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2022.07.20

「スマホをいじってばかりの人」のあごが危険な訳|長期のマスク生活で顎関節症に気づかないことも


あごに違和感がある人はスマホの長時間使用が原因?(写真:mits/PIXTA)

あごに違和感がある人はスマホの長時間使用が原因?(写真:mits/PIXTA)

コロナ禍でスマホの使用時間が長くなり、目や肩に負担を感じる人は少なくありません。体への悪影響はそれだけにとどまらず、コロナ禍に急増していると言われるのが「顎(がく)関節症」です。スマホの長時間使用が顎関節症の原因の1つとなるメカニズムを、日本顎関節学会の指導医・専門医の宮本日出さんが解説します。

(1)口を動かすと耳の前にあるあごの関節から「音」がする、(2)顎関節や頬やこめかみあたりの筋肉に「痛み」がある、(3)十分に「口が開かない」、これらの症状が1つ以上あれば顎関節症と診断されます。全国2500万人が顎関節に異常があると推測され、生涯で2人に1人の割合で顎関節症にかかると言われてきましたが、コロナ禍になり世界的に顎関節症は急増しています。

アメリカ歯科医師会の報告では62%の歯科医師が顎関節症の症状の増加を認識しており、厚生労働省ではまだ正式な統計はないものの、日本でも顎関節症の増加を指摘する歯科医師は多く、筆者が院長を務める埼玉・志木の幸町歯科口腔外科医院でもコロナ前より2割ほど患者さんが増加しています。

コロナ禍での顎関節症の特徴は、重症化してから受診する人が増えていること。これはマスク生活になり口を開ける機会が減り、顎関節症になっても気がつかず放っておいて悪化してから自覚する人が多いためです。

「コップから水があふれるとき」に顎関節症になる

顎関節症はあごへのさまざまな負担が許容量を超えたときに発症します。そのメカニズムは、コップと水の関係に例えられます。目の前に空のコップがあるとイメージしてください。

コップに水を少しずつ注ぐと、少しずつ水が溜まります。注げば注ぐほど水が溜まり、コップいっぱいになってもさらに注ぐと、ついには水があふれます。多くの人は最後に注がれた水(負担)だけが原因と勘違いしてそれを取り除こうとするのですが、どの負担でも軽くして、最終的にコップから水があふれさえしなければいいのです。

その症状があごを動かす筋肉に出た場合は「筋肉痛」となり、あごを動かすと傷めた筋肉に痛みが出ます。あごの関節の内部に起こると「捻挫」状態なので、関節を指で押したりあごを動かしたりすると関節の中に痛みを感じます。

また、あごの構造に影響が出ると、関節の中にある「クッション」の位置がずれてしまいます。あごを動かすと「カクン」「ゴリッ」という音がする人は人口の20%はいるといわれるほど一般的な症状で、口を開け閉めするたびにズレたクッションが関節の骨と骨の間に挟まったり抜けたりするときに音がします。

さらに「クッション」がズレたままで口を開け閉めしても骨の間にはまらなくなると、今度はズレた「クッション」があごの動きの邪魔をして口を開けられなくします。ダメージが骨にまで及ぶと「骨の変形」として表れ、あごを動かすときの痛みだけでなく、骨から来るつねにジワーっと痛みを感じることもあります。

急増の理由はスマホの長時間使用!?

イメージしやすいあごへの負担としては「悪い噛み癖」「食いしばり」「歯ぎしり」「硬いものを噛む」が挙げられます。他方「これがあごへの負担になるの?」と思ってしまう負担に「うつ伏せ寝」「頬づえ」「高い枕」「電車でのうたた寝」「爪を噛む癖」などがあります。顎関節は強い負担でも短時間であれば耐えられるのですが、弱くても長時間かかる負担には弱いという特徴があるからです。

通常は上下の歯は触れ合ってなく2mm程度の隙間があるのですが、緊張などによって唇を閉じる力が強くなり、「歯列接触癖(TCH)」という癖が身につくと、つねに上下の歯が「軽く」接するようになります。たったこれだけの負担と思うかもしれませんが、この癖があるだけで顎関節症になるリスクが2倍にも増えます。

そして、コロナ禍になり顎関節症急増の原因の一つとして指摘されているのが「スマホの長時間使用」。正しい姿勢の場合の下顎は、頭の真下に位置しているのであごはリラックスした状態です。しかしスマホを操作するうちに猫背になり、下顎は頭の前方にくるので、関節の骨が前にズレてしまい顎の負担が増えます。

これまでコップから水があふれなかった人も、スマホの長時間使用でコップに新たな水(負担)注がれたことによってあふれたために顎関節症が発症するのです。

「スリーフィンガー法」で簡単セルフチャック!

