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2022.08.25

ライフハックで効率上げるとますます忙しくなる|「すべてをこなそう」という誘惑に打ち勝つ


効率的にすべてをこなそうとしなくていい(写真:jessie/PIXTA)

効率的にすべてをこなそうとしなくていい(写真:jessie/PIXTA)

リモートワークやフレックスタイム制などの形態が増えたからといって、大量のタスクに追われる日々は変わらない。生活は便利になっているはずなのに、やることはいっこうに減らない。限りある人生の中で、時間を有意義に使うためにはどうするべきなのか。オリバー・バークマン氏による全米ベストセラー『限りある時間の使い方』より、一部抜粋・編集してお届けする。

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誰もが不安と焦燥に駆られている

僕たちの日常は、どうでもいいタスクをひたすら片づける日々だ。いつか邪魔な仕事をすべて終えたら、そのときこそ大事なことができるはずだ。そう思って頑張るけれど、本当にそこに近づけるのだろうかという不安もある。自分の能力が足りないんじゃないか。時代のスピードに取り残されはしないだろうか。

「私たちの時代を支配するのは、喜びを欠いた切迫感である」と、エッセイストのマリリン・ロビンソンは言う。彼女によると、ほとんどの人は「自分とまったく関係のない不可解な目的の手段となるために、自分や子どもたちをせっせと準備している」。

人に言われたことを必死で頑張れば、誰かの役には立つかもしれない。毎日毎日残業して、その残業代でたくさん買い物をすれば、経済のよりよい歯車にはなれるかもしれない。

だけど、そんなことで心の安らぎは得られない。限られた時間を、大切な人や物のために使うこともできやしない。では、たった4000週間ほどという限られた人生の時間をどう使えばいいのか。

まずはじめに、忙しさについて考えてみたい。

忙しさは、今に始まった問題ではない。世の中みんなが忙しいわけでもない。ただ、自分の限界を打ち破ろうという無謀な努力のことを語るとき、忙しさほどわかりやすい例はない。自分ができるよりも多くのことをやらなければならない、というのが、今ではごく普通のことになっているからだ。

忙しいこと自体は、悪いことではない。1960年代にアメリカで大人気になった絵本の舞台「ビジータウン」は、活気あふれる楽しそうな街だ。雑貨屋のネコや消防隊のブタは、たしかに忙しく働いている。ビジータウンに怠け者はいない(もしもいたとしたら、きっと中央当局によって注意深く隠されているのだろう)。

僕たちの現実と違うのは、彼らが無理をしていないことだ。ネコもブタも機嫌よく、落ち着いて仕事をこなしている。やるべきことはたくさんあるけれど、「期限までに終わらせなければ」というストレスはない。仕事がきちんと時間内に収まるという自信に満ちているのだ。

それにくらべて僕たちは、つねに不安と焦燥に駆られている。どうやっても終わらない量の仕事を抱え、途方にくれている。

調査によると、こういう感覚は、どんな経済的な階層にも等しく見られるらしい。子どもたちを食わせるために最低賃金の仕事を2つ掛け持ちしている人は、当然忙しすぎてクタクタに疲れきっている。

勝ち組もプレッシャーにさらされている

一方で、お金がある人も、それはそれでまったく余裕がない。多額の住宅ローンを抱えて毎月返済しなければならないし、仕事は(給料はいいとしても)忙しすぎて家族とゆっくり過ごせない。気候変動に関する社会運動にも参加したいけれど、そんな時間はどこにもない。

イェール大学のダニエル・マルコヴィッツが言うように、成果主義の世の中では、たとえ勝ち組であっても(つまり、エリート大学を卒業して超高給で働いている人も)、終わることのない強烈なプレッシャーにさらされつづける。誰もがうらやむ地位を手に入れても、そのポジションを維持するために、さらに死ぬほど努力しなくてはならない。もう無理だと感じるのも当然だ。

なぜなら、厳密に論理的にいって、無理なのだから。自分ができるよりも多くのことをやらなければならない。そんなの不可能に決まっている。

問題は、正しい時間管理術を見つけていないとか、努力が足りないとか、もっと早起きすべきとか、自分がダメ人間だとかいうことではない。そうではなく、根本的な前提がまちがっているのだ。

1日に詰め込めるタスクの量を増やしたからといって、すべてをコントロールできている感覚なんか得られないし、重要なことを全部やるだけの時間も生まれない。そもそも、何が重要かというのは主観にすぎない。自分や上司にとって重要なことが、時間内に実行可能だと考える根拠はどこにもないわけだ。

