2022.09.16
健康診断「異常あり」ワースト1沖縄が抱える問題|元長寿県に起こった問題は対岸の火事ではない
(写真:gypsyhirano/PIXTA)
元長寿県に何が起こっているのか――。健康診断で「異常あり」の割合が全国一高い状態が11年も続いているのが沖縄なのだ。
筆者らの前回の記事(労働者の6割が健康診断「異常あり」の深刻な事態)では、全国平均で6割に達しようとする有所見率(健康診断を受診した人のうち、有所見者の占める割合)の背景や業種別の有所見率の傾向、健診後に医療機関を受診する「二次検診」の現状について解説した。
ただ、沖縄の「異常あり」の割合が高いとしても、これを沖縄県だけの話で済ますわけにはいかない。すべての日本国民にとって対岸の火事ではないのだ。
労働者の6割が健康診断「異常あり」の深刻な事態 ※外部サイトに遷移します
11年連続で都道府県別ワースト
厚生労働省沖縄労働局が発表した定期健康診断実施結果によると、2021年の沖縄県の職場の健診の有所見率は、前年比0.9ポイント上昇の70.4%で、都道府県別でワーストという不名誉な記録を更新した。全国平均(58.7%)と比べても、その深刻さがわかる(下の図)。
過去の推移を見ると、2009年、2010年の2年間は福井県が最下位だったが、2011年以降は沖縄県が最下位に。その状態が11年続いている。
沖縄県では毎年、恒例行事のようにこの結果を地元メディアがこぞって記事にする。同県でも対策に腰を上げていて、同県労働局は事業所を通じて食生活の改善、運動不足の解消、適正飲食を推進するよう再三、呼びかけているがその効果はおもわしくない。
2021年の沖縄県の検査項目別の有所見率は、血中脂質が42.6%(全国平均33.0%)、血圧が24.9%(同17.8%)、肝機能が24.1%(同16.6%)で、これらの検査項目が特に高い傾向にあった。業種別では製造業(80.6%)、建設業(75.3%)、運輸交通業(74.7%)が高い業種となっている。
同県は観光や運輸などの第3次産業の人口割合が東京に次いで高いことから(2020年国勢調査)、運輸交通業の割合の高さが県全体の有所見率を引っ張っているという、観光産業の盛んな沖縄ならではの事情とも考えられる。
近くのコンビニにも車で行く
では、なぜ沖縄の有所見率が高いのか。その理由を知るには歴史的な背景を紐解く必要がある。
第二次世界大戦の影響が残る1940~1960年代、沖縄県民の栄養状態が悪かった。その後、70年代から80年代以降になると経済状況が良くなったものの、飲酒量の多さが指摘され、食の欧米化によりカロリーや脂質・糖質を摂りすぎる状態となった。
また、公共交通機関の発達が十分でないことにより、近くのコンビニエンスストアに行くにも自動車を使うのが当たり前の車社会で、これが運動不足の原因になっていた。
沖縄県浦添市にある一般社団法人群星沖縄臨床研修センターのセンター長で総合内科医の徳田安春医師は、「沖縄県はまさに、オーバーヌートリション(Overnutrition=過剰栄養)の問題を抱えている。血中脂質や血圧の異常値は、内臓脂肪型肥満や高血圧、高血糖、脂質代謝異常というメタボリックシンドロームの診断基準とも重なる。非アルコール性脂肪肝の原因にもなりうる」と指摘する。
そのうえで、「沖縄県の人に限らず、有所見の人が再検査を受けたり、適切な治療を受けたりするよう誘導するのは非常に難しい。なぜなら人が一度、身につけた生活習慣を見直して、行動変容をさせるのは容易ではないからだ。個人へのインセンティブを与える手もあり、例えば、有所見の人が再検査や治療を受けるなどしたら、公共料金などを無料や割り引いたりするといった行動経済学的なアプローチも有効かもしれない」と、提案する。
沖縄県=長寿のイメージを持つ人も多いだろう。しかし、残念ながら、過去の話となりつつある。
厚労省は5年ごとに都道府県別生命表を公表しており、沖縄県は1975年から集計に加えられた。1995年に大田昌秀知事(当時)が「世界長寿地域宣言」を出したように、沖縄県の平均寿命は女性が2005年まで全国トップを維持、男性も1980年と1985年には全国1位となった。
ところが、1995年は4位だった沖縄県の男性の平均寿命が、2000年の調査で26位に急落。この衝撃は「沖縄26(にーろく)ショック」と呼ばれた。さらに2015年の調査では、男性36位(80.27歳)、女性7位(87.44歳)に順位を落としている。
