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2022.09.15

労働者の6割が健康診断「異常あり」の深刻な事態|しかも「要再検査を放置している人」が約半数も


健診で「異常あり」と判定される人が年々増えているようです(写真:rogue/PIXTA)

健診で「異常あり」と判定される人が年々増えているようです(写真:rogue/PIXTA)

健康診断を受けた人のなかで有所見者の占める割合“有所見率”が、今、6割に急接近している。

有所見者とは健診で医師が判定した「異常なし」「要経過観察」「要再検査」「要精密検査」「要治療」のうち、「異常なし」以外の人をいう。

上昇傾向が続く有所見率

有所見率は、厚生労働省がまとめた定期健康診断実施結果でわかる。定期健康診断実施結果は、50人以上が常勤している事業所が実施する定期健康診断、いわゆる“職場の健診”の有所見率などを集計したもの。労働安全衛生法第66条に基づき、事業者は労働者に対して医師による健康診断を実施しなければならない、労働者は事業者が実施する健診を受けなくてはならないとしている。

結果を見ると、2021年は58.7%。1997年までは3割台だったが、2008年に5割を超え、それ以降、上昇傾向を続けている(下の図)。

厚生労働省「定期健康診断実施結果報告」をもとにメディカル・データ・ビジョン作成

厚生労働省「定期健康診断実施結果報告」をもとにメディカル・データ・ビジョン作成

有所見率の上昇傾向は、加齢に伴い、高血圧症、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病の予備軍が増えていることが要因と考えられる。

社会医療法人若竹会が運営するつくばセントラル病院(茨城県牛久市)健診センター長の神谷英樹医師は、「就業人口の年齢分布は若年者が減少し、高齢者が増加しているので、定期健康診断での有所見率の上昇は高齢者が増加した影響を受けていると考えられる」と話す。そのうえで、「年齢や年代ごとの有所見率の推移を検討する必要があるが、生活習慣病が増加している可能性もある」とコメントする。

なお、定期健康診断結果報告は健診の実施者数と有所見者数を報告することになっているが、性別、年齢を記載するようになっていないため、年齢別の有所見率や年齢調整した有所見率を算出することはできない。

一方で、こんな意見もある。

厚労省のがん検診に関する検討会などで構成員を務めている医師で、公益財団法人福井県健康管理協会(福井市)の松田一夫副理事長・がん検診事業部長は、「有所見率の年次推移は意味があるのかもしれない。ただし、労働安全衛生法に基づく職場の健診の有所見率は、判定する医師のばらつきが大きいと思う」と指摘する。

3人に1人が血中脂質の異常

検査項目別の有所見率では、血中脂質が33.0%と最も高く、次いで血圧が17.8%、肝機能が16.6%だった 。

遺伝的な要素や体質だけでなく、食習慣、運動不足、肥満などが影響しているとみられる検査項目が有所見率の上位となり、それぞれ上昇している。こちらについて前出の神谷氏は、「血圧や脂質、血糖、肝機能、心電図で有所見率が徐々に増加しているので、生活習慣病やその予備軍が増加していることが読み取れる。これも、先ほど指摘したように、受診者の年齢の影響を受けるので、単純に、『生活習慣病が増加した』と結論づけることはできない」という。

貧血も徐々に増加しているが、その理由はよくわからないという。そのうえで、「定期健康診断で貧血を認める方の多くは閉経前女性なので、受診者の女性比率の上昇、つまり就業人口に占める女性の割合が増えている可能性がある」と考察する。

かつて地域産業保健センターからの委嘱で複数企業の産業医をしていた千葉大学予防医学センター(千葉市)の坂部貢特任教授は、職場の健診で血圧測定する受診者からよく聞く言葉として、「健診で測定すると血圧は高くなるが、自宅でリラックスして測るとこれほど高くならない」という言葉を挙げ、これには意外なリスクが潜んでいると指摘する。

医療環境下で血圧が高くなる、いわゆる「白衣高血圧」の人は、早朝高血圧や夜間高血圧が生じているケースもあり、常に血圧レベルの高い人と同じように、脳卒中などを発症するリスクを抱えているというのだ。

貧血については、現行はヘモグロビンの数値が中心になっていて、鉄分やフェリチンなどが足りなくなる、いわゆる“隠れ貧血”を見つけ出せていないケースがあることにも注意が必要だという。 

健診内容全体について、前出の松田氏は「健診項目で最も意味があると世界的に認められているのは、肥満度と血圧、および血糖値のみ」と指摘。また、「職場の健診では、空腹時ではなく午後(食後)にも行われていると思うので、とりわけ、血中脂質や血糖値の判定には疑問が残る」とし、こうアドバイスする。

「(健診は)空腹時に限り、この3つの項目に絞って、医師の判定ではなく、BMI(Body Mass Index:体格指数)、2回実施する血圧測定の平均値、内服薬の有無、空腹時血糖値、あるいは過去1~2カ月間の血糖値を示すHbA1c値のみで比較することで、意味があるかもしれない。医師の判断だけでなく、数値で判断したほうがいいだろう」

