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2022.06.16

実はメロン全国1位、茨城で聞いた「最高の食べ方」|生産者泣かせ「イバラキング」にも挑む達人たち


メロンで全国トップ、茨城県鉾田市で聞いた「最高の食べ方」とは?(写真:筆者撮影)

メロンで全国トップ、茨城県鉾田市で聞いた「最高の食べ方」とは?(写真:筆者撮影)

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メロン全国1位は北海道でも静岡でもなく…

ネットメロンを目の前にしたとき、まず思うことは何だろう。

「まるまる1個を独り占めして、がぶっと殿様食いしてみたい」――ではないか。

包丁を入れた途端にしたたる果汁。網目模様から目に飛び込むエメラルドグリーンやパステルオレンジの果肉。鼻腔から脳を刺激するメロンならでは香り。

そんなちょっと特別な果物、メロンと聞いて多くの人が最初に思い浮かべる産地は、夕張メロンや富良野メロンの北海道、あるいは高級マスクメロンやクラウンメロンの静岡県だろう。ところが、実は日本一の産地は茨城県。23年連続でメロンの生産量日本一を誇る。市町村単位で見ると、茨城県鉾田(ほこた)市がナンバー1だ。

毎年3月に発表される都道府県魅力度ランキングでは、最下位の47位がほぼ定位置の茨城県。「いばらき」でなく「いばらぎ」と、読み方すら間違えられがちだが、農業では強さが際立つ。ナシ、ピーマン、コマツナなど生産量1位の品目も多く、メロンもそのひとつなのだ。

一方、メロンは当たり外れが大きい。そう感じている消費者は多いのではないか。あのとき食べたメロンはとってもおいしかったのに、次はイマイチだったりするのはなぜなのか――。

どうすれば最高においしいメロンと出合えるのか。そこで、鉾田市で出荷最盛期を迎えているメロンづくりの匠たちを訪ねて、ナゾに迫ってみた。

最盛期を迎えるメロンの産地・鉾田へ(写真:筆者撮影)

最盛期を迎えるメロンの産地・鉾田へ(写真:筆者撮影)

最高においしいメロンと出合う方法

常磐線石岡駅から鹿島灘に向かっては、緩やかな起伏が繰り返し続く畑作地帯。しばらく東に向かうと、地面を覆うようにかまぼこ状のビニールハウスが連なる一帯を走ることになる。

出迎えてくれたのは、JAほこたメロン部会部会長の長峰広さんとメロン部部長の鷺沼秀樹さん。

JAほこた営農情報センター近くのメロン用ビニールハウス(写真:筆者撮影)

JAほこた営農情報センター近くのメロン用ビニールハウス(写真:筆者撮影)

写真左より鷺沼さん、長峰さん(写真:筆者撮影)

写真左より鷺沼さん、長峰さん(写真:筆者撮影)

長峰さんは長さ平均60メートルのハウス33棟で、鷺沼さんはほぼ同じ長さのハウス60棟でメロンを栽培している。ハウスの中を行って帰って、全部を見て回るだけでも、それぞれ4キロと7キロを歩くことになる。なおJAほこた管内で春メロンを栽培している生産者は約160戸、総出荷量は78万ケースを誇る。

そんな鉾田ならではの風景の中、おいしいメロンに出合う方法を聞いてみると

「まずは自分の好みのメロンの味を知ってもらうことです。品種によっては、喉がヘンな感じになるっていう人の話も聞きますから。いろいろ食べ比べて好きな品種を覚えてもらえれば、いつでもおいしいメロンを買えるようになります」(長峰さん)

「あとは食べごろの基準。食感の好みの差は大きい。硬めが好きな人にとっては採ってすぐが食べ頃だし、柔らかめが好きな人だとしばらく置いてから食べないとアレっとなります。基本的にはベストなタイミングは、おしりを押してちょっと弾力があるぐらいです」(鷺沼さん)

