2022.03.11
話題の「扉付き個室バス」、コロナ追い風か逆風か|城崎温泉・東京から大阪まで、2台を徹底比較
関東バスが運行する夜行バス「ドリームスリーパー東京大阪号」の扉付き個室(筆者撮影)
現在、国内で側扉が付いた、完全な個室バスは2つだけである。東京西部を基盤とする関東バスが運行する夜行高速バス「ドリームスリーパー東京大阪号」(池袋・新宿―なんば・大阪駅・門真車庫)と、兵庫県北部を基盤とする全但バスが運行する昼行高速バス「ラグリア号」(大阪―城崎温泉・湯村温泉)だ。
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コロナ渦の中、空気清浄器を備え、かつ扉の付いた個室バスは、相対的に見て安全性が高い公共交通機関である。しかし、日本一の豪華バスとして知られる「ドリームスリーパー東京大阪号」でさえ、週末限定運行で、かつ「4月以降の運行は未定」という状況だ。
そんな中で全但バスは2021年12月28日より、昼行の高速バス「ラグリア号」に完全個室「グリーンルーム」を設置した。昼行バスで個室を備えたバスは日本初だ。
こうした個室バスは、どのように利用されているのか。また、運行会社は個室バスをどう考えているのか。実際に乗車した後、担当者に話を聞いてみた。
国内初ずくめの「ラグリア・グリーンルーム」
日本初の個室昼行バスは、2022年2月現在で「大阪(阪急三番街)―城崎温泉」線の、大阪18時20分発、城崎温泉12時発、「大阪(阪急三番街)―湯村温泉」線の、大阪17時20分発、湯村温泉10時30分発に設置されている。
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筆者は城崎温泉発大阪行き「L2個室」に乗車した。バスの後部に1人用個室が2室設定されており、個室席以外は通常の2+2列高速バスとなっている。
1人用個室の第一印象は「広い」である。昼行バスだが、夜行の個室型バス(個室だが、入り口はカーテンなどで仕切られているタイプが多い)に遜色ない広さだ。2+2列座席の8人分のスペースを1人で使うのだから贅沢な割に、料金は通常料金(大阪―城崎温泉間で3800円)プラス1000円と格安である。
個室の長さは1.5m、幅は93.5cmある。座席は幅45~57cmと、ゆったりした革張りのリクライニングシート。奥行25cm、横35cmの折り畳みテーブル、ドリンクホルダー、コンセント、USBポート、18インチモニター、無料Wi-Fi、使い捨てスリッパ、エアクリーナーである。
座席正面のモニターには期間限定サービスとして「バスビュー」が映し出されている。バスの各部にカメラを設置し、4方向の景色が見られるユニークなサービスだ。豊岡市の観光プロモーション動画をスマートグラスで視聴できる「ARグラス」も楽しい。
全区間に乗車すれば3時間を超えるため、このような退屈させないコンテンツは大切で、新時代の高速バスらしさを感じた。個室の外の話だが、広々としたパウダールームが設置され、特筆すべき設備と感じる。
設備は快適で夜行の個室型高速バスと比較しても遜色ない。かつ個室内は荷物を置けるだけの床面積もある。テーブルが大きく、電源も使えるので、仕事も十分にできる施設だと感じた。
全但バスインタビュー
乗車後、全但バスの小坂祐司バス事業部長に話を聞いた。
――なぜ個室バスを実現しようと考えたのですか。
コロナ禍により利用者が高速バスで7割減、路線バスでも4割減と大幅に減っている。以前の需要に戻るのは厳しい認識の中で、新しい公共交通、旅のコンテンツとして「個室バス」が必要と考えた。個室バスであれば、例えば身体的事情から感染症対策がしにくい人にも細やかな対応ができる。密を避けつつ、車内での仕事も可能だ。
――実現するうえで困難だったことは?
