2022.06.26
老後には2000万どころか「4000万円」は必要なワケ|月15万円あれば十分という人でこれくらい必要
加速するインフレで、将来のお金に関する不安はつのるばかりです(写真:Luce/PIXTA)
加速するインフレで「将来のお金」について不安を持つ人も増えているだろう。
「貯金だけでは明らかに老後は苦労する」と断言するのは、投資家としても知られる会計学博士の榊原正幸氏だ。同氏はこれからの日本人に投資が必須であること、中でも「自分の期待利回りを知る」ことが重要だと話す(本記事は『60歳までに「お金の自由」を手に入れる!』の内容を抜粋・編集したものです)。
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老後2000万円不足問題の真実
「老後に2000万円ものお金が不足する」という話を、皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。これは、2019年に発表された政府の報告書の内容によるもので、「え! 老後に2000万円ものお金が必要なの!? 聞いてないよ~! 国はどうしてくれるんだ!」と世間は大騒ぎしました。
正直、この「2000万円」という数字が独り歩きしてしまった感がありますが、この報告書(正式名称「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」)は、「老後を支えるためには、各自が資産運用をしていかなければなりませんよ」ということを啓蒙したもので、きちんとした識者によって誠実に書かれたものです。
実際、これからの時代は、資産運用は「ありき」です。運用なしには、老後の生活設計は語れないのです。それはまったくその通りなのですが、問題はこの「2000万円」という数字ですら、実は足りないかもしれないということです。
ざっと計算してみましょう。現在、夫が65歳で妻が60歳とします。そして、もし男性でも90歳まで、女性の場合は95歳まで生きるとしたら、夫が70歳まで、妻が65歳まで共稼ぎで働いたとしても、夫婦で残り20年、それにさらにあと10年は奥様だけで生活していくことになります。
夫婦合計の年金収入が月に20万円で、生活費が月30万円として、奥様だけの時の年金収入が月10万円で、生活費が月15万円とします。夫婦での20年間は毎月10万円、20年で2400万円が必要となり、最後の10年(奥様だけの期間)は、毎月5万円不足しますから、10年で600万円が必要となり、総合計で最低でも3000万円は必要です。
しかも、これだとインフレに対抗できていません。将来のインフレや年金の減額といったリスクには一切適応できないのです。
日本もこれからは「インフレ」が基調となります。バブル崩壊後に2003年まで14年ほどデフレが続いたので、そして、雇用者所得の平均値はそれ以降も下落基調が続いたために、平均的な日本人は「デフレが身に染みついちゃって」いますが、それは時代遅れです。
これからは日本も含めて世界的にインフレが当たり前ですから、それにも適応していかなければならないのです。そういう意味でも、インフレ対抗力がまったくない「貯金」だけでは無力なのです。
少なくとも1991年から2003年までの13年間はデフレ経済でしたが、それだけのデフレ期を含めてさえも34年前(1988年)と比べたら、いろいろなものの値段は2倍くらいにはなっています。つまり、34年後の3000万円の購買力は、現在の2分の1かそれ以下になっている可能性が極めて高いのです。
ということは、貯金を取り崩すだけの老後なんて、「ジリ貧」でしかないのです。
貯金を取り崩す生活は不安だらけ
重要なのは、貯めたお金をただ取り崩すだけではなくて、「運用資金」とすることです。
仮に頑張って3000万円を貯めたとすれば、利回りが3%でも毎年90万円、利回りが7%もあれば毎年210万円ものお金を生み出してくれます。インフレにも対応できます。そうすれば、「もしかして100歳まで生きても」大丈夫です。
「貯金だけ(=ただ貯金するだけで、老後はただ貯金を取り崩すだけ)」というのは、「ファイナンシャル・インテリジェンス(お金の知性)」が低い状態であり、21世紀においては、いち早く脱却しなければならない状態です。資産運用能力を身につけて、資産に資産を生み出してもらう(よく言われるようになった「お金に働いてもらう」)という状態を常態化させることが必須です。
では、本当に老後で実際に必要な金額はいくらなのか。
それは結局、「どのような生活水準の老後を過ごしたいか」によって決まります。
当然のことですが、それは十人十色です。「毎月15万円もあれば十分」という人もいれば、「現役時代に生活水準を上げたい放題上げてしまったから、毎月80万円くらいはないと満足する生活ができない」という人もいるでしょう。
また、毎月の生活費とは別に、自宅の修繕費や冠婚葬祭の費用など、臨時で必要となる出費もあります。毎月の生活費を12倍した金額に、少なくとも30万円から多い人は150万円くらいを年間の支出額として見込んでおく必要があるでしょう。
つまり、「毎月15万円もあれば十分」という人でも、年間の生活費は(15万円×12+30万円=)210万円くらいは見込んでおく必要がありますし、「毎月80万円くらいはないと満足する生活ができない」という人は、(80万円×12+150万円=)1110万円くらいは見込んでおく必要があります。
そのうえで、運用によりその金額を安定的に生み出せるようにするのです。そうすれば、何歳まで生きてもお金の心配をする必要はなくなります。この状態のことを「エターニティ」と呼びます。