そう教えてくれる2人。よくある勘違いについても指摘してくれる。

「メロンは追熟しても糖度が上がることはないんです。だから甘さに関しては硬くても柔らくても、いつ食べても一緒。自分好みの食感のときに食べれば間違いないです。ただ収穫したてだと皮の縁の方はまだ硬くて、食べられない部分が多くなっちゃいますが」(鷺沼さん)

メロンの熟れすぎた味が苦手な人も結構いて、食べごろを逃さないのもコツという。

メロンは冷蔵庫には入れずに常温で追熟させるのがよいそうだが、熟させすぎると発酵が始まってしまう。通常、収穫してから5日間ぐらいが食べごろ。となると、買ったり貰ったりしたら、迷わずすぐに食べるのが正解といえそうだ。

「メロンは赤肉と青肉とでかなり味わいが異なります。だから自分の好みが赤なのか青なのかを知っておけば、残念な思いをすることはかなり減りますよ」とは長峰さん。

「まず色で選んで、硬さを決めて、それから品種。この順番がいい」(鷺沼さん)という。

なぜJAほこたのメロンは売れるのか

では、JAほこたのメロンが売れる理由は何なのか。

これが日本一売れている鉾田のメロンだが……(写真:筆者撮影)

これが日本一売れている鉾田のメロンだが……(写真:筆者撮影)

長峰さんは、「上手に作ったメロンならどれもおいしいはず。ただ市場関係者からは、鉾田のメロンは果実1個のおいしく食べられる期間が長いと評価してもらっています」と語る。

「どんな産地でも一生懸命作っているのは同じだし、差がつくとしたらここの土地のおかげじゃないかな。海の音が聞こえる場所で、いつも海風に当たっているのがプラスに働いてるような気がする」とは鷺沼さん。

どうも匠たち自身も、鉾田のメロンが全体的においしい理由を正確に把握できているわけではないようだ。

どんどん出荷されていくJAほこたのメロン(写真:筆者撮影)

どんどん出荷されていくJAほこたのメロン(写真:筆者撮影)

生産する品種の選定は、産地にとって最も重要な業務のひとつだ。どの品種を生産するかによって、自分たちの利益が大きく変動するのだから、生産者にとっては命がけの仕事だともいえる。

JAほこたではメロン研究部を作り、持ち回りで毎年10数名の生産者が新品種の栽培試験と評価を行っている。

「リスク分散のために、ほんのちょっと味は落ちるけど栽培しやすい品種とか、秀品率の高い品種とかも選んだりするんですよね?」

筆者の意地悪な質問に対して、ハモったかのようにおふたりから同じ言葉が返ってきた。

「それはないです。味が最優先ですから」

新たに生産する品種の条件は、それまでの品種よりもおいしいこと。ここだけは絶対に譲れないのだそうだ。

「日本一の産地がそれをやっちゃおしまいです」と長峰さん。

腕組みしながら黙って大きくうなずく鷺沼さん。ふたりに、全国1位の矜恃を見た気がした。

美味いが生産者には厄介な「イバラキング」

おいしいけど作りづらい。でもおいしいなら生産者として何としてでも作りこなしたい。最近では「イバラキング」がそのひとつ。「イバラキング」は茨城県農業総合センターが開発した青肉のネットメロンの新品種。民間企業と同じ土俵に県が送り出した品種である。

JAほこた管内では、2021年度に「イバラキング」が「アンデス」を抜いて出荷量1位になった。最大の魅力は、糖度が17~18度に達するのに、スッキリさっぱりした味であること。地元鉾田でもまだ味わったことのない人が多くいるようだが、おいしさが評判を呼びファンが増えている。これに伴い、作付面積が一気に増えたそうだ。

これが美味いが生産者泣かせの「イバラキング」(写真:茨城県提供)

これが美味いが生産者泣かせの「イバラキング」(写真:茨城県提供)

