2022.07.20
忍び寄る「痛風」敵はビールや魚卵だけじゃない!|尿酸値が高い人は知っていたい「6-7-8」ルール
尿酸値を気にして飲み会でビールを控える人もいるが、原因はビール以外にもある(写真:jazzman / PIXTA)
キンキンに冷えた1杯のビールに心躍る季節がやってきた。その一方で、「尿酸値が高くて……」と、ためらいを覚える人も少なくないだろう。
ご存じの通り、尿酸値(血液中に含まれる尿酸の量)が高くなると、「痛風」を発症するリスクが高まる。”風が吹いただけでも痛い” ことから名付けられたとされる痛風は、お笑いタレントが動画チャンネルで自身の発症の状況を訴えるなど、30代以降の男性にとっては決して他人事ではない病気の1つだ。
そこで今回、尿酸に詳しい、桜十字八代リハビリテーション病院(熊本県八代市)副院長で熊本大学客員教授の小島淳さんに、痛風と高尿酸血症について聞いた。
尿酸はプリン体から生成される老廃物の1つだ。プリン体は主に肝臓で分解されて尿酸となり、最終的には尿や便として排泄される。だが、この”生産と排泄のバランス”が崩れて生産量が排泄量を上回ると、尿酸値が高くなる。
近年は、含有量を制限したアルコール飲料などが市販されているほど、プリン体への関心が高まっている。プリン体は、ビールや日本酒などのアルコール類や、イクラやウニなどの魚介類に含まれている成分だと思われがちだが、実は米などの穀類や野菜など、ほとんどの食べ物に含まれている(下記図表は、外部配信先ではすべて閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でご確認ください)。
プリン体は悪いものなのか
ちなみに、ビールにプリン体が多く含まれているのは、ビールの製造過程で麦芽の核酸が壊れたときに大量のプリン体が出るからだという。
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プリン体は尿酸のもとになる物質であることから、”悪いもの”というイメージがあるかもしれないが、「実は細胞に含まれる『核酸』の主成分。生きていくうえで不可欠な物質の1つなのです」と小島さん。そのうえでこう話す。
「尿酸自体も活性酸素を除去する作用(抗酸化作用)があり、酸化ストレスから体を守る働きをしている物質の1つです。多すぎは痛風のリスクとなりますが、減らしすぎもよくないのではないかということが、以前から議論されていました」
30代を過ぎた男性の多くが気にする尿酸値だが、意外にも厚生労働省が定める特定健診の項目に尿酸値検査は含まれていない。一方で、多くの健康診断や人間ドックでは採用されている。
尿酸値は7mg/dLまでが基準値内で、これを超えると「高尿酸血症」と診断される。9mg/dL以上、または8mg/dL以上で腎障害や高血圧、糖尿病や肥満などの合併症がある場合には治療が必要となるため、6mg/dL以下を目指すことになる。
「これが、いわゆる尿酸値の『6-7-8ルール』で、治療で6mg/dL以下にコントロールすることは、国内のみならず海外のガイドラインでも共通になっています」(小島さん)
『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第3版)』によると、高尿酸血症は年々増えている。とくに成人男性の増え方は顕著で、2010年の調査では20〜25%が高尿酸血症だった。また、痛風患者数などから推計すると、高尿酸血症を持つ人は1000万人にものぼるという。
高尿酸血症を持つ人の多くは自覚症状があるわけではないが、その状態が長期にわたると「痛風関節炎(痛風)」につながり、ひいては腎臓病や心臓病、脳卒中などの発症にも関わってくる可能性がある。
痛風関節炎では、血液中に溶けきれなくなった尿酸が尿酸塩という結晶となり、関節に沈着して、赤みや痛み、腫れといった炎症状態をもたらす。痛風患者は圧倒的に男性に多く、9割以上を占める。その理由は女性の尿酸値が、男性より低いからだ。これは、女性ホルモンのエストロゲンに尿酸の排泄を促す作用があるためだとされる。
突然起こる痛風発作
痛風発作はある日突然、起こる。とくに症状が出やすいのが足の親指の付け根で、関節が赤く大きく腫れ、熱感を伴う。その痛みは〝想像を絶するもの〟で、激痛のため体を動かすことさえ困難になる。
症状は多くの場合、24時間前後でピークを迎え、1〜2週間程度で治まる。だが、その間は強い痛みのため、松葉杖や車いすを使わざるをえないこともあるという。
尿酸塩は関節だけではなく、臓器にも沈着する。腎臓にできたものが痛風腎で、腎障害の原因となり、腎臓から尿道までの尿の通り道に沈着すれば尿路結石となる。
「残念ながら、現在、痛風には特効薬がなく、発作が起こったら炎症を抑える非ステロイド性抗炎症薬を用いるしかありません。発作の前兆があったら、予防薬のコルヒチンを飲むことで発作を抑えることができますが、いずれも対症療法でしかなく、普段から食事や薬物治療で尿酸値を正常に保つことが重要です」(小島さん)
高尿酸血症をもたらす2大原因が、「アルコール摂取」と「メタボリックシンドローム(メタボ)」だ。
まず、アルコールに関してだが、尿酸値を上げるのはビールだけではない。アルコールが代謝される際に必要となる物質(ATP)は、分解されるときに尿酸を作り出す。つまりアルコール自体に含まれるプリン体による尿酸に、代謝される際に作られる尿酸がプラスされ、尿酸値を上げてしまうのだ。
また、アルコールが体内で分解されるときに作られるアセトアルデヒドは、腎臓から尿酸を排泄する働きを弱めてしまうこともわかっている。