顎関節症は発症してから2週間以内に治療を開始するとすぐに治るので、症状が出たら3日以内の受診をお勧めしていますが、前述のようにマスク生活では自覚が困難です。そこで誰でも簡単にあごの痛みと動きをセルフチェックする「スリーフィンガー法」をご紹介します。

人差し指1本を「ワンフィンガー」、人差し指と中指の2本を「ツーフィンガー」、さらに薬指を合わせて「スリーフィンガー」として、これを縦にして口に入れて、あごの関節や周囲の筋肉の痛みとあごの動き具合を確認します。

痛みや顎の動きが悪く「ワンフィンガー」も入らないときは、顎関節症より重い病気になっていることも考えられます。「ツーフィンガー」が入らない場合は急性(最近なった)顎関節症で、「スリーフィンガー」が入らないと知らないうちに顎関節症になっていてすでに慢性化しています。つまり「スリーフィンガー」が入らない人は顎関節の治療が必要な可能性があります。

また左右のあごの関節の動きのバランスを確認する方法もあります。鏡の前でゆっくりと大きな口を開けてみて口の動きを観察してください。口がまっすぐ一直線で開くと、左右のあごの関節は良いバランスですが、左右のどちらかに歪んで開いたり、左右に揺れながら開いたりすると、バランスが崩れています。バランスが悪い人は、歯科医院で一度状態を診てもらいましょう。

昔の顎関節症の治療はマウスピースを使ったり、関節に注射や内視鏡手術するなど、歯科医師が主導となり患者さんに肉体的負担をかけるものが主流でした。しかし病態が解明されるにつれ、患者さんが日常生活を見直すことで症状が軽くなることが判明し、患者さん主導の治療に変化してきました。

ただし顎関節症のさまざまな負担の原因は患者さんの生活習慣によるものなので、自身で原因を見つけて習慣を改善することは困難です。歯科医師による生活習慣のヒアリングや診察を通して診断し、原因を探っていき、患者さんに対策について相談します。

スマホの長時間利用を避けるには

スマホを長時間使用してしまう理由の1つはスマホへの「集中」で、気がつくと知らないうちに長時間になってしまうケースが多いです。無意識なので自覚することは難しいため、スマホの環境システムを改善し対応します。有効な方法が「時計アプリ」で、経過した時間がわかるようにアラームやタイマーなど自分と相性がいい機能を使い、スマホ操作前に30分ごとにスマホ画面に時間が表示されるようにします。

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スマホに表示されたら10秒ほどスマホを置いて、肩を後ろに開いて肩甲骨を広げ、上を向いて首を伸ばし、それから姿勢を正し口をゆっくりスリーフィンガーの大きさまで開けて、あごへの負担を軽くしましょう。さらに生活習慣の見直しであごへの負担が減り顎関節症が改善しているかどうか、定期的に歯科医院で診てもらうと効果がわかりやすいです。

筆者が顎関節症について解説した日本テレビ系「スッキリ」の特集で、フリーアナウンサーの高橋真麻さんが慢性化した顎関節治療を長年行っているが根本の解決になっていないと公表したように、慢性化すると治療に数カ月から数年かかることもあります。

また症状が偏頭痛として表れ長年悩まされる人も少なくありません。コロナ禍でスマホの長時間使用という新しい負担が加わり顎関節症リスクが上がっている中、スマホの使い方を工夫して顎関節症にならないように注意しましょう。

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「224人の子の脳」3年追って見えたスマホの脅威

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提供元:「スマホをいじってばかりの人」のあごが危険な訳|東洋経済オンライン

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