2022.08.10
8月に増加の「食中毒」やられる人の4つの間違い|カレーの加熱、生ハンバーグ、消毒の落とし穴
夏は、細菌による「食中毒」が最も起こりやすい季節。食中毒にありがちな誤解を4つ、確認しましょう(写真:Luce/PIXTA)
高温多湿の夏は、細菌による食中毒が最も起こりやすい季節だ。厚労省資料によれば、2020年8月は6月に次いで突出して細菌性食中毒が多く、報告されている患者数だけでも1カ月で3000人超となった。
思ったより少ないと感じたかもしれない。ただ実際には、この何十倍、何百倍もの患者がいてもおかしくない。集団発生でもない限り、原因細菌が突き止められて保健所に報告されるケースのほうが少ないからだ。そもそも受診せずに家で療養する人も多い。
間違った思い込みが食中毒を招く。ありがちな誤解を4つ確認しておきたい。
厚労省資料 ※外部サイトに遷移します
「臭い」「賞味期限」「腐っているかどうか」は関係ない
その前に、食中毒の大前提を3つ。まず、(1)古くなった食品がまだ食べられるかどうか、「臭い」で判断する人がいるが、これは間違いだ。
食中毒を引き起こす病原体は、食べ物に付着していてもなんの臭いも発しない。臭いをかいで明らかにおかしな臭いがしたら、食べる人はまずいない。臭わないし、味にも変化がないからこそ、食べてしまって“あたる”人が出てくるのだ。
そして、(2)賞味期限も、ざっくり守られていれば本来ほとんど関係ない。あえて言えば、保管方法が適切なら、賞味期限が過ぎた瞬間に食べられなくなるわけでもない(ただ、味も悪くなるし、万一何かあっても誰も責任は取ってくれないので、おすすめはしない)。
むしろ賞味期限以内でも、保管の温度や場所が不適切だったり、開封して時間が経過した加工食品は、食中毒微生物が付着したり増殖したりしている可能性がある。他方、消費期限はそもそも傷みやすい食品に設定されているので、例外なく守ったほうがいい。
ただ、勘違いしている人が非常に多いのだが、そもそも(3)単に腐ったものを食べておなかを壊すことを「食中毒」と呼ぶわけではない。
「腐る」という現象は、細菌などの微生物(腐敗菌)が増えた結果、本来の色や味、香りなどが損なわれて食べられなくなってしまうことだ。ふつうは食べてもまずくて吐き出す。多少飲み込んだ場合も、運がよければ大事に至らずに済むこともある。
実は「食中毒」とは、厳密には、食品衛生法に定められた20数種類の「食中毒微生物」(東京都福祉保健局)が引き起こす腹痛や下痢、嘔吐などの症状をいう。その症状の深刻さから、食中毒微生物は雑多な腐敗菌とは区別されているのだ。
当然ながら、腐った食品には食中毒微生物も付着している可能性は十分ある。
東京都福祉保健局 ※外部サイトに遷移します
加熱さえすれば食中毒は起こらない?
さて本題に入ろう。「生ものや古いものを食べたわけでもないのに食中毒になった」という場合、まず疑うべきは3つの点だ。本当に加熱が十分だったか、調理前の食材が適切に温度管理されていたか、調理後に付着した可能性はないか。
加熱が不十分だった、冷蔵品が常温にさらされていた、といった場合はお話にならない。また、いったん加熱調理した後に温度の下がった食品を、汚染された食器や調理器具(トングなど)、手などで扱った場合も、食中毒になっても無理もない。
問題は、この3点をクリアしていたときだ。つまり、きっちり温度管理された食材をしっかり加熱したうえで、清潔な食器・調理器具で扱ったのに、それでも食中毒は起こりうる。
一因は、加熱調理を過信していることにある。
確かに、加熱すれば病原体は死滅する。だが、食中毒微生物の作り出す毒素には、加熱しても壊れないものもある。代表例が、「黄色ブドウ球菌」と呼ばれる細菌だ。
その毒素は、100℃で30分加熱しても分解されない。黄色ブドウ球菌が付き、時間がたって増えた後でその食材をアツアツに加熱しても、すでに大量に放出された毒素は消えず、食中毒を引き起こすのだ。
食中毒微生物を「やっつける」ことだけを前提にせず、「付けない」「増やさない」よう注意を払うことが肝心だ。
実は、黄色ブドウ球菌は皮膚にいる常在菌でもある。健康な指や鼻にもいるし、特に化膿した傷口、ニキビやおできには必ずいるといっていい。
だから、調理後の食品や食器の内側を手で触れてしまうと、食中毒リスクが高まる(今どきはいないと思うが、残念ながら素手で握ったオニギリは最悪だ……)。鼻やニキビのある顔を触った手、絆創膏の長時間貼ってある指などもよろしくない。
細菌は常温で急激に増えるため、安定的な低温管理も必須だ。
カレーは一晩常温で寝かせても大丈夫?
