2022.06.09
「チョコレート効果」長期低迷⇒躍進の意外な裏側|1998~2014年はお荷物、粘りの健康志向が結実
健康を考えてチョコを食べる時代に(筆者撮影)
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72%、86%、95%――。
明治の「チョコレート効果」がヒットしている。一包み5グラムの小さな板チョコ入りのパッケージにはカカオ分が数字で記され、「美と健康を考えた、高カカオポリフェノール」「低GI」といった、一般の甘くておいしいチョコとは異なるキーワードが目立つ。
全国のスーパーやコンビニの棚で、すっかりおなじみとなったこのチョコレートは、1998年に発売され、今や、年間200億円を超える「高カカオチョコレート(カカオ分の高いチョコ)市場」の約60%を占めるトップセラーだ(インテージSRI 高カカオチョコレート市場 2020年4月~2021年3月累計ブランド別販売金額)。
ここ数年でメジャーになったので、なんとなく新しいもののようだが、実はデビュー24年。ブレイクするまで、苦節17年。長い不遇の時代を乗り越えてきた。
「チョコレート効果」は、健康を意識してチョコを食べるという新しいスタイルの火付け役となり、2010年に約15億円だった「高カカオチョコレート市場」は、2020年に約210億円まで成長した。これはチョコレート市場全体の約7%にのぼる。
「チョコレート効果」が歩んだ道を振り返り、消費者のチョコへの意識の変化をたどろう。
ココアブームがきっかけだった
チョコを食べすぎるとニキビができる、鼻血が出る――。医学的な根拠はないものの、チョコにはかつて、なんだか体によくなさそうなイメージがあった。「チョコレート効果」が生まれたのは、そんな時代の真っただ中。世間では、一体チョコに何の効果があるというのか、という感じだったはずである。
開発のきっかけは、1995年のココアブームだった。テレビ番組で健康効果が取り上げられ、全国でココアが品切れになる事態が起きた。実はその数年前からココアやチョコレートの原材料「カカオ」に豊富に含まれるポリフェノールに注目し、研究を続けていた明治は、「これからはポリフェノールの時代が来る」と確信。前代未聞のポリフェノール含有量の高さを売りにして、健康をコンセプトにしたチョコを開発。「チョコレート効果」は、1998年に発売となった。
大きなチャレンジだった。しかし、待ち受けていたのは、厳しすぎる現実だった。甘いミルクチョコレートが主流の時代に、苦味のきいた味は受け入れられず、売り上げは低迷。発売当時、大阪工場の製造担当者だった宇都宮洋之さんによると、工場内では「こんなの苦くて売れへんで……」と未来を案ずる声がささやかれ、2013年くらいまでは、社内には「いつまで販売を続けられるのか……」という空気が流れていたという。
世界中のカカオを研究、エビデンスを示しブレイク
それでも明治は粘った。「いつ終売になってもおかしくない状況でしたが、私たちはカカオの健康価値を伝えたい。その象徴が『チョコレート効果』です。必ずブレイクすると信じていました」(明治 マーケティング本部カカオマーケティング部 新田大貴さん)。
味を良くするための改善を重ねた。ポリフェノールは、苦くて渋い成分なので、ポリフェノールを多く入れるほど、チョコレートは苦くなってしまう。その問題を解決するため、製造担当者としてレシピ設計をした宇都宮洋之さんは、世界中のカカオを研究した。「苦味が少なく、ポリフェノール量が多いカカオを探しました。カカオは産地や種類によって、味もポリフェノールを含む量も全然違うんです。ポリフェノールはカカオ豆を発酵させる段階でも減るので、南米の産地へ行って、発酵から関与しました」。
2014年には、高カカオチョコレート摂取による、実証研究を行った。愛知県蒲郡市、愛知学院大学、明治による共同研究で、蒲郡市内外の45~69歳までの男女347人に、4週間、高カカオチョコレートを毎日一定量摂取してもらい、身体の変化を検証した。
すると、血圧低下、HDL(善玉)コレステロール値の上昇や、認知症予防の可能性が注目されるBDNFの上昇などが認められた。この結果が2015年にメディアで広く報じられ、研究に使われた「チョコレート効果」が、注目を集めるようになる。低迷の一途をたどっていた売り上げは2015年に、2010年頃の約10倍にアップ。シーン別のサイズや種類を増やし、2020年には、200億円を超える大ヒット商品にまで成長したのだ。
大袋がヒット、低GIへの注目も
「チョコレート効果」の特徴は、サプリのように、継続して食べる人が多いことだ。コロナ禍を機に、大袋の需要がアップ、今は全売り上げの4割を占める。「買い物の頻度を減らしたいという傾向も現れています」(新田さん)。もちろん毎日食べるなら、割安な大袋を買いたい人も多いだろう。
「チョコレート効果」には、カカオ72%、86%、95%がある。売れ筋はカカオ72%。(筆者撮影)
50代以上がメイン層だが「小さめサイズのパウチや箱入りは、会議の前に、あるいは仕事や勉強中のお供にという、比較的若い方の購入が多いです」と新田さん。「ギルティフリーなおやつを」という女性の支持もあるそうだ。
コストコには限定1410gの大袋入り箱(画像:明治)がある。小さなパウチ入りや、ナッツ入り商品も(著者撮影)
また、近年は「糖質を摂りたくないけど、チョコは食べたい」というニーズがあり、低糖質や低GIの商品を求める消費者が増えた。「チョコレート効果」はGI値が29と低めなので、血糖値の上昇を抑えたい人が注目し、食生活に組み込んでいる事例もあるという。
このヒットが業界全体に影響を与え、今は、健康をイメージさせるチョコレートが花盛り。日本で販売される「高カカオチョコレート」は、10年前の約14倍にまで膨れ上がった。
新しい潮流だからこそ、注意したい点もある。例えば、「高カカオ(カカオ70%以上など)」は、砂糖の摂取を控える目安になるが、「高ポリフェノール」とは限らない。カカオ分のパーセンテージ表示には、ポリフェノールをほとんど含まないカカオバター(カカオ由来の油脂)も含まれるからだ。カカオバターを多めに使えば、チョコレートはマイルドで食べやすくなるが、抗酸化作用があるポリフェノール量は少なくなる。
使われるカカオによってポリフェノール含有量は大きく異なる。今後、健康をイメージさせるチョコのパッケージには、カカオ分に加えて、ポリフェノール量や、カカオバターの割合など、より具体的な表記が求められるようになるかもしれない。また、チョコレートは万能薬ではない。個人の体質や健康状態に合わせ、適量を適切に味わうことも大切だ。
文化として定着するには15年以上
「ブームやトレンドでなく文化として定着するには、15年以上かかるものなのだなと、今は実感しています」と、新田さんは振り返る。
チョコレートの原材料「カカオ」と人類は約5300年ものつきあいがあり、古の時代、チョコレートは高価で、健康に寄与する飲み物だった。時代は移り飽食の現代。時を超えてまた、人々はチョコレートに、おいしさとともに健康のための要素を求めはじめている。
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提供元:「チョコレート効果」長期低迷⇒躍進の意外な裏側|東洋経済オンライン