2022.03.28
大人の食物アレルギーに深く関わる「意外な職業」|成人の「10人に1人」が症状を持つ深刻な実態
成人食物アレルギーに深く関わる職業があるそうです(写真: マハロ /PIXTA)
成人の10人に1人に症状があり、近年、患者数が急増している成人食物アレルギー。花粉症の人や幼少期にアレルギーがあった人、食生活や就労環境に偏りのある人……誰もが発症リスクを抱え、重症化すると命を脅かすにもかかわらず、その実情はあまり知られていません。本稿は、そのメカニズムから治療・対処法にいたるまで、成人食物アレルギー研究・治療の第一人者である福冨友馬氏が解説した最新著書『大人の食物アレルギー』より一部抜粋・再構成してお届けします。
前回:『大人になって「アレルギー発症」する人の傾向5つ』
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成人食物アレルギーに深く関わる職業がある
特定のアレルゲンに頻繁にさらされたために、そのアレルゲンに対するアレルギーが成立し、その後になって食物アレルギーを発症するケースがあります。調理業や食品加工業などの食物関連の従事者ばかりではありません。
医療従事者、理・美容師、エステティシャンや主婦(夫)など、成人食物アレルギーの発症に深く関わっている職業があり、より一層の注意が必要です。
●調理業や食品加工業の従事者、主婦(夫)
特に調理業や食品加工業の従事者は、特定の原因食物や食物関連たんぱく質を多量かつ頻繁に扱う業務のため、原因となる食物アレルゲンに触ったり吸入したりするなど、さらされやすくなります。これを「曝露」といいます。
特に多いのは、魚、甲殻類、軟体類などです。これらの食物に曝露されているうちにアレルギー症状が出るようになり、やがては食べた時にも症状が出るようになる場合があります。
食物アレルゲンにさらされる主なルートは、皮膚を介する「経皮曝露」と、鼻や気管支の粘膜を介する「経気道曝露」の2つです。
経皮曝露とは、食材を頻繁に素手で触って調理することにより皮膚から吸収されるルート、経気道曝露とは、食材を茹でたり焼いたりなどの調理によって、蒸気とともにアレルゲンがエアロゾル化して体内に吸入されるルートのことです。この両者が同時に存在するケースもあります。
職場環境、就業中の症状の有無や違いについての問診(病歴聴取)で、どのルートによるアレルギーなのかをまずは特定(同定)しなければなりません。
経皮曝露では、就業中に手のかゆみや膨疹を自覚している人が多くいます。特に手湿疹があると皮膚から吸収されやすいため、食物アレルギーを発症する可能性が高くなります。
経気道曝露では、就業中にくしゃみ、鼻水、鼻づまり、喉の痛みといった上気道(鼻や喉)の症状や、痰、咳、息苦しさといった下気道(気管支や肺)の症状を自覚している人が多くいます。
子どもの時に鶏卵アレルギーで、すでに寛解(完治したわけではないが病気の症状がほとんどなくなった状態)していた人が、成人になって調理業に従事したために再発してしまったという事例もあります。手湿疹のある手で鶏卵を調理するようになったからです。食物アレルギーの既往のある人は、アレルゲンに頻繁にさらされる環境での仕事は、できるだけ避けたほうが無難です。
原因食物にさらされた人の一部はその食物に対してアレルギーになり、原因食物を経口摂取してもアレルギー症状が起こるようになります。また、毎日の家事で食材の調理・加工をする主婦(夫)も、このようなメカニズムで成人食物アレルギーを発症しやすい可能性があります。
●医療従事者
ラテックスを使った手袋を頻繁に使用する医療従事者や、ラテックスの尿道カテーテルを使用する患者さん、ご自宅でラテックス手袋を使って頻繁に家事をする主婦(夫)の中に、ラテックスアレルギーを発症する人がいます。
ラテックスは、ゴムの樹の樹皮を傷つけた時に分泌される乳白色の粘液で、生ゴムの他、手袋、風船、氷嚢、糸ゴムなどをつくる原料です。
その人が、バナナ、アボカド、クリ、キウイなどを食べた時に、食物アレルギー症状を起こすことが知られています。これを、「ラテックス-フルーツ症候群(latex-fruit syndrome)」といい、ラテックスアレルギーの人の30〜50%が発症するといわれています。
●理・美容師、エステティシャン
理・美容師やエステティシャンも、成人食物アレルギーの発症と無縁ではありません。その理由は、化粧品やヘアケア製品、石けんなどにはしばしば、食物など天然物由来の添加物が含まれていることが関係しています。
皮膚や、眼球結膜、鼻粘膜といった人間にとって最も敏感な組織が、添加物として含まれるたんぱく質由来成分に日常的にさらされていると、たんぱく質由来成分と経口摂取した食物アレルゲンとが交差反応を示して食物アレルギーの発症につながることがあります。
アレルギーになった人はどうすればいい?
