2022.04.12
病気知らずの長寿高齢者の便を調べてわかった事|100歳超えのカギを握る腸内細菌「酪酸菌」とは
100歳を超えても元気な長寿高齢者の腸内に多く棲んでいるスーパー腸内フローラ「酪酸菌」とはどんな菌なのでしょうか(写真:【IWJ】Image Works Japan/ PIXTA)
腸内細菌の善玉菌といえば「ビフィズス菌」や「乳酸菌」ですが、近年もっとも注目されているのが「酪酸菌(らくさんきん)」です。酪酸菌は、腸にとって大切な「酪酸」を作り出す腸内細菌です。最新の研究では酪酸菌ががんや糖尿病の予防、筋力アップ、花粉症の改善、さらには新型コロナの重症化予防など、さまざまな驚きの作用をもたらすことがわかってきました。
酪酸菌とはいったい何なのか。なぜ健康長寿者の腸には酪酸菌が多いのか。消化器専門医・江田証さんの新刊『すごい酪酸菌 病気になる人、ならない人の分かれ道』から一部を紹介します(第1回)。
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近年、さまざまな方面で話題になっている「腸内細菌」「腸内フローラ」「腸活」という言葉があります。生死に直結する心臓や脳だけでなく、腸が注目を集めてきているのです。実はこの腸こそが私たちの健康に大きな影響を与えているのだと、だんだんわかってきました。
1000種類以上も存在する腸内細菌
日本人の腸は小腸が長さ平均6~8m、大腸が約1.5mあり、内部の総面積を計算すると、なんとテニスコート1面分に相当する広さになります。これだけのものがお腹のなかにあって、生きていくうえで大切な働きをしているのです。
そしてこの腸内の環境を左右するのが、1000種類以上、100兆個以上も存在するといわれる腸内細菌なのです。
彼らは宿主であるヒトと共生関係にあり、ヒトが毎日摂る食物の栄養素をエサにして増殖し、さらにさまざまな代謝物を生成することで、私たち人間の体に大きな影響を与えているのです。
腸内細菌は腸壁の粘膜にびっしり生息し、その総重量は約1.5kg。腸内にさまざまな種類の細菌が生息している様子を腸内フローラ(腸内細菌叢)といいます。それはまるでお花畑のようです。
この腸内フローラを正しくコントロールし、改善するのが腸活です。
世界中の研究者から近年、腸内フローラには熱い視線が送られており、研究論文の数も直近10年ほどで急激に増えています。研究者たちの努力や成果もあり、腸内細菌の理解は大きく前進しました。
私も毎日、患者さんの腸内細菌検査をしています。
そのなかで、100歳を超えても病気を持たず、たとえ病気になっても重症化せず、すぐに回復する人がいます。そのような健康長寿の人の便を調べると、ある種類の腸内細菌がたくさん見つかります。
それこそが「ミラクル腸内フローラ」である「酪酸菌(酪酸産生菌)」なのです。
「酪酸」とは、腸内細菌の「酪酸菌」が食物繊維を発酵・分解して作り出す「短鎖脂肪酸」の1種です。短鎖脂肪酸には酪酸のほかにも「酢酸(さくさん)」や「プロピオン酸」などがあり、代謝や免疫、メンタルなどの働きをサポートしています。
短鎖脂肪酸のうち、酢酸やプロピオン酸の一部は大腸で消費され、大部分は大腸の粘膜から吸収されます。そこから血流にのって全身に運ばれ、筋肉や肝臓、腎臓などで、エネルギー源や生存するために必要な脂肪を作るための材料となるのです。
一方、酪酸はそのほとんどが直接、大腸の粘膜上皮細胞のエネルギー源になることがわかっています。大腸の粘膜上皮が必要とするエネルギーの約60~80%は、酪酸でまかなわれているのです。一般的にヒトの細胞は血液中の栄養素をエサに生きています。しかし、大腸の粘膜細胞は、腸内細菌が作り出す酪酸をエネルギーとして生きているのです。
大腸を正常に機能させるのが酪酸
それにはどんな意味があるのか? 大腸の粘膜上皮には水分やミネラルを吸収し、腸のバリア機能として働く粘液を分泌する機能があります。バリア機能とは、ウイルスなどの異物の侵入を防ぐ働きです。
つまり、大腸を正常に機能させるために、酪酸は重要な役割を担っているということです。
さらに、最近の研究によって、酪酸は腸内フローラを健康な状態にするためにも役立っている事実がわかってきました。
腸内細菌は種類によって酸素を必要とするタイプ、必要としないタイプなどに分かれます。たとえば、いわゆる「悪玉菌」といわれるブドウ球菌などは、酸素があってもなくても生育するタイプ。「善玉菌」の代表であるビフィズス菌や酪酸菌は、生育に酸素を必要としないタイプです。
腸内の酸素濃度と腸内細菌の関係(同書より)
大腸内に酸素があると、それを利用して活動する悪玉菌(大腸菌やカンピロバクター菌など)が増えてしまいます。大腸内は酸素が少ないほうが健康なのです。
つまり、大腸内の酸素が少なければ、酸素を必要としないタイプのビフィズス菌や酪酸菌などは活動しやすくなります。酪酸は大腸の粘膜上皮細胞の代謝を促して酸素を消費させ、酸素を腸管内に行き渡らせなくすることが報告されています。この働きによって、健康な腸内フローラが保たれるといってもいいでしょう。
酪酸が腸内環境を整えてくれるからこそ、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が生きていけるのです。
京都府の京丹後市という日本海側の地域では長寿者が非常に多く、しかも長生きなだけではなく、寝たきりが少なく、健康長寿の方が多い。都会の京都市内よりもずっと元気で長生きなので、古くから日本有数の長寿地域として有名です。
実際、日本の男性で歴代もっとも長生きだった木村次郎右衛門さん(116歳没)も、京丹後市在住でした。
人口10万人あたりの100歳以上は全国平均で55人、京都府内では65人に対し、京丹後市は160人。実に3倍と圧倒的に多いのです。
100歳以上の人数比較(2018年、同書より)
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その京丹後市の65歳以上の高齢者の腸内細菌を研究調査したところ、「ファーミキューティス門(「でぶ菌」などと揶揄された菌種)」の割合が高いことが判明しました。さらに腸内細菌の構成を個々に詳しく調べていくと、増えていたファーミキューティス門の多くを、「酪酸」を産生する「酪酸菌」が占めていました。
この酪酸菌が作る酪酸こそが、足腰をピンピンと強くして寝たきりを防ぎ、腸の粘膜を健康に保ち、寿命を長くすることがわかってきました。
長寿と酪酸の間には深い関係があったのです。
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提供元:病気知らずの長寿高齢者の便を調べてわかった事|東洋経済オンライン