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2022.06.09

水際対策緩和で「夏にインフル流行」3つの理由|入ってくるのは「人、お金、コロナ」だけじゃない


水際対策でせき止められていたのは新型コロナだけではありません(写真:ブルームバーグ)

水際対策でせき止められていたのは新型コロナだけではありません(写真:ブルームバーグ)

新型コロナが発生して2年半、インフルエンザはすっかり“忘れられた感染症”になった。たしかにインフルの国内流行は2シーズン連続で消滅。このまま地球上から消えてくれればいいのだけれど……。

当然そううまくはいかないらしい。むしろ冬を待たず、この夏から患者が増え始める可能性も出てきている。

入ってくるのは「人、お金、コロナ」だけじゃない

今夏のインフルエンザ発生を予見させる理由は、3つある。

(1) 水際対策の大幅緩和 ⇒ 海外から感染症が流入

(2) 南米やオーストラリアでインフルが早期流行中

(3) 2期連続の流行消失によるインフル免疫の低下

まず、日本も遅ればせながら、水際対策の大幅な緩和に乗り出したことだ。

政府は6月1日、1日あたり入国者数の上限を2万人に引き上げ、一部の国や地域からの入国時の検査などの免除に踏み切った。

段階的にでも”鎖国“を解いていけば、インバウンド経済は徐々に息を吹き返すだろう。円安下ではますます貴重な外貨獲得の道だ。

だが、入ってくるのは人やお金だけではない。感染症の流入も免れない。

ここで多くの人が心配するのが、新型コロナの新たな変異株だろう。それを防ぐための水際対策ではあったが、せき止められていたのは新型コロナだけではない。

海外でも、新型コロナ対策で人々の動きが制限され、一時はさまざまな感染症の流行が抑えられていた。だが、日本以上に早々に正常化を開始したことで、一気に再燃している病気もある。

例えば、麻疹(はしか)だ。2022年1~2月の世界の患者数は、2021年の同じ時期と比べて79%も増加した。新型コロナによる予防接種の停滞が大きく影響している。WHOとユニセフは、「破滅的な事態」の条件が揃った、と警告している。

実際に今、インフルエンザも再び動きが活発になっている。この時期、本格的な冬を迎える南半球だ。

南米やオーストラリアで「流行が前倒し」

南半球は、今ちょうど北半球でいう12月に入ったばかりの季節感で、もともとインフルエンザのシーズンでもある。

とはいえ日本同様、南半球でも2020・2021年の2季にわたって、ほとんどの地域でインフル流行は見られなかった。

それが今季は、ちょっと様子が違うようだ。

南米チリとアルゼンチンでは、想定より早く流行が始まり、5月半ば時点の患者数は例年の同時期の水準を上回っている。

WHOの最新報告によれば、流行しているのは主にA香港型(H3N2)だ。特にアルゼンチンは、例年の同時期に比べて患者数が大幅に高止まりしており、B型も検出されている。

WHOの最新報告 ※外部サイトに遷移します

コロナ以前なら、毎年3~4月から徐々に患者が増えて5月に流行レベルに達し、6~7月に急増していた。今年は現時点ですでに減少傾向にあって、ピークを過ぎた可能性もある。

同じ南半球のオーストラリアでも、流行時期が前倒しになっている。

オーストラリアは例年、南米よりもインフルエンザ流行の立ち上がりが遅く、5~6月に患者が緩やかに増え始め、7~8月に急増する。2020・2021年にはやはり流行がなかった。ところが今年は、4月後半から患者が増えはじめ、5月には患者が急増した。

オーストラリアでも ※外部サイトに遷移します

オーストラリアは例年、南米よりもインフルエンザ流行の立ち上がりが遅く、5~6月に患者が緩やかに増え始め、7~8月に急増する。2020・2021年にはやはり流行がなかった。ところが今年は、4月後半から患者が増えはじめ、5月には患者が急増した。

ある州では、新型コロナとインフル増加のダブルパンチで救急医療が逼迫、ツイッターで急を要さない患者の受診控えを呼び掛けるという、異例の事態となっている。

別の州では、インフルエンザA型の増え方が1週間ごとに倍々に加速している。これを受けて州保健当局は、全住民にインフルワクチン接種の無償提供を決定した。

懸念材料は、南半球での流行だけではない。インドや東南アジアなど、アジアの熱帯~亜熱帯地域では、そもそもインフルエンザに季節性がなく、一年を通して流行を繰り返している。

このところは落ち着いているようだが、WHOの記録では、バングラデシュでは2020年後半にA香港型、2021年初夏からB型が流行した。インドでも、2021年夏にA香港型の流行が見られた。いずれも、新型コロナとの同時流行だ。