調理業や食品加工業に従事していて成人食物アレルギーを持つ人は、疾患のことだけを考えたら異動や転職をするのが望ましいのですが、それができない時は、アレルゲンにさらされないような対策、環境づくりをしなければなりません。
特に手湿疹のある人は、皮膚のバリア機能に異常が生じていて経皮感作(皮膚を介してアレルギーになること)する症例が最も多いため、就業中の手袋の着用や軟膏療法など、適切なケアが欠かせません。
アレルゲンの吸入による経気道感作の人は、職場での換気の向上や、就業中のマスク着用の徹底が求められます。
アレルゲン対策が徹底されないと、経年的にその食物に対するIgE抗体価が上昇し病態が悪化してしまいますが、適切に行えばIgE抗体価は低下する場合があります。
成人食物アレルギーを発症するきっかけとして、化粧品の使用があります。化粧品には、食品と同じような成分が含まれていることがあります。化粧品を毎日使っているうちにこれらの成分に対するアレルギーになり、やがては同じような成分が含まれる食品に対してもアレルギーを発症してしまうというわけです。
食物アレルギーを発症する添加物として古くから知られているのが、コチニール色素(カルミン酸)です。南米産サボテンに寄生する昆虫エンジムシ(コチニールカイガラムシ)の乾燥した雌の体から抽出される赤色の色素で、化粧品では口紅やアイシャドーなどに使われています。
また、化粧品の添加物として使用される加水分解小麦に対するアレルギーが、小麦を食べることによって生じる食物アレルギーの原因にもなり得ます。今から約10年前、〝旧茶のしずく石鹸〟に含有されていたグルパール19Sという加水分解小麦によって、2000人を超える人が小麦アレルギーを発症し、社会的に大きな問題になった〝旧茶のしずく石鹸事件〟がありました。
化粧品に含まれるたんぱく質由来成分によってIgE抗体感作を引き起こし、成人食物アレルギーが発症し得るものであることを強く認識する必要があります。
成人食物アレルギーは一生治らないものではない
このように、成人食物アレルギーの発症のメカニズムはさまざまです。食べるだけではなく、皮膚や粘膜からのアレルゲンの侵入によって発症した場合は、原因であるアレルゲンの侵入を止めれば、長期的には食物アレルギーが改善する可能性があります。
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例えば、使っている化粧品が発症の原因であれば、その化粧品を使わないようにします。〝旧茶のしずく石鹸事件〟でも、加水分解小麦を含有した〝旧茶のしずく石鹸〟の使用中止によって、小麦アレルゲンへのIgE抗体価は経年的に減少し、大半の患者さんに小麦アレルギー症状の改善が認められました。
一方、経口感作によって発症した場合、長期的な予後(経過予測)は十分に明らかになっていませんが、一般的には予後は悪いと考えられています。とはいっても、一部の患者さんにおいては、該当する食物の経口摂取を中止すればIgE抗体価が経年的に低下する場合があります。
成人食物アレルギーは、一度発症すると一生治らないといわれてきましたが、何年かかけて改善する可能性は十分にありますので諦める必要はありません。
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提供元:大人の食物アレルギーに深く関わる「意外な職業」|東洋経済オンライン