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2022.06.17

生前の瀬戸内寂聴さんが60歳過ぎて挑んだ健康法|歩くようにしたら集中力が増し仕事がはかどった


瀬戸内寂聴さんが遺した言葉をお届けします(2014年、撮影:尾形文繁)

瀬戸内寂聴さんが遺した言葉をお届けします(2014年、撮影:尾形文繁)

昨年11月に逝去された作家の瀬戸内寂聴さん。1987年から2017年まで寂聴さんが編集長を務めた『寂庵だより』から、寂聴さんの随想を収録した書籍がシリーズで発売されました。寂聴さんの飾らない素顔が詰まった第3弾『捨てることから始まる 「寂庵だより」1997-1987年より』からエッセイストの酒井順子さんの解説を交えてお届けします。(漢数字や送り仮名などは原文の通りにしています)

『捨てることから始まる 「寂庵だより」1997-1987年より』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

<出家のきっかけの一つとして恋愛問題があったかもしれませんが、寂聴先生は源氏物語の女君達のように、出家した後に一人静かにお経を読んで過ごしたわけではありません。また中世の隠遁者のように、ただ世間を疎んだわけでもない。出家後はますます俗世と向き合うことによって、聖俗の間に橋をかけようとしていたのではないでしょうか。(中略)

サガノ・サンガと『寂庵だより』の誕生は、出家によって別の世界に入った寂聴先生にとっての、もう一つの転機となりました。年をとっても、人生は変えられること。そして年をとっても、他者のために生きられること。本書は、そんな寂聴先生の教えと実践を、我々に生き生きと伝え続けるのです。(解説「仏教と共に生きる寂聴先生と、人々とを結んだ『寂庵だより』」酒井順子 より)>

家族について

今年は国連で決めた家族年だという。どうして国連がそんなことを決めなければならないのかわからないが、個人主義の筈だったヨーロッパやアメリカが、家族を見直す気持になってきたのはおもしろいと思う。

外国へ旅行すると、きれいな公園のベンチで、老人が淋しそうにいつまでも日向ぼっこをしていたり、ぼんやり、何を見ているのでもないうつろな表情で坐っているのを見た。たぶん、家族のいない孤独な老人なのだろうと思った。

日本でもマイホームということばがはやりだした頃から、核家族という言葉が横行し、結婚の条件に、お嫁さんの方から、堂々とババぬきでなどと主張するようになった。要するに、姑はいやで、舅もごめんこうむりたいというのである。

最近、新聞で、親の老後を見なければならないと思っている若者へのアンケート調査の発表が出ていて、タイやインドや中国やドイツが、親は当然見るべきだと思っている若者の多いことを示し、日本人が、何と世界で一番「老いた親の面倒を見る必要がない」と答えた若者の多いことを、結果グラフが示していた。

インドの原始経典「スッタニパータ」には、

「両親が老いて衰えているのに、これを養わず、自分だけ豊かに暮らす人がいる。これは破滅への門である」

とある。二千五百年前の釈尊の在世時代、すでに、社会に変動がおこり、都市生活が生れて、それにつれ、親の面倒を見たがらない子が増えてきていたのだろう。だからこそ、こういう戒めも生れたのだと思う。

それでもインドでは、人の家に招かれると、そこには家族が何世帯もいて、豊かであればあるほど、家族の数は多く、次々あらわれて紹介されるのが常である。

そして家庭料理が姑から嫁へ、母から娘へと教え伝えられていて、自分の家の味というものがあり、それを得意になって食べさせてくれる。孫は祖父や祖母の膝に坐りこんで安心しきった顔をしている。

日本ではめったにおめにかかれない家族のあたたかさ

昔、といっても、私の子供の頃、つい、六十年ほど前の日本の家庭もこうだったなという思いで私はなつかしくその様子を見る。

湾岸戦争の時、イラクへ薬やお金を持っていった時も、バグダッドの庶民の家庭へ招待されていくと、ごく小市民的な、日本でいえば実直なサラリーマンの家という感じのせまい家の中に老夫婦と、息子夫婦と、その子三人と、まだ嫁にいかない三人の妹が同居して、和気藹々として暮していた。

そこにはもう日本ではめったにお目にかかれない家族のあたたかさがみちていた。

寂庵へ来る人たちの中で、悩みを訴えるのは、ほとんどが家族との軋轢や葛藤である。
その悩みのもとをさぐっていくと、自分の家族への愛に対して、相手がその半分も応えてくれないという不満にあるようだ。

