2022.09.10
咳、肩こり、頭痛、耳鳴り…それ慢性上咽頭炎かも|鼻の奥に綿棒を突っ込んで擦るEAT治療が有効
さまざまな不調をもたらす慢性上咽頭炎とはどのような病気でしょうか(写真:mits/PIXTA)
寝不足の原因は、もしかしたら「鼻」の不調のせいかもしれません――。
いびきに悩む人は実に4000万人いるといわれています。いびきや鼻づまり、アレルギー性鼻炎などで「鼻呼吸」がスムーズにできないことで、睡眠負債が蓄積され、さまざま不調や病気になることも。
睡眠医学の専門医である高島雅之氏の著書『専門医が教える鼻と睡眠の深い関係 鼻スッキリで夜ぐっすり』から一部抜粋して紹介します。
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鼻には問題がないのに、鼻の奥の方がつまっている感じがして、呼吸に対して抵抗感を感じているという人がいます。しかし、いろいろな診療科を受診しても「何ともない」と言われ、処方される薬を試しても全然変わらない。そんな症状が長い間続くとき、それは「慢性上咽頭炎」かもしれません。
最近では新型コロナの後遺症にも慢性上咽頭炎が関係していて、だるさがどうしても取れないといった症状が、慢性上咽頭炎の治療によって改善する可能性がいわれるようになりました。
慢性上咽頭炎とはどんな病気か
慢性上咽頭炎とは、鼻の一番奥の上咽頭という場所に慢性的な炎症が起こるものです。実はこの慢性上咽頭炎、鼻の不調やだるさ以外にも、さまざまな身体のトラブルの元になることがあるのです。
まず、上咽頭炎による直接の症状としては、のどの違和感、後鼻漏(鼻水がのどに落ちる)、咳が止まらない、肩こり、頭痛、耳鳴り、知覚過敏、顎関節痛などがあります。それによってだるさやめまい、不眠などの睡眠障害、起立性調節障害、集中力の低下、過敏性腸症候群、機能性胃腸症、慢性疲労症候群、繊維筋痛症など、自律神経の乱れを介した症状として現れるとされています。
原因不明の不調が長く続いている、いろいろ診察を受けてもどこも悪いところはないといわれる、そんな方は慢性上咽頭炎の治療をしている耳鼻科で相談されてみてはいかがでしょうか。慢性上咽頭炎の治療を行っている施設については日本病巣疾患研究会のHPより確認ください。
日本病巣疾患研究会 ※外部サイトに遷移します
非常に多岐にわたる症状を発症するきっかけとなる慢性上咽頭炎は、睡眠にも深刻な影響を与えます。治療としては、「上咽頭擦過療法」という処置の治療が効果的です。今は国際的にも通じるようにと、日本病巣疾患研究会がEpipharyngeal Abrasive Therapy という呼称を付けて、その頭文字をとって「EAT」と呼ばれています。
EATは、もともと1960年〜70年ごろに脚光を浴びた治療法で、東京医科歯科大学の教授だった堀口申作医師によって広められました。しかしその後衰退してしまいました。
衰退してしまった理由として、「万病にきく」「ガンさえも治る」というような論調が生まれてきたことで、徐々に人々が懐疑的になり離れていったということと、もう1つには、鼻の奥を口から綿棒を突っ込みグリグリ擦ることから、とても痛い治療ということで、「あそこの病院に行ったらとても痛い治療をされて、血も出るし、ひどい目にあった」というような、正しい治療を行っているにもかかわらず風評被害に遭うケースがあったことが原因だと思われます。
しっかりグリグリとのどを擦る
EATでは、まず鼻の中に綿棒を入れて、鼻の奥(上咽頭)の天井を擦ります。次に、今度は同様に口から曲がった綿棒を入れて上咽頭を擦りつけます。このとき、血が出るまでしっかり擦らないと、治療の効果が得られません。しっかりグリグリと上咽頭全体を擦るからこそ効くのだと、研究会のHPにも書いてあります。
EATは、さまざまな症状に効果をもたらしてくれる可能性がある治療です。しかしすべての症状が必ずよくなるわけではありません。
治療効果のためしっかりと上咽頭を擦るEATは、ややつらい治療でもありますので、当院では患者さんにご理解いただいたうえで、「頑張ってやってみたい」という方にEATを行っています。
