2022.07.21
災害時の命の綱「非常食」を製造する企業の凄さ|身近なあの企業の製品が災害時に私たちを救う
非常食を製造する企業は、災害時に私たちを助けてくれる存在だ(写真:zepp1969/Getty Images Plus)
昨今の異常気象や「首都直下地震」「南海トラフ巨大地震」といった地震の懸念を考えると、防災体制の整備が重要であることは言うまでもない。
防災と言えば建設・土木工事関連の企業が思い浮かぶが、大切なのはそうした企業だけではない。非常食の重要性を忘れてはいないだろうか。いざ災害が起きた場合、避難所にいる間は非常食を食べざるをえない。救助・復旧作業に携わる人たちも非常食を必要とする。
非常食に関連した企業について東洋経済新報社・田宮寛之記者の新刊『2027 日本を変えるすごい会社』から一部を抜粋・再構成してお届けする。
『2027 日本を変えるすごい会社』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
賞味期間2年のパンを作る会社
被災者の食事の確保に貢献するのが愛知県に本社を置くコモ(2224)だ。イタリアの天然酵母パネトーネ種を活用して、保存料無添加・賞味期限35日~2年というパンを製造している。コモという社名はパネトーネ種が採取されるイタリアのコモ湖に由来する。
同社ではパネトーネ種を北イタリアから空輸し、徹底した温度管理のもとで使用する。パンを焼く機械もイタリア製であり、品質へのこだわりは強い。
販売ルートはスーパー、生協、鉄道売店などさまざまだが、賞味期限が長いことから自動販売機での販売が多いことが特徴。全売上高の約4分の1が自動販売機向けだ。最近では、ネット通販を強化している。同社はコンビニのPB商品の製造も請け負っており、技術力には定評がある。
国内では食品ロス削減推進法が2019年に施行されたことで賞味期間の長いパンの需要が拡大する。さらに今後は香港、シンガポール、ニュージーランド、オーストラリアなどで拡販を狙う。賞味期限が長いので、日本から輸出しても採算が合う。
非常食といえば乾パンだが、乾パンのトップメーカーは静岡県に本社を置く老舗菓子メーカーの三立製菓(非上場)だ。ロングセラー商品の「源氏パイ」や「かにぱん」も製造している。
同社は金平糖メーカーとして1921年に創業した。1937年に旧陸軍からの要請で乾パン製造を開始。1959年から市販用を「カンパン」ブランドで発売し、1972には缶入りを追加した。袋入りの賞味期限は1年、缶入りは5年であり、缶には氷砂糖も入っている。糖分補給や水がない非常時でも唾液が出て食べやすくなるように工夫されているのだ。1989年には防衛庁から表彰されるなど品質の高さは折り紙付きだ。
乾パンは保存食なので味は二の次と思われがちだが、同社のゴマの香ばしい味は好評でファンが多い。また、乾パンには「固い」というイメージがあるが、原材料の見直しを繰り返して、従来よりも柔らかな歯応えにしている。シンプルな商品ではあるが、少しずつ改善を積み重ねているのがトップメーカーであるゆえんだ。
三立製菓の売上高規模は100億~110億円程度で毎期安定的に利益を上げている。工場は静岡以外に兵庫と大阪にもある。営業所は北海道から九州まで8拠点。商品知名度が高いだけでなく、全国に取引基盤が構築されているため経営は安定している。
子どもに優しい保存食を作る会社
ビスケット業界トップクラスのブルボン(2208)も乾パンを製造しているほか、賞味期限5年の「缶入りミルクビスケット」や「缶入りミニクラッカー」を製造している。
現社長・吉田康の曾祖父である吉田吉造が1924年に新潟県で菓子製造を開始したのが同社の始まり。吉田吉造は関東大震災の影響から地方への菓子の供給が全面ストップした窮状を見て、「地方にも菓子の量産工場を」と事業開始を決意した。創業の経緯に災害が大きく関連していたのだ。
1937年から陸軍へ乾パンや野戦食の納入を開始した。現在扱っている製品はキャンディー、チョコレート、米菓、スナック、チューインガム、飲料など多岐にわたる。2019年からは防災用のミネラルウォーターの販売も開始した。
そのほか乾パンではないが、似たものとして江崎グリコ(2206)が賞味期限5年の缶入りビスコを販売している。ビスコは1933年発売のロングセラー食品で、子どもから老人まで幅広い層に支持されている。
非常食で甘味のあるモノは少ないのでビスコは貴重な存在だ。災害が起こった場合、物資の配給や救助活動が滞り、数日間は非常食などを食べるしかない。大人ならば対応できるが、子どもは普段と異なる食べ物を食べられないことがある。ビスコのように普段から親しんでいる甘い食べ物を防災用に備蓄しておくことは重要だ。
『2027 日本を変えるすごい会社』(自由国民社) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
ビスコはクリームを挟んでいるので口溶けがよく、水がなくても比較的食べやすいので、防災備蓄食品として優れている。ある幼稚園では入園時に親が缶入りビスコを購入。幼稚園がそれを保管し、何事もなければ卒園式で子どもたちにビスコ缶を渡している。
ちなみにパッケージ裏には災害伝言ダイヤルも記載されているので万が一の場合も安心だ。
キャラメルコーンで有名な東ハト(非上場)は5年間保存可能なビスケット「ハーベスト」を製造販売している。ハーベストは1978年に発売された薄焼きビスケットであり、同社の人気消品の1つだ。密閉性の高い缶に「脱酸素剤」を入れることで酸化を防ぎ、ゴマの味わいと香ばしさを保ちながら、5年間の長期保存が可能になった。
東ハトは山崎製パン(2212)の子会社で、キャラメルコーンやハーベストのほかにオールレーズンや暴君ハバネロなどのロングセラーを抱える。
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:災害時の命の綱「非常食」を製造する企業の凄さ|東洋経済オンライン