2022.04.20
食べて→吐く「過食症」コロナで増える異変の実際|コンビニで「1回2000円買う人」は要注意
過食→嘔吐を繰り返す人たち。いったいそのメカニズムと対処法とは?(写真:Fast&Slow / PIXTA)
長引くコロナ禍は、われわれのメンタルヘルスにも大きな影響を与えている。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本におけるうつ病患者はコロナ前より約2.2倍増えた。厚生労働省の統計では、女性の自殺者も31%ほど増えたとされている。
そんななか、極端に大量に食べたり、食べ吐きを繰り返したりする過食症も同様に増えているという。パークサイド日比谷クリニック(東京都千代田区)院長で、これまで多くの過食症患者のケアにあたってきた精神科医の立川秀樹さんは、「当院を訪れる過食症患者さんは、コロナ前と比べて1割程度増えた印象です」と語る。その一方で、同じ摂食障害でも食を受け付けなくなる拒食症にはあまり変化がないそうだ。
「わたし、過食症かもしれない」
そう不安に思って立川さんのクリニックを受診したのは、20代後半の女性Aさんだ。10代のころからやせ願望があり、ダイエットを繰り返していた。そのダイエットが過激になったのは、コロナ禍でテレワークが始まってからだ。
ほとんど通勤をしなくなり、また外出自粛で趣味のヨガに行けなくなったことで運動量が減った。やがて、「このままだと体重が増えるのでは……」と気にしはじめた。
このとき最初にAさんが始めたのは食事制限。運動でカロリー消費する代わりに、摂取カロリーを減らそうと思ったのだ。しかし、思ったほどに体重は減らず、終わりの見えないコロナ禍でストレスが蓄積。その結果、むしろ食べることに癒やしを求め、過食に走るようになった。
ダイエットを始めて2カ月経ったころには、仕事をしていても、テレビを見ていても食べもののことが頭から離れない状態に陥る。「食べたい」という衝動が抑えられない一方で、太る不安もつのっていく。食後に吐くことを覚えると、それが新たなストレス発散となり、〝過食→嘔吐〟を繰り返すようになった。
立川さんは、「コロナ禍では、彼女のようなケースは決して少なくない」と話す。
このAさんにもいえるが、コロナ禍の過食に大きな影響を与えているのが、〝カタルシスの喪失〟だという。カタルシスとは、私たちが知らず知らずのうちに抱え込んでいるストレスや不安、恐怖などを、何らかの形で外に排出することで、心が落ち着くという状態を指す。
「カタルシスを得る方法には、飲み会、ジム、エステ、サウナ、ショッピングなど、さまざまなものがありますが、これがコロナ禍で行いにくくなっています。Aさんは、趣味のヨガで得られていたカタルシスがコロナ禍で得られなくなり、その代替として〝過食→嘔吐〟でカタルシスを得るようになったと考えられます。
ほかにカタルシスを得る方法がないので、過食という手軽な方法でカタルシスを得る。また、吐くことでも別のカタルシスを得られる。コロナ禍の過食症の特徴といえるかもしれません」(立川さん)
もう一つ、コロナ禍での過食では、ある特徴が見られると立川さんは指摘する。それは〝時間に関係なく過食を行う〟というものだ。
「従来の過食症は、〝夕食から夜間にかけて、ごはんやパスタなどの炭水化物や、菓子や菓子パン、チョコレートなどの甘いものを際限なく食べる〟傾向がありました。というのも、昼間は会社という人の目がある場所に行くので、気持ちが切り替えられて過食のスイッチが入らない。実際問題、会社の人に気付かれず、〝過食→嘔吐〟するのは難しいというのもあるでしょう」
だから、帰宅後の夕方以降に過食が止まらなくなる。とくに一人暮らしだと周りに人がいないので、昼間のようなストッパーがない。その結果、欲求に負けてしまうのだ。家族がいる場合は、彼らが寝静まったころを見計らって、〝過食→嘔吐〟をする。
「ところが、コロナ禍ではテレワークなどのため自宅にこもっているので、いつでも食べ吐きができる。その結果、日中から過食に走るようになるのです」
Aさんも昼間から食べ吐きをするようになったが、その影響で仕事や生活にも支障が出てきた。〝これは何とかしないと〟と思ったのが受診するきっかけとなったという。