インフルワクチン接種の無償提供を決定した ※外部サイトに遷移します

WHOの記録 ※外部サイトに遷移します

今年もいつ熱帯~亜熱帯地域でインフルが流行するか、わからない。水際対策は大幅に緩和され流行すれば、日本に入ってくるまであっという間だ。

実は、亜熱帯地域からのインフル流入は、コロナ以前から日常的に起きていた。今世紀に入って、日本でも夏に流行するようになったこと、お気づきだろうか。

記憶に新しいところでは、2019年9月、東京都東村山市の公立中学校でインフルエンザによる学級閉鎖が行われた。まだ残暑の厳しい時期で、大きなニュースとなった。

さかのぼって私自身がよく覚えているのが、2005年7月、沖縄のインフルによる学級閉鎖だ。当時はまだ夏にインフル患者さんを診たことがほとんどなく、衝撃的だった。

近年では、沖縄県は一年中インフルが発生しており、人口比で考えると国内で最も発⽣率が高い。日本災害看護学会の資料では、沖縄県の人口当たり感染数は、2018年は全国の15倍、2019年は43倍だった。

上記資料では、「東南アジア、または南半球からの観光客がインフルエンザウイルスを運んでくる」可能性を示し、「東南アジア→沖縄県→本⼟」と「海外→その他海外」という伝搬ルートの存在を指摘している。

日本人の対インフル免疫は「脆弱」になっている

「だから今、水際緩和などしたら大変だ! 」などと言いたいわけでは、もちろんない。

たしかにこの夏、インフルエンザは発生するかもしれない。それでも、私たちはこれまでも“withコロナ”同様、海外からインフルエンザ他の感染症を迎え入れながら、何とかやってきた、ということだ。

問題があるとしたら、迎え撃つ私たちの免疫のほうだ。

日本に住む人々の対インフル免疫は、もうだいぶ手薄になっている。2シーズン完全に流行が消滅していたためだ。

インフルエンザにかかったら免疫ができることや、それを応用したのがワクチンであることは、多くの人が知っていると思う。しかし、流行そのものが個人の免疫維持に役立つことは、あまり知られていない。

流行していれば、あちこちで、ごく少しずつウイルスに出くわす。免疫システムがその都度、敵を撃退しつつ、次の遭遇に備えて準備体制を整えておく。

だからこれまでは「ワクチンを打たなくてもかからなかった」人も大勢いた。しかし今、インフルエンザウイルスを捉えるための“顔認証システム”は、すっかりサビついている。海外から再びウイルスが投入されたら、ひとたまりもないだろう。

本当は、流行のないときこそワクチンを打っておくべきだった。昨シーズンもそう呼びかけたので、打っていただいた方は幸いだ。

今年はというと、まだワクチンができるまで数カ月かかる。また、接種を受けてからも免疫が完成するまでに数週間~1カ月かかる。流行が前倒しになる可能性も念頭に、10月を過ぎたら早めの接種をおすすめしたい。

ここで必ず「私は打ちません。前に打ったけどかかったから」と訴える患者さんがいる。気の毒としか言いようがないが、しばしば起きてしまう。なぜだろう?

ひとつには、流行終盤だとワクチンの効果が切れてしまうためだ。インフルワクチンの有効性は一般に3~5カ月と言われる。10月に接種して翌年3月までギリギリ持つかどうかだ。個人差も大きい。

そしてもう一つ、実は厚労省も、インフルワクチンには感染を「完全に抑える働きはありません」と言い切っている。

発症を防ぐ効果も「一定程度認められていますが、麻しんや風しんワクチンで認められているような高い発病予防効果を期待することはできません」としている。

じゃあ、インフルワクチンなんて意味がないのか、と言えば、やはりそんなことはない。

インフルワクチンの最大の目的は、重症化の予防だ。

実際、厚労省の研究によれば、65歳以上の高齢者福祉施設の入所者では、発症予防効果こそ34~55%だったが、死亡を防ぐ効果は82%に上った。

これは、ワクチンを接種せずにインフルエンザにかかって亡くなった方のうち82%は、ワクチンを接種していれば亡くなるのは防げた、ということだ。決して小さな数字ではない。

インフルワクチンが「新型コロナ」重症化を防ぐ?

それだけではない。世界的科学誌『Nature』に先月、「インフルワクチンが新型コロナのリスクを減らす」という論文が発表された。

論文 ※外部サイトに遷移します

感染を免れるわけではなく、新型コロナによる重症化リスクを90%、2~3カ月減らす可能性がある、ということのようだ。インフル予防接種を受けたカタールの医療従事者3万人の研究で示唆された。

この研究は2020年後半、まだ新型コロナワクチンが普及する前に行われている。それ以前から、インフルその他の予防接種によって免疫系が強化され、新型コロナに対抗するのを助ける可能性は指摘されていた。

もしこれが本当なら、新型コロナワクチン4回目接種の対象となっていない人や、新型コロナワクチンに抵抗がある人には、インフル予防と一石二鳥となるかもしれない。

インフルワクチンには、長すぎる製造期間(製造方法)や、国内製薬4社の寡占状態で国際競争力が皆無であること(国の“護送船団方式”)など、製造・流通過程に多くの問題点がある。

それでも、健康と命を守り、経済社会を維持していくために、使えるものは使うのが、医師として、また一市民としての選択だ。水際緩和を歓迎しつつ、全力で感染症に立ち向かっていきたい。

記事画像

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提供元:水際対策緩和で「夏にインフル流行」3つの理由|東洋経済オンライン

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