もう1つの問題は、一緒に食べるツマミ。酒のツマミになりやすい料理にはプリン体をたくさん含むものが多い。結果的に多くのプリン体を摂取し、尿酸を溜め込んでしまう。
また、メタボの人の多くは高尿酸血症を合併していることが知られている。メタボのお腹の原因である内臓脂肪は、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)のためインスリンが過剰に分泌されて高インスリン血症となりやすい。これが尿酸の排泄をさまたげてしまう。さらに、インスリンが効きにくくなると、肝臓での尿酸の産生を活性化することもわかっている。
メタボというだけで、尿酸が排泄されにくく、溜めやすい状態を作り出してしまっているのだ。
体重を落とすことが大切
では、尿酸値を下げるためには、どうしたらいいか。
まず飲酒に関しては、男性は1日あたりにビールなら中瓶1本、日本酒なら1合、缶チューハイならロング缶1缶(純アルコール換算で20g)が目安、女性ではその半分~3分の2程度の量が勧められる。
次に、メタボの人は体重を落とすこと。とくにお腹まわりだけに脂肪が付いた内臓脂肪型の肥満、いわゆるぽっこりお腹の人は、減量することで尿酸値はかなり改善する。そのためには、食事の総エネルギー量を減らすことが重要になる。
プリン体の含有量を減らした特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品に頼る人もいるが、それよりも摂取エネルギー量を減らすことが先決だ。休憩中に飲む有糖の缶コーヒー、小腹が空いたときに口にする菓子類など、意外と気付かないうちにカロリーを取っているケースもあるので、気を付けたい。
運動で体重を落とす場合は、有酸素運動をメインに取り組みたい。筋トレのような息が上がる激しいトレーニングをすると、尿酸が溜まりやすいことがわかっている。
こうした対策をとっても尿酸値が下がらない人に行われるのが、薬物療法だ。
「尿酸値が上がる原因は、生産と排泄のバランスが崩れることなので、薬に関しても『尿酸の産生を抑制するもの』と『尿酸の排泄を促進するもの』があり、その人のタイプによって使い分けることがあります」(小島さん)
尿酸値を下げるために薬を使うことは必要だが、なかには、こうした薬を”お守り代わり”に暴飲暴食する人も存在するようだ。
「高尿酸血症の治療の基本は生活習慣の改善であり、とくにメタボの人は減量です。薬を使う際も、医師の指導のもとで正しく服用することが大事です。このほか、尿酸は尿と一緒に排出されるので、水分も多めに摂ったほうがいいでしょう。心不全などで水分摂取を制限されている人を除いては、1日に2リットル以上の水分を摂るようにしましょう」(小島さん)
臨床試験「FREED研究」の結果は?
高尿酸血症は痛風のリスクになるだけでなく、さまざまな命に関わる病気と関係していることがわかっている。尿酸値を正常化することで痛風だけでなく、心不全や動脈硬化、腎機能障害などのリスクが下がる可能性がある。
2018年8月、ミュンヘン(ドイツ)で行われたヨーロッパ心臓病学会で、尿酸の産生を抑制する高尿酸血症治療薬フェブキソスタットを用いた臨床試験(多施設共同ランダム化比較試験)「FREED研究」の結果が報告された。小島さんは、FREEDの研究責任者だ。
この研究では、高血圧や糖尿病などの合併症がある高齢者約1000人の高尿酸血症患者を、フェブキソスタットによる治療を受けるグループ(フェブキソスタット投与群)とフェブキソスタットによる治療は受けず生活習慣の改善を行うグループ(フェブキソスタット非投与群)の2群にランダムに分け、3年間追跡した。
その結果、投与群は非投与群に比べて、明らかに死亡、心筋梗塞や脳梗塞や心不全といった循環器系の疾患、腎障害など(脳心腎血管関連イベント)が少なかった。
さらに、小島さんは今年3月に開催された第86回日本循環器学会で、先のFREED研究のサブ解析結果を報告した。
「とくにフェブキソスタット投与群では、死亡や脳心腎血管関連イベントが最も少なかった〝至適尿酸値〟は、4〜5mg/dLで、尿酸値4~5mg/dLより高くても低くても、明らかにイベントが増えていました。ただ、この数値は合併症を持つ高齢者を対象にしていますので、すべての人に当てはまるかどうかはまだわかりません。今後の検討課題です」(小島さん)
Kojima S, et al. Rheumatology 2022;61:2346-2359.(※編集部で一部改正)
適正なコントロールを
いずれにせよ自身の尿酸値を知って、適正にコントロールすることが今後の健康を保つカギとなる。健康診断で高尿酸血症と指摘されている人は、一病息災のチャンスだと思って尿酸値と向き合ってみたらどうだろうか。
(執筆:ライター・佐々木由/編集部・山内リカ)
桜十字八代リハビリテーション病院副院長・熊本大学客員教授 小島淳医師
1993年、熊本大学医学部医学科卒。同大医学部附属病院循環器内科、熊本市民病院内科、熊本地域医療センター医師会病院内科、済生会熊本病院心臓血管センター内科、国立循環器病センター内科心臓血管部門、熊本大学医学部附属病院救急外来、川﨑医科大学総合内科学3教室などを経て現職。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本痛風・尿酸核酸学会認定痛風医、一般社団法人くまもとハートの会代表理事など。
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提供元:忍び寄る「痛風」敵はビールや魚卵だけじゃない!|東洋経済オンライン