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2022.09.07

「生きづらさを感じた心をラクにする」3つの対策|私たちが唯一コントロールできる「今」を大切に


生きづらさを感じたときにどうすればいいか――。住職の教えを紹介します(写真:Aurinko/PIXTA)

生きづらさを感じたときにどうすればいいか――。住職の教えを紹介します(写真:Aurinko/PIXTA)

時間に追われ、数字に追われ、誰かからの評価に追われる昨今、「今この瞬間」に意識が向かない人が増えてきました。すでに過ぎたことをいつまでも引きずり、まだ起こってもいないことに不安を抱く――。そんなふうに毎日を過ごしていませんか?

禅では「今を生きること」を説いています。

今を生きるとは、今できること、やるべきことにフォーカスし全力を注ぐことです。過去も未来も自分ではどうすることもできませんが、「今この瞬間」だけはコントロールできます。

兵庫県明石市にある禅寺、雲晴寺の住職を務める五十川幸導氏の新刊『今を生きる練習』では、生きづらさを手放し人生を穏やかに生きるヒントとなる話を42話収録。本稿では、同書を抜粋しお届けします。

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「あのときもっとこうしていれば」「あんなこと言わなきゃよかった」「明日のプレゼンで失敗したらどうしよう……」

過去を振り返って後悔したり、未来を不安に思ったりすることは、誰にでもあります。ただ、いくら悔やんでも過ぎてしまったことは変えられませんし、まだ現実に起こっていないことを心配しても仕方がありません。

過去と未来は心が生み出した幻想

禅の言葉に「莫妄想(まくもうぞう)」というものがあります。妄想すること莫(なか)れ、という意味です。

禅における「妄想」とは、「自分の考えや思い込みにとらわれてしまっている状態」のこと。はじめは小さな思い込みでも、放っておくとウイルスのようにどんどん広がって、いつしか取り返しのつかないことになってしまいます。

これは、樹海の森とよく似ています。樹海に入っても、入り口であればまだ引き返すことができます。「危ない危ない、戻らなければ」と正気になれば、こちらの世界へ引き返してくることが可能でしょう。しかし妄想の森に迷い込んでしまうとなかなか抜け出せなくなって、あなた自身をどんどん蝕んでしまいます。ときには妄想が人の命まで奪ってしまうことさえあります。

まだ起きていないこと、現実になっていないことを心配し、自分で不安を大きくして悩んでいることはありませんか? 自分が考える心配事は、自分自身で作りだしているもの。意外と思い込みである可能性も高いです。

「妄想」にとらわれない。そのために私たちは過去でも未来でもなく、「今を生きること」が大切なのです。

過去の後悔、未来の不安、思い込みにエネルギーを使うのではなく、「今できること」に全力を注いでほしいと思います。世の中、自分の力ではどうにもできないことがたくさんあります。そんなときはあれこれ考えを巡らすのではなく、自分が「今できること」を淡々とこなしてみてください。いつか答えにたどり着くはずです。

この一息で「今この瞬間」を実感

仏教には「而今(にこん/じこん)」という言葉があります。「この今」という意味です。誰しも、「今この瞬間」しか生きることができません。昨日の自分はもうすでに死んでいるのと同じです。人は、一瞬一瞬、命を削って生きているのです。

だからこそ、

「今」は何をすべきなのか?

「今」幸せを感じているのか?

「今」の生き方に満足しているのか?

あらためて自分の心に問いかけてみてください。

現在、生き方に満足している人は、きっと自分の信じる道を、使命感を持って進んできたのでしょう。悩みながらも自分や周りを信じて、一瞬一瞬を無駄にせずやってこられたのだと思います。それはとても素晴らしいことです。

今、幸せを感じていないという人でも、焦る必要はありません。今この瞬間から前を向いて、一歩を踏み出していきましょう。「何をすればいいのかまったく見えない」という人もいるでしょう。そんな方におすすめなのが、坐禅中と同じように呼吸に意識を向けることです。

まず、姿勢を正してください。お腹に手をあてて、息をお腹からゆっくりフーっと吐き出しましょう。細く、長〜く吐き出してみてください。まだまだです、「もうこれ以上吐き切れない」というくらい吐いてください。