コロナ渦でメーカー側にも生産・業務自粛があり、設計段階から実現までに時間を要した。
――快適性へのこだわりを教えてください。
大手の事業者のような投資が難しい中、質感を落とさずに完全な個室空間を実現するように努めた。特に、プライバシーに配慮すべく、密閉空間にこだわった。各所の隙間をなくすために何度も試行錯誤を繰り返した。
また、バス業界では初めてだと思うが、車外にカメラを設置した高速バス車外鑑賞システム「バスビュー」を実現した。「高速バスは目線が高いので、風景が魅力的」という意見があり、費用的にオープントップバスは導入できないが、車外カメラの設置ならできるのではないかと考えた。航空機の機外カメラ鑑賞を参考にしたが、メーカーも当社も始めての試みであり、設置位置や鑑賞範囲をどうするか、検討を重ねた。
期間限定サービスとして試行中の「ARグラス」も、KDDIと協議のうえ、どんな動画が鑑賞できるか、端末の設置方法や運用方法に何度も検討を加えたものだ。
――乗客の反応は。
「移動時間で仕事ができた」「気を使わずにリクライニングできる」「周囲を気にせず、ゆったりと旅ができた」「異性の視線が気にならないのがいい」「料金がプラス1000円は格安」といった意見があった。
――コロナ渦の中で、個室バスをどう生かしたいと考えていますか。
「安心して移動できる」のが強みだ。「移動時間を楽しめるコンテンツの提供」などの新たなサービスを提供することで、収益を確保したいと考えている。車内で提供できるコンテンツと、旅先の観光地をタイアップさせるなど、これまでよりも移動に付加価値を与えたい。今回「バスビュー」「ARグラス」を、期間限定で実証実験しているが、好評なら拡大したい。
関東バス「ドリームスリーパー東京大阪号」
次に、池袋・新宿―なんば・大阪駅・門真車庫を結ぶ、扉付個室バス「ドリームスリーパー東京大阪号」に乗車した。以前は両備バスとの共同運行だったが、コロナ禍により、現在では関東バスの単独運行となっている。これに伴い、運行日も毎日から、週末のみに変更された。2019年7月より、東京側では新宿駅に、大阪側では大阪駅に立ち寄るようになり、利便性が増している。
乗車時に靴を脱ぎ、渡された袋に入れる。スリッパも提供される。
筆者は「B1」個室を予約した。夜行バスではあるが、個室バスは「電気を消して、夜景が見られる」のも楽しみなので、窓枠配置と個室位置が合っている前4列がオススメだ。なお、最後列は側窓にロゴが掛かっているか、非常口があるので景色はあまりよくないが、早割で指定される個室で、安い利点がある。
個室長さは1.65m、個室幅は90.5cm、折り畳みテーブルの横幅35.5cm、奥行46.3cm(滑り止めの縁があるので、有効幅は横31.4cm、奥行きが38cm)、座席上の荷物置き場は、幅29cm、奥行63cm、側窓横のテーブル幅は13cm、側窓は縦96cm、横1.65mだった。
付帯設備として、ルームウェア、快眠音楽が聞けるオーディオ設備、イヤホン、マスク、アイマスク、ロゴ入りミネラルウォーター、スリッパ、おしぼり、アメニティセット、毛布、コンセント、USBポート、無料Wi-Fi、空気清浄器のプラズマクラスターも設置されている。
NASAの理論に着想を得た「ゼログラビティシート」は、座席幅56.7cm、背もたれ高さ75cm、肘掛け幅が6cmとゆったりしている。電動リクライニング音が小さいことは、新幹線「グランクラス」を上回っており、高級感がある。
座り心地は枕の具合がよく、マットレスも丁度いい質感だ。個室の広さの関係もあるのだが、リクライニング角度がもう少し大きくて、レッグレストが水平まで上がると、なお寝やすいだろう。付属のルームウェアは着心地がいい。
個室の側扉を閉める。扉に鍵はかからないが、他の乗客の気配すらも感じないバス旅には安心感がある。床にカーペットが敷かれていることは、高級感だけでなく、防音でも効果があるように感じる。
「ドリームスリーパー東京大阪号」は、早割で1万4000円、通常料金で2万円と高額だが、同じ価格帯の新幹線グリーン車や、航空機の上級クラスよりも、密にならない安心感があり、値段に見合った内容だと感じた。
乗車後、関東バスの黒川征一丸山営業所長に話を聞いた。
――なぜ個室バスを実現しようと考えたのですか。
夜行高速バスは時間を有効に使え、ほかの交通手段よりも安価という利点があるが、快適性に不十分なところもあり、利用を敬遠する人もいた。そこで「動くホテル」をイメージし、眠っている間に快適な移動を実現するために導入した。通常の料金は大人片道2万円で、一般の夜行高速バスよりも高価だが「新幹線+ビジネスホテル代」とほぼ同額と考えて、設定している。
――動くホテルとして、こだわった部分は。
担当する乗務員には、接遇の専門家を招いて教習を行っている。また、乗客から「車内向けの着替えを持っていくと、荷物が増える」という意見があり、リラックスウェアを貸し出すようにするなど、ソフト面でも快適に乗車してもらえるよう努めている。ハード面でも、乗り心地を重視し、速度を抑えて、騒音振動を抑制している。
――利用者からの反応は。
「深夜に目覚めても、周囲に気兼ねなく明かりをつけて読書ができた」「夜にカーテンを開けて車窓の風景を楽しめた」「トイレに立つときなど、周囲に気が付かれずに済んだ」「周囲に気を使うことなくパソコンで仕事ができた」などの意見があった。
――コロナ渦の中で、個室バスをどう生かしたいと考えていますか。
車内の換気・消毒・抗菌を行い、運行開始時から、個室にはイオン発生装置も設置するなど、コロナ対策を行っているが、緊急事態宣言や移動の自粛要請の影響もあり、乗車率が大幅に減少した。現状、ほぼ満席の週末を中心に運行している。アフターコロナを見据えて「ドリームスリーパー東京大阪号」を含めた、バス事業をどのように再構築していくかが、今後の大きな課題だ。
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提供元:話題の「扉付き個室バス」、コロナ追い風か逆風か|東洋経済オンライン