ストレスが溜まると〝過食→嘔吐〟に走る人たち。彼ら彼女らには何が起こっているのだろうか。この行動に大きな影響を与えているのが、「脳の働き」と「社会環境」だと立川さんは言う。
「まず脳の働きですが、誰でも食べものでお腹いっぱいになると幸せを感じますよね。それは、食事をすることで大脳からドーパミンという神経伝達物質が分泌されるからです。ドーパミンは〝快〟の感情をもたらすので、もっと食べて快を得たいという気持ちが湧き起こるのです」
ドーパミンが分泌されると楽しい気分になるが、その一方で、脳はその行動(ここでは食べ吐き)と快の刺激を結び付けて、同じ行動を求めるようになる。要するに依存状態になるというわけだ。
さらに、糖質をとったときにもドーパミンが分泌されるため、これが過食のきっかけや、過食をやめられない原因になっているという考え方も出ている。
慢性化すると「食」のことが常に頭から離れなくなり、その結果、単にカタルシスを得るだけの行為が依存に発展してしまう。「そういう意味で言えば、過食症は〝脳レベルの病気〟ともいえます」と立川さんは言う。
もう1つの社会環境に関しては、「〝理想のボディイメージ〟に囚われすぎる人は、やはり〝過食→嘔吐〟につながりやすい」(立川さん)そうだ。過食症の9割が女性というのは、まさに女性のほうが男性より理想のボディイメージにこだわる傾向が強いからといえる。
「私たち専門家からみると、とくに過食症になる女性は〝痩せているほうが美しい〟という価値観のプレッシャーを強く受けているように思えます。最近は、痩せていても太っていても関係ない、ありのままの自分でいいという〝ボディ・ポジティブ・ムーブメント〟が注目されていますが、それでもまだ〝痩せ願望〟は根強い。ちなみに、こうした女性たちが意識するのは異性ではなく、同性です。同性との競争が痩せ願望を加速させます」(立川さん)
過食症患者の特徴の1つに、〝病識(自分が病気であることを理解していること)〟があることが挙げられる。でもやめられないでいるのだ。また、病院に行くほどではない(と本人が思っている)から受診していない、水面下にいる〝隠れ過食症患者〟はかなり多いのでは、立川さんはみている。
本当に心配な人はまずは病院で相談したほうがいいのだが、その前に、過食症の傾向を見極めるポイントを立川さんに聞いた。それは、「コンビニで1回あたり2000円以上の食べものを買うようなケースだと、過食症の可能性が高くなる」ということ。
「過食症の人は、手っ取り早く食べられる食材が揃ったコンビニで爆買いする傾向があります。菓子パンやお弁当、パスタやカップラーメンなどの炭水化物をカゴに入れつつ、ジュースやお菓子も手に取る。そうすると、会計が2000円くらいになってしまうのです」
買ってきた菓子パンなどは自宅ですぐに食べ切ってしまうので、冷蔵庫は比較的空っぽになっていることが多いという。
過食症で問題となるのは、食べて吐くという行為そのものだけではない。コンビニで炭水化物中心の食事ばかりをとれば栄養のバランスの偏りが生じるし、吐くことで体に必要なミネラルなども一緒に排出されてしまう。過食する人はうつ病のリスクもあり、体重変動による内臓への負担も大きい。心のカタルシスを得る代わりに、体は大きな代償を払っているともいえる。
そんな過食症から脱却するにはやはり専門家のサポートが必要だ。「自分で食べもののことが1日中頭から離れなくなって、食べることのコントロールが付かなくなったらまずは精神科やメンタルクリニック、診療内科などで相談を」と立川さん。薬物療法や認知行動療法などの心理療法で改善を図っていく。
「ただ、クリニックで治療を受ける時間はわずかでしかありません。残りの時間をどう過ごすかが大事になってきます。食べものについて考えなくてすむように、誰かとおしゃべりをする時間を意識的に持つといいでしょう。食べ吐き以外にストレス解消できる癒やしを見つけることも大事です」
また、ずっと食べたいという欲求をガマンするのではなく、〝チートデイ〟といって「好きなものを食べていい日」を作るなど、完璧を目指さないことも大切だ。
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提供元:食べて→吐く「過食症」コロナで増える異変の実際|東洋経済オンライン