ライフハックを駆使しても時間は余らない

さらに、どんなタスクも、時間があればあるだけ勝手にふくらんでいくものなのだ。正確には「やるべきこと」の定義がどんどん広がっていくといってもいい。

こういう皮肉な傾向の典型例が、20世紀に発明された恐るべき道具、電子メールだ。あなたはメールの返信が早い人として有名になり、みんな急ぎの用事をどんどん送ってくるようになる(逆に、メールの返信をサボりがちな人は、時間を節約できることが多い。返信しないでいるうちに別の解決策が見つかったり、なんだかんだで放っておいてもうまくいったりするからだ)。

メールの処理は単に終わらないプロセスであるだけでなく、メールを処理することでメールがさらに増えるという悪循環を生む。これがいわゆる「効率化の罠」だ。どんなに高性能な生産性ツールを取り入れても、どんなにライフハックを駆使しても、時間はけっして余らない。

それでも、選択肢はある。

「もっと効率的にやれば忙しさから逃れられる」という希望を、あえて捨てればいいのだ。

どんなに効率的にやっても、忙しさは終わらない。その事実を理解していれば、いつか平穏な日々がやってくるのではないかという非現実的な期待を持たなくてすむ。理想的な未来を待ちわびるかわりに、今の生活に平穏を見いだすことができる。たとえやることが大量にあってもだ。

何もかも諦めたくないという願いを捨てて、タフな選択に向き合ったとき、よりよい選択をすることが可能になる。やるべきことはいつだって多すぎるし、これから先もそれはきっと変わらない。そのなかで心の自由を得るための唯一の道は、「全部できる」という幻想を手放して、ひと握りの重要なことだけに集中することだ。

ここまでは「効率化の罠」のことを、単純な量の問題として論じてきた。
やるべきことが多すぎるので、もっと短時間でたくさんこなそうとする。ところが、まさにそのせいで、やるべきことがどんどん増えていく。

でも効率化の罠の本当に怖いところは、量だけでなく質にも影響することだ。すべてを詰め込もうとすればするほど、なぜかどうでもいいことに時間を費やしてしまう。

「他人の期待を無限に受け入れる容器」になるな

やることリストを最速でこなせるライフハックを身につけても、リストの最重要項目はいつまでたっても手つかずのまま残る。タイムマネジメントを駆使して世界中のあらゆる秘境を訪れようとしても、おそらくいちばん行きたかった場所にはいつまでたってもたどり着けない。

「すべてをやれるはずだ」という意識が強くなると、「何を優先すべきか」という問いに向き合わなくなるからだ。やることリストに追加できそうな項目を見つけたとき、タイムマネジメントに自信がある人ほど、迷いなくそれを受け入れてしまう。ほかの仕事やチャンスを犠牲にしなくても、全部できると思っているからだ。

とはいえ時間は有限なので、何かをするには別の何かを犠牲にしなくてはならない。「その犠牲に見合うだけの価値があるだろうか?」と問うことをしないでいると、やることは自動的にどんどん増えるだけでなく、どんどんつまらなくて退屈なものばかりになっていく。本当は追加しなくていいことまで追加してしまうからだ。

あなたが有能だとわかると、誰かが自分の仕事をあなたにやってもらおうと考える。そしてあなたは、断れずについ引き受けてしまう。マネジメントの専門家ジム・ベンソンの言葉を借りるなら、「他人の期待を無限に受け入れる容器」になってしまうのだ。

必要なのは効率を上げることではなく、その逆だ。すべてを効率的にこなそうとするのではなく、すべてをこなそうという誘惑に打ち勝つことが必要なのだ。

反射的にタスクをこなすかわりに、すべてをやりきれないという不安を抱えること。やりたい誘惑を振りきり、あえて「やらない」と決めること。そのあいだにもメールや用事はどんどんやってくるし、そのうちの多くはまったく手がつけられないだろう。それでも、その不快感に耐えながら、本当に重要なことに集中するのだ。

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もちろん無理をして仕事を詰め込まなくてはならないときもあると思う。大事なのは、それをデフォルトにしないことだ。いつかすべてが片づいて完璧な時間が手に入るというのは、ただの幻想にすぎないのだから。

これは人生のあらゆることに当てはまる。楽しいことをすべて体験したいという衝動に打ち勝ち、すべてを体験するのは不可能だという現実を受け入れよう。

自分に体験できるのはほんのちっぽけな一部分だけだと理解していれば、まだ体験していないことがたくさんあっても焦らなくてすむ。自分に許された数少ない体験を、心から楽しめるようになる。そして、人生の限られた時間の中で、やりたいことをもっと自由に選べるようになる。

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提供元:ライフハックで効率上げるとますます忙しくなる|東洋経済オンライン

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