2022.04.21
常時スマホ時代に「頭に記憶すべきもの」は何か|スマホだけでは成り立たない「記憶術」とは?
電話番号やスケジュールの管理など、スマホのない生活なんて考えられない現代ですが……(写真:Ushico/PIXTA)
テクノロジー、政治、経済、社会、ライフスタイルなど幅広い分野の情報を発信し、日本のインターネット論壇で注目を集める佐々木俊尚氏。
「ノマドワーキング」「キュレーション」などの言葉を広めたことでも知られ、2006年には国内の著名なブロガーを選出する「アルファブロガー・アワード」も受賞している。
その佐々木氏が、この度、『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全』を上梓した。
「ネット記事」「SNS」「書籍」などから、「読むべき」記事をいかに収集し、情報を整理し、発信していくか、自身が日々実践している「新しい時代の読み方」の全ノウハウを初めて公開した1冊で、発売後たちまち4万部を超えるベストセラーになっている。
その佐々木氏が、「常時スマホ時代に『頭に記憶すべきもの』は何か」について解説する。
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「スマホ」はわたしたちの「第二の脳」になりつつある
いまの世の中、「スマホ」なしでは生活が成り立たないくらい「スマホ」は浸透している。
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仕事でも大切な連絡がメッセージで来たら、すぐにスマホで返事をしないといけない。見知らぬ街ではじめての場所にたどり着くには、もはやスマホの地図アプリは欠かせない。知らないことはスマホですぐに調べられるし、もはやスマホはわたしたちの優秀な「第二の脳」ぐらいになっており、欠かせない人生のパートナーともいえる。
大事な人と一緒にいるときでさえも、わたしたちはついスマホを見てしまう。楽しく食事しているはずなのに、ついクセでスマホの画面を見てしまって、家族や恋人に注意された経験のある人も少なくないだろう。
しかし、そうはいっても、スマホやパソコンなどの「コンピューター」は完璧なものではない。「メリット」ばかりしかなさそうに見えるが「デメリット」もある。そして、人間の頭にも「コンピューターにはないメリット」も存在するのだ。
ここでは、「コンピューター」と「頭」の記憶のメリット、デメリットを通して、「常時スマホ時代『頭が記憶すべきもの』は何か」を考えていきたい。
まずは、コンピューターで記憶する「メリット」「デメリット」を整理しよう。
「コンピューター」の記憶容量は無限大
【メリット】記憶容量が多く、決して忘れず、情報を取り出しやすい
コンピューターのメリットは「記憶容量が多い」ことである。当然パソコンやスマホでも容量の制限はある。しかし、クラウドもコンピューターとしてみれば、文章のようなテキストデータだったら、ひとりの人が一生に読める以上の量をほぼ無料で保存しておくことができる。
そして、コンピューターは「決して忘れない」。いつでも保存した情報を取り出すことができる。しかも記憶があやふやになったりせず、いつまでも正確に保存してくれている。
また、「必要な情報を取り出しやすい」。コンピューターの記憶であれば、キーワード検索やタグなどをとっかかりにすれば、確実に必要な情報を取り出すことができる。
【デメリット】情報が多くても「ただの寄せ集め」で「概念」にならない
「知肉」を育てていくためには、集めた「さまざまな情報や視点」から「さまざまな概念」をつかんでいくことが大切だ。
「概念」というのは、わかりやすくいえば「さまざまな情報や視点」を順にまとめて、ひとつの「物語」や「全体像」にしたものである。
コンピューターの「記憶のデメリット」としては、コンピューターに保存されている情報は、この「概念」になっていないことだ。
たとえば、「『ゾウの全体像』をどう学ぶか」ということを考えてみよう。
ゾウの「足」「鼻」「皮膚」をバラバラに見ているだけではわからないけれど、足や鼻や皮膚など、ゾウの「さまざまな部分をたくさん見ること」で、だんだんとゾウの「全体像」が見えてくる。
ゾウの足や鼻の形状や、皮膚の表面のザラザラなどは、それぞれは「バラバラな情報」でしかない。しかし、その「バラバラな情報」を自分の「頭の中」でまとめていくと、ゾウの全体の姿がひとまとまりとなって理解できてくる。それがゾウという動物の「概念」だ。