徳田氏は、「沖縄26ショック」といわれた当時を鮮明に覚えていると話す。「その頃、県立中部病院の内科に勤務しており、病院で関係者が集められ、対策を協議した」と振り返る。
ただし、沖縄の平均寿命が縮んだことは一度もない。では、何が順位を落とす要因だったかというと、2015年の数値から2010年の数値を引いた、いわゆる平均寿命の“延び”が、男性41位、女性42位と、他県に比べて鈍化しているのだ。
沖縄県は今年、本土復帰50周年を迎えた。同県の男女ともに平均寿命の順位が下がった背景には、冒頭で紹介した有所見率の要因もあると考えられる。米軍統治下で一般家庭の食卓に浸透していった「食の欧米化」の影響が考えられるのだ。
日本初のファストフード店が進出したのは沖縄だった。
県民の肥満が増え健康悪化に拍車
また、子どもの頃から、野菜をふんだんに使ったチャンプルーなどの沖縄料理を食べて育ち、健康的なカラダの基礎をつくり“長寿”県沖縄を牽引してきた、おばあ(高齢者)世代が亡くなって減っていることも関係している。こうした食の欧米化やアルコール摂取量の増加によって、県民の肥満が増え、健康悪化に拍車をかける悪循環になっている。
もちろん、沖縄県の医療機関も手をこまねいていたわけではない。深刻な状況と受け止めて、いろいろなアプローチを試みている。
豊見城市にある社会医療法人友愛会豊見城中央病院附属健康管理センター(以下、健康管理センター)は、同市からの依頼を受け、市民向けの生活習慣病予防を目的としたセミナー「スリム健康倶楽部」を継続して開催している。2020年以降の新型コロナ禍の影響で開催を断念することもあったが、人数を大幅に制限するなどして年3回のペースで続けている。
健康管理センター・センター長の宮城源医師は、生活習慣病の早期発見、そして早期介入することが健診の意義だと考える。
加えて、「生活習慣病の早期発見、早期介入ができないと、現在の食生活を含めた生活習慣をそのまま継続することになるため、生活習慣病が引き起こす心疾患、脳血管疾患による早期死亡、また死亡しなくても合併症による生活の質の低下などで、健康寿命の短縮が進むことになる」と話す。
宮城氏は「沖縄26ショック」から20年あまりが経過した今も、「県民の健康状態はさらに悪化しているように感じる」と話すが、沖縄県に限らず、全国的に見ても有所見率は年々上昇傾向にある。
「国民の健康状態の悪化は日本経済の停滞と深く関係している。健康にいい食事を摂ろうとするとコストがかかり、コストを削減しようとすると、健康に悪い食事になりやすい」と宮城氏は言う。
主に先進国で構成されるOECD(経済協力開発機構)のデータによると、日本の平均所得はこの30年間でほぼ横ばい傾向だ。増加していない国は日本だけである。
経済的に生きるのに精いっぱい
これを受け宮城氏は、「国の経済力が落ちるほど、国民は生活に余裕がなくなる。たとえ有所見が出ていても、経済的に生きるのに精いっぱいであれば、受診者はそれどころではなくなってしまう」と危惧し、「日本の経済力(国民所得)を上げることが、国民の健康のための一番の薬ではないか」と話す。
つくばセントラル病院(茨城県牛久市)健診センター長の神谷英樹医師は、「職場の健診に限れば、有所見者を再検査・治療につなげるためには、事業所やそこの産業医が労働者に受診を促すことが最も効果的と考えている」という。
しかしながら、常勤の産業医や保健師が勤務するような大企業を除いては、あまり、積極的に関わっていない印象という。「職場の健診の場合、本人の意思ではなく、職場からの指示で仕方なく受診されている人も見受けられる。このような方の場合は、再検査などの受診につながりにくいため、健診後の受診勧奨といった施策のみではなく、日常の健康教育により健康リテラシーの向上を目指すことも必要であると考えている」と話す。
前出の徳田氏は、2007年9月に上梓した著書『今からでも遅くない病気にならない健康生活スタイル』(共著・西村書店)で、今後の日本を暗示するメッセージを記している。「26ショックは沖縄県だけの問題ではない。運動不足や食習慣の欧米化は、日本全体で見られる問題だ。欧米文化の先駆けとなった沖縄は、将来の日本の姿を表すものだ」。
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提供元:健康診断「異常あり」ワースト1沖縄が抱える問題|東洋経済オンライン