どうですか。苦しいので空気を吸いたくなるのではないでしょうか。どうぞ吸ってください。生きようとする人間本来の力が働き、身体が本来の状態に戻ったような感覚になるはずです。

これが、人間の本来持っている力です。人は無意識のうちに呼吸をしているので普段はそのありがたみを忘れてしまいますが、私が見ていると、呼吸が大変浅くなっている人が、近年特に増えているような気がします。私も、坐禅会などで法話をしていると、一生懸命話しているうちに呼吸が浅くなり、いつの間にか口呼吸になってしまいます。

呼吸を意識することは「この一息で生きている」ことを実感するために非常に大切です。

なかには呼吸法なんてやっている場合ではないくらい、余裕のない方もいらっしゃるでしょう。しかし、そんな方にこそ試してほしいのです。

人生には自分の力ではどうにもできないことがたくさんあります。しかし呼吸は自分自身でコントロールすることができます。深く呼吸をすることで気持ちも落ち着きますし、自分の感情をコントロールする感覚もつかめるでしょう。

「たかが呼吸」と思わずに、ぜひ、1日のどこかで心を落ち着かせて腹式呼吸をする時間を設けてほしいと思います。ゆっくりと呼吸を繰り返しているうちに、自分のやるべきことが見え、余裕も出てくるはずです。

ひたすら1つのことばかりしていることを、「〜ざんまい」と言いますよね。「今日は1日ゲームざんまいだったな」「明日から旅行で、温泉ざんまいだ!」などと言ったりしますが、この「ざんまい」という言葉は仏教の「一行三昧(いちぎょうざんまい)」に由来しています。全身全霊をこめて1点に集中して雑念を取り去りましょう、という言葉です。

三昧(ざんまい)に生きるということ

誰でも、「ざんまい」は実践できますが、意識しないとできません。

まずは、できそうなことを探して、ひたすら打ち込んでみましょう。料理を作るのが好きな方なら、料理本を買って掲載順に料理を作ってみる、でもいいですし、映画を観るのが好きな方なら1日1本ずつ毎日映画を観る、でもOK。もちろん、仕事が好きな方は仕事に打ち込むのもよいでしょう。単純に、自分が楽しめるものを続けてみましょう。ずっと続けていけば、いつか何かをつかめる日が来るはずです。

習い事など、以前からやってみたかったことに取り組むのもいいでしょう。やったことがなくても、はじめは真似事からでOKです。

私たち僧侶も同じです。はじめは衣の着方、お袈裟のつけ方など何もわかりませんが、人が着ている姿を見て真似ることで、徐々にさまになってきます。高僧として名高い大本山永平寺第78世宮崎奕保禅師さまも、「はじめは真似事でいい。真似を一生続けたら本物になる」とおっしゃっておりました。

どんなことでもそうですよね。はじめはできなくても、できる人のやり方を見て、そのまま真似ることで、できるようになります。

学校や職場で嫌なことがあると、一行三昧するのが難しい場合もあるでしょう。そんなときは「もっと楽しい場所はないか」「心の平穏を保てる方法はないか」と問いかけるようにしてください。

「小説を読んでいるときだけは現実を忘れられる」「好きなアーティストの音楽を聴いたり、ライブに行ったりするときだけは嫌なことを忘れられる」といったことに気づくことができたら、その「ちょっとした逃げ道」があなたの心を守ってくれます。

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誰にも、あなたの心の平穏を乱す権利はありません。少しでも心が楽な状態になるように、工夫してみてください。それは物事から逃げているのではなく、人として心穏やかに生きていくうえでとても大切なことです。

夢中になれるものがない人でも、無心になれること、リラックスできること、ときを忘れて楽しめるものはありませんか? 筋トレでも、掃除でも、コーヒーを淹れるでも、何でもOKです。好きでもないことを考えて1日を終えるのは、とてももったいないです。時間というのは命そのものですから、楽しいこと、夢中になれることに時間を費やしましょう。

「毎日映画を観る」と決めて、1日1本でも見続けたら、3年後には1095本。それだけの映画を観たら、もしかしたら何か仕事にできるかもしれません。それほど「1つのことに打ち込む」のは人生に影響を与えるのです。

途中で飽きたらやることを変えたっていいのです。まずは一行三昧できることを探してみましょう。

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