だが、コンピューターでは、ゾウの「足」も「鼻」も「皮膚」も、それぞれの情報はたくさんあっても、ただの「情報の寄せ集め」でしかない。それだけではゾウの「全体像」を見ることはできないのだ。
では、「頭」に記憶する「メリット」「デメリット」についてはどうだろうか。
頭では、情報をつなげて「概念」をつくり出せる
【デメリット】記憶容量が小さく、忘れてしまうことがある
「頭」の記憶のデメリットは「記憶容量がとても小さい」ことだ。
見たときは鮮明に感じても、人間は日々いろいろなことを見たり考えたりする。時間の経過とともに、どんどん新しい記憶が増えていくと、人間の脳の記憶容量は小さいので、すぐにいろいろなことを「忘れていってしまう」のだ。
また、「ど忘れ」「うっすら覚えているけど、どうも思い出せない……」ということもよくある。ときには記憶が同じ状態に残らず、どんどんあやふやなものに変わっていく。さらに年齢を重ねれば、記憶はますます「正確に取り出しにくく」なっていく。
このように、人間の「頭」では、いつまでも変化することなく正しい記憶で残すことには限界がある。
【メリット】さまざまな情報をつなげて「概念」をつくれる
一方、「頭」の記憶のメリットは「概念」をつくることができることだ。
たとえば、ある人が20歳のころに付き合っていた「恋人へのラブレター」があり、30歳のころに付き合っていた「別の恋人との写真」があり、その後に「生まれてきた子どもの写真」があったとしよう。
「コンピューター」に記憶されている3つの情報には、それだけではただの断片の寄せ集めにすぎない。でも、本人がその「2枚の写真」や「ラブレター」を見て人生を振り返れば、そこには「物語」が生まれてくる。
「あの娘が本当に好きだったけど、結局ケンカ別れしちゃったんだよなあ。そのあとに偶然出会った彼女と結婚して……もしあのとき別れなかったら、いまごろオレの人生は、どうなっていただろう?」などなど。これこそが「概念」である。
このように、「頭」の記憶では「さまざまな乱雑な情報」から、それぞれをつなぎ合わせて「1つの物語」をつくることができるのだ。
このように「コンピューター」と「頭」には、それぞれ記憶術の「メリット」があるが、「デメリット」もある。
そこで、この「デメリット」をそれぞれで補っていくことができれば、大きく「知肉」につなげることができる。つまり、「頭の中に記憶するもの」と「脳の外側であるコンピューターへ記憶するもの」を区別するのである。
【結論】「情報はコンピューター保存」「概念を頭に保存」と使い分ける
コンピューターは「記憶容量が多く、いつまでも正確に記憶できる」が、「知肉」に必要な「概念」を作り出すことができない。しかし、頭は「記憶容量が小さい」が「概念」を作り出すことができる。
つまり、コンピューターは「さまざまな情報」を記憶し、頭は「さまざまな概念」を作り出し記憶するということで、記憶の仕方を区別する。そうすることで、お互いの「デメリット」を補い合うことができる。その結果、「知肉」に変えていくことができるのだ。
実際、わたしも「情報」的なものは「コンピューターへ保存」し、「頭の中に保存」するのは「概念」を中心にしている。そうすることで、頭をいつも「クリアな状態」にして保つことができ、さまざまなアイデアを思いつきやすい「土壌」を整えておくことができるのだ。
「コンピューター」だけに頼らない記憶術を
「読む力」を駆使して、さまざまな知識や情報を集めることは重要である。しかし、その集めた知識や情報を「知肉」にできるかどうかは、知識や情報の記憶の「やり方次第」である。
いまのような「常時スマホ時代」、スマホがないと成り立たないことも多くなっている世の中だが、すべての記憶をスマホに頼ってばかりでは、「知肉」をつくることはできない。「人間の脳」の記憶も必要不可欠なのである。
みなさんも、「コンピューター」と「頭」へ記憶するものをうまく使い分けるスキルを身につけてほしい。そうすることで、みなさんの「知肉」は、どんどん素晴らしい形で育っていくはずだ。
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提供元:常時スマホ時代に「頭に記憶すべきもの」は何か|東洋経済オンライン