2022.03.04
「人に頼る=恥」と考える人に伝えたい重要な視点|「支援される人=能力がない人」ではない!
人に頼る力を身につけると、新たな価値が見えてきます(写真:Graphs/PIXTA)
「リモートワークは孤独」「自己責任論に押しつぶされそう」「もっと雑談したいのにできない」「人手不足でパンク寸前」――新型コロナウイルス感染症予防で人との対話が生まれにくくなり、孤立する人の増加が問題になっています。
そのような状況の中、重要性を増すものとして「受援力(人に助けを求める力)」を挙げるのは、医師で公衆衛生学専門家の吉田穂波氏です。新著『「頼る」スキルの磨き方』を上梓した吉田氏が、自らの経験を基に、受援力がなぜ必要なのかについて解説します。
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医療従事者として痛感した「受援力」の必要性
私は医療従事者としての過重労働や、海外留学中の貧困生活、6人の子育てなどを通じて、他者に助けを求め、快くサポートを受け止めることの難しさと、受援力(困ったときにほかの人に助けを求めることができる力)の必要性を痛感しました。
そして、つらい状態にいるのに、声を上げられない人にこの「受援力」を発揮してもらうために、自分の中の受援力の見つけ方・磨き方、受援力を高めるボキャブラリー、受援力を発揮することで周囲にもたらすよい効果についてさまざまな研究をし、セミナーや研修、メディアなど多様な媒体を通して伝えてきました。
受援力を理解するには、「それがないとどうなるか」を事例として知ることも手助けになります。
そこで、私が個人の生きる力として「受援力」の価値を発見したエピソードを詳しく紹介しておきます。
2011年の東日本大震災で産婦人科医として妊産婦や新生児の救護に携わった際、支援を受けることを遠慮する多くの方に出会いました。支援を受けることをみじめに感じている被災者の方々を見て、「自分が助けられてよいのだということを肯定しないと、いくら周囲が支援の手を差し伸べても助けることができない」と、歯がゆい思いをしたのです。
そんな私自身も、災害後、時間が経つにつれて移り変わっていく支援内容とその規模の広がりに、プロジェクト・マネジメントの能力が追い付かず、燃え尽きてしまいました。
鬱々とした状態の中でも助けを求められず、自分を追い込んでしまった失敗体験から、
「あまりにも自分が疲弊してしまうと、こんな大変な仕事を誰かに任せるのは申し訳ないと感じ、“辛くなっても最後までやり遂げなければ”“押し付けてはいけない”と考えてしまった」
「自分に余裕がないと、引き継ぎや説明が面倒でますます頼めなくなる」
「自分がいくら情熱を持っていても、1人で切り盛りしていると、必ずどこかで限界がくる」
ということに気づきました。
自分が人に頼れずパンクした経験から感じたことを整理すると、次のようになります。
・“同じ人でも状況によっては「受援力」を発揮できない。いつでも使えるようにする“防災”と同じような心の備えが必要
・私も自分自身の「受援力」が足りなかった
・誰だってうつ状態になることがある。うつ状態になる人や、自殺を考える人は特別な人ではない
・小さなストレスには強くても、大きすぎるストレスには弱い。大きすぎるストレスで折れそうな人を救うには、「自分は頼ってもいいのだ」「助けたい人が周りで待っているかもしれない」という受援力マインドを日ごろから作っておくこと。そうでないと、いざというときに使えない
・人間には当然ながら、限界というものがある
強みと弱みは1人ひとり違う
これは「レジリエンス」とも相関します。レジリエンスは「脅威や困難などの状況下においても、うまく適応する過程・能力・結果」のことで、心をしなやかに保ち、燃え尽き症候群や抑うつから人を救うキーワードです。
レジリエンスは、災害が起きたときの被災地支援活動の場でもよく使われる言葉で、困難な経験をしても、しなやかに回復する力を意味します。紛争や災害のような現場は、ともすれば、
「支援する人=能力がある人」
「支援される人=能力がない人・助けてあげなければいけない人」
という上下関係を生み出しがちです。でも、助けられる人はいつも能力が低い状態の人なのかといえば、そうではありません。
人は、状況、時期、健康状態などによって、支援が必要となったり必要ではなくなったりします。また、ある面ではその人の弱みである部分が、時と場合によっては強みになることもあります。別のタイプの強みを持っている場合もあります。つまり、人の強み・弱みは1人ひとり違い、その違いがあるからこそ私たちは全体として強いのです。
それなのに、支援する側の立場の人が支援を受ける相手に対して無意識にでも優越感を覚えてしまうと、支援される人だけでなく、実は支援する人自身の受援力の発揮をも妨げる原因になります。