たとえば先述の「毎月15万円もあれば十分」という人の場合、年間の生活費は210万円です。もし、達成可能な資産運用利回りが3%だとしたら、(120万円÷0.03=)「4000万円」となり、年金を考慮に入れずとも、定年までに4000万円の資産を貯めておけば一生安心、となります。
極めて重要な「期待利回り」
ここで重要となるのが、「期待利回り」という概念です。自分はどのくらいの期待利回りで資産を運用することができるのか、それを把握することが極めて重要なのです。
ここでは、「期待利回り」というのは文字通り、「平均的に達成することが期待できる利回り」という意味で用います。「平均的に」ということは、1年や2年で達成した利回りのことは意味しておらず、10年とか15年といった長い期間において達成してきた毎年の利回りを単純に平均したものを「期待利回り」として認識します。
この期待利回りを知ることで、自分が定年までにいくら貯めなくてはならないのかがわかります。
ここで、気をつけなければならないことがあります。たまたま1年目に「15%」、2年目に「18%」の利回りが達成できたからといって、「自分は平均で16.5%の利回りが出せる」と思ってしまうのは早計だということです。
それらの年の日経平均株価が、たとえば1年目に「10%」、2年目に「13%」上がっていたとしたら、自分が達成できた利回りは、日経平均株価の上昇に助けられた部分も大きいわけですから。
そしてその逆も真なりで、たまたま1年目が「−10%」、2年目に「−5%」の利回りだったからといって、「自分は平均で−7.5%の利回りだ。センスないわ~。もうダメだ~」と思ってしまう必要はないのです。
それらの年の日経平均株価が、たとえば1年目に「−15%」、2年目が「−10%」だったとしたら、日経平均株価の下落率よりはマシだったわけで、まんざらセンスは悪くないわけです。
「毎年5%の利回り」の実態
このように、期待利回りがたとえば「5%」だとした場合でも、「毎年5%の利回りを達成し続ける」というようには、なかなかなりません。実際には、かなりブレます。たとえば、次のようになります。
1年目 ―― 5%
2年目 ―― 10%
3年目 ―― 15%
4年目 ―― 18%
5年目 ―― 3%
6年目 ―― −10%
7年目 ―― −5%
8年目 ―― 4%
9年目 ―― 6%
10年目 ―― 4%
こんな感じで10年間推移すると、この10年間の単純平均の利回りが「5%」になります。この数値例でいうと、2年目から4年目までは、ちょっとした株式投資ブームのような時流に乗れている感じですし、逆に6年目と7年目は、リーマンショックやコロナショックといったような大きなショックが起こった時期だという感じです。
日本の株式市場というのは10年くらいに一度の頻度で大暴落が起こってきていますし、その逆にちょっとした株式投資ブームのようなことも10年くらいに一度の頻度で起こってきています。
ですから、この数値例のような利回り実績が得られたとしたら、その実績は今後もだいたい同じような感じか、経験値が積み重なることで少しずつ改善されることが期待できるかな、という感じになるでしょう。
こういう話をすると、よく出てくるのが「日経平均株価にアウトパフォームかアンダーパフォームか」というような議論です。すなわち、自分が達成した利回りが日経平均株価の騰落率よりも上回った(アウトパフォームとなった)か、下回った(アンダーパフォームとなった)か、ということなのですが、そんなことはあまり気にしなくてもいいのです。
日経平均株価は、マイルドなインフレを前提とするならば、ざっくり言えば結果的な平均値として年率で1~3%くらいは上昇していくことになるでしょうから、市場参加者の平均的な利回りも、そのくらいは達成できることになるのでしょう。
アウトパフォームできなくても悲観しなくていい
ただ、そういったことよりも大事なことは「生活実感として、期待した利回りがちゃんと出せたかどうか」なのです。
平たく言えば、「自分の期待利回りが4%だとして、投資資金が5000万円だとしたら、長期的かつ平均的に毎年200万円の利益を出せるかどうか」が重要だ、ということです。それも「平均で」なので、利益が100万円の年もあれば300万円の年もあっていいというわけです。
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なお、株式投資の利回りが日経平均株価の騰落率よりも上回る(アウトパフォームとなる)投資家というのは、プロのファンドマネージャーの中でも、上位5〜10%くらいしかいないといわれていますので、アウトパフォームできなくても、悲観する必要はないと思います。
つまり、大事なことは「生活実感に合わせたざっくりとした利回り計算」でいいので、自分が達成できる期待利回りを把握することなのです。そうすれば、それをベースとした運用成績が期待できるようになり、インフレが起きようと、老後の経済設計は安定します。
私が大学院生の頃に、同期の友人から聞いた英語の格言に「The assets you never lose are knowledge and expertise」というものがあり、私はとても気に入っています。訳すと、「あなたが失わない財産は、知識と専門能力だ」となります。
「運用能力」という「専門能力」は、ひとたび身につけてしまえば、失うことはないのです。だから、老後の経済設計が安定するのです。
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提供元:老後には2000万どころか「4000万円」は必要なワケ|東洋経済オンライン