定期健康診断実施結果では、業種別の有所見率もわかる。

最も高かったのは「石炭鉱業」で88.9%。次いで「土石採取」(78.3%)、「道路旅客」(74.9%)となった一方で、最も低いのが48.1%の「鉄道等」で、「他の運輸」(51.3%)、「輸送機械」(52.3%)の順番だ(下の図)。

厚生労働省「定期健康診断実施結果報告」をもとにメディカル・データ・ビジョン作成

厚生労働省「定期健康診断実施結果報告」をもとにメディカル・データ・ビジョン作成

これについて坂部氏は、過去の産業医の経験も踏まえ、「当時はほぼ同年代で比較すると、IT関連企業の研究職の有所見率は低い傾向、トラックなど運輸、物流関係の有所見率は高い傾向だった」と指摘する。

建設業の「土木工事」の有所見率は70.9%、「建築工事」は61.9%と、上位3位には入っていないが、高い水準だ。

等潤病院(東京都足立区)などを運営する社会医療法人社団慈生会の伊藤雅史理事長は、医師として外来診療や手術をするかたわら、同院に併設する健診センター等潤で、健診受診者の判定もしている。

「当院のある地域の特性で建設業に従事する人を多く診ているが、有所見で要再検査などと判定するケースは少なくない。建設業は力仕事のストレスを発散するためか、酒を飲み過ぎたり塩分を取り過ぎたりするなど、食生活を起点にした生活習慣病の予備軍が散見される」と話す。

受けっぱなしにしない現場の工夫も

有所見者が自主的に医療機関に行くのが望ましいが、職場などから再検査や治療を受けるようよう促されても、働き盛りの世代は忙しいことを理由に健康管理を後回しにするので、病気を早期発見できなかったり、治療のタイミングを逃したりしてしまう。

有所見となった人が実際にどの程度、再検査や治療を受けたかといったデータの最新のものは見当たらず、厚労省がまとめた2012年「労働者健康状況調査」にまでさかのぼらなくてはならない。

この調査によると定期健康診断で「所見ありと通知された人」を100.0%とすると、「要再検査または要治療の指摘があった人」が75.0%、そのうち「再検査または治療を受けた人」が48.3%、「再検査または治療を受けなかった人」が26.7%だった。

有所見と判定された人が周りに言われるのではなく、自分の意思で後日、再検査や治療のために医療機関を受診することが望ましいが、前出の伊藤氏は、「例えば、(事業所が実施する定期健康診断にある聴力検査で)聴力に異常があったとしても日常生活に大きな支障を来さないため、医療機関を受診しようという発想にまではいたらないのだろう」と話す。

前出の坂部氏も、「再検査を受けなければ、最初の健診自体の意味がなくなることを真剣に考えなくてはいけない」と強調する。もちろん、職場で有所見の人が再検査を受けることが自然になるような雰囲気の醸成も必要だ。

そんななか、山香病院(大分県杵築市)は健診後に医療機関を受診する「二次検診」の受診率向上に向けた試行的な取り組みをしている。

同院健診センターで健診を受け、生活習慣病(血圧、血糖、脂質)および、がん(肺、胃、大腸、子宮、乳)の項目で要精密検査対象となった人で、健診後3カ月が経過しても二次検診を受けていない人に対しては、従来、郵送の書面を通じて医療機関を受けるよう促す“受診勧奨”をしていたが、2016年から、これまでの3カ月後に加えて、6カ月後にも受診勧奨をはじめた。その効果を、同院健診センター保健師の平早水陽子さんらが調査した。

その結果、2014年に48.4%、2015年に56.0%だった二次検診受診率が、2016年には63.7%に上昇。細かくみると、2016年の受診率は、がんが74.1%だったが、生活習慣病は51.8%にとどまっている。年代別でみると、生活習慣病の受診率は高齢者に比べ若年層で低かった。

この調査では二次検診ついて、そもそも受診しなかった理由も聞いている。その中で最も多いのが、「自覚症状がない」、その後に「前回、受診したが問題なかった」「時間がない」「忘れていた」「自分のことを考える余裕がない」――などと続く。

生活習慣病などでは特に、若年の働く世代は生活全般に余裕がないことなども相まって、自分の健康や未病(発病には至らないものの健康な状態から離れつつある状態)に対して意識を向けにくいことが浮き彫りになった。

コロナ禍の受診控えも懸念材料に

健診結果で有所見となっても、新型コロナの感染拡大による受診控えによって再検査や治療を受けていないケースも想定される。コロナ禍は患者や健診受診者の行動に少なからず影響を与えている。

最近の事例としては、特定健診の実施状況が挙げられる。

特定健診とは、生活習慣病の予防のために40~74歳の人を対象とするメタボリックシンドローム(内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさり心臓病や脳卒中などになりやすい病態)に着目した健診だ。メタボ健診とも呼ばれる。

厚労省が発表した2020年度の特定健診の実施状況によると、コロナ禍の受診控えと見られる動きがあった。同年度の特定健診実施率は53.4%となり、2019年度に比べて2.2ポイント低下した。

健診後の受診控えによって、早期発見・治療がしにくい環境になることにも留意する必要がありそうだ。

「業務上疾病発生状況等調査」はここから参照可能 ※外部サイトに遷移します

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提供元:労働者の6割が健康診断「異常あり」の深刻な事態|東洋経済オンライン

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