「イバラキングはほんと癖の強い品種ですよ。生産者でも絶対に作らないという人と意地になって作り続ける人とに、きれいに分かれるぐらい」と鷺沼さん。

鷺沼さんはイバラキングを安定して作りこなす名人のひとり。

「私がちょうど研究部員だったとき、イバラキング導入初年度に5株試作したんですが、これが秀品が採れずに(まあまあの)良品ばかりで。秀品率が高くない品種を作ったら利益は出ない。ほかの人も同じだったし、こりゃダメな品種だなぁって思っていたら、たったひとりだけが見事に作りこなしたんです。アンデスよりもネットがきれいに入って大玉で。なにより味に驚いた。

これを作りこなしたらすごいってなって、翌年張り切って面積を広げてみたらまたしても大失敗。3年目も半分ぐらい捨てた月もあって。

イバラキングは一歩間違うと、熊がひっかいたような模様になったり、大玉にならなかったりするんです。性質的に、ネットが出るタイミングの気温と天気に大きく影響を受けるので、植え付け時期を変えてリスク分散してます。1回失敗しても、全体で見れば利益が出るように」

長峰さんがこだわる赤肉の「クインシー」(写真:茨城県提供)

長峰さんがこだわる赤肉の「クインシー」(写真:茨城県提供)

一方の長峰さんは赤肉の「クインシー」しか作っていない。

「私はクインシーがいちばんおいしいと思っていますから。あの濃厚さとねっとり感が大好きでなんです。繊維質が多い食感はクインシーならでは。歯を入れたときの歯ごたえが、ショベリっていうかシュバっという感じで。味でイバラキングに負けているとは思いません」

JAほこたメロン部会では、現在7品種を部会推奨品種として選定している。「イバラキング」「アンデス」「クインシー」「ルピアレッド」「なだろうレッド」「キスミー7号」「キンショー」の7つだ。そのうち、生産者がつくりたい品種を自由に選んでつくっている。

メロンづくりの奥深さ

メロンは見た目以上に気難しい作物だとよく言われる。ネットメロンは、網目模様の美しさも価格に直結する。味よく見た目もよいメロンを作るには、料理の達人のような繊細な温度管理が求められる。

メロンのネットは、果実が膨らむ際の内側からの圧力で果皮にヒビを入れ、その割れ目をふさぐかさぶたが網目模様になったもの。メロンが自分の体に描くタトゥーともいえる。温度管理次第でうっすらとしか線が入らなかったり、ぶっとい傷跡のような線が入ったりしてしまう。

「メロンづくりの大変さといったらです。1日中、中腰でメロンの世話をし、ハウス内の温度を調整するために、サイドのビニールを開けたり締めたりの繰り返しですから。それから病気を出さないための消毒もしょっちゅうで」(長峰さん)

メロンについて熱弁を振るうお二人(写真:筆者撮影)

メロンについて熱弁を振るうお二人(写真:筆者撮影)

「メロンは栽培期間が長いうえにやり直しがきかない一発勝負の作物。そのときそのときの温度の微妙な加減が品質に影響するから、果実が膨らみ始めたら、冠婚葬祭だって家族全員では出席できない。糖度が上がらなかったり、大きくならなかったり、きれいなネットにならなかったり。メロンは本当に奥が深い。はまれば面白いんだけど、息子はやりたがらないかもしれない。自分の場合は、ただただ追求したい、難しいからこそやめられないって感じなんですけどね」(鷺沼さん)

「自分の儲けも大事ですけど、今は鉾田のメロンがおいしいっていうことをもっと知ってもらいたいですね。東京に近い大産地なのに、その強みを生かし切れていないと感じています。もちろん市長も農協も頑張ってPRしてくれてはいるんですけど」(長峰さん)

「ここでも後継者問題は深刻でね。日本一の産地であるというブランドを守り高めていくためには、栽培面積を減らすわけにはいかない。そのためにもメロンでアピールして、儲かる百姓の姿を若い世代に見せ続けないと」(鷺沼さん)

深刻な話題についても明るく語るおふたりの黒い顔を見ながら、メロンの匠たちはきっと人づくりも上手なのだろうと感じた。

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提供元:実はメロン全国1位、茨城で聞いた「最高の食べ方」|東洋経済オンライン

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