支援する相手のことを弱い人だと思っていると、いざ自分が困ったときに、助けられる側、つまり逆の立場となることができず、助けを求めることに抵抗を感じてしまうのです。
私たちは小学校のころから、「人助けをしましょう」「困っている人がいたら力になってあげましょう」と教えられてきました。人を助けるには、困っている人に手を貸せばいいのですから、行動としてはシンプルです。
でも、自分が困っているときに「わかりません」「できません」と言えるでしょうか。困ったときには助けを求めようということや、助けを求めるためのノウハウ、「うまい助けられ方」「助けられ上手になる方法」などは習ったことがありませんし、とっさに思いつくものでもありません。
しかも、周囲の人を見ていると、何でも自分できちんとしっかりこなして生きて(働いて)いるように見えるものです。すると、頼るということが、何か悪いことで恥ずかしいことのように思え、誰かの手を借りることに、負い目や抵抗感を覚えてしまいます。だからこそ、「困ったことがあったら気持ちよく頼る」「相手に迷惑をかけているとは思わない」ための訓練(受援力トレーニング)が必要なのです。
人から助けられることで謙虚になる
「人に助けてもらう経験」は、自分自身を「人助け上手」にすることにもつながります。
自分が人助けをしていい気持ちになっても、相手に対して優越感を覚えているばかりでは、逆の立場になろうとは思いません。でも、人から助けられる経験をすると、同じように困っている人の存在に気づき、手を貸せるようになるのです。
なぜかというと、自分が助けてもらった経験を通して、自分に限界があることを知ると同時に、誰にでも限界というものがあることが理解できるようになるからです。すると、誰かを助けるときも謙虚になり、自然と手を貸す気持ちになります。
自分が助けられることで謙虚になり、人の優しさや自分の人間関係資本(ソーシャル・キャピタル)に気づくことができるのです。
私たちのDNAに埋め込まれている“利己的な遺伝子”には、利他的行為をするようプログラミングされています。利己的な行動だけでは種が存続しません。種が生き延びられるよう、他者の役に立ちたい気持ちを誰もが持っているのです。
人の役に立ちたい気持ちを持つ人ばかり集まっても、助ける相手がいなければ「人の役に立ちたい」「人に喜ばれたい」「感謝されたい」という気持ちが満たされません。助けられる人は弱い人なのではなく、周囲の人の強みやよさを引き出す重要な存在です。
支え合うためにはまず支えられ、今度は自分が支えに行く。この順番で支え合いのサイクルが回ると考えれば、SOSを出すことへのハードルが低くなるかもしれません。
自分がSOSを出すことで、喜んで手伝ってくれる人が必ずいる。うまくSOSを出せば、人助けをしたい気持ちを満たすことができる。相手の自己肯定感も上がり、力を発揮でき、元気になる――そんなふうにポジティブな捉え方をしてみると、頼ることについての、新たな価値が見えてくるのではないでしょうか。
それに、自分が弱音を吐くことで、ほかの困っている人も声を上げやすくなり、多様な人が共に生きやすい社会が作られます。「できる」「わかる」は1つの基準かもしれませんが、「できない」の内容は一人ひとり違います。その多様性をさらけ出し、認め合うことこそ、社会のしなやかさ――レジリエンスにつながるのです。
「忍耐=美徳」「我慢できない=恥」ではない
震災時の医療ボランティア活動の中で、人に迷惑をかけまいと自分だけで問題を解決しようとし、孤独を抱え、ふさぎ込んでいく人々を見るにつけ、日本では他人に助けを求めない、というよりは、助けを求めることを否定している文化があるのではないかと思いあたりました。
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「忍耐=美徳」というよりも、「我慢できない=恥」と教えられていて、いつのまにか、自分で自分や家庭を守れないのは「失格」と思い込んでいるのではないでしょうか。真面目で努力家の人ほど、自分で自分を追いつめてしまいがちです。
一方的に「助けを求めている」とだけ考えると「申し訳ない……」と遠慮してしまいそうになりますが、人に頼ることと、人に迷惑をかけるということとはまったく違います。
力になってもらった後、相手に感謝する、喜ぶ、など、モノでは代わりにならない心という大きな価値をお返しすることができれば、WIN-WINの関係になりえます。
そして、人の力を借りた分、頑張ろう、恩返しをしようと努力すれば、今度は頼ってもらえるようになり、誠実さと善意のよい循環を生み出すことになるのです。そのためにも、「上手に助けを求める+たっぷり感謝する+大いに喜ぶ」をセットにして、「助け合い」ではなく、双方向性の「頼り合い」を、あなたから始めてみませんか。
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提供元:「人に頼る=恥」と考える人に伝えたい重要な視点|東洋経済オンライン