「翌日のカレーが一番おいしい」という説は否定しないが、一晩常温で寝かせたカレーはアウトだ。これも「加熱への過信」とも言えるだろう。
学校などの行事で、作り置きのカレーやシチューから集団食中毒が起きた、というニュースは、コロナ前はよく聞かれた。十中八九、ウェルシュ菌という細菌によるものだ。別名「給食病」とも呼ばれる。
東京都福祉保健局の実験では、家庭の調理方法で鍋ごと常温保管した場合、ウェルシュ菌が増殖することが確認された。鍋ごと冷蔵庫で保管したカレーでも、再加熱後に菌が検出され、再加熱のときにどうしても温度ムラが起こりやすいことが示唆された。
東京都福祉保健局の実験 ※外部サイトに遷移します
ウェルシュ菌は主に土壌にいるため、ニンジンやジャガイモなど、カレーでおなじみの根菜類に付いていることが多い。
やっかいなのは、「芽胞」と呼ばれるカプセル(耐久細胞)を作ることだ。芽胞はかなりの高熱にも耐える。ぐつぐつ煮込んでも生き残るものがいて、再び50℃以下に温度が下がるのを待って発芽する。やはり常温で激増し、毒素を出す。
ウェルシュ菌は酸素を嫌うのだが、大鍋で煮込む料理は中心部が低酸素になりやすい。カレーやシチューのほか、麺類の残り汁、煮魚や煮物で食中毒を引き起こす。
基本的には作ったらすぐに食べきるのが一番安全だ。どうしても「翌日のカレー」が食べたいなら、常温の時間をいかに短くするかがポイントだ。
鍋ごとでなく小分けにして冷めやすくし、急速に冷蔵・冷凍しておく。温める際は、適温に達したところで火を止めず、よくかき混ぜながら全体を完全に熱くすること。
「温め直しを繰り返すほどにウェルシュ菌が増える」とわきまえて、再加熱は1回までにしよう。
同じく、はちみつなどに含まれることがあるボツリヌス菌も、酸素を嫌い、芽胞を作る。こちらも120℃で4分あるいは100℃で6時間以上加熱しなければ、完全には死滅しない。
牛肉100%のハンバーグならレアでいける?
鶏肉や豚肉、羊肉を生食する人は、ほとんどいない。一部で「鶏ワサ」や「鶏のたたき」など提供されているが、ごくごく信頼のおける特殊な流通経路の鶏を、信頼の置ける店が出すのでない限り、やめておくべきだ。
これらはもともと筋肉にも、カンピロバクターやサルモネラといった食中毒細菌がいる。死滅させるために、中心部も色が変わるまでしっかり火を通す必要がある。目安は75℃以上で1分以上の加熱だ。
他方、牛肉はレアでも普通に食べられている。牛の筋肉には食中毒微生物がいないからだ。
ところが、それが間違いのもとでもある。
通常の食肉処理工程の場合、牛の腸内にいる食中毒細菌(O-157などの腸管出血性大腸菌、カンピロバクターやサルモネラなど)が、肉牛の解体時やその後に、肉の切り口に付着する可能性がある。
レバ刺しやユッケで食中毒が起きがちなのは、そのせいだ。
だから、牛肉であっても、特殊な処理・流通経路のものを慎重に扱っている場合でなければ、表面は焼いて食べるのが正しい(牛肉なら「たたき」もOK!)。
多いのは、「牛肉100%ハンバーグなら、中はレアがおいしい」という勘違いだ。
牛肉であろうと、ひき肉になってしまえば、その工程で食中毒微生物が混入していない保証はない。特殊な処理工程で安全が保障されていない限り、ひき肉料理は中までしっかり火を通す必要がある。
また、「柔らか加工」「霜降り加工」などと謳った成型肉も要注意だ。成型肉とは、細かいくず肉や内臓肉を軟化剤で柔らかくして結着剤で固め、形状を整えたものだ。肉に脂身を注射して霜降り状にしたものもある。
見た目で気づかないこともあるので、焼き肉店などでは注文時によく気をつけて、やはり中までよく火を通そう。肉を焼くトングや箸と、食べる際の箸を必ず使い分けるのも忘れずに。
アルコールで除菌すれば洗わなくて平気?
コロナ禍で習慣化した「アルコール消毒」にも、落とし穴がある。知っている人には“常識”なのだが、アルコールは実はそれほどの万能消毒薬ではない。
まず、濃度が薄すぎても濃すぎても効き目は薄い。アルコール濃度は70%が目安だ。殺菌や消毒を謳った衛生製品でも、よく表示を見るとアルコール濃度が30%だったり不明だったりする。効果のほども怪しいものだ。
70%アルコールでも、濡れた手や物に使用すれば、濃度が薄まってしまって効果は十分得られない。
また、濃度が適切でも、アルコールが効かないウイルスもいる。代表例はノロウイルスだ。近年では研究開発が進み、添加剤によって酸性度を調整し、ノロウイルスに効くようにしたものもある。だが、一般的な市販品では無理と考えておいたほうがいい。
手指の殺菌は、アルコールで済ませるよりも、まずはせっけんで手洗いを。水よりお湯だとなお洗浄力が上がる。食中毒微生物やそのほかの病原菌、その毒素は、洗い流すのが一番だ。
調理器具の消毒には、アルコールや漂白剤よりも「熱湯」がおすすめだ。
昔から「煮沸」は消毒方法として有名だが、面倒だとか扱いづらいといったイメージもあるかもしれない。だが、熱湯をかけるだけなら手軽だし、薬剤が残留することもない。高温で瞬時に殺菌すると同時に、毒素も洗い流せる。
漂白剤では塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)が効果が高いが、さびる可能性のある金属や、脱色作用があるので色柄物の布製品等(ふきん、スポンジなど)には使えない。酸素系漂白剤やアルコールだと、時間がかかったり効きにくかったりする。
ちなみに台所周りで一番汚染されがちなのが、食器洗いのスポンジだという。食中毒微生物と、細菌の栄養分となる食べかすなどの汚れ(有機物)、水分を含んだまま、長時間放置されやすいせいだろう。
汚染されたスポンジで洗うことは、食中毒のもとを塗り付けているに等しい。こまめに交換し、適宜熱湯をかけて殺菌したい。
以上、4つの「間違い」に心当たりのある人は、ぜひ今すぐ改善を。安全で安心な食事を楽しみながら、この暑すぎる夏を乗り切ろう。
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提供元:8月に増加の「食中毒」やられる人の4つの間違い|東洋経済オンライン