2022.03.31
観光シーズン到来、「レストラン列車」の作り方|京都丹後鉄道の担当者が語る「食とサービス」
丹後くろまつ号の豪華な車内(筆者撮影)
京都府北部を走る京都丹後鉄道では、工業デザイナー・水戸岡鋭治氏が手がけた3つの観光列車が運行されている。料金不要だがアテンダントが乗務する「丹後あおまつ号」、低料金で景色や喫茶が楽しめるカフェ列車「丹後あかまつ号」、そして地域の食材でコース料理、あるいはスイーツが楽しめるレストラン列車「丹後くろまつ号」である。
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1月下旬、筆者はレストラン列車「丹後くろまつ号」に乗車した。「丹後くろまつ号」は1日に3回運行されており、運行ごとに提供する料理が異なる。筆者が乗車した時点では「丹波まるごとスイーツコース」「丹後ちりめん懐石コース」「但馬のこだわりディナーコース」であった。
4月1日からは「スペシャルモーニングコース」「海の幸堪能コース」「地酒飲み比べコース」「スイーツお楽しみコース」に変更される。マンネリ化を避け、季節感を出すための工夫である。「モーニング」「海の幸」が食事主体で、価格は6800円~1万3000円(運賃込み)と比較的高額なものと、4800円(運賃込み)の「地酒」「スイーツ」といったように方向性が分けられている。
列車によってコーヒーも違う
丹後くろまつ号のスイーツコースでは「丹波の黒豆のバターサンド~くろまつ号~」「春の三色サンド」「わらび餅と抹茶ゼリー」「丹波栗の渋皮煮とちいさいきんとん」「マドレーヌ」「丹波ティラミス」「モンブラン」「ゆずジュレ」が提供される。
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料理は2回に分けて提供され、前半は上品な味わい、後半は濃厚な味わいが特徴だった。料理の盛り付けや質が素晴らしい。料理のシメとして、コーヒーも提供される。別に乗車した「丹後あかまつ号」とはまったく方向性が違うコーヒーで、そのこたわりも心地よい。
コロナ禍の最中ということもあり、乗車日の「丹後くろまつ号」は空いていた。アテンダントより「今日は空席があるので、お好みの席に変わりますか」と聞かれる。1人客で4人テーブルを使うのは贅沢だが、ありがたくお受けした。
車窓案内やグッズ販売もあり、福知山―天橋立間の1時間20分はあっと言う間に過ぎた。
乗車後、京都丹後鉄道の運営会社を傘下に抱える WILLER(ウィラー)で広報を担当する清水美帆氏に話を聞いた。
──レストラン列車を企画した時点で、車両設備や法的な部分でどのような制約があったのですか。
車内で提供するという制約があります。例えば、温蔵庫、冷蔵庫のスペースには限りがあるため、メニュー構成時に考慮が必要です。材料の納品方法を含めて、調理の事業者とは入念に打ち合わせをしています。
車内では火が使用できませんので、スープなどはポットに入れて注いでいます。温かい料理は温蔵庫もしくは湯せんを使用します。
運行中に盛り付けをしますが、カウンターのスペースにも制限があるため、料理提供時に使用するワゴンも活用し、事前に盛り付けのシミュレーションなどを実施し、作業過程も簡素化することで、できるだけお客様をお待たせしないように心がけています。
レストランと車両のコンセプトをミックス
──鉄道会社が運営されるレストラン列車は、地域の象徴としての側面があります。その観点から、地域の特色をどう考えますか。また、その特色を踏まえたレシピ作りをレストランあるいは料理人にどのように指示しているのでしょうか。
地産地消を意識してメニュー構成を考えています。その過程で地域のレストランに依頼することもあります。「丹後くろまつ号」のコンセプトと、レストランなどの事業者側のコンセプトをミックスすることで、どちらも知名度の向上などのチャンスとなることを考慮しています。
丹後くろまつ号の走る丹後エリアには、伝説も多くあります。過去には浦島太郎伝説をモチーフとしたお伽御膳コースや七姫伝説をモチーフとした旅する伝説味わいコースなどを企画しました。そうした地域の情報・特色をお客様に知っていただく機会にもなると考えております。
──列車のデザインは何をイメージしているのですか。
デザインは数々の観光列車を手掛けてきた水戸岡鋭治氏が担当しており、上品かつ温かみのあるデザインは、天橋立に代表される「松」がテーマとなっています。
アテンダントの制服も水戸岡氏による機能性と普遍性と多様性に配慮したデザインです。どのパーツ (生地、ボタン、ネクタイ、ワッペンなど)においても、上記を意識し、色はサービスの基本である黒をベースに全体を濃色で統一しました。車内のデザインと調和した美しい形、色、素材を採用し、誰が着ても無理なく着こなせ、皆様に愛されるよう好き嫌いのないオーソドックスな本来ある姿の制服を心がけました。
アテンダントの接客については、サービスマナーの習得はもちろん最高のおもてなしを実現するため、アテンダントのサービスマナー研修をJALのCA教育担当者を外部講師として招いています。「サービスに必要なアテンダントのコーディネーション」「サービス時の連携のポイント」「サービススキルのブラッシュアップ(ワインサービス/注ぎ方/ワゴン活用法)」「デモンストレーションロールプレイ」などの研修を行っております。
あかまつ号独自のサービスも
──他の観光列車についても教えてください。料金不要の丹後あおまつ号について、車内販売をご利用になるのはどのようなお客様ですか。
メインでご利用いただくのは、旅行やお出かけで訪れたお客様です。普段使いのお客様のご利用は少ないですが、ご利用いただく場合は、コーヒーなどの軽食をご購入いただくケースがほとんどです。
──丹後あおまつ号と、料金が必要なカフェ列車の丹後あかまつ号はどのようにコンセプトを分けているのですか。
丹後あかまつ号独自のサービスとしては、乗車されたお客様への缶バッジのプレゼントのほかに、記念乗車券の発行、車内販売メニューの違いがあります。また、アテンダントの人数は丹後あかまつ号は2人ですが、丹後あおまつ号は1人です。観光で来ていただいた方の思い出に残るような、サービス提供を行っています。
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提供元:観光シーズン到来、「レストラン列車」の作り方|東洋経済オンライン