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2022.08.30

「屋外で走る」が現代人のストレス解消になる理由|ジャンプ運動で「幸せホルモン」が活性化される


季節や風の気持ちよさが感じられる屋外のランニング。脳内でもさまざまな「よい」変化が起こっているようです(写真:buritora/PIXTA)

季節や風の気持ちよさが感じられる屋外のランニング。脳内でもさまざまな「よい」変化が起こっているようです(写真:buritora/PIXTA)

足を蹴り上げ、腕を大きく振る――。この「走る」というシンプルな動作に隠されている心とのさまざまな繋がりを、プロランニングコーチの金哲彦さんが紐解いていく本連載。第1回は、ランニングブームの背景にある「なぜ走ると楽しくて、気持ちいいのか」に迫ります。

いっときメディアで話題になったいわゆる「ランニングブーム」は、2007年に始まった「東京マラソン」がきっかけだといわれています。

首都東京のど真ん中を世界のトップアスリートから3万人を超える市民ランナーが走り抜ける。見たことのない圧倒的な光景に多くの人が影響を受け、フルマラソン42.195キロ完走を目標に走りだす「ランニングブーム」が起きました。

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そして、2020年から始まったコロナ禍においても、「東京マラソン」とは違った形の「ランニングブーム」が起きています。

きっかけは、パンデミックで緊急事態宣言を発出を提言した新型コロナウイルス感染症対策分科会有識者会議のトップである尾身茂会長の発言でした。尾身会長がテレビで発した「自粛中でも屋外での散歩やジョギングはしてもいい」というお墨付きに勇気づけられた人たちはすぐに行動しました。

「運動なら外に出てもいい」ことを知った自粛疲れの人々が、運動不足解消のためこぞって屋外に出て歩いたり走ったりするようになったのです。

多くの人が屋外での運動に目覚めた

2007年と2020年のランニングブームはまったく違う性格の社会現象です。しかし、職場や家に閉じこもっていた不健康な人たちが屋外での運動に目覚めたという意味では共通の現象です。

いま「走る」ことは社会に根付いているでしょうか。確かに全国各地のありふれた日常のなかで「走る人」の姿は当たり前になっています。しかし、走ることが「好きだ」という人はいまだに少数派です。まだまだ「走ることは嫌いだ」とか「苦手だ」と思っている人が多数派でしょう。

ランニングにネガティブな印象をもつ人たちは、走ること=ただつらいだけだと思い込んでいるのだと思います。

学生時代の運動部活動中のミスで「罰走」として無理やり走らされた経験や、得意でもないマラソン大会でつらくなって歩いて先生に怒られた経験などがトラウマとして残っているのです。

一方で走ることが好きな人たちには、「つらい」だけではない理由や目的があります。

実際、ランニング好きの人は走ることが楽しくて気持ちがいいと考えています。

たとえば、走りながら季節や自然を感じられる楽しさ、風を切って走る爽快感、仲間と一緒におしゃべりをしながら走るお遊び感、体のなかから汗を絞りだせるようなスッキリ感、体がシャキッとして軽くなる感覚、1つのことをやり終えた達成感など、ランニングに魅せられた人たちが感じることはたくさんあります。

人はなぜ走るのか、上位4つは?

それだけではありません。

ここに月刊『ランナーズ』を出版するアールビーズ社から2014年に発表された日米それぞれのランナーがもつランニングに対するモチベーション上位4つを比較した興味深いデータがあります。

■ランナーが走るモチベーション(日本)

1、健康のため
2、楽しいから
3、レース出場に向けて
4、体型維持のため

■ランナーが走るモチベーション(アメリカ)

1、体型維持のため
2、健康のため
3、ストレス解消のため
4、楽しいから

日米両方にある「体型維持のため」や「健康のため」は、“カラダ”のために走っている努力を感じます。また、日本人ランナー3位の「レース出場に向けて」はイベントとしての東京マラソンの影響が大きいでしょう。

また、「楽しいから」が日本2位、アメリカでは4位にランクインしています。ランニングが日常習慣になっている市民ランナーに義務感はありません。前述のような楽しさや気持ちよさを求めて走っていることがデータにも現れています。

注目して欲しいのは、アメリカ人のモチベーション3位にある「ストレス解消のため」に走っていることです。つまり、ランニングが“ココロ”に少なからず影響を与えているという効果なのです。