そうかといって、独り暮しで老いを迎えた人は、その孤独と淋しさを訴える。

私は幸い家族の中で育ち、結婚して結構な家族と暮したのに、それを自ら放棄してしまい、もう四十数年も家族なしで過している。

それでも、いつも身辺に家族同様の、心の通いあう若い人たちに囲まれているせいか、淋しいと思う閑もない。

それに私は五十一歳で出家して以来、いっそう血族への愛を断ちきれている。道元がいっているように、出家者は世間も、家も、家族も捨ててなるものだから、血肉家族的な愛を捨てて、宇宙一家的な大きな愛を持たねばならないのである。その愛を仏教では慈悲と呼ぶ。 (一九九四年二月 第八十五号)

歩く

年より若く見えるし元気なのは、何か秘訣があるのかとよく訊かれる。実は、不規則な生活で、年中過労で、三百六十五日一日も休日もなく、睡眠時間は少く、北に南に西東と、年中飛び廻っていて、およそ健康法などに心も体も費やす閑などない。座禅を本気でやれば、体にもいいというが、私は座禅が下手で、体にいいというまで坐ったためしがない。
無我の境地に入れるのは、ものを書いている時だけで、これは背後から斬りつけられても、首が落ちるまで気がつかないだろうと思う。

医者には十年ほど前、心臓が悪いから、仕事は全部やめ、旅行や講演もやめ、六十歳の老婆らしくおとなしく暮らせと言われた。日本で一、二の心臓の大先生の御 宣託だからおとなしく聞けばいいのに、私はその時、暗澹として、

「六十の老婆らしく、何をすればいいのですか」

と訊いたら、博士曰く、

「庭の草むしりでもすることですな」

私は東京のその病院から帰る新幹線の車中でつらつら考えた。どうせ、いつ死ぬかわからない命なら、阿呆らしい、草むしりなんかするものか。

そこで、それまで以上に、私はじゃかすか仕事を引き受けて駈け廻り、夜も眠らず仕事をした。心臓の方がびっくりしたのか、あきらめたのか、それっきり何事もない。もちろん薬なんて飲んでいない。

しかし、今度はじめて私は一つの健康法に積極的に取り組んだ。理由は、『源氏物語』の仕事が、並大抵ではないとわかったからである。

円地文子さんが、『源氏物語』を訳している最中、二度も網膜剝離の手術をされた姿を思い出した。あの頃の円地さんより、今の私の方がずっと年寄りなのだ。この長丁場を耐えぬくためには、自分で健康管理をするしかない。

えいっと、ねじ伏せて、歩いてみた

そこで発心したのが歩くことであった。机にしがみついて、終日書きつづける生活は、体にいい筈がないのだ。寂庵から仕事場まで、丁度、大堰川添いの道を歩いて一万二千歩、それを道筋によって、五十分か、一時間弱で歩くのだ。やってみたら、実に気持ちがいい。

一時間が惜しくてたまらない気がするのを、えいっと、ねじ伏せて、歩いてみた。スニーカーに作務衣で素手で歩く。相当な早足だ。まだ、風景を楽しむゆとりはない。万歩計と時計だけを頼りに、ただひたすら歩く。苦しくなると不動真言を口ずさむ。これは呼吸法に適っていて、実に具合がいい。

一時間歩いたら、全身汗びっしょりになっている。今のところ、一週間に三度をめどに歩いているが、足腰は回毎に軽くなる。

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『捨てることから始まる 「寂庵だより」1997‐1987年より (単行本)』(祥伝社) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

いろんな路を試みて、思わぬ収穫がある。嵯峨野はまだまだ散歩道の宝庫だ。鶯の声を至る所で聞く。まだ幼い声だが、励ましてくれるように思うからいい気なものだ。

一時間損したように思っていたが、集中力がとみに増大して、仕事のはかはぐんとのびた。これで体が悪くなる筈がない。お金もいらず、仲間もいらず、一人てくてく歩くだけだから、誰に迷惑もかけない。わざとお金を持たないで歩く。途中でタクシーなんかに乗ったり、うちへ電話で助けを求めたりしないためだ。

寂庵の女の子たちは、そのうち、一緒に歩こうと言われるのではないかとビクビクしている。私はそんな残酷なことは言わない。独りで天地を所有しているようなあの壮大な解放感がこたえられないからである。 (一九九三年四月 第七十五号)

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瀬戸内寂聴さんが語っていた不安な時代の生き方

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提供元:生前の瀬戸内寂聴さんが60歳過ぎて挑んだ健康法|東洋経済オンライン

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