

芙蓉ホームが導入する健康管理システムで使用される機器(筆者撮影)

芙蓉ホームが導入する健康管理システムで使用される機器(筆者撮影)

蓄積されたデータは医師に提示することで疾患の早期発見に役立てられる。食事や運動の管理や月次のレポートを作成、提示することで、より健康的な暮らしを可能にするための行動変容も促すとしている。

課題があるとすれば、居住者が自ら毎日体温計などで確認し、数値を入力しなければならないことだろうか。

つまり、三日坊主的な人では宝の持ち腐れになる懸念もある。とはいえ、医療機関などと連携できるというのは画期的だ。

住まいが居住者の健康状態を確認する時代へ

そうした課題の解消に向けたシステム開発を進めている事業者も存在する。脳卒中や心筋梗塞などを発症した居住者に対して、早期に発見し救急対応するネットワーク「HED-Net」を開発、検証している積水ハウスだ。

具体的には、住宅内に設置されたセンサーによって居住者の状態を非接触で検知・解析し、スピーカーでの呼びかけに反応しない場合には、救急車を手配し、さらに解錠・施錠などを行うというものである。

センサーやAIなどを含むICT技術の発展がなせる技であり、今後の「住まいと健康」のあり方を予感させる取り組みで、すでに実証実験も行われているといい、本格的な運用が強く期待される。

最後に、これから住宅取得を行う方へ筆者から提言がある。断熱性能が高い暖かい住まい、さらには各種の健康サービスを採り入れることも大切だが、将来、身体機能が衰えた際に暮らしやすくする間取りや動線への配慮も検討することをお勧めする。

要は、在宅医療や介護を受けやすい、あるいはサービス提供をしやすい住まいとするわけだ。住宅取得は、子育てなど、そのときのニーズを重視しがちだが、そうした観点を持っていると、より長く安心、健康に暮らせる住宅を得ることにつながるはずだ。

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提供元:「住まいの暖かさと健康」の意外と侮れない関係性|東洋経済オンライン

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