誰でもさまざまなストレスを抱えながら生きています。

IT業務が中心となった現代社会では、仕事の大部分がデスクワークになります。いすに座る時間が長くなればなるほど運動不足になるのは当然のことですが、無機的なパソコンモニターを見続ける作業の連続から、知らず知らずのうちにストレスが溜まります。

また、テレワークで孤独な時間が長いことや、慣れない自宅で仕事をすることもストレスを溜めてしまう原因です。

ストレスの解消法は人それぞれ(お酒やショッピングもその1つ)でしょう。そして、ランニングにもストレス解消の効果があるという実感を、アメリカ人ランナーはもっているのです。

2014年時点で日本人ランナーのモチベーション上位に「ストレス解消」はありませんでしたが、パンデミック第7波といわれるコロナ禍がまだ収束していない2022年の今なら、上位にきている可能性があります。

ランニングに楽しさを感じる理由

ランニングに楽しさや気持ちよさを感じるだけでなく、ストレス解消の効果があるのは、「セロトニン」という脳内ホルモンがかかわっています。

セロトニンは、ドーパミン、ノルアドレナリン、オキシトシンと並ぶ代表的な脳内神経伝達物質(脳内ホルモン)で、ドーパミンとノルアドレナリンを制御して精神を安定させる働きをします。

■セロトニンの代表的な効果

精神を安定させる
身体を目覚めさせる
気分をポジティブにする

■ドーパミンの代表的な効果

やる気を出す
達成感をもたらす
集中力を高める

■ノルアドレナリンの代表的な効果

記憶力を向上させる
情報処理のスピードを上げる
ほどよい緊張感をもたらす

■オキシトシンの代表的な効果

愛情や信頼感を形成する
心に安らぎをもたらす
不安を軽減する

ランニングとセロトニンの関係について考えるようになったのは、かつて八王子の病院で精神科のドクターとうつ病で入院している患者さんの運動療法について打ち合わせをしたことがきっかけでした(詳細は拙著『癒しのランニング』をお読みください)。

国内のうつ病患者は2008年に100万人を突破しました。最近では2万人近くにのぼる自殺者の多くがうつ病を患っているという事実があります。

そして、精神科のドクターから「自殺者の脳内にはセロトニンがほとんどない」という話を聞き、衝撃を受けました。自殺をするほど精神的に追い込まれた患者さんの脳には、「幸せホルモン」といわれるセロトニンが決定的に枯渇しているのです。

セロトニン分泌には3つの要素「日光を浴びる」「運動をする」「スキンシップをとる」が必要だといわれています。そして、運動のなかでも特に「抗重力筋を使うリズム運動=ジャンプ運動」が効果的なのです。

ジャンプ運動? 勘のいい読者はもうお気づきだと思います。

そう、ランニングは片足ジャンプの連続です。腕を振り、骨盤から脚を交互に出してジャンプを繰り返しながら身体を前に運ぶのがランニングです。つまり、屋外でのランニングはセロトニンを活性化させるために必要な2つの大切な要素を満たしているのです。

ジャンプの連続という意味では、少し激しいダンスも同じです。音楽のリズムに合わせてジャンプしながら体を上下にゆするダンス(踊り)は世界中のあらゆる場所(特にアフリカ大陸)で見られます。太古の昔から幸せを感じたい人間の本能なのでしょう。

走っていると頭もスッキリ

自然豊かな公園でランニングをしていると、季節の移り変わりに気づき、気持ちよさを感じます。走り続けて筋肉が温まってくると身体が軽くなります。そして、走る前まで複雑に考えていたことが整理され、頭の中がシンプルになります。

ついイラっとしたことも「ささいなこと」だと気にしなくなります。ずっと解決しなかった問題も、絡んだ糸が解けるように新たな解決策が浮かびます。机上では思いもつかなかった新しいアイデアが次々と生みだされます。そして、いつの間にかストレスがなくなっていることに気づきます。ストレスを感じていたことさえ忘れてしまうのです。

ランニングによるセロトニン効果は疲れた“ココロ”をリセットし、人生を変えてしまうほどの力があります。本連載では決して「ただつらい」だけではないランニングの魅力を読者のみなさんに伝えていきたいと思います。

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提供元:「屋外で走る」が現代人のストレス解消になる理由|東洋経済オンライン

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