これまで他院でEATを行ってきたものの、効かなかったという方に聞いてみると、ゴシゴシ擦るというほどではなく、なでる程度でしかやっていなかったとのことでした。
そういった方々に、しっかりと擦って治療を行っていくと、「肩こりが良くなってきた」「首の痛みが取れた」「最近首が回るようになった」と、当初訴えていた症状以外のことについても変化を感じる方が多くいます。
手のひらや足の裏に水ぶくれのできる掌蹠膿疱症の方で、「長年、手や足がどうしてもよくならなかったのが、この治療でぴたっと治った」とか、リウマチの方で「こわばりがすごく楽になった」という人もいました。
きっと、症状はさまざまなのでしょうが、なかなかすべての症状に気が回りません。あまり気にかけていなかった症状が、ふと思うと変化していることに後から気づくのでしょう。「鼻の呼吸が楽になった」とか「寝つきがよくなった」、「夜中に目を覚まさなくなった」、「目覚めがよくなった」など、鼻や睡眠に関する自律神経症状が改善し効果が得られたのだろうと思われる人もいますし、その結果、睡眠導入薬や安定剤を減らすことができた、止めることができた、という声もありました。
睡眠障害の解決方法の1つとして、EATは重要な役割を果たせるのではないかと私は考えています。
あるプロ棋士の男性を診察したことがあるのですが、対局の前日、当日、翌日までめまいや動悸、頭痛、首コリ、不眠など多くの症状に悩まされていました。
リウマチの症状で身体を動かすのがつらいとのことで、お母さんがたまたま当院でEATをされており、EATによって身体が楽になり、動けるようになることを大変喜んでいました。逆に、動けることがうれしくて家事など動きすぎてしまい、その後痛みが出てしまうことを困りながらも笑顔で伝えてくれます。
そんなお母さんから、プロ棋士である息子のつらそうな様子を心配され、EATは効くだろうかと相談を受けました。こういったさまざまな症状を伴っていて、身の置き場のないようなつらい症状に対して、EATは効果を発揮することが多いという感触を得ていたので、「効きめがありそうに思います」とお伝えすると、ほどなくして息子さんは受診されました。
1回目の治療後から症状が軽く
この治療はけっこうつらい治療なので、私は最初の2回ほどは軽めにEATを行い、ちょっとずつ慣らしていくようにしています。しかし彼は1回目の処置の後から、さんざん悩んでいた症状が次の日には楽になったと伝えてくれました。
将棋の対局は、長いときには12時間を超えるのだそうです。前日から対局相手の分析やシミュレーションなどもあり、きっとかなりの緊張モードにあるのでしょう。当日は長時間、対局に集中しなければなりませんから、気力・体力・精神力と、3拍子も4拍子も要求される厳しい世界なのだろうなと想像します。
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そんな世界に身を置いているのに、動悸がする、頭が痛い、めまいがする……といった症状があったら対局に集中できるはずがありません。これまでひどいときは朝まで寝られなかったと言っていた彼が、今は寝つきもよくなり、よく寝られるようになったそうです。その相乗効果でしょうか。めまいや頭痛、動悸なども良くなっているようです。
対局はほぼ毎週あるので、症状を繰り返していますが、対局や症状に合わせて通院しており、症状がひどいままにはならずにいられるようです。そんな彼の治療をになわせてもらい、戦績にも影響するのではないか? と興味をもっていました。彼にもそのことを伝え、調べてみると、EAT開始前の月は全敗でしたが、開始した1カ月で3勝2敗と勝ち越していました。今後さらにいい結果につながってくれることを願っています。
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提供元:咳、肩こり、頭痛、耳鳴り…それ慢性上咽頭炎かも|東洋経済オンライン